Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第三十七話

 ――――――Aビット内において

「これは……織斑先生っ!」

 

 真耶に呼ばれた千冬は彼女が指差す画面をのぞき込むとそこには白式のステータスが表示されているが背部スラスターにエネルギーが凝縮しているのが見て取れた。

 背部スラスターにここまでのエネルギーを集約する機能は存在しない―――通常の目的で搭載されたスラスターであれば。

 

単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)とは違う……白式に拡張領域(バススロット)はないはず……篝火ヒカルノのやつ、まさか基礎機能ソフトウェアとしてねじ込んだのか」

「確かに基礎機能ソフトウェアであれば拡張領域に関係なく入れることはできます……ですがそんなこと」

「……早急に問いただす必要があるな」

 

 

――――――☆――――――

 

 観客席においてモリを持ち、白衣の下にISスーツ、そして半渇きとなった癖毛の髪を手櫛で整える女性―――篝火ヒカルノがニヤリと笑みを浮かべる。

 

「良いよ良いよ……私を普通であると証明してくれ、織斑一夏」

「見つけたぞ、篝火ヒカルノ」

 

 後ろから声をかけられ、振り返った先には腕を組み、不機嫌なオーラを纏う千冬の姿があった。

 ヒカルノはイタズラがバレた少女のように笑みを浮かべると立ち上がる。

 

「お前には聞きたいことが山ほどある」

「あらら……これは不機嫌だねぇ」

「貴様……白式に何を仕組んだ」

「何も。強いて言えば私を普通だと証明してくれるもの」

 

 篝火ヒカルノの言っていることを全て理解できない千冬は眉間にしわを寄せ、睨み付けるがヒカルノは何のそのどこ吹く風。

 

「余計な手出しはするな」

「手出しはしないよ。私は自分が普通だと証明したいだけ……だから私は彼に託した。特別な存在の彼が私の技術を使い、駆け上っていく。それこそが私を普通だとより強く示してくれるのだよ。特別な力なんていらない。努力が天才を突破する。それが私の最終目標なのさ」

「……」

「大丈夫。彼に酷いことはしないし、彼を傷つけるようなことはしない。これからも良好な関係を築きたいからね。彼に嫌われたら全てが台無しさ」

「……」

「これからもよろしく」

 

 篝火ヒカルノはそう言いながら千冬の横を通り抜け、ペタペタとサンダルを鳴らしながら出口へと向かった。

 

――――――☆――――――

 

 ザクッ、という刃物が地面に突き刺さる音が響き渡るほどにアリーナ内は静けさに包まれており、誰一人として歓声を上げることはない。

 ついさっきまでそこにいた存在が居ないことにラウラは驚きの様子をありありと示しながら周囲を見渡し、ようやく後方に居る俺へと視線を向ける。

 

「……貴様、なんだそれは」

 

 ラウラが言うのも無理はないだろう。両腕部装甲からバイクのマフラーのような推進力発生機構が現れており、両脚部装甲にも同じものが現れている。

 元々あるかのように装甲の下から生えているそれの使い方は白式から送られてくる情報で理解した。

 

「お前を倒す力……お前は俺の言葉を信じるか?」

 

 ゆっくりとラウラに向かって歩いていく―――直後、アリーナ内にギュゥゥオン! というバイクのエンジン音のような甲高い音が響く。

 

「なっ!?」

「はぁっ!」

「ぐっ!」

 

 ラウラの脇腹辺りに拳を振り抜いた瞬間、右腕部装甲の推進機構から炎が自然発火し、爆発的な推進力が生まれたことで凄まじい速度で拳が振り抜かれ、彼女の装甲を殴りながら吹き飛ばす。

 突然のことに戸惑いながらも彼女は体勢を立て直し、俺が"いた"方向を向く。

 

「い、いないっ!?」

「はぁっ!」

「ぐぁっ!」

 

 腹部に拳を突き刺すと同時に推進機構から炎が自然発火し、ラウラを上空へと殴りあげると同時に両足、そして背部のスラスターが吹き、俺の体が一気に上空へと上がる。

 しかし、俺の予想以上に上がってしまい、ラウラを大きく通り過ぎてしまう。

 慌てて方向を切り替え、ラウラのもとへと両腕部・両脚部・背部を全て吹かした瞬間、視界が消えると同時に顔面に凄まじい衝撃が走る。

 

「やばっ……地面に直撃だ」

 

 あまりの速さに俺も制御しきれず、地面に直撃して大穴を開けてしまう。

 

「その場で初めて使う力で私を倒せると思うな!」

 

 ワイヤーブレードが二本、射出される―――しかし、俺に到達するよりもエンジン音を吹かしながら俺がラウラの背後を取る方が圧倒的に早かった。

 

「なっ!?」

「でぁぁっ!」

 

 ラウラの背中に手刀を入れた瞬間、腕部の推進機構からの爆発的な推進力が加わり、背中の装甲を破壊しながら彼女を地面へと叩き付ける。

 彼女を追いかけるべくギュゥゥオン! とエンジン音を吹かしながら急降下する―――しかし、その行動を呼んでいたラウラはプラズマ手刀を俺が通るであろう位置へ突き刺す。

 

「なっ!?」

 

 予想位置に俺が来ず、驚きを露わにする彼女を置き去りにしながらフィールドを縦横無尽に駆け回る。

 観客もラウラも、そして俺自身もこの速度をとらえきれず、全く見当違いの場所を見続ける―――その間にも俺はフィールドの壁に直撃を数回繰り返す。

 

「だぁぁっ!」

「ぐぅ!?」

 

 爆発的な速度を維持したままラウラの腹部へと拳を突き刺し、腕部の推進機構の爆発的な勢いを利用して上空へと放り投げ、追撃として追いかけるが右手が翳される。

 俺はすぐさま右方向へ背部スラスターを吹かして範囲から離脱するとともに直角に曲がるように旋回し、彼女の背後を一瞬にして獲る。

 ラウラはそれすらも察知し、後ろを振り返る―――いつの間にか取れていた眼帯の下に隠れていた金色の左目と目が合う。

 一瞬にして彼女の別人格が現れた理由を理解したがそれはすぐに奥へと鎮める。

 ラウラは俺の動きを止めようと右手を後ろへと伸ばすが俺が拳を振り抜く方が圧倒的に早く、かつ腕部の推進機構を使えば一瞬で彼女の右腕を貫くだろう。

 

「終わりだぁぁぁ!」

 

 叫ぶとともに拳を振り抜き、腕部の推進機構を―――

 

「「え?」」

 

 俺とラウラの声が重なる―――彼女が起動したAICの効果範囲に俺の拳が捕えられていた。

 いや、それ以前に腕部の推進機構が機能しなくなり、理解できないでいると両腕部、そして両脚部の推進機構が装甲の下へと潜っていく。

 

(時間制限付き!?)

 

 初見の技を戦いで披露したツケが最悪のタイミングで露呈してしまった。

 ラウラは待っていたと言わんばかりに顔を歪め、しっかりと体勢整えると左手にプラズマ手刀を展開し、俺めがけて突き刺す準備をする。

 

「私の勝ちだ」

 

 勝利を確信したラウラは腕を突き出す―――だがまだ諦めていない俺は彼女の突きを無理やり体を捩って避けると脇で彼女の腕を抱え込み、拘束する。

 同時に両足を彼女の腰回りに巻き付け、密着する。

 

「ふんっ……何の真似かと思えば……私を拘束して地面にでも叩き付ける気か?」

 

 バカにしたような表情を浮かべ、俺を見下すラウラ。

 それもそうだろう。空中戦を基本としたISを空中で拘束したところでどうにかなるものではないし、空中から地面に叩き落すのは外部からの力が必要。

 

「そうだな」

「貴様はつくづく愚かだ。ISは浮遊しているのだぞ? この状態でどうやって地面に叩き付ける」

「だったらおまえにも教えてやるよ……ISは補助機能が無きゃただの鉄の塊だぜ?」

「……まさか貴様っ!?」

「遅ぇよ」

「ぐぉぉっ!?」

 

 直後、全ての白式の補助機能を無理やり解除し、凄まじい重みが俺にもラウラにも襲い掛かり、俺とラウラは地上目がけて落下を始める。

 ラウラは慌ててスラスターを全開に吹かすことで何とか浮遊状態を維持し続けようとする。

 

「ぐぅっ、おぉぉぉぉぉっ!」

 

 ラウラの咆哮に答えるかのようにシュヴァルツェア・レーゲンのスラスターが最大レベルにまで吹かされ、徐々に落下速度が遅くなっていき、やがては静止する。

 彼女はニヤリと笑みを浮かべるが同時に気付いた。

 

「ま、まさかこの状態でっ!」

「俺にもスラスターはあるんだぜ? 飛びっきりのがな」

「ぐぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

 背部スラスターを全開に吹かした瞬間、先程の重みの何倍以上もの重圧が俺とラウラに襲い掛かり、一気にフィールド目がけて急降下していく。

 ラウラは必死に抵抗を見せ、藻掻くがその程度で俺の拘束が解けることはないし、そもそもどんな抵抗をされたところで俺が離すことはない。

 それこそ地獄に突っ込むことになろうが俺は絶対に離さない。

 

「ふざけるなっ! ふざけるなふざけるな! 私が貴様程度に負けるなどあり得ない! 私は最強だ! 最強でなければいけないんだ! 最強でなければ」

 

 俺の視線がラウラの背後にあることに気付いた彼女も地表へと視線をやるとそこには先程、手放した雪片弐型が持ち手を上にしてフィールドに刺さっていた。

 直撃の衝撃で雪片弐型は粒子となるだろうが背中に剣の持ち手が刺さればただでは済まない。

 一度目の衝撃、そして剣が消えたことで地上に直撃するという二度目の衝撃で確実にラウラのエネルギーは尽きるだろう。

 

「貴様正気か!? 全ての補助を切っている貴様も無事ではすまんぞ!」

 

 ラウラの言う通り、今の俺はISの補助を一切受けていない全裸の状態であり、このまま地上に叩き付けられれば補助があるラウラとは違って大怪我を負うだろう。

 運がよくてヒビや脱臼、運が悪ければ骨折を負うだろうが今の俺には関係ない。

 ラウラがこれほどまでに慌てふためいているということはこの一撃が勝負を決する一撃だという事。

 その事実に俺はニヤリと口角を上げる―――そしてラウラは俺の表情を見るや否や顔を強張らせる。

 

「そうだな……三途の川手前までなら案内してやるよ。意外と綺麗だぜ?」

「お、織斑一夏ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 ラウラの断末魔の直後、俺の視界はブラックアウトした。

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