Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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細かくアクセス数を見ていると更新した後の時間帯は10人以上をキープしていることが多くなりつつあります。
じわじわ来てるのかな?


第三十四話

 学年別トーナメント2日目の朝、上位リーグが始まるということもあって第1アリーナの観客席には同じ1年生の女子たちが集まっていた。

 ただ上級生が集まる第2、第3アリーナは立ち見客が出るほどの客足らしい。

 俺は今、第1アリーナのフィールドで箒と対峙している。

 こうして試合の土俵で対峙するのは小学校の時の剣道の試合以来だ。

 

「待ち侘びたぞ、一夏」

「あぁ、俺もだ。久しぶりに箒と戦えてうれしい」

 

 試合開始を告げるブザーが鳴り響き、箒の手元に近接ブレード《葵》が現れ、俺は拳を握りしめる。

 

「では……参る!」

 

 ブレードの素早い突きをかわす―――一撃で終わることはなく、素早い突きが何度も連続で繰り出され、体勢を変えながら繰り出される攻撃を避けていく。

 

「でぇい!」

 

 気合のこもった突きをブレードの側面に手の平を滑らせるようにして攻撃軌道をずらし、彼女との距離を詰め、右手の拳を彼女の腹部へ繰り出す―――が、膝で受け止められ、鈍い音が響く。

 俺はスラスターを吹かし、上空へと離脱するとそれを追いかけるように彼女も上がってくる。

 

「逃がしはしない!」

「俺の速さについてこれるか!? 箒!」

 

 スラスターを全開に吹かし、振り下ろしの斬撃を回避すると彼女の周囲を縦横無尽に駆け回る。

 箒は俺の姿を追いきれないのか周囲を見渡していたがそれを止め、気配を察知するかのように目を閉じ、ブレードを握りしめる。

 

(間合いに飛び込めば斬られるのは確か……でも箒の剣術に勝つには間合いに飛び込むしかない!)

 

 スラスターの推進力を最大限に活用しながら縦横無尽に駆け回る―――そして、バリアを蹴って方向転換し、一気に彼女目がけて突っ込んでいく。

 だがそれを捉えていた箒が目をカッと強く開き、俺めがけて寸分のずれなく突きを繰り出す。

 体をねじり、突きを回避しようとするが体に圧し掛かるGに対処できず、ねじ切れずに箒の突きを肩部装甲に貰ってしまう。

 

「もう一度だ!」

 

 再びスラスターを吹かし、その場から離脱すると縦横無尽に動く―――と見せかけて一気に方向転換し、彼女の背後から飛びかかる。

 

(これなら!)

「甘い!」

「っっ!」

 

 振り向きざまにブレードが繰り出され、俺は瞬時にスラスターを上方向へと吹かして急降下することで一撃を回避する―――しかし、余りの急な転換と勢いが強すぎたためにフィールドを砂埃を巻きあげながら滑り、壁から少し離れたところで止まる。

 

(見切られた……やっぱり直線的すぎるんだ、俺の移動は)

「はぁぁぁっ!」

 

 動きを止めた俺に向かって畳みかけるために箒が瞬時加速を使い、瞬間的に距離を詰めてくる―――反省点はいくらでも上がるが今は目の前のことに集中する。

 いつの間に修得したのかと驚きながらも俺はある瞬間を待っている。

 

(箒……瞬時加速に関しちゃ俺の方が分があるぜ!)

「はぁぁぁぁっ!」

 

 次の瞬間、瞬時加速を終え、姿を現した箒が咆哮をあげながらブレードを勢い良く振り下ろす―――待っていたと言わんばかりに箒の手首をつかみ、受け流しの要領で彼女を後方へと投げる。

 瞬時加速をしながらの攻撃は圧がかかり過ぎて慣れていないとできず、高速で流れていく景色から間合いの把握の仕方も変わってくる。

 だから絶対に攻撃の瞬間は加速が終わり、姿を現す。

 

「この程度でっっ」

 

 箒が振り返った時にはもう至近距離に俺の飛び蹴りの様子が視界いっぱいに広がっていただろう―――物理シールドを目の前に移動させようとするがもう遅い。

 

(瞬時加速!)

「がはっ!」

 

 物理シールドが目の前に来るよりも早く瞬時加速による瞬間的な加速を行い、その加速のまま箒の腹部に蹴りを突き刺し、同時にスラスターの勢いも足し合わせ、バリアに叩き付けた。

 その瞬間、試合終了を告げるブザーが鳴り響く。

 

「隠し札のつもりだったんだがな……お前の前で瞬時加速は悪手だったか」

「箒のあの見切りも流石だな。まさか奇襲が見切られるとは思わなかった」

「これでも私も放課後に鍛錬をしているのだ……お前の隣に立つために」

「え?」

「な、なんでもない!」

 

 箒は顔を赤くしながらビットへと戻っていった。

 

 

――――☆――――――

 上位リーグ第一試合が終わり、第二試合が目前に迫っている中、更衣室で鈴はベンチに座っていた。

 

「……大丈夫……大丈夫よ」

 

 必死に自分に言い聞かせるが手の震えは止まらず、鼓動も早くなっており、心なしか呼吸も試合時間が近づくにつれてし辛くなっている。

 その原因は既に分かっていた。

 

「……違う。ラウラのISはあいつじゃない」

 

 ラウラの黒いISを見ると彼女の脳裏でクラス対抗戦で乱入してきた謎のISの姿がフラッシュバックし、何度も殺意を持って叩き付けられたあのシーンを思い出す。

 何度も全身に伝わる激痛、そして殺す意思しかない拳、感情が全く見えない機械の顔が鈴の全てを恐怖で支配していた。

 そしてラウラの黒いIS、感情が見えないあの冷たい顔、セシリアを殺意を持って何度も叩き付けたあのシーンがまさにあの時の光景と完全に一致していた。

 一夏には黙っているが時折、あの光景が夢に出てくるときがある。

 

「あたしは鳳鈴音……こんなところで負けられないのよ」

 

 震える手をロッカーに強く叩きつけ、鈴はビットの入口へと向かった。

――――――☆――――――

 

「大丈夫かな、鳳さん」

「大丈夫……だと思いたい」

 

 観客席からは鈴の表情は見えないが雰囲気だけで見ればいつもの彼女と何ら変わらない。

 そして試合開始のブザーが鳴り響き、まず動いたのはラウラ―――手首からプラズマ手刀を展開し、鈴へと向かって一直線に進んでいく。

 遅れて鈴も青龍刀を展開し、連結させて突き進んでいく。

 二人の得物がぶつかり合った直後、ワイヤーブレードが二本射出され、鈴の背後から襲い掛かる―――察知した鈴が離脱し、ワイヤーブレードによる斬撃を回避するがワイヤーブレードは鈴をまっすぐ追いかける。

 

「あのワイヤーブレードにはある程度の追尾システムがあるみたいだね」

「叩き落すか大元を叩かない限りひたすら追いかけられますわ」

 

 鈴はフィールドの形状に習うように縦横無尽に動き回りながらワイヤーブレードの攻撃を裁いていく。

 でも不思議なことにラウラの周囲をぐるぐると回っているだけで距離を詰める気配が見て取れない。

 

「鈴のやつ、距離を縮めようとしないのか?」

「攻めあぐねているのでしょう。彼女のISにはAICがありますから」

 

 箒とセシリアはそう分析するが俺はそう思わなかった。

 鈴の今の動きはまるでラウラに近寄りたくないと言っているように感じる―――鈴の動きを見て俺の中で嫌な予感がドンドン増していく。

 

「やつが動きだしたぞ!」

 

 痺れを切らしたのかラウラが動き出し、鈴との距離を一気に詰めて腕を振り上げ、プラズマ手刀を鈴に突き刺そうとした瞬間―――予感が確信に変わった。

 

「っっ! 鈴!」

 

 突然、鈴が青龍刀を手放し、顔を隠すかのように手を動かす―――ラウラも突然の奇妙な動きに思わず攻撃の手を止め、少し距離を開ける。

 観客席も同様の雰囲気で少しざわついている。

 

「僕先生に伝えてくるよ!」

「あぁ頼む!」

 

 シャルロットは観客席を立ち、先生のもとへと走っていく。

 箒もセシリアも二重の意味で戸惑いを隠せないでいた。

 そんな俺の心配をよそに試合は無慈悲にも進んでいく―――鈴は気を取り直し、青龍刀を展開してラウラへと向かっていくがラウラが腕を上げる。

 直後、鈴の動きが止まる―――レールカノンが鈴へと向き、火を噴く。

 

「鈴!」

 

 レールカノンによる実弾砲撃が直撃し、爆炎に包まれながら鈴はフィールドへと落ちていき、それを追いかけるようにラウラも急降下する。

 フィールドに降り立ち、鈴が動きを見せようとした途端、ラウラが再び腕を振り上げる。

 ピタッと鈴の動きが止まり、ラウラの拳が鈴の腕部装甲を叩き潰し、ワイヤーブレードの斬撃によって肩部の衝撃砲が切断され、爆発を上げる。

 そこからは一方的な暴力だった。

 ワイヤーブレードで鈴の首を締めあげ、殴り続けることで装甲を破壊し、少しでも鈴が動こうものならば腕を振り上げて鈴を止める。

 

「止めろラウラ! もう勝負はついてるだろうが!」

 

 周りの奇異な視線などお構いなしにバリアを殴りつけ、ラウラに向かって叫ぶがこちらからの声は聞こえない―――しかし、偶然か否かラウラがこちらの方を向く。

 

「っっ!」

 

 その時、俺には見えた。

 感情など感じず、冷たさだけがあった彼女の表情に感情が現れ、愉悦を感じている笑みを浮かべているのが。

 それは今まで俺達の前にいたラウラ・ボーデヴィッヒではない何かの様なものに感じ、俺の背筋を冷たい何かが迸る。

 ラウラであってラウラではないものが今、俺の目の前にいた。

 

「止めろ」

 

 俺に見せつけるようにラウラは一方的に鈴に攻撃を加える。

 やがて鈴は力なくフィールドにへたり込んでしまう―――動く敵は全て抹殺と言わんばかりにラウラはへたり込んでいる鈴に向けて腕を上げる。

 鈴は限界を迎え、頭を抱えて縮こまってしまう。そんな鈴にラウラはレールカノンを向ける。

 

『助けて……一夏っ、助けて』

「止めろぉぉぉぉぉ!」

 

 白式を展開し、あの時のようにバリアを破壊しようとした瞬間、ブザーが鳴り響くと同時に観客席を護っていたバリアが解除される。

 

『搭乗者バイタル不調により本戦はラウラ・ボーデヴィッヒの不戦勝とする』

 

 千冬姉のアナウンスがアリーナ全体に響き渡ると周囲はざわつき始めるが俺はそれを無視して観客席から飛び出し、すぐさま鈴のもとへと駆け寄る。

 興覚めと言わんばかりにラウラが冷めた目を向けてくるがそんなものは後回しだ。

 

「鈴! 鈴! しっかりしろ!」

「はっ……ぁーっ……ゅっ」

 

 鈴を抱き上げると目から涙が零れ、明らかに危険な呼吸の乱れ方をしている―――それでも目線で俺を捉えると俺に抱き付いてくる。

 大丈夫だ、と言葉をかける代わりに俺は鈴を強く抱きしめ、頭を撫でる。

 観客席のバリアは再展開され、モードが切り替わって不可視の状態になっているおかげもあって今の俺達の状況は観客席側には見えていない。

 まだ呼吸は浅いけど少しずつ落ち着きを取り戻していくのを感じてきたとき、ラウラの方を見るが俺はその姿に違和感を感じる。

 

「……お前、誰だ」

 

 その表情には明らかに感情があり、全く感情を感じさせなかったラウラとは違う顔だ。でも姿かたちはラウラ・ボーデヴィッヒそのもの。

 

「私か? 私は私だ。ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

「いつもならオープン・チャネルでしか話さねえのにか?」

「そうだな。強いて言えば私は裏だ」

「裏?」

「貴様にも普段、周りに見せない物もあるだろう。それだ」

 

 担架を持った先生たちが駆け付けたのが見え、俺は鈴を先生たちに預ける。

 その時、まるで彼女の意思から離れているかのように右手が動き、ラウラ自身の首を締めようとするが左手が右手を掴み、それを阻止すると押さえつける。

 

「何してんだ、お前」

「あぁ、気にするな」

 

 抑えられた右手は抵抗するようにジタバタと暴れ回る。

 傍から見れば自分で自分の首を締めようとしている光景だけど目の前で見ている俺には別の何かで動いた右腕が首を締めようとした、光景にしか見えない。

 

「織斑一夏。今ここで始めるか? 私は構わんぞ」

「……」

「感じるぞ、お前の私に対する怒り。それをぶつけろ。それすらも私は凌駕し、最強として君臨し、私は私の居場所を作る」

「……居場所を?」

「さあ! 戦え!」

「おい」

「「っっ!」」

 

 突然聞こえた殺意のこもった冷たい声に俺とラウラは思わず体をビクつかせ、同じ方向を向く。

 そこには怒りを通り越して殺意を露わにしている千冬姉の姿がそこにはあり、余りの恐怖に俺もラウラも手を震わせる。

 

「誰が戦闘を許可した、ボーデヴィッヒ」

「きょ、教官」

「"お前”に用はない。消えろ」

「で、ですが教官」

「聞こえないのか……消えろ」

 

 もう一度、千冬姉がそう言うと悔しそうに唇の端を噛んだかと思えばすっとラウラの表情から色が消え、見慣れた冷たい表情が現れる。

 

「……申し訳ありません」

「部屋に戻れ、ラウラ」

「……はい」

 

 一言、そう言うとラウラはどこかへと去っていく。

 

「織斑、次の本戦は一時延期だ」

「は、はい」

「その間にやることをやってこい」

 

 千冬姉に言われた俺はすぐさま鈴のもとへと向かった。

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