Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第三十六話

 連続してレールカノンから実弾砲撃が放たれ、フィールドにいくつもの穴をあけていく。

 現状、俺に決め手はなくひたすら相手の攻撃を回避しながら小手先の攻撃を仕掛けているだけ。

 対して相手はAICという切り札を温存しながら近・中・遠距離の三つの戦闘領域を組み合わせながらじわじわと俺を追い詰めてくる。

 

「っと!」

 

 飛び込んできたラウラのプラズマ手刀を飛び退いて回避した瞬間、6本ものワイヤーブレードが俺に襲い掛かってくる。制圧型ではなく今度はタイミングをずらして仕掛けてくる。

 一本を拳で叩き落とし、もう一本を回し蹴りで軌道を変えるが残りの四本が見当たらない。

 

「くそっ!」

 

 残りを見つける前にラウラが突撃してきたので距離を取るために後方へ大きく飛び退いた瞬間、白式からアラート通知が表示され、上を向く。

 直後、俺の胸部に4本のブレードが突き刺さり、そのまま押し込まれてフィールドに叩き付けられる。

 

「かはっ……」

 

 叩き付けられた衝撃で肺から空気が漏れる。

 今ので3割もエネルギーを持っていかれてしまい、遂に俺が圧倒的不利に陥った。

 前方にラウラが降り立ち、止めを刺すためにかゆっくりとこちらの方へ向かってくる―――既に俺の動きは彼女に見切られているだろう。

 小手先の攻撃も効かないのは目に見えている。ならば彼女に一番効果的なものは意外性で攻めること。

 それこそこの場で初めてするような一撃でしか相手にダメージを与えることはできない。しかし同時にその一撃で結果を出せなければ俺が負ける。

 

(やってやる! こいつに勝たなきゃ意味がないんだ!)

 

 手を前方にかざすと光の粒子が集まり、目の前に雪片弐型が形成されるが触れることなくゆっくりと地面に向かって落ちていく。

 ラウラは一瞬、動きを止めるがすぐさま動き出す―――それもそうだろう。武器を形成したかと思えば地面に落としていくんだから。

 ラウラは今までの俺の戦いも映像で見ているはず。だったらこの戦い方も知っているはず。

 でも――――――

 

(これは知らねえよな!)

「行けぇぇぇぇぇ!」

「―――っっ」

 

 大きく足を振り上げ、持ち手の部分とつま先がヒットした瞬間、瞬時加速を発動させ、直線的に足を振り抜くという行動に瞬間的な加速を与える。

 凄まじい速度で突き進んでいく雪片弐型―――しかし、造作もないと言わんばかりにラウラは右手を翳し、AICを起動して雪片弐型を効果範囲に収める。

 ただの剣ならばそれで動きを止められてお終い―――でもこいつはただの剣じゃない。俺が触れれば勝手に零落白夜が発動するじゃじゃ馬。

 つまり―――すべてのエネルギーを切り裂く刃。

 

「っっ!?」

 

 ラウラが発動したAICは空間にエネルギーをかけて形成する特殊な広域兵器。つまりエネルギー自体を切り裂ける攻撃ならば突破が可能。

 一瞬にして光り輝く刃がAICの効果範囲を切り裂き、彼女の右腕部装甲に突き刺さると同時に小さな爆発が起きる。

 彼女は瞬時に体を半身後ろへともっていき、衝撃を逃がすことで雪片弐型を後ろへ逃がす。

 そして、彼女の視界を俺から外した。

 

「っっ」

 

 恐らく振り向きざまの彼女の視界に俺の拳が映りこんだことだろう―――瞬時加速の勢いを乗せた拳が盾代わりに交差した腕に突き刺さり、ミシミシッ! という嫌な音が俺の耳に木霊する。

 

「だぁぁぁぁっ!」

 

 咆哮と共に腕を振り抜いた瞬間、ラウラの腕部装甲が一瞬で粉々に砕け散るとともに彼女が後方へと大きく吹き飛ばされ、フィールドを数回バウンドして壁に衝突し、砂埃に隠れた。

 ど派手な一撃に観客席からはどよめきと大歓声が巻き上がる。

 今ので腕部装甲は破壊したし、壁にも叩き付けたことによる一撃も入れられた。俺のエネルギーとラウラのエネルギーは同じくらいなはず。

 

「っっ!」

 

 砂埃から黒いレールカノンが姿を覗かせ、一瞬回避体勢を取るがすぐさま銃口は上へと向けられ、何度も連続で実弾砲撃が行われる。

 それはまるで祝砲のような勢いで放たれ、ある程度の高さまで上がると地上にゆっくりと落ちていき、そこかしこで着弾して爆発を上げる。

 だがどれも俺にはあた――――――

 

「っっ!?」

 

 突然、目の前に黒い何かが現れると同時におでこの辺りに凄まじい衝撃が響くとともにミシミシッという音が俺の耳に入りながら体が後ろへと持っていかれる。

 何が起きているのか分からない俺の耳に声が入る。

 

「待たせたな、織斑一夏」

「うぁぁっ!」

 

 目の前にいるのが殺戮を楽しむラウラだと気付いた瞬間、殴り飛ばされた俺は後方へすさまじい勢いで飛んでいき、観客席のバリアに背中から叩き付けられ、地面に落ちる。

 地面に膝をついた瞬間、ポタポタと赤い液体が数滴、滴り落ちるのを感じ、元をたどっていくと傷が開いたようでおでこから多量の血が流れ落ちている。

 

「さあ、戦うぞ! 私が最強だ!」

 

 瞬時加速により目の前から消えた瞬間、上空へと上がると同時にプラズマ手刀が叩き付けられ、爆音とともに砂埃が立ち込める。

 その砂埃を振り払うように殺戮に愉悦を抱き、笑みを浮かべるラウラが現れる。

 

「ハハハハハハハッ!」

「くっ!」

 

 スラスターを小刻みに吹かしながら二本のプラズマ手刀による斬撃を避け、避けきれないものは手でいなしていくが先程とは比べ物にならないくらいに早く、首や心臓部と言った急所を斬りつけてくる。

 プラズマ手刀を振り回すラウラの表情は笑顔で溢れており、その奥には黒い何かが見える。

 

「ぐっ!」

 

 いなし切れなかった斬撃が肩部の装甲を斬り飛ばし、腹部に蹴りを入れられる―――その勢いで後ろへと下がるもそれを追いかけんとワイヤーブレードが一気に六本、追いかけてくる。

 スラスターを吹かし、高速移動でその場から離脱する―――しかし、トンッと何かにあたったような感触が背中に襲い掛かり、肩にラウラの手が見えた。

 

「お、お前っ」

「ハハッ、切れろ」

 

 乾いた笑みと共に6連撃の斬撃が俺の全身の装甲を切り裂く―――しかし、俺の背後にいたラウラにもワイヤーブレードによる斬撃が入る。

 しかし、ラウラは気にも留めずにその斬撃を受け入れると落ちていく俺を見下ろす。

 

(こいつっ……強さの次元が違うっ)

 

 これが軍隊の最強の座に君臨する隊長の実力であると同時にラウラ本来の実力。

 今までは心を縛って戦っていたために強さもある程度は制限されていたけど全てを解放した彼女の強さは俺なんかを比較対象に出来ない。

 空中で体勢を立て直し、何とか地面に降り立つ―――しかし、視界がグニャリと綻ぶと同時に平衡感覚が徐々におかしくなり始める。

 先程から血を垂れ流しにしていたことで貧血でも起こしているんだろう。

 それでも試合を止めないのは千冬姉の配慮か、それともただの偶然か。

 

「その傷ではもう持つまい。諦めろ」

「はっ……諦めろだ? 冗談言うなよ」

 

 相変わらず視界はほころび、足に力は入りにくいがそれでもまだ白式にはエネルギーが残っているし、試合終了を告げるブザーはなっていない。

 傷から血を流そうが、貧血を起こそうがそれらが俺の限界を決めるものにはならない。

 

「ここからが本番なんだよ」

「本番? 血を流し、傷だらけの状態でか?」

「あぁそうだ……約束したからな」

「約束……」

「絶対に勝つ。勝って学年最強になるってな」

 

 そう言うとラウラは口角を上げる。

 

「貴様も最強を目指すか。なんのために」

「約束のため」

「なに?」

「俺にとっちゃ最強は約束を果たすための通過点なんだよ」

「最強が通過点だと? 最強の先に何がある」

 

 ラウラの考えている最強は全てを叩き潰すことで己の居場所を確立するもの。でも俺が目指す最強はあくまで約束を果たすための材料でしかない。

 セシリアの悔しい思いや鈴に活力を与えるキッカケ、そして千冬姉を安心させるための材料。

 

「今のお前には分からねえよ……力でしか居場所を作れないって思っているようじゃな」

「力以外に何で居場所を作る。力こそ己を示す絶対的な指標だ」

「違うな……俺の周りに集まってくれる人はそんなちんけな指標だけを頼りに集まってくれたんじゃない」

「では何を指標に貴様の周りに集まる」

 

 ラウラの問いに俺は自分の胸を指で指し示す。

 

「想いだ。みんなが俺のことを想ってくれてるんだ。だからみんなが来てくれるんだ! だから俺は最強を目指すんだ! 俺のことを想って傍にいてくれる人がいるのに俺が弱いままじゃ示しつかねえだろ! みんなのためにも! 千冬姉のためにも! こんなところで止まる訳にはいかないんだ!」

 

 目の前に手を翳す。徐々に俺の手元に光の粒子が集まっていき、それらが形を成していく―――もし、誰かに限界を決められたのだとしたら俺はそれを打ち破ってみせる。

 俺の脳裏に柔らかな灰色の騎士の姿が写ると同時に千冬姉の姿が写る。

 確信した―――灰色の騎士は千冬姉なんだ。だから灰色の騎士は俺にこの剣を貸して俺が触れようものなら容赦なくエネルギーを消費して俺が負けるように導いてたんだ。

 千冬姉が俺からISを遠ざけて守ろうとしたように。

 

「ちょっとだけ……力を貸してくれ」

 

 光が形を成し、持ち手へと変わると俺はそれを握りしめる―――暴発することはなく、俺の手に収まるとともに剣の全容が明らかとなっていく。

 全てが現れた時、その剣の名を叫んだ。

 

「―――限界突破だ。雪片弐型」

 

 手に収まる剣は世界最強を勝ち取りし剣。俺もこの世界最強の剣に相応しい強さを手に入れてみせる。

 

「貴様、何の真似だ」

「ラウラ……ここから一瞬たりとも」

「消えっっ」

 

 全ての音を置き去りにして俺はラウラの間合いへと飛び込み、雪片弐型を振りかざす。

 

「気を抜くんじゃねえぞ!」

 

 振りかざした一撃は横に飛びのかれたことでラウラに直撃することはなく、肩部の大型レールカノンを接合部分から気持ちいいくらいに綺麗に切裂き、地面にゴトッと音を立てて落ちる。

 肩部で迸る火花を見ながらラウラの表情が先程とは一変する。

 

「その剣は……教官の剣!」

「違うな! 俺が受け継いだ弐代目だ!」

 

 スラスターを吹かし、間合いを詰める俺めがけてワイヤーブレードが射出され、様々な方向から俺に向かって迫ってくる。

 立ち止まり、まずは一本を切り裂いて叩き落す。二本目は足元を切り払ってきたので片足を上げて避け、刃部分を踏みつぶした。

 2本が左右から迫ってくるのが見え、俺はその場で回転し、同時に2本を叩き落とす。

 

「今度はこっちの番だ!」

 

 スラスターを全開に吹かし、様々な方向から斬撃を振り下ろしていく―――プラズマ手刀で受け止められるたびに火花が散る。

 逆袈裟払いでラウラのプラズマ手刀を弾き飛ばし、隙だらけの腹部へ蹴りを入れるがその勢いを利用され、後方へ大きく距離を取られた。

 追いかけようとした時、グラッと視界が歪み、体勢を崩してしまい、剣を杖代わりにしてバランスを保つ。

 

「くっ……視界がっ」

「残念だがお前はここまでだ…血を流し過ぎて視界も満足に見えまい」

 

 確かにあいつの言うように貧血はどんどんひどくなる一方だし、視界はグラグラ、挙句の果てに吐き気に近い感覚まで出てくる始末だ。

 でも不思議と背中から熱を感じているおかげで意識を何とか保てている。

 恐らく背部のスラスターが原因なんだろうけど背中にある以上、ハッキリと見ることが出来ない。

 

(白式……まだ俺に力を貸してくれるっていうのか)

 

 白式に問いかけるように念じると目の前にいくつものウィンドウが現れ、何かのデータ処理が始まる。

 それはどうやら新しいものなのかダウンロードが完了するとインストールが始まるが白式も戸惑っているのかインストールがなかなか終わらない。

 

「戦場で先に死ぬのは誰か知っているか?」

「……さあ……ふぅっ、誰だろうな」

「貴様のように傷を負い、動けず、死の覚悟すらもてない軟弱者だ!」

 

 残りのワイヤーブレードが2本、俺に向かって射出され、左右を挟むように向かってくる。

 腕をあげようにも力が入らず、体が重りのように感じ、剣を振るえない。

 

(終われないんだよ……セシリアと鈴の想いを晴らすまでは……千冬姉との約束を果たすまでは)

 

 だが無情にも腕は限界を迎え、握っていた雪片弐型を手放してしまう。

 

(剣を落とそうがなんだ……俺にはまだ拳がある! 負けてたまるか……限界なんて超えてやる!)

 

 

 

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