Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第二十九話

 放課後から数時間が経ち、薄暗い室内でシャルロットは一人、メッセージ画面を見ている。

 差出人はデュノア社からであり、それは進捗状況の確認メールだった。

 

『調子はどうだ』

 

 そんなあまりにも短すぎるメッセージを見てシャルロットは機械じみた冷たさを感じながらも自嘲じみた笑みを浮かべて返信文を作り、送り返す。

 

『今日、結果を出すよ』

 

 シャルロットは自分の指が震えていることに気付き、それを隠すようにもう片方の手で包み込む。

 

「……一夏」

 

 その名を呼ぶと不思議と心地の良いあたたかな感情が込み上げて来て全てをなげうってその暖かな感情に身を任せたい。しかし、彼女の立場がそれを許すはずもなかった。

 机の上には自分なりに調べ、手に入れた薬品の数々が置いてある。

 

「……」

 

 そのどれもが興奮剤と呼ばれる物であり、それらは全て一夏に渡したドリンクや彼の部屋に設置したアロマなどに含まれている。

 濃度はかなり薄めているため急激な効果はない。彼女が狙っているのは理性というブレーキを甘くすること。

 ここに来るまでに一夏の性格や嗜好などは全てリサーチ済みであり、男性が喜ぶ仕草や性的興奮を誘う様な仕草など様々な情報を叩きこんできた。

 

「…………」

 

 シャルロットは目の前に置いてある露出度が高いネグリジェを手に取り、着替え始める。

 両肩は大きく露出しており、一夏との身長差であればよく見えるほどの開かれた谷間、そして素材も薄いものが使われている。

 父親にこうしろという指示を与えられたわけではない―――与えられたのは織斑一夏の情報を取ってこいという指示だけ。

 深く説明するほど時間もないし、関係性を築きたくないという気持ちの表れだろうとシャルロットは考えていたので深く追及はせず、自己解釈の下動いて来た。

 

「……楽しかったなぁ」

 

 転入してから数日間の彼との日々を思い出す。

 決して向こうにいる時には味わうことのできなかった幸福感を噛みしめ、シャルロットはストールを羽織る。

 

「……ごめんね……一夏」

 

 シャルロットは誰に言う訳でもなく自室を静かに出るのであった。

 

 

 

――――――☆――――――

 シャルロットからメッセージを届いた俺だったが少し前から実は体調がおかしい。

 発熱や腹痛といった種類の体調不良ではなく、落ち着かないというか呼吸が早いというか、いわゆる性的に興奮している時の感覚に似ている。

 

「ふぅ……はぁっ……シャルロットには悪いけどやっぱり……来ちゃったか」

 

 ドアをノックされたので少しだけドアを開けるとヒョコッと隙間からシャルロットが顔を覗かせる。しかしその両目は赤くなっており、少し前まで泣いているのは容易に分かった。

 ただそんな彼女の顔を見るだけで心がざわつく。

 

「シャルロット? どうしたんだよ」

「ううん……ちょっとだけ良い?」

 

 そう言われた瞬間、下腹部の辺りが妙に疼き、シャルロットから目が離せなくなる。

 よく見ると羽織っているストールの隙間から谷間が見えているし、両肩も大きく露出しているからいつもよりも肌の露出範囲が広い。

 心臓はドキドキと鼓動を速め、下腹部に集まる熱い何かを隠したかったがシャルロットの声に導かれるように彼女を自室に招き入れる。

 

「ど、どうしたんっっ!?」

 

 ドアを閉めようと彼女に背を向けたその時、後ろから彼女に抱き付かれるとともに背中に二つの柔らかな感触を感じ、俺の下腹部の熱は最高潮に跳ね上がる。

 

「シャ、シャルロット?」

「……一人でいると……あの時の言葉が」

 

 シャルロットの今にも泣きそうな声が俺の耳を破壊し、脳すらも一瞬で破壊する。

 その時、俺の足元に何かがひらりと落ち、見てみると先程まで彼女が羽織っていたストールだった。

 その時、俺の中で何かが壊れる音がするとともに眩暈のように頭がぐらぐらと大きく左右に揺れる。

 

「……こっち向いて」

 

 彼女の言葉が耳の奥でやけに大きく反応し、脳内を埋め尽くしていく―――下腹部だけだった熱は全身にあっという間に広がり、体が熱を帯びていく。

 自分の身体じゃないような感覚が俺を襲い、シャルロットに言われるがままに彼女の方を向く。

 少し潤んだ目、艶やかな唇、そして視界に入る豊かな谷間。俺は彼女の全てに目を奪われていた。

 

「一夏……」

「シャ、シャルロット」

 

 彼女の柔らかさが、彼女のぬくもりが俺の全てを狂わせ、刺激し、興奮を促進する―――心では異常だと分かっているのに頭が働かない。

 

「ベッド……行こ?」

 

 シャルロットに手を引かれ、ゆっくりとベッドへと近づいていく。

 二歩ほど歩いた時、足に力が入らず、よろめいてしまい、彼女の胸に飛び込む形になってしまう―――顔いっぱいに伝わる感触が俺の全てを破壊する。

 

「きゃっ!?」

 

 気付いたら俺はシャルロットを力任せにベッドに押し飛ばしていた―――彼女の小さな悲鳴が聞こえたような気がしたけどそんなものは今の俺には関係ない。

 ベッドに押し飛ばされた衝撃でネグリジェがめくれ、彼女の下着が露わになる。

 シャルロットが次の動きを起こす前に俺は彼女に覆いかぶさるように馬乗りになると胸元を鷲掴みにしてそのまま力任せに破くとブラが露わになる。

 服の下からでは絶対に見えない物に手を伸ばそうとした時、彼女の肩が僅かに震えているのが見え、顔を少し上げるとそこには――――――

 

「どうしたのっっ……一夏。来て?」

 

 その声は震えていて何より彼女の綺麗な瞳からは涙がとめどなく零れていた―――胸に伸びていた手は零れ落ちる涙へと伸びていく。

 涙を指で拭った瞬間、僅かな冷たさが一瞬にして全身を駆け巡り、頭が一気に冷えていく。

 

「一夏?」

(俺はっ……俺はいったい何をしてるんだっっっ!)

 

 今ならまだ体は動く―――シャルロットの心配する声を無視して無理やり体を動かして壁の角あたりにまで歩を進めると――――――

 

「――――――ひっ……い、一夏何を」

 

 シャルロットの叫びにならない叫びが耳に響くと同時におでこの辺りから痛みと共に何か液体が流れていくのを感じるが俺はそんなものは無視してもう一度大きく頭を後ろに振りかぶる。

 

「んぐぅっ!」

「ダメだよ! 一夏!」

 

 シャルロットを泣かせた俺、そして皆を裏切った俺、そして最強を目指すと決めたのに正反対のことをした俺に対する罰として俺は何度も壁の角に頭をぶつける。

 例え壁に俺の血が飛び跳ねようが気にも留めず、激痛に負けずに俺は何度も何度も自分に罰を与えるために頭をぶつけ続ける。

 

「お願いだからもうやめて! これ以上頭―――けたら―――ちゃうよ!」

 

 シャルロットの悲痛な叫びが徐々に遠のいていくのを感じるが俺はもう一度、ひときわ強く角に頭をぶつけた瞬間、ブツンッ、と線が切れたように視界が真っ暗になった。

 

―――最後にうっすらと見えたのは泣きじゃくるシャルロットの顔だった。

 

 

 

 

――――――☆――――――

「お、お、お、織斑先生!」

 

 夜遅くまで仕事をしていた千冬の下に酷く慌てふためいている真耶が走り込んできた。

 片づけを済まして自室へ戻ろうとしていた千冬は少し驚きながらも真耶を落ち着かせる。

 

「どうかしましたか、そんなに慌てて」

「え、あ、えっと織斑君が医務室に運ばれたとデュノアさんから連絡が!」

「医務室? 何故また……それに何故デュノアが」

「え、え、えっとそれがデュノアさんが電話して織斑君が壁に頭が」

「落ち着いてください。デュノアがなんと?」

「すーはー……デュノアさんから織斑君が頭から血を流して医務室に運ばれたと連絡があったんです!」

 

 まず何故、彼女が連絡を寄越したのか千冬は理解できていなかった。

 とりあえず真耶に促されるまま医務室へと向かう。

 一カ月前の光景を思い出し、少し不安に駆られる千冬だが医務室内に入った際に一夏の声が聞こえたことでその不安は解消された。

 

「お前……何をしたんだ」

「あ、ちふ……織斑先生」

 

 カーテンを開けるとそこには何故か一夏の上の服を着て泣きじゃくっているシャルロットと治療が終わり、おでこに包帯を巻かれている一夏の姿があった。

 

「いや~、実は電気消したままトイレに行こうとしたら椅子に引っかかっちゃいまして……で、壁の角にごつんとおでこをぶつけちゃって切っちゃったんです」

 

 明らかにうそをついているのは表情や言葉遣いからして明らか。まず寝ている時間帯の事故にも拘らず、シャルロットが治療直後の病室にいるのかの説明がない。

 そして何故、シャルロットが一夏の服を着ているのかが分からないし、真耶からの伝達事項と一夏が言った状況説明がかみ合わない。

 

「デュノア、ちょっと来い」

「ちょ、待ってくれ!」

 

 千冬がシャルロットから事情を聞こうと彼女の腕を掴んだ瞬間、それを邪魔するかのように一夏が千冬の腕を両手でつかむ。

 

「お前では話にならん」

「だ、だからよろけて頭をぶつけたんだって」

「ではなぜ、デュノアがここにいる」

「そ、それは……は、運ばれた時にたまたまシャルロットが近くにいたから一緒に来てくれたんだ!」

「なぜ、お前の服をデュノアが着ている」

「え、えっと…………びょ、病院服に着替える時にあずかっててくれたんだけどエアコンが寒いから着たんだと思うんだ! ね、寝間着だけだと寒いしさ」

「……就寝時間を超えているというのにたまたまデュノアは外にいた。で、たまたまお前が運ばれるのを発見したからついて来たと」

「そ、そう……だと思う」

「ではなぜ、デュノアが部屋で倒れているお前を見つけたんだ? 部屋に侵入でもしたのか」

 

 その質問で一夏の嘘という防波堤は崩れ落ち、丸裸になってしまった。

 

「とりあえずデュノア、来い」

「や、や! だから」

「安心しろ。悪い様にはせん」

 

 そう言いながら一夏の手を払いのけ、シャルロットの手を掴んで医務室から出るとそのまま半無理やり気味にシャルロットを医務室前のベンチに座らせる。

 シャルロットは泣いているばかりで顔をあげない。

 

「何があった……というよりかは何をした、の方が正しいか」

 

 千冬の問いにシャルロットは小さく頷く。

 

「僕は……一夏に」

「あー、もうそれ以上はいい」

「え?」

 

 厳しく追及されると思っていたのか話を途中で切り上げられたシャルロットは驚きのあまり顔をあげる。

 薬品を使い、一夏の情報を様々な方面から取ろうとしたいわゆるハニートラップを仕掛けたのであれば尋問されたうえでフランスに連絡。そのまま強制送還が妥当だろう。

 

「でも……僕は」

「あいつはお前も分かると思うが馬鹿だ」

「……」

「人を疑うことを知らず、感情的に物事を進める時もある。だからさっきみたいに絶対にバレるうそをついて自分の首を絞めている」

「……」

「だがな……あいつが嘘をつくときは決まって何かを隠している時だ。それは誰かを守るためにな」

「……一夏」

「前までの私ならば今すぐにでも尋問し、即刻国に連絡していたが……今はあいつを待つことにしているんだ。あいつが考え、お前を守ると決めたのであれば私はそれ以上、動かない……だが」

 

 千冬はシャルロットのすぐ傍に壁に拳をぶつけると二人しかいない廊下に音が響き渡る。

 

「私がお前に対して怒りを覚えていることを忘れるな……もし、あいつの思いをお前が無礙にしたときは私がお前を潰す。教師としても姉としても」

「……はいっ」

「ならばあいつに話してこい。全てを」

 

 千冬がそう言うとシャルロットは涙をぬぐい、一夏が待っている医務室へと戻っていく。

 それを見届けた千冬はベンチに座り、ため息をつく。

 

「……あいつが嘘をつくときは何かを守ろうとするときだ……」

 

 一夏が小学生のころ、喧嘩沙汰を起こしたと学校から連絡が入り、慌てて迎えに行ったことがある。

 その時は男子三人が一夏に一方的に殴られているという話しか聞いていなかったがその時も一夏は千冬に対してうそをついた。

 

『別に理由なんかない……ただ殴っただけ』

 

 日を置き、新たに出た話を聞けば友人の篠ノ乃箒が男子にからかわれているところに一夏が割って入り、鉄拳制裁を加えたというものだった。

 

「……待つことはこんなにも辛いものなのだな」

 

 教師として今回、シャルロットが行ったことはみすみす見逃すわけにはいかないもの―――しかし、今は教師が入るよりも一夏が入った方が事態は好転する。

 千冬はそう予感していた。

 

「世話のかかる弟だ」

 

――――――☆――――――

「あ、シャルロット」

「うん……あ、頭はどう?」

「まぁ、痛いけど……目は覚めた」

 

 シャルロットは傍に椅子に座るが黙りこくってしまう。

 俺もバカじゃないからついさっき、シャルロットがやったことがどういうことなのかは理解しているつもりだけどシャルロットから真実を聞くまでは信じるつもりはない。

 

「シャルロット……何か俺に隠してる……よな」

「……一夏、僕はね」

 

 シャルロットは小さく頷くと顔を上げ、意を決したように口を開く。

 

「君の情報を……女を使って取りに来たんだよ」

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