週末の土曜日の午後、俺とシャルロットは互いにISを展開して対峙していた。
午前中は基礎理論の授業を行っていたため、午後からとなったんだがトーナメントが近いこともあって利用申請が多く、占有使用が認められたのは僅か15分だけ。
「じゃ、行くよ!」
戦闘が始まった直後、白式の通知よりも早くにその場から離脱―――直後、俺がいた場所に無数の弾丸が着弾し、地面に穴をあける。
背部のスラスターを各基動かしていきながらシャルロットの直線上に立たないようにするがあまりの弾幕の前に上手く距離を詰められない。
その原因はあまりにも早すぎる武装の切り替えにあった。
サブマシンガンを撃っていたかと思えばショットガンにいつの間にか切り替わるなど俺の目ではいつ切り替えたのかを追いきれない。
(久しぶりに頼むぜ、白式!)
スラスターを全基同方向に吹かし、銃弾の雨霰を回避しながらフィールドを大きく旋回する。
やがて玉の無駄遣いと判断したのかシャルロットは引き金を引くのを止め、片手に近接ブレードを展開し、俺の動きを追いかける。
(ここだっ!)
シャルロットの視線から外れたのを確認した瞬間、スラスターの方向を変更し、一気に吹かすことで急激な軌道変更を行い、彼女の背後を詰める。
しかし、彼女の肩から銃口が覗いているのが見え、スラスターを下方向に吹かし、急降下を行うとスレスレのところをサブマシンガンの弾丸が通過していく。
再び全基スラスターを吹かし、拳を握りしめて飛び込もうとしたその時、裏拳の要領で振り返りざまに近接ブレードが俺めがけて放たれる。
『そこまで! 占有時間終了!』
切っ先が肩装甲を貫く寸前に終了の合図が告げられ、お互いの攻撃の手が止まる。
そしてゾロゾロと利用を待っていた他の生徒達がアリーナに入場してくる。
「ここまでだね」
シャルロットが近接ブレードを収納したのを見て俺も拳を引こうとする―――しかし、全身がまるで攣ったかのような激痛が迸る。
「イデデデ!」
「だ、大丈夫!?」
「ぜ、全身が痛い!」
「あれだけの高速移動を縦横無尽にしてたら重圧も凄いよ。さ、座って」
ISは解除しないままシャルロットの手を借りてフィールドに腰を下ろす。
「イツツ……やっぱりまだまだだな。避けるので精一杯だった」
「一夏はスラスターの勢いだけで回避してるからね。武器の特性を知ればもっと避けやすくなるよ」
「そうなのか? 知ってるつもりだったんだけどな」
「知識としては知ってる感じかな。でもそれが技術として体に染み込んでいないんだと思う」
「なるほど」
シャルロットの分かりやすい説明を聞き、納得してしまう。
これまでの放課後訓練の相手役のお三方は一に擬音、二に超理論派、三に感覚派と何とも言えない状態だったのでこうやって噛み砕いて分かりやすく説明してくれるシャルロットには感涙レベルの挨拶をしたい。
「白式は見たところ近接戦闘オンリー。センサーリンクも搭載されていないから余計に遠距離武装の知識も技術も感覚も体に染みないんだよ」
「おまけに拡張領域もあいていないから後付武装も載せられない始末」
「それは多分だけど単一仕様能力に領域を取られてるんじゃないかな」
「へ?」
「本来、単一仕様能力は第二形態で発現することの方が多いし、そもそも第二形態に移行しても発現しないことの方が圧倒的に多いんだ。だから第一形態で発現していることはかなり異常なんだよ」
「へ~。そんな理由があったのか」
「それと近接ブレードもあるんだよね?」
「おう。雪片弐型だ」
「剣と単一仕様能力で領域を名一杯使っちゃってるんだね」
要するにバカみたいに容量を食うゲームソフトを二本、突っ込んでるせいで他のゲームがダウンロードできない状態ということだ。
ゲームならアンインストールが出来るがISはそうはいかない。特に単一仕様能力を削除するのであればコアを初期化しなければいけないとのこと。
「もう体は大丈夫?」
「あぁ、もう大丈夫だ」
「じゃあ、試しにこれを使ってみよっか」
そう言って手渡したのは五五口径のアサルトライフル《ヴェント》。
「たしか他の人の武器って使えないんじゃ」
「許可を出せば別だよ。今一夏には許可を出したから、どうぞ」
彼女から受け取るとズシッと言い表しにくい重厚感が俺の手に圧し掛かる。
ISには様々な補助機能があるので重さは感じないはずだけどいざ持ってみると今までにない感覚だからか妙な重さを感じてしまう。
「じゃあ構えてみて」
「こうか?」
「脇を締めて。左手はこっち」
シャルロットは浮遊した状態で自由に飛び回り、俺の姿勢を的確に修正してくれる。どこか楽しそうな表情のシャルロットに俺も笑みをこぼしてしまう。
「どうかしたの?」
「いや……シャルロットが楽しそうだからさ。俺もつい」
「僕が……楽しそう?」
「楽しくないのか?」
「う、ううん! えへへ、そっか……もうすぐだよね」
シャルロットはボソボソ呟くがどこかその表情は暗い。まるで何かを思い詰めているかのように暗い表情を浮かべるシャルロットはどこか悲しさも感じる。
「よし、これで姿勢はOK。じゃあ1マガジン使い切っていいからあの的を狙ってみようか」
指を指された方向には空間に投影された的が表示されている。その的は中心から外側に向かって別々の数字が表示されている。
「センサーリンクがないから完全に目測だけどまずは撃ってみよう」
「よし……いくぞ」
引き金を引くと火薬がバンッ! と破裂する音とともに銃口から弾丸が飛んでいく。
しかし的には当たらず、後ろの壁に着弾してしまう。
「気にせず撃ってみて。体制は維持したままで」
体勢の意識を持ったまま引き金を引き続ける。
最初の数発は発砲時の衝撃によって弾道があらぬ方向に飛んでいくが後半になるとそれにも慣れて来て徐々に的に当たるようになる。
「凄い凄い! 後半は全部的にあたったね!」
「当たったって言っても外側だけどな」
「それでも凄いよ! 前半は的に当たらなかったのに後半は的に全弾命中。凄い成長どころかあり得ないくらいの成長曲線を描いてるよ!」
「そ、そうか?」
IS学園に来てここまでストレートに褒められたのは初めてな気がする。
「そう言えばシャルロットのISってリヴァイヴだよな? 訓練機とは全然違う様な」
「うん。この子は正式名称は【ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ】。専用機として運用するにあたって基本装備をいくつか外して拡張領域を倍にしてあるんだ」
「倍!? すごいな」
「今のところ量子変換してるのを含めて二十くらいの装備があるよ」
「二、二十って……歩く弾薬庫だな」
多く武器を装備していようが状況を的確に分析し、その場に合った武器を選び、運用する知識とそれを戦闘の最中に瞬時に判断する判断力、何よりシャルロットの武器の凄まじい速度での切り替え―――名を高速切替というらしい。
これらすべてが合わさってシャルロットの強さを支えている。
「ねえ、あれって」
「ウソッ、ドイツん第三世代機?」
「まだ本国でトライアル段階だって聞いたけど」
アリーナ内がざわつき始め、全員の視線が集まる場所を向くとそこには黒いISを身に纏う孤高のドイツ代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒがいた。
彼女は何かを探しているかのようにキョロキョロとアリーナ内を見渡している。
ゲートからゆっくりと降り立った彼女はフィールドを歩きながら全員を見ていく―――まるで値踏みをするかのような見方に周りの女子たちは一定の距離を置く。
俺達の傍に来るとジッとシャルロットを見続ける―――かと思えばふいに俺へと視線の先を変えるとジッと俺のことを見続ける。
「……なんだよ」
『趣味か』
「は? 何の話だよ」
突然のオープン・チャネルを通しての会話に俺は少し驚いてしまい、思わず肉声で返事をしてしまう―――しかし、彼女はそれでもオープン・チャネルを通してしか会話をしない。
『コソ泥女狐を飼っていることだ』
そう言いながら彼女は俺の横にいるシャルロットの方を見る。流石に仲のいい人をあんな言われ方をして平常心でいられるはずもない。
「お前、シャルロットに謝れよ」
「い、良いよ一夏」
「いや、俺がよくない。謝れよ」
『事実を言って何が悪い』
彼女の表情は本当に分からない、と言っているようで曇り一つないし、人を馬鹿にするような悪い表現を使っているという自覚も感じられない―――感じられないのではなく、感じない程に彼女の声には感情がない。
彼女の気持ちが全く読めない。まるで蓋をしているみたいに表に出てこない。
『貴様、気づいていないのか?』
「何がだよ」
『その程度か』
「だから何言って」
ラウラ・ボーデヴィッヒは言いたいことだけを俺にぶつけるとそのまま去っていく。
「なんだよあいつ……シャルロット、あいつの言う事なんか……シャルロット?」
振り返った時、シャルロットは酷く思い詰めた表情をしており、俺の問いかけにも遅れて反応するほどに意識がそがれているように見えた。
「う、うん……僕は大丈夫だよ。そろそろ戻ろうか」
「そうだな」
俺達は変な空気となったアリーナを後にした。
――――――☆――――――
これは公表されることのない秘匿回線。
『そろそろ最後の仕上げをするのだろう? 状況を整えてやる』
『何の話かな』
『惚けるつもりか? 男の性的興奮を突く仕草や服装を徹底し、やつには薬品入りのドリンクを差し入れし、室内には興奮作用のある薬品入りのアロマを置いてあるだろう』
『……回線だとよく喋るね。笛みたい』
『回線では感情を出す必要もない……奴の体臭には薬品の匂いが染みついている』
『軍人さんは鼻も効くんだ』
『薬品による拷問術も備えているのでな……そろそろ効き目が出始める頃だろう。お前の評判を目の前で落とし、奴の中での評判を上げてやる。動きやすくもなるだろう』
『……余計なことはしないでほしいな』
『所詮、有象無象どもの活動など知ったことではないが同じ転入生のよしみだ』
働きたくないでござる