楽しかったクラス会の数時間後―――日付が変わってすぐの遅い時間まで俺は自室でタブレット端末をかじりつくように見ていた。
倉持技研からのメッセージが大量に送られてきており、そのどれもに返信が返されているんだが俺はどの返信も文章を考えた記憶も無ければ送った記憶もない。
そして証拠隠滅の様にメッセージの全てが削除されていたので色々なやり方を調べ、何とか復元した結果10通以上のメールが届いていた。
俺があたかも作ったかのようにここまで文体を似せることが出来るのは世界でただ一人だけだ。
「どうして……黙ってたんだよ……千冬姉」
今思い返してもおかしいと思うことだらけだ。
入学式の日付を知らされず、教科書や入学前の課題を渡されず、専用機が与えられることも言われず、そのどれもが俺が不利になるような状況に繋がる。
専用機を手に入れてからも放課後のアリーナの使用許可が俺の名前があれば借りれないし、俺のアカウントじゃろくに情報を調べることもできない。
「千冬姉はどうして……そこまで俺からISを離したがるんだ」
ISと無関係な中学生までなら分かる。でも今はIS学園の生徒だ。
生徒である以上、ISのことを知らないと成績不振で留年になりかねないし、成績不振によって専用機の剥奪だって―――
そこまで考えて俺は一つの結論に至った。
「まさか……千冬姉はわざと不利な状況に追い込んで……俺からISを取り上げようとしているのか?」
過去を振り返ってみても俺にとって不利な状況になるように仕向けているようにしか見えない。
セシリアとの模擬戦だってそうだ。模擬戦当日までISの稼働を許さないなんて普通に考えたら素人と経験者じゃ勝負は目に見えている。
恐らく千冬姉は勝負は目に見えているがそれを確実なものにするためにあんな方針を立てたんだ。
事前課題や教科書を渡さなかったのも俺がISの知識を増やさないため。
スタートダッシュさえ遅らせることが出来ればあとは放っておいても落ちていくだけ。
「まさか鈴との組み合わせも」
俺が教師だったら生徒を楽しませるために専用機持ち同士の組み合わせは最後の方に取っておく。
最後の最後に最高の盛り上がりを見せれば行事としても締めは最高だ。
それに鈴と俺の実力差も考えれば一回戦であてれば俺が敗退する可能性の方が高い。
「……じゃあ、あの時の乱入してきたISも千冬姉が」
それはないと思いたい。あの時、俺は死にかけた。千冬姉が家族の俺を殺しにかかるなんてそんなことは絶対にありえない。
「ダメだダメだ……ダメな方向にしか思考が回らない……もう寝よう」
タブレットを放り投げ、ベッドに横になって目を閉じるが先程まで考えていたことが頭の中をぐるぐると駆けまわって脳が休まらない。
いろんな考えが出て来ては消え、出て来ては消えの繰り返しだ。
「……千冬姉」
――――――☆――――――
次の日の放課後、俺はセシリアや鈴とともに第三アリーナのピットにいた。
あれから眠ることなんて出来るはずもなくグルグルと思考が回り続けておかげで今日は一睡もできていない。
「くっぁぁぁ~」
「あんたこれで5回目よ。寝てないの?」
「まあ、色々な……二人とも手伝ってくれるのは有難いんだけど代表候補生の仕事とか大丈夫なのか?」
「全て終わらせてきましたわ」
「あんな仕事ちょちょっとやってぽいよ」
セシリアは流石だけど鈴は鈴らしい。それでいいのかと言われると疑問だけど。
そんな雑談をしているところにピットの自動ドアが開き、端末を抱えた山田先生と千冬姉が入室してきた。
今日一日、お互いに話していないし、妙な雰囲気を流してはいないかと不安だが二人が何も聞いてこないということはバレていないのだろう。
「お待たせしました。織斑君、準備は万端ですか?」
「はい。今回はISスーツもばっちりです!」
「織斑。時間がない。さっさと終わらせるように」
いつもならどうってことないセリフだけど疑心暗鬼に陥っている俺の耳には少しの時間でもISを触らせたくないというマイナスな方向の予想が働いてしまう。
睡眠不足なこともあってイライラしてしまう。
「……アリーナの使用時間はそんなに短いんですか?」
「独占できるほどの時間はないということだ」
「独占する気はないです。届け出通りの1時間で終わります」
「整備後の調整に1時間もかけるな。15分で終わらせろ」
「1時間借りてるのに15分で終わらせる理由はなんですか? 俺にISを触らせないためですか?」
「……好きにしろ」
「ま、まぁとにかく! これが新生白式です!」
重苦しい雰囲気に耐え切れなかった山田先生が手を叩き、開閉ボタンを押すと重厚感のある扉がゆっくりと重苦しい音を立てながら開いていく。
そこには見慣れた白式の姿があるが唯一、後ろに取り付けられた部分だけ見覚えがない。
白式の機体がコンベアによってコンテナから運搬され、俺達の前に出される。
「背部スラスターってこんな露出してたっけ?」
「いえ……まるでロケット下部に取り付けられている部分ですわね」
セシリアの例え通り背部スラスターが4基取り付けられているがすべて外部に露出、というか背部スラスターを背中にそのまま取り付けたような感じだ。
その分、噴出口も大きくなっているし、何よりそれぞれの噴出口が広い可動域を持っているのか固定されている様子が見えない。
「一応、倉持技研から送られてきたスペックでは推進力、瞬時加速時の速度が50%アップ。消費エネルギーも30%減少となっていますね」
「単純計算で私たちの1.5倍の速度を出せますのね」
「その分、慣れるまで軌道制御とか反動がキツイんじゃない?」
「あ、あともう一つ。各スラスターはなんと各基、個別方向制御が可能だそうです」
「あー……一夏、大変ね」
「それを言うな、鈴」
つまり戦闘中の加速方向に選択肢が増えたということになる。しかし、それだけ戦闘中に考えないといけないことが増えたということだ。
操作に慣れればある程度はマシにはなるんだろうが少なくとも1カ月単位はかかりそうだ。
「ま、あたしが相手になってあげるから」
「いえいえ! ここは同じクラスのわ・た・く・しが務めさせていただきますわ」
「何言ってんのよ。あ・た・しがやるわ」
バチバチと火花を散らし続ける二人は結論が出ず、何と二人で俺の調整役を務めることになった。
二人は準備があるということでピットから去っていき、その間に俺は白式を纏い、各種の微調整を行うことに。
「どうですか? 気分は」
「特には……」
白式も最初は背中に取り付けられた異物に戸惑っていたのかデータ処理に時間がかかっていたがそれもすぐに慣れたようでスムーズに処理を進めている。
10日ほどISを使っていなかったので各種センサーから送られてくる情報が新鮮に感じる。
「……」
あれから千冬姉は一言も言葉を発さない。今の俺からすればそっちの方がありがたかった。
今、千冬姉とまともに冷静に話が出来るかと言われたら感情的になる未来しか見えない。
「よし、準備はオッケーですね」
「はい。いつでもいけます」
チラッと千冬姉の方を見るが目が合う事もない―――どちらかというと今の状況に不満を抱いているように見え、腕組しているのもそれの表れだろうか。
(……そんなに俺にISを触らせたくないのかよ)
俺は千冬姉と一言も言葉を交わさないままゲートを飛び出していった。
――――――☆――――――
「何か織斑君とありましたか?」
「……何故、そう思う」
モニターに映されているのは準備運動がてらフィールド内を一人で飛び回る一夏の姿。
真耶はアリーナの各種カメラから送られてくる実値を目にも止まらぬ速さでキーボードを叩きながら一つ一つ処理していく。
無論、その間に千冬との会話も忘れない。
「いつもなら織斑君、いってきますっていうのに今日はありませんでしたから」
「……たまたまなかっただけだろう」
「ふ~ん。なら良いんですけど……織斑君も貯め込んでないと良いんですけど」
「……」
千冬は黙ってモニターへと視線を移す。
入学して約二カ月。その間、あの手この手を張り巡らし、自身の計画のために動いてきたがそろそろ限界が近づいていることに気付かない程、千冬も愚かではない。
(……一夏。お前をこれ以上、戦わせるわけにはいかないんだ……)
――――――☆――――――
「お待たせしましたわ」
「待たせたわね!」
準備が整った二人が俺の下へと飛んでくるが何故か息を切らしている。
一瞬、聞こうとも思ったが二人の視線がぶつかり合って火花を散らしている気がして飲み込んだ。
「とりあえず動いてはみたんだけど……通常飛行はいつも通りだな」
「では、回避行動をとってみましょう」
「あ、ちょっと! あたしに任せなさい!」
そう言いながらセシリアはレーザーライフルを展開し、鈴は青龍刀を連結させた状態で手元に呼び出す。
まさかとは思うが二人同時に攻撃してきて避けろ、とは言わないと思うがとりあえず聞いてみよう。
「な、なあ二人」
「ならば同時に行きましょうか!? 一夏さんは私の攻撃を避けてくれますわ!」
「いいや! 幼馴染のあたしの攻撃を避けてくれるはず!」
「同時にはしないよな?」
どうやら俺の予想は的中したのか二人は固まってしまう。流石に久しぶりの起動なうえに代表候補生の二人の攻撃を回避できる自信はない。
「じゃ、じゃあこうしましょう! まずは私が。その後に鈴さんが」
「良いわ。一夏はきっとあたしの攻撃を避けるから」
(その考え方だとどっちかの攻撃は当たるのか?)
「行くわよ一夏!」
「行きますわよ一夏さん!」
「ドンと来い!」
セシリアのレーザーライフルの銃口がこちらに向けられ、引き金がひかれると同時に俺はスラスター4基を一斉に吹かし、右方向へと回避する。
瞬時加速とは違う凄まじい推進力での回避行動にGが体に重くのしかかる。
「早いわね! だったら次はこっちよ!」
同時に鈴の青龍刀が予測回避地点へ放たれ、俺めがけて飛んでくる―――俺はまだ動いている途中なんだがそこ目がけて飛ばしてくるのは流石は鈴と言ったところ。
(行くぞ白式!)
白式が俺のイメージを読み取ってくれたのかスラスター4基が一斉に上方向へと可動し、炎を吹かすとその勢いで真下へと急降下し、青龍刀を回避する。
――――――ズガッァァァァン!
「……」
「「……」」
回避したのは良いんだが俺の予想以上に勢いが強すぎたのかフィールドに着弾する大砲のごとく直撃し、砂埃を巻きあげながら大きな穴をあけてしまった。
自分の足元に開いた大穴を見て上空にいる二人に視線を送るが二人は俺から顔を逸らす。
『ま、まぁ新しい装備を試すときはえてして失敗するものですわ』
『え? 今のって失敗なのか?』
『……』
『おーい、セシリアさーん』
プライベート・チャネルでセシリアと二・三言、会話を交わすがそれ以上は返答はなかった。
『なにをしている馬鹿者が』
今度はオープン・チャネルを通して千冬姉の声が聞こえてくる―――ただ今の俺は千冬姉の言葉を全てマイナスに受け取ってしまう。
いつもの台詞でもそれは俺を容易にイラつかせる。
『とにかく今日はここまでだ』
『まだアリーナは使えますよね?』
『私も山田先生もこの後、会議があるので監督者がいなくなる。さっきも15分で終わらせろと言ったはずだ』
『アリーナの監督の先生は他にもいるはずです。いつもならその先生が見てくれているので放課後の演習も許可されているから良いですよね?』
『今回は整備明けの白式のチェックが主な内容だ。整備明けのISをそんなに長時間稼働させるな。後整備も必要なステップだ』
確かに千冬姉の言うとおり、整備明けのISは長時間稼働する物ではない。
一度、整備明けの確認のために稼働させ、次に後整備と言われるチェックを受けてようやく全ての整備が終了となる―――授業で習った。
ただし、それはあくまで整備明け直後の話だ。
『整備はもっと前に終わってるはずなのに?』
『……』
『俺が知らない間に倉持技研とメッセージのやり取りをして調整、してましたよね? かなり早くに整備は終わったってありましたけど……もうちょっとだけ稼働させてもいいんじゃないんですか?』
オープン・チャネルで話しているので鈴やセシリア、山田先生も会話に参加することは出来るはずだが俺と千冬姉の会話が重すぎて誰も入ってこない。
それもそうだろう。
傍から見れば今の会話は姉弟喧嘩でしかなく、誰もプライベートな言い合いには首を突っ込みたくはない。
『なんでそんなにISを触らせないんですか。大体、4月に入ってからも』
『一夏、ちょっと落ち着きなさいよ』
俺の話を上から潰すように鈴が会話に割って入ってきた。
「鈴は黙ってろ」
「織斑先生の言うように整備明けは長時間の稼働は避けるべきよ」
「だから整備はもっと早くに終わって」
「それはあくまで整備が早く終わって倉庫に置いてあっただけでしょ? 整備っていうのはね、人間がするのよ? 人間がする以上、ヒューマンエラーは必ず起こるの。だからISを少し稼働させて実値を取って整備前と比較して異常がないかを見なきゃいけないの……今日はもうお開きにしましょ」
俺の傍まで鈴がやってくると俺の手を取り、ピットへと引っ張る―――俺と千冬姉のことを配慮してかAピットではなくBピットへ。
こうして俺達はアリーナに嫌な沈黙を残して活動を終えた。