Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第二十話

 静かな教室に響くのは時計の音とタブレット端末に走らせる電子ペンの音。

 そんな教室でペンを動かしていないのは俺一人くらいなものだろう―――何故かと言われればそんなものは至極簡単な話であって俺が解ける範囲は全て終わってしまったのだ。

 IS学園も鬼ではないので座学演習の問題構成も基礎2割・標準5割・応用3割としっかりと勉強していれば点数をある程度は取れる内容になっている。

 しかし、それはあくまで中学時代に基礎を終わらせている女子だけだ。

 

(基礎は鈴との入院中の勉強のお陰で解けた……標準がセシリアとやった以上に難しい!)

 

 そう。どうやら俺が思っている標準・応用レベルとIS学園のレベルでは天と地ほどの差があるようだ。

 まず基礎が基礎ではない。基礎と言えば教科書を読んで居れば分かるレベルだと思うんだがIS学園は一味違うみたいでなんと授業を聞いて居れば分かるレベルが基礎、なのだ。

 そして標準・応用はそれを使うので授業で手いっぱいの俺には無理な話だ。

 

(トホホ……これで補習と再テストは確定か……とにかく最後まで出来る部分はセシリアと鈴の説明を思い出しながら書きまくってやる!)

 

 試験時間は残り40分。残り時間の中で高すぎる壁に飛びかかる前に俺はチラッと箒の方へ視線を送る。

 あれから何度か箒に話しかけようと近づくが距離を離されてしまい、食堂でようやく声をかけれたと思えばすぐに食事を終え、離れていってしまう。

 

(どうしたものか)

 

 

――――――☆――――――

「じーっ」

「……」

「じーっ」

「……」

「じじーっ」

「……俺の顔、何かついてる?」

「うーうーん。なにもないよ~」

 

 手が全く出ていない程に長い袖をぶんぶんと振り回す彼女は同じクラスの布仏本音、通称のほほんさん。

 寮にいる時にも何回か遭遇したことがあるんだがその時は決まってぶかぶかのパジャマを着ており、デカいナイトキャップがよくずり落ちているのを見る。

 そんな布仏さんはお昼休みの今、友人と俺達(セシリア・鈴)のテーブル席にお邪魔するとこのように見続けてきているというわけだ。

 

「ごめんね~、織斑君。急にお邪魔しちゃって」

「全然。飯はみんなで食べた方が上手いしな。な? 鈴」

「そーですねー」

「? セシリアもそう思うだろ?」

「そーですわねー」

 

 どうやら不機嫌な様子。さっきの座学演習の手ごたえがよくなかったのか?

 

「あ~、そういえばおりむ~の白式の調子はどうなの~?」

「お、おりむ~……白式はまだ整備中……らしい」

「はぁ? 整備ってあんたもう2週間近いわよ? かかりすぎじゃない?」

「整備状況は確認されましたの?」

「いや~、したいんだけど今タブレットちふ……織斑先生がもちっぱなしなんだよな」

 

 そう言うとセシリアも鈴も怪訝そうな顔をする。

 本来、タブレット端末は生徒一人一台配られており、その目的は学習機会と情報収集機会のシームレス化だ。どこにいても、どのタイミングでもできるようにと配られている。

 しかし、俺は今千冬姉が持っている。いくら保護者だからと言って持ちっぱなしなのは流石におかしい。

 

「あ~、だったらわたしの端末で見る~?」

「え? 見れるのか?」

「無理よ。端末のアカウント変更が出来るのは教員だけよ。だから私達じゃ」

「は~い、どうぞ~」

 

 ゆるふわな物言いの後、俺の手元にのほほんさんの端末が渡される。俺もセシリアも鈴もその画面に食いつくとなんとIDとパスワードを入力してくださいと表示されている。

 本来、この画面には行けない設定にされているはず。

 

(この子は一体……)

「……ねえ、これ校則違反じゃない?」

「やるな、と言われていますし……ですが校則にはアカウント変更に関しては何も」

「やっちゃいなよ~」

 

 ぶんぶんと袖を振るのほほんさんに押される形で俺は自分のIDとパスワードを打ち込んでいく。

 どこかいけないことをしている感じがあって文字を打っている間にも俺たちのテーブルには妙な緊迫感が流れている。

 そして2つうち終わり、ログインボタンを押そうとしたその時―――

 

「食事中にタブレット操作とは礼儀がなってないな」

「ごべぇん!」

 

 冷たい声の直後、鋼鉄の出席簿アタックVer2が俺の脳天に叩き落され、頭のてっぺんからつま先まで衝撃がなんと3往復もしてしまった。

 ちなみにVer2は出席簿の平面での制裁ではなく、垂直による制裁だ。

 

「ぐっぉぉぉっ」

「随分とゆっくり食べているじゃないか……食事は迅速に取れと言ったはずだが」

 

 千冬姉の睨みの前には誰もかなわず、ちゃちゃっと食事を済ませ、片付けると蜘蛛の子を散らすように各教室へと飛んでいった。

 俺もじんじんと痛む頭を抑えながらお盆を返し、あとを追いかけた。

 

 

――――――☆――――――

「あ~、皆待って~」

「貴様は待て」

「あうぅん」

 

 退散しようとする本音の頭を千冬の手がガシっとつかむ。

 

「誰の指示だ」

「なにがですか~?」

「お得意のお惚けか……貴様が渡したタブレット……あれは特別権限が付与されている端末だ……更識としてか、それとも生徒会の気まぐれか」

「……」

「まぁいい……今回のところは見逃してやる……次はない」

 

 本音は額から少し冷や汗を流し、パタパタと教室へと戻っていく。

 

「……油断も隙もありはしないな」

 

――――――☆――――――

 

 時が経ち、座学演習を終えた俺は緊張しながら学年掲示モニターの前に立っていた。

 このモニターは優れもので学年に関する情報を表示してくれるだけでなく、訂正などもその日中に反映されるという素晴らしいものだ。

 そんなモニターに補習対象者が発表されるということで俺は鈴やセシリアとともに待っていた。

 

「補習は嫌だ……補習は嫌だ」

「大丈夫ですわ、一夏さん。私と勉強したじゃありませんか」

「あたしとだって入院中にやったんだから大丈夫よ」

 

 俺と同じように成績に不安を覚えている女子が続々と集まってきており、多国籍だから色々な祈りの形が見て取れた。

 胸の前で十字を切る子や特定の方角を向いて祈りをささげる子、はたまた藁人形を持っている子。

 

「成績の開示は15時……あと1分ですわね」

「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏」

「アーメン」

「主よ。この無垢な私目に幸福を」

 

 手を合わせながらブツブツと呟き、固く目を閉じて祈っていると周りから歓声の雄叫びや悲鳴、余りのショックに母国語が出てしまう子など様々な声が聞こえてくる。

 

「すー……はぁっ!」

 

 深呼吸をし、カッ! と勢いよく目を見開くと1位から順番に名前が表示されている。

 ちなみに学年主席はセシリアで次席に更識簪さん、そして3位には何と鈴の名前があった。

 

「はぁ!? 鈴が3位!?」

「ちょっと! その反応何よ! 喧嘩売ってるわけ!?」

「ぐぇぇぇ! ごめん! ごめんなさいっ!」

 

 俺の発言にぶちぎれた鈴が胸倉をつかんでぶんぶんと前後に振りだす。

 誠心誠意の謝罪を鈴に行い、解放された俺は再び自身の名前を探し出す―――そしてようやく俺は自分の名前を見つけた。

 

「あった……あったあった! 補習じゃなーい!」

 

 そう―――俺の名前は補習ラインの一個上に表示されており、俺は見事補習の危機を脱した。

 

「おめでとうございます! 一夏さん!」

「セシリア! ありがとう!」

「は、はひぃぃぃぅ!」

 

 セシリアの両手を掴み、お礼を言い放つと彼女は何故か顔を真っ赤に染め、口をパクパクとさせる。

 もし、彼女による標準内容の解説授業が無ければ基礎問題以外は空白で出すことになっていたので確実に補習になっていただろう。

 

「鈴も!」

「ちょ、ちょっ!?」

「入院中にお前が付きっきりで教えてくれたおかげで基礎問題が解けたんだ! ありがとう!」

「ふ、ふしゅーっ」

 

 蒸気機関のような音を発しながら顔から火が出る勢いで顔を真っ赤にした鈴はショートしたのかぶつぶつと独り言を呟き始める。

 

「よーしっ!」

 

 

 

 

――――――☆――――――

「はぇぇ~、織斑君、ここにきて一気に成績上げましたね」

「……そうだな」

「織斑先生?」

「……いや、なんでもない」

「それにしても篠ノ乃さん。かなり成績を落としてますね……何か思いつめた様子でしたが」

 

 真耶の話は千冬にはほとんど聞こえていなかった。

 千冬の予想では補習によって2日間、時間を延ばすことが出来、その間に策略を練り直す予定だったが全てが狂ってしまった。

 

(楽観的に予測しすぎたか……流石にそろそろ限界だな)

 

 一夏のタブレット端末に目を落とすと画面には何通ものメッセージ受信表示が出ており、その全てが倉持技研からの連絡であった。

 千冬はメッセージを開き、倉持技研へと送る。

 そして端末を持ち、職員室を後にした。

 

―――――☆――――――

「んじゃ、お疲れ様会兼1組全員補習無し記念兼織斑君退院おめでとうもぜーんぶひっくるめて」

『カンパーイ!』

 

 相川清香さんの音頭の下、全員がソフトドリンクが入ったコップを軽くぶつけ合う。

 というわけで座学演習の成績発表があったその日の晩、俺達1年1組は夕食後の食堂を貸し切り、お疲れ様会のクラス会を開いていた。

 テーブルの上には所狭しと美味しそうな料理が並んでおり、多国籍なことも考慮してその国の郷土料理なども並べられている。

 

「んー! 美味しいですわ! ささ、一夏さんも」

「お、おう」

「あー、セシリアばっかりズルイ~。織斑君、こっちの炒飯も美味しいよ!」

「あ、あぁ」

「ちょっと一夏! あんた何デレデレしてんのよ! こっちの回鍋肉も食べなさいよ!」

 

 何故か2組の鈴も合流しているが他の子も特に問題視していないので良しとしよう―――しかし、ただ一つだけ良しとできないことがあった。

 

「箒のやつ……参加しなかったのか」

 

 そう。箒だけがクラス会の参加を断った。

 誘いに行った子曰く、何やら思いつめた表情をしていて剣道場に呼びに行った際もまるで鬼神のごとくオーラを纏って竹刀を素振りしていたらしい。

 

「箒さん……大丈夫でしょうか」

「大丈夫なんじゃないの? 部活は行けてたんでしょ?」

「……小学校の時も悩んでいた時は竹刀振ってたからな」

 

 あれはちょうど束さんがISを発表した直後くらいの時期だった。

 箒の家は篠ノ乃道場という剣道場を運営していたんだが家の本来の仕事は篠ノ乃神社だ。近所では有名な神社であり、祭事や神事の際には多くの参拝客でにぎわっている。

 そんな箒の家にIS開発者を取材しようと多くの記者がこぞって訪れるようになり、その中には心無い取材をしてきたところもあったそうだ。

 そんな時、箒は誰とも喋らず、誰とも関わらずにひたすら竹刀を振っていた。

 

「ちょっと俺、声かけてくる」

「織斑」

 

 席から立とうとした時、不意に後ろから声をかけられ、振り返るとそこには十代女子特有の楽しそうな声に呆れている千冬姉がいた。

 

「あれ? ちふ……織斑先生」

「なんだこのどんちゃん騒ぎは」

「おりむ~の退院祝いと~、補習者0記念と~、座学演習お疲れ様会です~」

「そうか……まぁ、終了時間をちゃんと守り、後片付けもすれば何も言わん……織斑、返却だ」

「あ、俺の端末……ありが……あれ?」

 

 端末を受け取り、お礼を言おうとするがすぐに千冬姉が食堂から去って行ってしまう。その後ろ姿はどこかいつもとは違う何かを感じた。

 

「あ、やっと端末返してもらったの?」

「ま、まあな」

「あんた昔っから千冬さんにべったりね。中学の時も送り迎えされてなかった?」

 

 鈴の言う通り俺は小学校6年間と中学1年ちょっとを千冬姉の送り迎えを受けていた。

 千冬姉が働きだしてからは流石にその数は減っていき、中学2年に入る頃には懇談や行事以外で送り迎えは無くなった。

 

「そんなこともあったな」

「良いタイミングだし、整備状況確認したら?」

「あ、そうだな」

 

 学生専用ページへと移行し、自分の学籍番号とパスワードを打ち込み、画面上部に表示されている専用機整備状況確認ページに入ろうとするが右下で通知が一つ、出てきた。

 

「メッセージだ……倉持技研から……え?」

「ん? どしたの、一夏」

「一夏さん?」

 

 俺は画面に表示された情報に戸惑いを隠せないでいた。

 表示されている情報にはこう記されていた。

 

 

 

 

 

『織斑一夏さんへ。度々のメッセージで申し訳ありません。全ての作業が完了いたしましたのでご指定していただいた日程にて搬入、および試運転の方をせていただけたらと思いますのでよろしくお願いします』

 

 倉持技研から送られてきた文面に俺は戸惑いしかなかった。文面的に俺が何度も向こうとメッセージのやり取りをしているようにとれるが俺はここ最近、誰ともメールのやり取りをしていない。

 ということは俺ではない誰かが俺を装ってメッセージをしていたことになるがそんな人物など世界でただ一人しかいない。

 

「……千冬姉が?」

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