Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第三十三話

 6月も最終週に入り、月曜日からトーナメント一色となった学園はえげつないほどの忙しさに見舞われていた。

 来賓の誘導や迎え、そのほかの雑務などで生徒が右往左往。試合はそれぞれのアリーナで学年に分かれて行われるので試合がない生徒はこういった雑務に追われる。

 

「どうぞ、こちらへ。足元段差があるので気を付けてください」

 

 かくいう俺も試合が遅いタイミングな為、こうして来賓の誘導にあたっているが未だにおでこの傷が癒えず、包帯を巻いているせいかギョッとした表情で見られることが多い。

 組み合わせは先程発表され、いつものメンバーで言えば箒から始まり、シャルロット、そして俺の順番で試合が始まっていく。

 

「お~り~む~」

 

 後ろから声をかけられ、誘導しながら首を動かして振り返るといつもの1.5倍ほどの速度で動いているのほほんさんがぶかぶか袖を振りながらこちらに向かって来ていた。

 

「ど、どうした? のほほんさん、あ、こちらです」

「おりむ~を出せってお客さんがいたよ~」

「お、俺に? こんな糞忙しい時に?」

「ここ代わるから行ってきて~」

「ありがと!」

 

 のほほんさんと場所を代わり、俺を呼んでいるという来賓がいる玄関へと向かうと何やら玄関担当の先輩が一人の白衣を着た女性を止めている。

 ただ、何故か俺の足が止まる―――彼女から触れてはいけないオーラを感じたからだ。

 それもそうだろう。なんせ彼女は右手にはモリを、左手には種類はよく分からないが魚を5,6匹握りしめており、足元は何故か濡れている。

 どうやら海でも潜っていたのかクルクル癖毛が濡れてわかめのように見える。

 

(……先輩には悪いけど帰ろっかな)

「ですから! 来賓とはいえせめて正装できていただかないと!」

「ほ~う、きみは漁業を営む人たちの正装を正装ではないというんだね?」

「漁業の方々はISスーツの上に白衣なんて着ません! もうどうしようっ……あ、織斑君!」

「げ」

「おっ! おぉぉぉっ!」

 

 先輩が運悪く俺を視界に入れ、名前を呼んだ瞬間、モリを持った女性が目を輝かせ、先輩を押しのけて俺のもとへとダッシュで近寄ってくる。

 

(こ、怖い)

 

 ダッシュの際に開けた白衣の向こうに篝火ヒカルノ、と書かれた名前が見えた。

 女性は俺に近寄るや否や俺の周りをくるくると回り、何故かお尻を触る。

 

「な、なんですか!?」

「未成年のお尻はいいねぇ。大人と違って弾力がある」

 

 恐らくこの人は町中をこの格好で歩いてきて学園まで来たのだろう。

 とてつもない変態だ。

 

「私が作った超加速推進機(アクセル・スラスター)の調子はどうかな?」

「へ? もしかして倉持技研の」

「そう。何を隠そう私こそ倉持技研第二研究所所長の篝火ヒカルノ。君のお姉さんと同級生だ」

「え!? 千冬姉と!?」

「ま、同じクラスだったというだけだがね」

 

 実のところ千冬姉の交友関係は俺は一切知らない。唯一の話し相手として束さんがいるということしか把握しておらず、それ以外の関係性は皆無だと思っていた。

 ただ友人と言わなかったあたり、本当にただのクラスメイトなんだろう。

 

「私はね、彼女たちの足元にも及ばない。だからこそ私は普通であると証明したいのさ。だから超加速推進機(アクセル・スラスター)を君に授けた」

「は、はぁ」

「まだまだ私が普通であることの証明には及ばないが少しは君の役に立つはずだ」

「少しどころかかなり役立ってます。ありがとうございます」

「んーふふ。私は離れた所から見るとしよう。あ、これは君への餞別だ」

 

 そう言われてまだビチビチとビクついている魚を5,6匹渡されるが反応に困る。反応に困っている隙に女性は俺の傍を通り過ぎてペチペチとビーチサンダルで音を立てながらどこかへと向かっていく。

 

『まもなく第一試合が始まります。関係の生徒は集合場所へ来るように』

「やべっ! 箒の試合が始まる!」

 

 俺は魚を手にしたまま試合が始まるアリーナへと駆けだしていく。

 

――――――☆――――――

 

 生徒の控室となっている更衣室は大部分の女子だけの解放となっており、俺は試合直前まで観客席で観戦しながら待つことになっていた。

 隣にはシャルロット、セシリア、鈴が座っており、始まるであろう箒の試合を待っていた。

 

「凄い盛況ぶりだね。一年生にもこんなに来賓が来るなんて」

「主に上級生へ来賓が集まりますが今年は一夏さんもおりますゆえ、でしょう」

「あ、出てきたわよ」

 

 鈴の声にフィールドへと視線を向けると打鉄を装備した箒がフィールドへ降り立つ。気合十分といった様子で既にその手には近接ブレード、《葵》を握りしめている。

 それに対して相手はラファール・リヴァイブだ。

 箒の実力を見るのはこれが初めてかもしれない。

 

「箒の相手はティナ・ハミルトンさん。アメリカの代表候補生だね」

「鈴、どんな子なんだ?」

「そうねぇ……あたしと違ってグラマーね。あたしと違って」

 

 そんなことは聞いてない、と言おうものなら恐らく鈴に殺されるので黙っておく。

 鈴のルームメイトらしいので恐らく、そのグラマーなプロポーションを見ることはあったのだろう。それが今のジト目に繋がっていると。

 

「あとガサツね」

「お、同じイダダダダダッ!」

「誰がガサツで貧乳よ!」

「言ってない言ってない!」

 

 思いっきりヘッドロックを噛まされながら弁明していると試合の開始を告げるブザーが鳴り響いた。

 お相手は開始直後にサブマシンガンを展開し、箒目がけて引き金を引く―――箒もその場からすぐさま離脱し、葵を握りしめて切りかかる。

 相手も短刀を展開し、ブレードの一撃を受け止める―――サブマシンガンが再び火を噴き、箒を無理やり引き剥がす。

 引き剥がした直後、相手はショットガンへ切り替え、箒へ高威力の弾丸を撃ち放つ。

 ―――直後、アリーナを驚きの声が包み込む。

 何と放たれたショットガンの弾丸をブレードで真っ二つに切り裂いたのだ。

 

「す、すげえ……弾丸を斬ったぞ」

「打鉄の補助機能を駆使してもあんな芸当はかなり難度が高いよ」

「ジャパニーズサムライですわね」

「そのうち斬撃を飛ばしたりするんじゃないの?」

 

 その攻防で相手は勝てない、と悟ったのかそこからは箒の攻勢が終始続き、試合は10分程度で箒の勝利となって終わりを告げた。

 今回の行事において1年生にとってはあまり影響がない行事だがそれでもトーナメント上位者にはさっそく各組織からのチェックが入る。

 今の試合で確実に箒にもチェックが入るだろう。

 

「にしても普段よりも試合時間、早いな」

「……あんた、それ千冬さんの前で言ったら殺されるわよ」

「へ?」

「学年別トーナメントは参加者多数のため、決勝戦以外はエネルギー残量をあえて減らした状態で取り仕切る……先週の終礼で言ってたよ」

 

 シャルロットにもツッコミを入れられ、俺は辺りを見渡すが千冬姉がいないことを知るとホッと一息つく。

 

「次はあたしね!」

「鈴、頑張れよ!」

「あったりまえよ! 3分で勝って来るから!」

 

 そう言い、笑みを浮かべながら鈴はぴゅーッと効果音が聞こえるくらいの速度で走っていく。

 相変わらずのすばしっこさ、と思っていると後ろからシャルロットに肩を叩かれる。

 

「どうした?」

「……実はね、鳳さんのことで少し気になることがあるんだ」

「?」

 

 そう言うシャルロットの表情は少し心配の色を含んでいる。

 

「実はね、この前のラウラとの一悶着の時に鳳さん、動けなかったんだ」

「動けなかった?」

「うん。顔色が悪くて手が震えて……呼吸も乱れてた」

「……あの鈴が?」

 

 俺の問いにシャルロットは首を振る。今の今まで元気そうな彼女からは到底想像がつかない光景だがシャルロットは嘘をつくような奴じゃない。

 その時、試合開始のブザーが鳴り響き、鈴の試合が始まる。

 青龍刀を得意げに回しながら甲龍を駆る鈴の姿に違和感はない―――そう思っていたけどほんの僅かだけ彼女の試合内容に違和感を感じる。

 まるで何か急いでいるかのように攻撃の繰り出しが早い。

 

「終わった……試合時間2分」

「流石は鈴さんですわね……ですが衝撃砲を出すタイミングも早かったような」

 

 セシリアと同意見だ。

 試合を早期に決めると息巻いていたものの鈴の実力であれば一般生徒に対して衝撃砲を使うという選択肢はもっと後に取っておくはず。

 でも試合開始すぐに彼女はそのカードを切った。

 

「多分大丈夫だと思うんだけど……一夏も注意して見ててあげて」

「あぁ、ありがと。シャルロットも頑張れよ!」

「うん! 見ててね、僕の試合」

 

 シャルロットは気分上々にスキップを折り混ぜながら控室へと向かっていく。

 参加人数が学年全員な為か試合間のインターバルは短くすぐに次の試合が始まる。

 普段は見れない学年みんなの実力を目の当たりにし、まだ見ぬ強い存在と出会えるかもしれない―――俺はそう感じながらすべての試合にかじりつくように注目した。

 

 

――――――☆――――――

 試合は次々に進んでいき、箒、鈴、シャルロット、そして4組の専用機持ちの子、ラウラ・ボーデヴィッヒという専用機持ちの面々は順当に2回戦進出を決めていた。

 そしてようやく俺に番が回り、フィールドへと降り立ち、対戦相手の相川さんと対峙する。

 

「織斑君、手加減はなしだからね」

「俺はそんな三文字は知らないんだ」

「ふふっ、ありがと」

 

 試合開始のブザーが鳴り響くと同時にスラスターを吹かし、一気に距離を詰める―――相川さんは近接ブレードを展開し、突きを俺めがけて繰り出す。

 スラスターを各基微調整し、空中で飛び跳ねるように宙返りをし、突きを回避すると同時に相川さんの後頭部に回転の勢いを利用した踵による一撃を喰らわせる。

 

「いつつ……あんな速さで動いてるのに軌道変えるとかずるいよー!」

 

 口では不満を漏らしながら相川さんは笑みを浮かべつつ、ブレードを握りしめ突撃してくる―――俺はそんな単調な行動に合わせて瞬時加速を使い、高速で一気に近づき、速度を殺さないまま拳を相川さんの腹部に突き刺し、腕を思いっきり振り抜く。

 

「かはっ!」

 

 観客席を護るバリアに直撃し、口から空気を漏らす。

 その瞬間、試合終了を告げるブザーが鳴り響いた。

 

「強いなぁ……流石、織斑君」

「ありがと」

 

 こうしてすべての一回戦が終了した。

 

 ――――――☆――――――

 その後も順調に試合は進んでいき、2回戦、3回戦と俺達は順調にコマを進めていく。

 そして夕方の3時ごろには上位6名が選出される―――俺、箒、シャルロット、ラウラ・ボーデヴィッヒ、鈴、そして4組の更識さん。

 ただ、更識さんは棄権すると表明したらしく、5人による上位リーグの試合が決定した。

 

「やはりこのメンバーが残りましたわね」

「試合の組み合わせはこの後発表なんだよね?」

 

 今俺達は組み合わせが発表される電子掲示板の前におり、その時を今か今かと待っていた。無論、上位リーグに興味のある他の女子も見に来ている。

 

「現状、学年最強はラウラね」

「全ての試合を無傷で勝利し、試合時間は全て1分以内……異常な強さだ」

「少し調べたんだけどドイツのIS配備特殊部隊「シュヴァルツェ・ハーゼ」の隊長を務めてるみたい」

「シュ、シュバ」

「シュヴァルツェ・ハーゼ。一夏は昔から横文字が苦手だな」

「で、その特殊部隊って強いのか?」

 

 俺の一言に全員がこちらを向き、「そんなことも知らないのか」と言わんばかりのジト目を向けてくる。

 ISの知識は徐々に追いつき始めたんだけど関連知識、特に各国の軍や背景事情なんかは全く頭に入れられておらず、世間の常識に追いつけていない。

 

「あんた知らないの? シュヴァルツェ・ハーゼって言ったら10機あるドイツのISのうち、3機も配備されてる最強の部隊よ」

「へ~」

「ISは1機配備されているだけでもパワーバランスが変わるって言われてるくらいだからね。それを3機も配備されているのはかなりの抑止力だよ」

「ほぅ」

「……一夏さんにはISの歴史講座も必要ですわね」

 

 セシリアの一言に全員がうんうん、と首を縦に振る。

 

「そろそろ発表だな」

「あ、逃げたわね」

 

 鈴に鋭いツッコミを受けるが俺はそれを軽くスルーし、掲示板へと注目する―――そして時刻丁度になったっと同時に上位リーグの組み合わせが発表される。

 第1試合は俺と箒。

 第2試合は鈴とラウラ。

 そしてシャルロットは不戦勝。

 

「一回戦は箒とか」

「そうだな。よろしく頼むぞ、一夏」

「あぁ、負けねえぞ」

 

 その時、鈴の姿が見え、声をかけようとしたがその思いつめたような表情に思わず止まってしまう。

 その手はほんの少しだけ震えている。

 

「鈴? おーい、鈴」

「ふぇ!? な、なによ!」

「いや……ボーっとしてるからさ」

「べ、別にちょっと考え事してただけ……明日に備えて今日はもう寝るから。お、おやすみ!」

 

 そう言って足早にこの場を去って行ってしまった。

 俺はシャルロットと目を合わせ小さく頷きあう―――シャルロットの言うように何らかの不調が鈴にあると見るべきなんだろう。

 一抹の不安を残しながら俺達は明日に備えて解散ととなった。

 

 

 

――――――☆――――――

 その日の晩、俺は食堂で食後のまったりタイムを楽しんでいた。

 さっきまで箒もセシリアもいたんだが箒は精神統一、セシリアは診察ということで既にこの場にいない。

 俺はまったりしながらラウラの専用機であるシュヴァルツェア・レーゲンのことを調べていた―――すると突然、目の前が真っ暗になるとともに目の辺りに柔らかな感触と温もりが現れる。

 こういう時はこの後、「だ~れだ」と言うべきなんだが何もない。

 

(……多分)

「シャルロットか?」

「せいか~い」

 

 笑みを浮かべながらシャルロットが俺の前の席に座る。

 その手には先程入れたばかりの紅茶があった。

 

「ラウラのIS、調べてるの?」

「まあな。あいつは確実に決勝に上がってくる……だからそれまでに調べておかないと」

「そうだね……オルコットさんの分も勝たなくちゃね」

 

 代表候補生で専用機持ちでありながら自分の実力を知らしめることが出来ない今の状況は彼女にとっては許し難い状況だろう。

 だからせめて俺がラウラをブッ飛ばして想いを晴らさないと。

 

「シャルロットはどうしたんだ?」

「僕は……一夏の姿が見えたから来ちゃった」

 

 相変わらずシャルロットは胸きゅんポイントを抑えている。あの一件以来、手を触れるなどのスキンシップは鳴りを潜めたが相変わらず言葉は絶妙に突いてくる。

 

「なあ、シャルロット」

「ん? どうしたの?」

「あの時、セシリアの弾頭弾を止めたラウラのあれって」

「あれはAIC。正式名称はアクティブ・イナーシャル・キャンセラー。PICは分かる?」

「えっと……パ、パッシブ・イナーシャル・キャンセラー、だよな? 加速と浮遊で使うやつ」

「うん、正解。それを発展させたもの。ドイツが誇る第三世代兵器だよ。動きを完全に止めちゃうんだ。特に実体のある物には効果絶大だよ」

 

 だからセシリアの弾頭弾は止められた。恐らくあの兵器は人間の動きも完全に止められるんだろう。

 あれに捕まったら最後、ワイヤーブレードで切り裂かれ、レールカノンの一撃を喰らう未来は確実。

 それにラウラはAICだけに頼りきりの戦術はとっていない。

 

「1対1の戦いじゃチートみたいなもんだな……まずはあれをどうにかしないと」

「でもそれは向こうも予測済み。軍隊で鍛え上げられた実力は確かだよ」

 

 であれば俺が勝つ方法はAICに捕まらないように高速戦闘を継続してラウラにダメージを与えるか、零落白夜で一気にケリをつけるか。

 ただあいつがじゃじゃ馬である以上、零落白夜に頼ることはできない。

 

「あいつがどんなに強くても……俺には負けられない理由があるんだ。絶対に勝つ」

 

 セシリアの想いもそうだが俺は千冬姉と約束した。

 あの人と約束した以上、俺はそれを破るつもりはない。

 そんなことを考えていると彼女の手が俺の手に触れる―――どうやら俺の手にかなり力が入っていたみたいでそれを優しく解してくれる。

 

「力が入るのは良いこと……でも入り過ぎると体が硬くなっちゃうよ」

「お、おう……ありがとな」

「うん……明日、頑張ってね。一夏」

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