一旦状況を整理しよう。今俺は男子更衣室となっているアリーナの更衣室にいる。
そして女子たちは別の場所で着替えることになってるからこの場所はいわば俺が独占しているような状況であって俺以外の人間がいるのはおかしい。
でも目の前には転入生のデュノアさんがいる。
「えへへっ……こんにちわ、織斑君」
「こ、こんにちわ」
至極丁寧にあいさつをされたので挨拶を返すのだが固まってしまって動けない。
中学の時に羞恥心を全て殴り捨てたような女子が教室にいたんだがそいつは男子がまだいる教室で堂々と体操服に着替えだし、下着をフルオープンにした。あまつさえ、この下着可愛いでしょ、と言ってきた。
その時はドン引きしたが今も似たような状態だ。ドン引きではなく驚愕だが。
なんせ俺のバックにはあの大魔神がいるのだからだれもしないと俺も高をくくっていたところがある。
「僕、シャルロット・デュノアって言います。君の噂はフランスでも聞いてたよ」
「へ、へぇ~」
「ISの操作技術と知識が無さすぎるって」
「う、うん……仰る通りです」
先程からデュノアさんはニコニコと満面の笑みを崩さない。
正直、俺の中ではデュノアさんの好意全開の状態が不思議で仕方がない。初期のセシリアまではいかないものの少しは距離を感じるもの。
特に今時の女子は男慣れしていない子がいるから尚更。
でもデュノアさんにはそれが感じられない。ゼロ距離に等しい距離の近さだ。
「あ、そろそろ行かないと遅れちゃうよ」
「お、おう……ところでデュノアさん」
「シャルロット」
「へ?」
「シャルロットって呼んでほしいな」
上目づかいで目を潤わせ、手を軽く握られながらそう言われればどんな男でもドキッとしてしまうものであり、それは俺でも例外ではない。
「シャ、シャルロット」
「うん。良い子良い子」
そう言いながらデュノアさんもといシャルロットはにこっと笑顔を見せ、俺の頭を優しく撫でる。
IS学園に来てから史上最大の優しさを向けられている俺はもうフラフラだ。
なんせ4月当初から視線という名の針に刺されたり、幼馴染と竹刀をぶつけ合ったり、女の子からビームを打たれたり、青龍刀をぶつけられたり、挙句の果てには見ず知らずの物体に三途の川への片道切符を渡されたくらいだ。
ここまで優しさに満ち溢れるワンシーンを過ごしたのはシャルロットが最初だろう。
あまりに優しい日常シーンに思わず涙が溢れてしまう。なんと平和なのだろうと。
「……第一段階はOKかな……」
「へ? なんか言ったか?」
「ううん! なんでもないよ! じゃあ僕は先に行ってるね!」
そう言ってシャルロットは一足先にアリーナへと向かっていった。
「……俺、やっぱり死ぬのかな」
魅力的すぎる女性たちに囲まれる様子を弾が見れば血涙を流しながら羨ましがるだろう。
俺も慌てて下をスーツに着替えてアリーナへと向かった。
――――――☆――――――
「では本日より格闘および射撃を含めた訓練を始める!」
『はい!』
2組との合同授業ということもあって熱の入り方がいつも以上だ。
そんなことを考えていると後ろからツンツンと突かれ、後ろを振り返ると額に怒りマークを付けたセシリアが精いっぱいの笑みで怒りを隠し、俺に語り掛ける。
「なぜ、更衣室からシャルロットさんが出てきたのかお教えくださいな」
「お、俺に言われてもだな」
「あたしもその話、聞きたいな~」
気付いたらシャルロットさんが後ろにいました、なんていうありきたりな理由を言っても恐らく彼女たちは納得もしないだろう。
困った困った。
「オルコット! 鳳!」
「「は、はい!?」」
「やる気に満ち溢れた雑談をしている貴様たちに戦闘を実演してもらおう」
不満を漏らそうとした二人だがチクッと千冬姉に刺されてしまい、一瞬で倒されてしまう。
あの人、理論で倒すこともできるし、武力で倒すこともできるから太刀打ちできないんだよな。
「君たちは少々、優しい教員を舐めている節が見える。そこでだ、今日は」
その時、千冬姉の発言を切り裂くかのようにキィィィン! という甲高い音が上から聞こえ、全員が真上を向くと空高くから何か黒いシルエットが落ちてきているのが見える。
よーく見てみるとISを身に纏った山田先生が俺達がいるところ目がけて真っ逆さまに落ちてきている。
「皆さーん! こんにちわー!」
蜘蛛の子を散らすように全員が逃げ惑う中、俺だけは立ち止まっていた―――おそらくこれはデモンストレーションであり、ちゃんと山田先生は急停止してくれる。
俺はそう高をくくりながらその場に立っているが中々山田先生は減速しない。
「どうぇぇぇぇぇぇ!?」
明らかに泊まれない距離まで近づいて来たので慌てて白式を展開し、落下してくる山田先生をキャッチすると凄まじい衝撃が全身に伝わり、両足がビリッと電流が走るように痛む。
流石にISの突進を真正面から受け止めるのは厳しかったか。
「ご、ごめんなさい! ケガはないですか!?」
「は、はい」
「私ってば、また眼鏡を掛け違えてました……通りで距離感がおかしかったわけです」
「……ごくり」
山田先生のISスーツ姿に俺は生唾を飲みこみ、視線を外したくとも外せずにいた。
普段の服装からして胸元が大分緩いので豊かな谷間が見えるのだが今はいつも以上に艶めかしさを感じる。
ISスーツはぴっちりと密着させるのでボディーラインがハッキリくっきり表れてしまうので山田先生のようにボンキュッボンのスタイルの女性が着るともうそれはそれは―――
「一夏ー! あんた何鼻の下伸ばしてんのよ!」
「ズルイですわ山田先生! 大人の体で篭絡を狙うのは国際法違反ですわ!」
「ぐぬぬぬっ! これが大人の余裕というものか!」
「男の人にお姫様抱っこされるのも悪くないですね……うふふっ」
いかんせん山田先生の妄想が止まらなくなってしまい、降ろすに降ろせなくなってしまった。周りの女子も今の俺の姿に黄色い声援を送っており、聊かヤバい空気を醸し出しているのが三人ほど。
「あ、あの山田先生……そろそろ降りてくれないと俺の寿命が縮みます」
「はっ! ご、ごめんなさい!」
現実に戻った山田先生はぴょんっと俺から飛び降りると千冬姉の傍に戻るが小さなライオンが三匹ほど、山田先生に対して髪の毛を逆立てる勢いで威嚇を始める。
大人の余裕なのか山田先生はいつも通りの表情だ。
「オルコット、鳳。今から山田先生と戦闘を行ってもらう」
「え? 2対1ですか?」
「それは流石に」
「安心しろ。今の貴様達ならばすぐに負ける」
流石に代表候補生としてのプライドと闘志に火が付いたのか二人ともメラメラに炎を燃やし、一瞬にして己の専用機を展開し、戦闘準備を一瞬で整えた。
その速さもさることながら二人の切り替えの早さにも感心する。
三人はゆっくりと上空へと上がっていく。
「では、はじめ!」
初撃はセシリアのレーザーライフルによる狙撃―――しかし、それはいとも簡単に空中による旋回で回避され、サブマシンガンによる弾幕がセシリアと鈴を離れさせる。
各個撃破に切り替えたのか山田先生は片手にサブマシンガン、もう片方に小型ナイフを納め、鈴に切りかかる。
山田先生が使っているのはラファール・リヴァイヴ。フランスのデュノア社製の汎用ISで世界シェアは第三位を誇る。
特筆すべきは射撃・格闘・防御と戦闘タイプを装備によって切り替えられるところだ。
「喰らえ!」
鈴が連結した青龍刀を投擲すると山田先生を正確に追いかける―――でも山田先生はそれを回避しようとはせず、チラッと後ろを見る。
後ろにはレーザーライフルの銃口を先生に向けているセシリア。
「はっ!」
「なっ!?」
セシリアが引き金を引き、レーザーを放った直後、山田先生は空中でバク転をする要領で一回転し、青龍刀とレーザーを同時に回避。
レーザーは山田先生ではなく鈴に着弾。青龍刀はセシリアに直撃する。
「よっと」
「っっ!」
山田先生が手元に呼び出したハンドガンをセシリア目がけて発砲すると銃口から弾丸ではなく鎖が射出されてセシリアの腰回りに巻き付くとその場で高速で大旋回を行い、セシリアを鈴目がけて投げ放った。
「イツツってえぇぇぇ!?」
「ど、どいてくださいましぃぃぃっ!」
ガッシャァン! という音とともに正面衝突したセシリアと鈴―――その二人に山田先生は銃口に外部取付のミサイル弾頭を装着すると躊躇なく引き金を引いた。
「「あ」」
二人の気の抜けた声の直後、ミサイル弾頭が着弾して大爆発を起こし、二人は爆炎に包まれながらフィールドに落下した。
あの代表候補生の二人を2対1という不利な状況であるにもかかわらず傷一つ負うことなく圧倒してしまった山田先生の実力の高さにみな、圧倒されているようだった。
それはもちろん鈴とセシリアの二人も同じだ。
「山田先生は現役時代は日本の代表候補生だ。小娘程度ならば圧勝だ」
「昔の話ですよ~。それに候補生どまりでしたし……あ、めがね変えるの忘れてました~」
「ま、まさかあたしたち、眼鏡があってない先生に」
「負けましたの?」
「普段用と運動用で変えてるんですよ」
ニコニコと満面の笑みを浮かべる山田先生にとどめを刺された二人は代表候補生としてのプライドが木っ端みじんに粉砕されてしまい、ガクッと落ちてしまった。
恐るべし、山田先生。
「これで諸君たちも理解しただろう。今後は教員に対しては敬意をもって接するように。ではこれよりIS実習に入る! 専用機持ちの織斑・オルコット・デュノア・ボーデヴィッヒ・鳳の5グループに8人ずつ番号順で整列!」
「やった! 織斑君の班だ!」
「優しく教えてね!」
「セシリア、優しく教えてよね」
「デュノアさん! よろしくね!」
千冬姉の指示が飛び、一瞬にして全員が整列を完了させる。
どの列もきゃいきゃいと楽しそうな声を上げ、気分ルンルンなのだが唯一、ボーデヴィッヒさんの列だけまるで絶対零度のごとく冷え切っており、誰も話そうとしない。
それもそうだろう。表情からして感情が見えない相手に話し掛けに行くほど面が厚い子はいない。
「では班長の皆さんは訓練機を取りに来てくださいね~。装着・歩行を時間内に終わらせてくださ~い」
「時間内に間に合わなかった班の班長は管理不足としてIS装着のままグラウンドを10周走らせる!」
それを聞いた俺達(ボーデヴィッヒさんを除く)は猛ダッシュで訓練機を取りに行くのであった。
――――――☆――――――
「よし、順調だな。その調子」
訓練機によるIS稼働の実習が順調に進んでいく中、一人の少女―――箒は自分の番を今か今かと待ち侘びていた。謝罪を済ませ、胸のつっかえが無くなったとはいえ、彼女の恋路のライバルは多い。
「はい、お疲れ様。じゃあ、次は」
「わ、わたしだ」
「おっし、箒だな。じゃあいつもみたいに装着してくれ」
そう、これだ。よく言えば気を許しているという事なのだが他の女子生徒と比べると一夏の手取足取りの説明度が下がっているような気がする。
(まさかこんなところで放課後の訓練の成果が出てしまうとは)
箒は苦虫を噛み潰したような表情をしながら訓練機を装着しようとするがふと気づく。
「届かないのだが」
「あ」
そう、彼女の前の番の女子が訓練機をしゃがんだ状態ではなく直立状態で装着を解除してしまっているため操縦席部分が高い位置のまま固定されているのだ。
直立状態では何かしらの踏み台が無ければ絶対に届かない。
「……どうすればよいのだ」
教員二名は遅れに遅れているラウラ班のサポートに周っているので指示を仰ぎにくい。
「あ、じゃあ箒をコックピットまで運ぼう」
「っっっ! い、いいのか!?」
「お、おう」
箒の脳内が一気に桃色のお花畑が咲き誇る。運ぶということはつまりさっき一夏が真耶に対してやっていたようなお姫様抱っこということだ。
あの光景を見た瞬間、嫉妬の炎が燃え上がった物だがまさかこんなところで自分に周ってくるとは思ってもいなかった。
箒はルンルン気分で一夏の下へ行くが一向に抱きかかえる様子を見せない。
「どうした?」
「どうしたも何も運ぶのではないのか?」
「おう、運ぶぞ。セシリアが」
一瞬にして桃色のお花畑が散ってしまった。
「あ、向こうは終わったみたいだな。セ」
箒は一大決心を決め、一夏の手を掴む。
「ほ、箒?」
「お、お前に……運んでほしいのだ」
「っっっっ!」
周りの女子がキャーッと黄色い声援を送っている気がするがムテキモードの今の箒にはそんな音など耳に入ってくることはない。
一夏は周囲の声も相まって若干顔を赤くしている。
「お、俺なんかで良いのか?」
「う、うむ……一夏が良いのだ」
「じゃ、じゃあ……運ばせてもらいます」
「きゃっ」
一夏が白式を展開し、箒を抱きかかえると一夏の顔がすぐ触れられる至近距離にまで近づく。
既に箒の胸の高鳴りは最高潮を迎えており、視線は一夏の横顔にロックされており、彼の全てがいつもの五倍は輝いて見えてしまう。
(よ、よいものだな……お姫様抱っこというのも)
「ほ、箒? お~い、箒~」
「はっ! な、なんだ?」
「いや、もうISに乗れるぞ?」
そう言われ、右側を見ると訓練機のすぐそばまで近づいていた。
箒は名残惜しい表情を浮かべながらも一夏の手元を離れ、訓練機に身を通し、装着・歩行の演習内容を難なくこなしていく。
「流石は箒だな。使い慣れてる」
「う、うむ……お前と毎日放課後訓練をしているおかげだな」
授業中であることを忘れ、箒はしばし一夏との幸せな歓談タイムを過ごすのであった。
―――――☆――――――
「つっかれたぁ~」
実践演習が終わり、更衣を終えた俺は教室へ向かっていた。
専用機持ちである以上は授業の補助などの役割が多く回ってくることもあってみんなよりもやることが一つも二つも多いので自然と疲労もたまる。
「お疲れさま、織斑君」
「おう、シャルロットもお疲れ様。あと、俺のことも一夏でいいぞ」
「そう? じゃあ……一夏」
「おう」
「これ、よかったら飲んで。僕からの差し入れ」
「お、ありがとな」
少し喉が渇いていたので早速、貰った飲み物を飲むとほのかな甘みを感じた。
「どう?」
「ん、ほのかに甘いな」
「へへっ、よかった」
少し恥らいを持ったシャルロットの上目遣い、そして少しだけ触れている彼女の手の感触のダブルパンチに思わずクラっと来てしまう。
どうもシャルロットと会話をしているといつものペースを乱されてしまう。
(なんというか……男のむねきゅんポイントを的確についてくるというか)
「一夏は放課後は何してるの?」
「ISの実技もそうだけど最近は座学の予習復習かな。皆よりも知識面で大分、遅れてるからさ。いつも自習室でやってるんだ」
「そうなんだ~……僕も行ってもいい?」
「別にいいけど……シャルロットは代表候補生だからその辺の知識は大丈夫じゃないのか?」
「ん~……一夏と一緒にいたいから、じゃだめかな」
「っっ!」
軽く俯きながら俺の制服の裾を軽く摘んでくる彼女の姿を見てもう何度目かの胸の高鳴りを感じる。
箒やセシリア、鈴とは違う雰囲気が俺にとっては初めての接触過ぎて心停止を起こしそうだ。
「べ、別に俺は良いぞ」
「やった♪ じゃあ放課後、自習室で集合だね」
「お、おう」
「じゃ、一緒に教室行こっか」
そう言うシャルロットの表情は笑顔そのものだった。
少しずつ感想も書いてくださる方が増えてうれしいです。