Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第三十五話

 鈴が運ばれた保健室で俺は彼女の隣で目覚めるのを待っていた。

 あの試合での鈴の様子から見て取れたのは一種のトラウマ―――思い当たる節はクラス対抗戦で乱入してきた謎のIS。

 黒くて感情が見えなくて殺意しかない攻撃。ラウラのそれらと重なったんだろう。

 鈴にトラウマを刻んでしまったのはあの時、俺が守ることが出来なかったから。

 

「ごめん……鈴」

「なんで謝ってんのよ」

「り、鈴!?」

 

 顔をあげるといつの間にか目を覚ましていた鈴と目が合う。

 鈴はどっきり成功と言わんばかりの笑みを浮かべると体を起こし、俺に向き合う。

 

「謝るのはあたしのほう……ごめん、あたしがあんたを呼んだから」

「何言ってんだよ……大丈夫か?」

「……まだちょっとかかるかも」

 

 言葉数少なくとも思いが伝わるのは幼馴染の良いところだ。

 一度、刻まれたトラウマを克服するには多大な時間と強い気持ちが必要になる。もちろんその治療に俺も協力するし、今の俺に出来ることはただ一つ。

 

「鈴。次の試合、見ててくれ」

「え?」

「俺がお前の分もラウラをブッ飛ばしてくる」

「……うん、待ってる」

 

 

 ――――――☆――――――

 1時間ほど、鈴と一緒に保健室で話し、保健室から出ると廊下に千冬姉が立っていて俺を手で呼びつける。

 それに従ってついていくと誰も居ない静かな一室に入れられる。

 

「次の学年別トーナメント……お前とラウラの一騎打ちだ」

「え? シャルロットは」

「デュノアは先程、辞退の旨を申し出てきた」

 

 恐らく、というか確実に俺のことを考えての事だろう。シャルロットにも代表候補生としての立場があるのにその選択を取ってくれたことに感謝しかできない。

 俺は一つの疑問を千冬姉にぶつける。

 

「あいつは……ラウラは二重人格なの?」

「……生徒の個人情報を漏らす教師がどこに居る」

「そうだよな……ごめん」

「私の独り言だが」

 

 千冬姉は唐突に話し始める―――俺はそれを遮らず、黙って聞く。

 

「ラウラは軍において優秀な成績を残し、最強の座にあった……だがISが出てから一変した。とある理由からやつは落ちこぼれへと転落したんだ。軍ではやつに対して心無い言葉や暴力すらもあったと聞く。そんなときに私がドイツ軍の教官として赴任した」

(ドイツに赴任? 今ボソッと俺が知らない話が出てきたぞ)

「私の教えのもと、やつは別人のように生まれ変わった……そしてISを使い、今までの恨みを晴らすかのように他の隊員に対して訓練という名の殺戮を始めた」

「……」

「その頃からだ。やつがいついかなる時も感情を縛り付けて生きるようになったのは……気を抜けば殺戮を楽しむ心が出てくるからな」

 

 つまりあのラウラもラウラであり、一部だという事。

 人間は感情を一つだけ抑えることなんてできない。だからラウラは感情全てを、心そのものを縛り付けて奥底に沈めることで殺戮を楽しむ自分を押し殺しているんだ。

 少しでも気を緩めれば殺戮を楽しむ自分が現れてしまうから。

 あいつは怖いんだ―――殺戮をする自分が。

 

「ラウラをIS学園に呼んだのは私だ。奴にとってお前が良い存在になると思ってな」

「お、俺が?」

「トーナメントは1時間後に決勝戦だ。その間に準備をしておけ」

 

 戸惑う俺を置いて千冬姉は一足先に部屋を出ていく。

 

『私は私の居場所を作る』

 

 あいつは確かにそう言った。

 過去、あいつは軍で居場所を失った―――そして力で居場所を作った。多分そういうやり方しか知らない。

 だから相手を徹底的に痛めつけ、絶対的な勝利を収めるまで攻撃を止めない。

 あいつにもいろんな過去があることは理解したけどそれでこれまでの行為を許すつもりはないし、ブッ飛ばすという気持ちに変わりはない。

 あいつがそんな方法しか知らないんだったら同じ方法でまずは俺がブッ飛ばす。その後に教えてやろう。

 

「力なんてなくても居場所は作れるんだ」

 

 

――――☆――――――

 突然の1時間延長を受けてようやく開始される学年別トーナメント決勝戦。どうやら延長措置を取ったのは俺たち1年生だけの様で既に上級生のトーナメントは終了しているらしい。

 だからなのか観客席には上級生も見に来ているし、来賓も多数参加している。なお、入りきらなかった観客のために大型モニターで生中継するらしい。

 試合開始を目前に控えた俺は第1アリーナAビットで開始時刻を待っていた。

 

「遂にこの時が来ましたね、織斑君」

「はい……」

「私のクラスからトーナメント決勝戦に出る生徒が出てくれて嬉しいです」

「山田先生の指導の賜物ですよ」

「あ~、そうやって女性を褒めることで堕とすんですね~。流石は学年の女性キラー」

 

 そんなあだ名で呼ばれているのかとツッコミを入れようとした時、後ろから千冬姉の咳払いが聞こえ、二人して肩をビクつかせて前を向く。

 気配を悟らせない辺り暗殺者にでもなるつもりなんだろうか。

 

「織斑、白式を展開しろ」

「はい……来い」

 

 俺の言葉に呼応するように一瞬にして白式が展開され、全身を覆う―――その時、一瞬だけ手の平から光の粒子が出ているのが見えた。

 しかし、その粒子はすぐに消え去る。

 

(……)

 

 その粒子には見覚えがあった―――あのじゃじゃ馬を呼び出す際に発する粒子と同じ。あいつが何を俺に訴えかけているのかは分からないけれどあいつもこの試合に何かをかけているのかもしれない。

 俺は拳を強く握りしめる。

 

「では織斑君、準備はよろしいですか?」

「いつでも」

 

 ふと千冬姉の方を見ると目が合う―――そう言えばあの喧嘩依頼、出発するときに千冬姉に言っていなかったことを思い出す。

 

「いってきます」

 

 白式のセンサーがなくとも俺には見えた―――千冬姉が俺の言葉に小さく笑みを浮かべてくれ事を。

 ゲートが開き、俺は解放された入口を通過すると目の前にシュヴァルツェア・レーゲンを纏うラウラの姿が見えるとともに白式から情報が送られてくる。

 最も注意しなければいけないのはAIC。あれに捕まれば1対1である以上、確実に負ける。

 

「待たせたな、ラウラ」

「……」

 

 あの時の記憶があるのか、ラウラは俺の問いかけに何も応じない―――これまで以上に心を縛り付けているのか俺と目が合っているにも拘らず、どこを見ているのか分からない。

 感情を全て押さえ、心を全て影に落としこんでいる状態。

 

『ラウラ……全力で来い!』

『……』

 

 オープン・チャネルで話し掛けてもなお、彼女からの返答はない。

 

『それではただいまより1年生の部、学年別トーナメント決勝戦を開始します!』

 

 試合開始のアナウンスが響いた直後、レールカノンが起動し、実弾砲撃が俺に火を噴く―――すぐさまその場から離脱するも二本のワイヤーブレードとプラズマ手刀を展開したラウラが迫ってくる。

 プラズマ手刀による横薙ぎの一閃を体を後ろへと倒して回避するが真上から二本のワイヤーブレードが迫っているのが見え、スラスターを吹かしてその場で後方へ宙返りで回避。

 

「そんなもんじゃ終わらないよな!」

 

 宙返りの直後を狙ってプラズマ手刀による突きが俺に迫る―――相手の手の平へ膝蹴りをあて、軌道を逸らしながら拳を振り抜く。

 しかし、右手がこちらに向いているのに気付き、スラスター全開で急降下するとAICが起動する。

 フィールドに降り立った俺めがけて倍増した4本のワイヤーブレードが迫り、フィールドを滑りながら4連撃の斬撃を回避していく。

 2本がカーブを描きながら左右から、残り2本は上下からと空間を制圧するような動きで迫る。

 俺が取るべき選択はただ一つ。

 

(瞬時加速!)

 

 スラスターによる加速と瞬時加速による爆発的な超加速を組み合わせ、一気に間合いへと詰め寄る―――一度見た技は効かないと言わんばかりにラウラは右手を翳す。

 

(そうだよな!)

 

 その場で急停止し、瞬時加速を解除すると同時にAICの範囲をすり抜けるように回転回避(スピンシフト)を行い、弧を描くようにしてAICの範囲から離脱し、側面からラウラに迫る。

 ワイヤーブレードをリアアーマーから射出するが俺の方が早い。

 

「ぐぅっ!?」

「うらぁっ!」

 

 回転回避の勢いのまま足蹴りを彼女の脇腹へと突き刺した瞬間、ミシッ! というひびが入る音とともにラウラの体勢が大きく崩れる。

 射出されたワイヤーブレードも軌道がずれ、地面に突き刺さってしまう。

 よし、と心の中でガッツポーズをした瞬間、白式からアラートが送られると同時にフィールドの地面を突き破って1本のワイヤーブレードが現れ、白式の腕部装甲を斜めに切裂く。

 

(こいつ地面を通して!? アクシデントを一瞬で戦況に組み込んだのか!)

 

 白式から送られてくるダメージ状況は軽微な物。ただあれを何度も受ける訳にはいかない。塵も積もれば山となるようにこの傷が後半に響くことだってある。

 体勢を立て直したラウラは射出していたワイヤーブレードを呼び戻す―――そしてプラズマ手刀を右手にも展開する。

 

「ははっ……一本で良いから俺にも分けてくれよ」

 

 俺の冗談に一切反応を示すことなく土煙をあげながらラウラが迫ってくる―――左右上下、全ての方向からプラズマ手刀を振り抜き、白式を切り裂こうとする。

 俺も両手を使い、斬撃をいなしていく―――しゃがみ込みからの足払いを片足を上げて回避し、同時に蹴りを加えるが左手により防がれ、右手のプラズマ手刀が迫る。

 もう片方の足で飛び上がりながら手首を蹴り上げ、プラズマ手刀の軌道を変える。

 直後に上下左右から挟み込むようにワイヤーブレードが迫る。

 

(音も無く射出かよ!)

 

 スラスターを直角方向に起動し、吹かすと同時に前方への推進力を経て彼女の胸部へと片足蹴りを入れるが両手を交差されて防がれる―――しかし、後ろへと引きずることでワイヤーブレードを回避。

 右方向へと離脱し、一度距離を取る。

 

(流石は軍隊の隊長……一般人の俺の攻撃がほとんど入らないか)

 

 まともに当たったのは回転回避の際に蹴りのみ。ヒット数は同じではある物の試合内容だけで見ればラウラの方が圧倒的に有利だ。

 なんせ俺の攻撃を全て防いでくれているからな―――対して俺は繰り出す攻撃は全て防がれ、決定打を与えられずにじわじわと追い詰められていく。

 そんな不利な状況であるにもかかわらず俺は思わず笑みをこぼす。

 たった15年しか人生を生きていないが今、俺は最高に楽しい。千冬姉がひいてくれたレールの上じゃなくて自分で作ったレールの上を歩いている感覚が何よりも最高に良い。

 

『楽しいな、ラウラ』

『……』

『お前、あの時の自分が出てくるのが怖いんだろ?』

 

 ラウラは俺の質問に答えようとはしない―――あの時の自分を出すことが出来ればきっと、彼女の本物の部分に触れることが出来る筈。

 逆に言えば彼女の本物の部分を引きずり出せなかったら俺の負けだ。

 

『心を縛ったまま戦えるのは今だけだ……ここからが本番だ!』

 

 

 

――――――☆――――――

「織斑君……ボーデヴィッヒさんと渡り合えてますね」

 

 Aビットのモニターで観戦をしていた真耶は驚きを露わにするが対して千冬は腕を組んだままモニターに映し出される試合映像を見つめている。

 

(縛り付けているやつを引きずり出せないようでは勝ち目はないぞ、一夏)




感想をいただくとやはり自分では気づかなかった部分が多く気づかされます。
これからもよろしくお願いします。
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