Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第一話

 4月―――それは新しい生活が始まる月である。

 社会人はともかく新高校生の若干15歳の若人ならば新しい生活環境や新しい人間関係、そして新しい学習内容に不安を抱くと同時にわくわく感を抱くだろう。

 

「全員そろっていますね……はい! では1年1組のSHRを始めたいと思います!」

 

 そう―――目の前の女性の様に元気いっぱいに新しい生活へと飛び込んでいく―――はずだった。

 右を見ると興味津々の女性、左を見るとすぐに視線を逸らす幼馴染女子、そして目の前には胸元がかなり緩い服装を着ている女性教師。

 

(あぁ……小説の世界を現実にするとバグが起きるって聞くけど……本当なんだな)

「皆さんおはようございます! 私は1年1組の副担任を務める山田真耶です! 下から読んでも上から読んでもやまだまや。両親曰くたまたまだそうです! よろしくお願いします!」

 

 恐らく山田先生の最強のツッコミネタを披露されるが教室にいる女子生徒の皆誰しもが質問の為に手を上げることも声を上げることもしなかった。

 山田先生はあまりの反応の無さと想像していなかった事態におろおろと慌てふためく。

 

「あ、あれぇ? み、みなさーん?」

(多分だけど……原因は俺なんだよな。ごめんなさい、山田先生)

「あ、ち、ちなみに私、コーヒーとか紅茶を入れるのが得意なんです! いつも先輩に入れてるんですけどおいしいって言ってくれるくらいなんです!」

 

 山田先生の特技も話されるが誰もまったく気にしない。

 

「え、えっと……わ、私最近、バストサイズが大きすぎて……ひゃぅん!」

 

 いつもの女子高のノリで女子ネタを入れようとした山田先生だったが男の俺と目が合った瞬間、一気に顔を真っ赤にして恥ずかしがり、黙り込んでしまう。

 

(うぅぅっ……先生、本当にごめんなさい!)

「じゃ、じゃあとりあえず出席番号順で自己紹介してもらいましょうか」

 

 山田先生は恥ずかしさを振り切り、チラチラ時計を何度も見ながら出席番号1番の女子生徒をあてる。

 多分、あり得ないくらいに早い生徒のターンに番号1番の女の子は驚きを隠せないでいる。

 先生の中では10分~15分くらいは先生の質問コーナーとかで時間を潰す気だったんだろう。

 ただ残念ながらみんなの興味は今、先生には向いていない――――――俺に向いている。

 理由なんてものは至極簡単だ。

 

 ――――――先生を含めて俺以外教室にいる生徒はみんな女子だ。

 

(想像以上にキッッッツいなっ! 全身360度あらゆる方向から視線が突き刺さる!)

 

 女子高が共学に変わった直後の年などにはよくある光景かもしれないが残念ながらこのIS学園は今もこれからも女子高を辞めるつもりはないだろう。

 その理由は学校名の前半二文字に全てが込められている。

 ちらりと窓際のある座席に座っているポニーテール姿の幼馴染に視線をやるが数秒、視線を合わせるや否やすぐに視線をそらされてしまった。

 

(あぁ……救いの手は差し伸べてはくれないか)

「――――――斑くん」

(6年ぶりに再会した幼馴染ならばと思ったんだけど……6年も間が空けばな~)

「――――――織斑――――――!」

(そういえば剣道の全国大会で優勝したんだってな……俺も出る予定だったんだけど検定試験があったから受けられなかったんだよな~)

「織斑一夏君!」

「ふぇぇい!?」

 

 突然の大きな声に思いっきり素っ頓狂な声をあげてしまい、周囲の女子たちからクスクスと漏れ出す。

 自分の話しで笑いを引き出せなかった山田先生は今の環境に若干、涙目になりながらも俺の方を見る。

 

「あ、あのね。自己紹介の順番が次、織斑君なんだ。だ、だから自己紹介して欲しいな~って」

(そんな子犬みたいな目で上目遣いに見なくても)

 

 あまりに年不相応な言動と格好に戸惑いながら俺は立ち上がり、後ろを振り返る―――29本の視線の矢が俺の全身に突き刺さる。

 珍しい動物の展示会なんかはこんな感覚なのだろうと思いながらも俺は必死に頭を動かし、この場に適切な自己紹介文を考える。

 そして叩きだした自己紹介文が――――――

 

「お、織斑一夏です。特技といえるものはないけど一応、中学3年まで剣道やってました……あ、あと国語・数学・英語の検定も3級取ってます!」

 

 俺の頭が適切だと判断した自己紹介文はどうやら不適切だったらしい。

 もっと何かを話せ、といわんばかりの好奇なまなざしが俺の身体を貫き、俺にとって嫌な沈黙が教室に流れる。

 

「い、以上です!」

 

 ズコッという効果音が聞こえるんじゃないかというくらいにみんな綺麗にずっこけた。

 

「は、はーい……素晴らしい自己紹介でした! 拍手ーっ……拍手~~~っ」

 

 山田先生は必死に場を盛り上げようと拍手をみんなに求めるがぱちぱちと聞こえるのは山田先生のくらい。

 そして今にも泣きそうな2割増しの涙声でようやく拍手がチラホラと。

 

(ぅぅぅぅっ~……山田先生、ごめんなさい)

「なんだその陰気な自己紹介は」

 

 心の中で号泣しながら山田先生に謝り倒していると後ろから聞き慣れた声が聞こえ、そちらの方を向くと教室の扉が開かれており、そこに俺の姉である織斑千冬が立っていた。

 黒のスーツにタイトスカート、鋭い釣り目と鍛え上げられた体がよく分かるボディライン―――仕事モードの千冬姉は刺々しいオーラを纏っている。

 

「あ、織斑先生。会議お疲れ様です」

「あぁ。突然、朝礼を任せてすまない。山田先生」

「いえいえ! これも副担任の仕事ですから!」

 

 山田先生はやけにうれしそうな表情を浮かべながらまるでウサギの様にぴょんぴょん飛び跳ねる。そして副担任立ち位置らしき教室の後ろの方に戻った。

 未だに嬉しそうな顔をしている。

 千冬姉に座れ、と目で圧をかけられ、俺はすぐさま座る。

 やがて千冬姉はコツコツと足音を立てながら教壇へと立ち、刺々しいオーラを保ち、厳しい表情を維持したまま教室全体を見渡す。

 

「諸君、私が織斑千冬だ。知っていると思うがここはIS操縦者を育成するIS学園だ。半端な覚悟ではすぐに絶望するだけだからそんな物は捨てておけ。私の仕事は若干15歳の君たちを一年でまともに使えるIS操縦者に育て上げることだ。だから私の言うことは聞け。理解しろ。理解できなければ理解できるように行動を起こせ。他の先生は優しく声をかけてくれるだろうが私は甘やかさない。甘やかしてほしければ今すぐ退学書類を書いてここを出ていくと良い。それが嫌なら死に物狂いでついてこい、良いな!」

 

 なんとも暴虐な発言だろうか―――しかし俺の考えとは裏腹に女性たちは違った反応だった。

 

「きゃー! 千冬さまよ!」

「私、千冬さまに指導して欲しくて北九州から来ました!」

「私を厳しく指導してくださーい!」

 

 凄まじい黄色い声援だ―――まぁ、それは無理もないだろう。

 なんせ俺の姉、織斑千冬は第一世代IS操縦者の中でも最強の称号であるブリュンヒルデを持つ世界最強のIS操縦者―――らしい。

 正直、俺は分からない。なんせ千冬姉がISから俺を完全に隔離していたからISに関わる知識は全くといっていいほどない。

 唯一、分かることはISは女性にしか扱えないことであり、その影響で世界情勢が女性優遇策を取るようになり、女尊男卑の世界になった、ということくらいだ。

 

「…………」

 

 だがそんな黄色い声援を受けている千冬姉は眉一つ動かさず、ただ一点を見つめていた。

 その一点こそ俺だ。千冬姉は女子の黄色い声援には耳も貸していないのか一切反応を見せず、ただ俺の顔を見続けてくる。

 10秒、いや20秒ほど俺の顔を見て視線を外すと心底鬱陶しそうな表情を浮かべる。

 

「何故、こうも私のクラスにはこれほどのバカが集まるのか。理解に苦しむ」

「きゃー! その冷たくてクールな言葉も好きー!」

「はぁ……とにかく!」

 

 千冬姉の一喝に教室は一瞬で静まり返る。

 

「私が担任となった以上、学年トップのクラスにする。君達には半月で基礎知識を習得してもらい、その後実践演習へと移る。弱音は吐くな、返事は二文字だけ許可する。いいな」

『はい!』

 

 クラスは一瞬にして団結し、やる気に満ちた返事が木霊した。

 

(流石は千冬姉だ……恥をかかせないように俺も頑張らねえと)

「では5分後、授業を始める」

 

 そう言い残して千冬姉は教室を後にし、山田先生もそれについて教室を後にした。

 

 

 

――――――☆――――――

 

「ところで織斑先生、さっきは何の会議だったんですか?」

「……クラス編成に対して少しな」

「クラス編成?」

「いや……なんでもない」

 

――――――☆――――――

 

「……基礎ってなんだ……教材ってなんだ」

 

 今は1時間目のIS基礎理論の授業が終わり、休み時間なのだが俺は今さっきまでの授業内容をノートを見返しながらつぶやいた。

 IS学園は生徒に一人一台、タブレット端末が配布されるので授業もそれを用いて行われる。

 無論、タブレット端末は強制使用ではないので通常のノートを用いてもいいのだがクラスの九割九分がタブレット端末を使って授業を受けている。

 教室でノートを使っているのは俺ただ一人。

 

「何言っているかさっぱり分からなかった……というか教材が俺の手元に一冊も無いのはなんでだ?」

 

 授業の前に山田先生が当然の様に教材を出せと言い、周りも当然の様に教材を出したので聞いてみるとなんと千冬姉が俺の教材を持っているというのだ。

 どうも教科書販売の日に千冬姉が代理で購入を済ませたらしい。

 

(そもそも教科書販売があったこと自体、初耳だぞ?)

「ねえ、あの子が」

「ん?」

「そうそう……あの千冬さまの御姉弟よ」

 

 IS学園は完全女子高。教師や生徒は皆、女子。もっとさかのぼると中学も女子高だったりするのでかれこれ3年以上はまともに男子と関わっていない女子が多い。

 だからか知らないけど廊下に立ち見客が出るほど女子が大集合している。

 

(うわぁ~パンダってこんな気分なんだな)

 

 よく見ると2年生、3年生の先輩も見に来ており、女子たちは見えないところで牽制をしあっているのか誰も俺に話しかけには来ない。

 

「ちょっといいか」

 

 そんな女子たちの見えない牽制を制したであろう一人の女子が俺に話しかけてきた。

 その女子は長い髪をポニーテールにまとめ、少し不機嫌にも思える目つき―――彼女こそ唯一、この教室で既に関係性が出来上がっている人物。

 

「久しぶりだな、箒」

「っっっー! こ、こっちに来い!」

「お、おい!」

 

 名前で呼んだ瞬間、顔を真っ赤にした彼女は俺の手を取ると勢いに任せて走り始め、教室から俺を連れ去ってしまった。

 後ろから「きゃー! あの子大胆ねー!」みたいな台詞は聞こえないとしておこう。

 見物客から少し離れた場所で立ち止まると俺の方を振り返る。

 

「あ、あの場で名前で呼ぶな……皆が勘違いをする」

「勘違い? なんで」

「な、なんでもへちまもない! とにかくあの場で名前で呼ぶな!」

「じゃあ、篠ノ乃さん?」

 

 名字で呼び直すと彼女は最大限の不機嫌オーラを身に纏い、何重にも眉間にしわを寄せて俺を睨み付ける。

 彼女はある時を境に名字で呼ばれることを忌み嫌うようになった―――だからなるべく下の名前で呼ぶようにしていたんだがある時を境にそれすらも若干、嫌がるというか変な感じを出すようになった。

 

「わ、分かったよ……みんなの前では呼ばないようにするよ」

「そ、それは二人っきりの時ということか!? け、けしからんぞ一夏!」

「な、何が!? 俺何か変なこと言ったか!?」

「へ、変ではない……変ではないんだが……その……それは……」

 

 箒は顔を赤くしながらもじもじと体を縮こませる。

 

「そ、そのだな……だ、男女が下の名前で呼び合うのは……そ、その……あ」

「あ?」

「あ、あ、あ、愛」

 

――――――キーンコーンカーンコーン

 

「あ、チャイムだ。急いで戻ろう!」

「ふ、ふぇ!?」

 

 始業のチャイムが聞こえ、俺は箒の手を取って教室へ走り始める。

 女子たちとすれ違う度にキャーキャー言われるが理由は分からなかった。

 

 

 

――――――☆――――――

(い、一夏と……て、手を繋いだ……)

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