Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第三十一話

「ねえねえ、あの話聞いた?」

「聞いた聞いた……でも噂じゃないの?」

「だと思うんだけどさ。でも見たっていう人がいるんだって」

 

 その日の朝の1組の雰囲気は少し変な方向を向いていた。

 彼女―――セシリア・オルコットが登校した時には既にそのような噂話が教室の至る所でされており、耳を傾けるとどうやら昨晩、一夏の部屋から転入生のシャルロットが出てきたという。

 正直、セシリアにとっては馬鹿馬鹿しい、という感情が全てだった。

 

(一夏さんがそんなことを許すはずもありませんわ)

 

 女子が男子の部屋に行くの厳禁。それを彼が許すはずもないと。

 その時、教室の扉が開くと同時に教室の空気が一変し、騒然とする。

 

「織斑君、おでこどうしたの!?」

「おりむ~、だいじょうぶ~?」

「あぁ、ちょっと転んじゃってさ」

 

 教室に入ってきた一夏のおでこには包帯が巻かれている―――そしてここ最近、一緒に来ていたシャルロットの姿がまだ見えない。

 この二つのピースだけでセシリアの中では点と点が繋がって線になった。

 

(やはりシャルロットさんは……ですが一夏さんの様子はいつもと同じ)

「おはよう、セシリア」

「ごきげんよう、一夏さん」

 

 だがセシリアは彼に追及はしない。

 鈴に任されたのはあくまで気に掛けることであり、真実の追求ではない。それをすれば周りの噂話で一喜一憂する者達と同じになってしまう。

 彼がいつも通りならばセシリアもいつも通りに振る舞う。それだけ。

 

「号令」

「起立!」

 

 担任である千冬が入ってきたことで全員が席へと戻り、いつもの教室へと戻る。

 

(今日は一夏さんと久しぶりのISの特訓……お怪我もされていますし、今日は軽く致しましょう)

 

 セシリアは朝礼の段階から放課後のことを考え、ルンルンしていた。

 

――――――☆――――――

 そして放課後、セシリアは第三アリーナである人物を待っており、その表情はルンルンの笑顔そのものだった。

 学年別トーナメントも間近に迫ったこのタイミングで一夏との二人っきりでの占有時間を取れたのは正直に言えばかなり大きなポイントだった。

 ISスーツにも着替え、彼の到着を今か今かと待ち侘びていた。

 

「はぁ、一夏さんまだかしら」

 

 セシリアはドキドキしながらその時を待っていると後方で砂を踏む音が聞こえた。

 

「いち―――あなたは」

 

 振り返った先にいたのは目的の人物ではなく、銀色の髪に黒い眼帯を身に着けたラウラ・ボーデヴィッヒ。相変わらず彼女の表情は氷のように冷たい。

 ラウラはセシリアを値踏みするように全身を見る。

 

『イギリスの代表候補生か』

『それがなんですの?』

 

 目の前にいるのにオープン・チャネルを使用しての問いかけに少し驚くが落ち着いて返答を返す。

 

『戦え。見極める』

 

 そう言いながらラウラは一瞬で黒いISを展開し、セシリアに向けて肩に装備された大型のレールカノンを起動し、銃口を向ける。

 セシリアはそれを宣戦布告と捉え、すぐさまブルー・ティアーズを展開し、レーザーライフルを構える。

 

「この時間は私の占有時間ですわ。貴方はお誘いしておりませんの」

『誘ったのはあの悪趣味な男だろう?』

「……なんですって?」

 

 ラウラからの発言に額をピクッと震わせたセシリアは最大限に彼女を睨み付ける。

 

『貴様も気づいていないわけではあるまい。奴の今の状況を』

 

 確かにラウラの言うように一夏が置かれている状況に違和感を抱いているのは確か。おでこに包帯を巻いて登校してきた姿やシャルロットの雰囲気の違い、そして少し前の夜にシャルロットが一夏の部屋から出てきたという噂話。総合的に判断すればシャルロットが行ったことはある程度推測が付く。

 しかし、一夏の行動はいつも通りである以上、こちらから動く必要はない。セシリアはそう判断していた。

 

「ええ、ある程度は……ですが周りがとやかく言う必要はありませんわ。生徒間の問題は先生方が対応されます。我々外野が騒ぎ立てる必要はありませんの……それが一夏さんの――――――」

 

 そこまで言ったところでセシリアは口を止めてしまう。

 頭の中では“友人”と言うつもりだったが心はそれを受け入れず、それ以降の言葉が出てこない。

 友人で無ければいったい何の表現が正しいのかと必死に検索をかけるが思考が上手く働かない。

 

『それが、なんだ?』

「―――一夏さんのクラスメイトとしての取るべき行動ですわ」

 

 周りが騒ぎ立てれば一夏だけではなく、シャルロットの学園での生活に支障が出てしまう。

 事が表ざたになればある程度は仕方が無いにしても表に出てこないことで騒ぎ立てればそれは冷やかしと同じであり、やがては苛めへと発展する。

 

『所詮、悪趣味な思考の周りに集まる奴も悪趣味という事か』

「先程から黙って聞いていれば一夏さんの悪口を!」

『とても貴様が教官の言う会わせたい人物とは思わんが……見極めさせてもらうぞ』

 

 大型レールカノンが火を噴き、セシリア目がけて砲撃が行われた。

 

 

 

――――――☆――――――

「やばいやばい! 課題だし忘れて居残りとかヤバイ!」

「今日は確かオルコットさんとのIS特訓だよね? ケガもしているし、ほどほどにね」

「もちろん! 占有時間も限られてるから急がないと……なんだ?」

 

 周りの女子たちが俺達と同じ方向に走っていくのを確認する。数人程度なら気にならなかったんだが何十人規模だったので俺もシャルロットも首を傾げる。

 その時、通り過ぎていく中に手を引っ張られている鈴の姿を見つけ、俺達も追いかける。

 

「あ、おい鈴! 何の騒ぎだよこれ」

「さあ? あたしも来てって言われてるだけだから」

 

 第三アリーナへと入るとセシリアの占有時間だというのに何故かIS同士の戦闘音が聞こえてきた。

 占有時間内は申請を出した生徒しか入れないはずなので模擬戦など起きる筈もない。

 

「うぉ!?」

 

 すぐ目の前に何かがフィールドに着弾し、地響きと共に砂埃を巻き上げる。

 上空を見上げるとそこには黒いISを装備し、フィールドを見下ろすラウラの姿があった―――その時、幾本もの青いレーザーがフィールドより上空にいるラウラ目がけて放たれる。

 しかし、ラウラの両肩に搭載された刃が射出される―――その刃は黒いワイヤーが繋がっており、複雑な軌道を描きながら向かってくるレーザーを叩き落としていく。

 

「ねえ一夏あれ! セシリアよ!」

 

 鈴がが指さす方向を見ると至るところの装甲が破損、もしくは全壊したボロボロな姿のセシリアがいた。

 4基中、2基のビットは本来あるべき場所には無い。

 

「なんでだよ! セシリアの占有時間中だろ!?」

「分からない。でもこのままじゃ」

 

 ラウラはワイヤーブレードを射出したまま急降下。セシリアは距離を確保するべく後方へ大きく下がるがラウラの姿が一瞬高速でぶれ、ほぼゼロ距離となった。

 

「セシリア! 瞬時加速だ!」

 

 観客席はバリアで覆われている以上、こちらからの声は聞こえないがそれでも俺はセシリアに向けて声をあげる―――届いたのかセシリアは残り2基の実弾装填ビットを動かし、ラウラへ銃口を向けると同時に自分のことなどお構いなく弾頭弾を発射。

 当たる―――そう思った直後、セシリアの表情が一変する。

 彼女の目の前で弾頭弾が空中で動きを止めており、弾頭弾の先ではラウラが右手を突き出している。

 驚きのあまりセシリアは一瞬動きを止めてしまう―――その隙を逃すまいと二本のワイヤーブレードが彼女に巻き付き、一瞬で拘束してしまう。

 そして「見ていろ」と言わんばかりにこちらを見るや否やワイヤーブレードを振り子のように大きく振り、そして勢いよくセシリアを壁に叩き付けた。

 

「セシリアー!」

 

 何度も―――何度もワイヤーブレードで拘束したセシリアを叩きつける様は惨たらしい、という表現そのもの。何度も壁に叩き付ける音とともにブルー・ティアーズの鎧が粉々に砕けていく。

 機体維持警告域をとうに超える勢いの破損状況はまさに搭乗者生命危険域だ。

 セシリアの痛みに耐える表情が俺の目に入る―――その瞬間、俺の中で何かが弾け飛んだ。

 

「止めろぉぉぉぉぉっ!」

 

 俺の叫びに呼応するように白式が瞬間的に展開されると目の前に雪片弐型が現れると持ち手の部分に合わせるように拳を勢い良く振り抜く。

 持ち手と俺の拳が触れた瞬間、普段のように刃が輝きだし、エネルギー状の刃へと変わるとバリアを紙のように貫き、一瞬にして破壊する。

 

「うおぉぉぉぉっ!」

「一夏! 突っ込んじゃダメだ!」

 

 シャルロットのアドバイスが耳に届くがそれを無視して俺は全スラスターを全開で吹かすと同時に瞬時加速を発動させ、いっきにラウラ目がけて突っ込んでいく。

 凄まじいGが俺の体を襲い、ミシミシと軋む音が聞こえるがそれすらも無視をする。

 

「ぐぅっ!?」

「消えろぉぉぉぉっ!」

 

 ラウラのこめかみ部分に拳を突き刺した瞬間、彼女の頭部装甲が粉々に砕け散る―――瞬時加速の勢いのまま腕を振り抜くとラウラの姿が一瞬で消えさり、フィールドで爆音とともに砂煙が立ち込める。

 ラウラの意識が逸れたことでワイヤーブレードが拘束を緩め、堕ちるセシリアを抱きかかえてフィールドへと降りる。

 

「セシリア大丈夫か!?」

「い、いち………かさん」

「ごめん……俺が遅れたから」

 

 顔にかかる彼女の綺麗な金髪を横へ流すと彼女と目が合う―――その時、彼女の目が何かを訴えると同時に白式からロックされている危険通知が送られてくる。

 俺は後ろを振り返れば間に合わないと察知し、彼女をかばうように抱きしめると背中に強い衝撃と共に爆発が起き、白式の悲鳴じみた通知が届く。

 

(悪い白式! 今は耐えてくれ!)

 

 再びロック通知が俺の下に届き、セシリアに爆風が及ばないように抱きしめながらただ耐え続ける。

 

『――――――許さんぞ』

「っっ!?」

 

 頭の中に響いたのはプライベート・チャネルから聞こえてくるラウラの声―――しかし、その声にはハッキリと俺に対する殺意の感情を感じるが同じラウラの声だとは思えなかった。

 

『―――死ね』

(やばいっ!)

 

 次なる衝撃を受ければ白式のエネルギーは尽きる―――そう覚悟した瞬間

 

「やれやれ」

 

 声の直後、俺から離れたところで爆風が起きるとともに人影が見えた―――その影は見覚えがあった。

 

「ち、千冬姉」

 

 

――――――☆――――――

 数刻前

「鳳さん! 僕たちも行こう!」

 

 一夏の危機に駆け付けようと鈴へと声をかけるシャルロット―――しかし、帰ってこない返答に疑問を感じ、彼女の方へ向くと真っ青な顔をし、額から冷や汗を流し、手を震わす鈴の姿があった。

 それは明らかに健康面、というよりかはメンタル面に問題があるように見える。

 

「鳳さん?」

「何の騒ぎ……一夏!?」

「篠ノ乃さん! 鳳さんをお願い!」

 

 動けない鈴を箒に任せ、シャルロットはラファール・リヴァイブⅡを身に纏い、ポッカリと穴が開いたバリアを通って一夏の下へと弾丸のごとく速度で向かっていく。

 直後、ラウラと一夏の間に入るように一つの人影が飛び込んでくると何かが横薙ぎに振るわれ、ラウラが放った実弾を真っ二つに切り裂く。

 あまりの光景にシャルロットは動きを止めてしまう。

 彼女の目の前に広がる光景―――それはISスーツすら着ていない生身の人間が170センチはあるIS用の近接用ブレードを持っていた。

 

――――――☆――――――

 

「会議中に呼ばれたかと思えば……今はオルコットと織斑の占有時間と聞いていたが……何故、お前がこの場にいるんだ? ボーデヴィッヒ」

「申し訳ありません」

 

 ラウラは黒いISを粒子状にして収納すると深々と頭を下げる。

 千冬姉はため息をつきながら片腕で近接用ブレードをフィールドに突き刺す。

 

「ボーデヴィッヒは私と共に来い。指導だ。そのほかの生徒は解散! 本日のアリーナ使用は終了とする!」

 

 ラウラは千冬姉の後ろをついていき、アリーナから去っていく。

 俺は意識がもうろうとしているセシリアを抱きかかえ、シャルロット先導のもと医務室へと向かった。

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