Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第二話

「お、織斑くーん? 織斑くーん」

 

 2時間目の授業が始まってから15分が経過した頃、俺の頭がショートを起こしてしまい、口をポカンと開けてどこともいえない場所を眺めていた。

 山田先生の心配そうな声が聞こえてくるが頭が処理できない。

 

「織斑君!」

「うぇい!?」

 

 古いブラウン管テレビを叩くかのように思いっきり背中を叩かれ、一瞬にして意識が戻った。

 そんな光景を見た女子たちはクスクスと笑い声を上げるが箒は悔しそうな表情を浮かべると同時に俺を睨み付けてくる。

 

「だ、大丈夫ですか? 授業が始まって15分くらいから上の空でしたけど」

「は、はい……先生が何語を喋っているのか分からなくて」

「ふぇぇ!? に、日本語ですけど……もしかして先生の説明が下手くそだった? ごめんね、ごめんね」

「いやいや、そうじゃなくて」

「もう一度説明しますからどこが分からないか教えてください。なんせ私は先生ですから」

 

 そう言いながらえっへんと大変豊かお胸を張る山田先生の表情は自信に満ち溢れている。

 恐らく今までの経験と知識が豊富で入学当初の授業内容など教科書を見なくても出来るんだろう。現に俺達生徒は教科書を必死に追いかけているが先生は教科書を開いてすらいない。

 

「じゃ、じゃあ……はい!」

「はい! 織斑君!」

「全部わかりません!」

 

 自信満々に堂々と宣言すると教室の全員がずっこけてしまった。笑い声が出てこないということは本当に彼女たちはビックリ驚き、なんだろう。

 

「ぜ、全部ですか?」

「はい! 全部です!」

「え、えっと……織斑君以外で他に分からないところがあるっていう人はいますか?」

 

 挙手を求める山田先生。しかし、教室の誰一人として手を挙げない。

 

(オーマイガーのゴッドファーザーだな……みんなあの難しい日本語を理解しているのか)

「ま、まぁ男性はIS教育がされないので致し方が無い部分もありますが……学園からの入学前課題はしましたか? 一応、織斑君用にオリジナルの問題構成に変えた奴なんですけど」

「初耳パンの耳です」

 

 俺の発言に先生は目を真ん丸に開き、驚きのあまり固まってしまった。

 1時間目の時もそうだけど今日の入学式まで俺は学園に関する教材の類は愚かプリント一枚さえ見ていないのだ。それこそ入学式の日も知ったのは昨日の夜だ。

 たまたま―――本当にたまたま千冬姉がお風呂に入っている時に千冬姉のスマホに着信が入って俺が千冬姉にスマホを渡した。

 で、出たのは良いんだけど何故か知らないがスピーカーモードになっていたせいで向こうの人の声が筒抜けになり、入学式の日付を知った、という感じだ。

 

「え、えぇ~……じゃ、じゃあカバンの中には何が入って」

「筆記用具と飲み物と……生徒手帳くらいですね」

「ふ、ふぇぇぇぇ~……こ、こういう時はどうしたら……肝心な時に織斑先生は出張だし~」

 

 今にも泣きそうな表情をしながら山田先生はおろおろとし始める。

 

(こんな感じで俺はやっていけるのだろうか)

 

――――――☆――――――

「ちょっとよろしくて?」

「ん?」

 

 2時間目の休み時間、必死にさっきの授業内容を頭に叩き込んでいると話し掛けられた。

 顔を上げるとそこには地毛の金髪を左右に縦ロールに綺麗に整え、透きとおった碧眼をやや吊り上げた白人の女の子がいた。

 その目は明らかに俺を見下している。

 

「それが声をかけられたお返事ですか?」

「え、あ、……まぁ、そうだな」

「まあ! なんですの、その腑抜けたお返事は」

 

 流石の温厚派の俺もカチンと来てしまう。口に手を当てまるで悪役令嬢の様に俺を見下し、嘲笑を浮かべる彼女はまさに現代女性を体現していると言える。

 

「別に……俺は今、復習してたんだ。いきなり話し掛けられたらそりゃビックリするだろ」

「復習? この2時間の間に復習する要素などありまして?」

「悪かったな、学力不足で」

 

 遠回しに馬鹿だと言われている気がして爆発しそうになるが俺は何とか煮えたぎる自分の怒りを抑え、なるべく感情を出さないようにふるまう。

 

「あら、勘だけはよろしいのね。ま、いいですわ。私はセシリア・オルコット。イギリスの代表候補生をしておりますの。以後お見知りおきを」

 

 そう言いながらセシリアはスカートの両端を摘み、左右に軽く広げながらお辞儀をする―――その前に彼女が言っていたなんとか生というものが分からないのは俺だけなんだろうか。

 創作の中でよく貴族身分の女性がしているのを見るが生で見るのは初めてだ。イギリスには貴族という地位がまだ残っているという話は世界史の中で聞いたことがある。

 

「よろしく……俺は」

「あー、結構ですわ」

 

 セシリアは俺が自己紹介するのを手で静止する。

 

「貴方の名前は嫌でも知っていますの。それにわたくし、友達になる相手は選びますので」

「……あー、そうですかい」

 

 そう言いながら再びノートに視線を降ろし、復習を再開しようとする―――が、すっと誰かの両手が俺のノートを掴んで抜き取ってしまった。

 慌てて顔を上げるとそこにはセシリアがいる。

 

「あ、何すんだよ」

「……あなた、授業中に落書きする暇がありまして? 先程の様子ではISの基礎の基礎知識すらお持ちでないようでしたから死に物狂いで授業にかじらないといけないのでは?」

 

 本当に疑問を俺にぶつけているのだろうがぶつけられている俺からすれば相当、バカにされているようにしか感じず、さらにイライラしてしまう。

 俺のイライラが周囲に伝わっているのか教室は嫌に静かだ。

 

「貴様!いくらなんでもやりすぎだぞ!」

「あら、あなたは篠ノ乃さんではありませんか。貴方は彼の肩を持つのですか?」

「持つ持たないの話しではない! 一夏は今復習をしていたんだ! その邪魔をするなど言語道断だ!」

「復習? こんな自由帳に落書きをしているのにですか?」

「だから山田先生が言っていたことを全部ノートに書いて今復習してるんだよ」

「……ぷふっ……ひひひっ……」

 

 セシリアは大きく笑うことを必死に我慢しているようでさっきから笑うのを必死に我慢しているが口の端から空気が漏れてしまっている。

 そして入れ続けた風船が限界を迎えるように彼女の口は開かれ―――

 

「あはははははっ! あ、あなたいったい何年前の学習法をしておりますの!?」

 

 セシリアの大きな笑い声につられて周囲の女子たちも少しずつ笑みをこぼし始める。

 ICT教育全盛のこの時代、どの教育機関でもタブレット端末が生徒一人に一台配布され、授業は全て後で見返せるように学校のホームページに動画がアップロードされている時代だ。

 確かにこんな化石の様なもので勉強しているのは俺くらいなものだろう。

 

「な、何がそんなにおかしいのだ!」

「ふぅ……これは失礼しました……しっかりと笑わせていただきましたわ……まさかこんな化石のように貴重な方とクラスを共にできるのは光栄ですわ」

(カッチーンと来たね)

「俺も君みたいにイタイ女の子と一緒のクラスで光栄だな」

「……今何と?」

「君みたいにイタくて性格最悪な女の子と一緒のクラスで光栄だって言ったんだよ」

「あ、あ、あ、あなたいったい誰に向かって言っているかお分かりですの!? 私はイギリスの代表候補生、セシリア・オルコットですのよ!? 新入生主席合格にして唯一、教官を倒したこの私に!」

「へー、凄いな」

「あ、貴方馬鹿にしていますわね!?」

 

 教室に自分の怒声がかなり大きく反響し、周りの視線に気づいたのかセシリアはコホン、と一つ小さな咳払いをして自分を落ち着かせる。

 

「そもそもIS学園には入学できた男性だと聞いていたから少しは知性を感じるものかと思っていましたのに知性の欠片もありませんわね。ISの知識も皆無ですし」

「知識が皆無なのは認めるさ。だからさっさと俺のノートを返してくれ」

「まだ話は終わっていませんわ」

「君と話すのに時間をかけるよりも復習に時間をかけたいんだ」

 

 その瞬間、セシリアの額に青筋が入ったのが見えた。

 

「あ、貴方はいったいどこまでこの私をコケにすれば気が済むのですか!?」

 

 セシリアは怒りのままに俺に向かってノートを投げつける。

 どうやら下に見ていた男という生き物に自分がのけ者にされている感がそれほどまでに我慢ならないらしい。

 でも俺はそんなやつと喧嘩をするほど愚かじゃない。

 

「あ、貴方という人は……泣いて教えを請えば親切丁寧に教えて差し上げますのに」

 

 ブツブツとセシリアは捨て台詞を発しながらわざと俺の机の脚にぶつかりながら自分の積へ戻っていった。

 ひと悶着あった教室は少しの違和感を残しながらも休み時間らしく話し声がポツポツと出てくる。

 そんな時3時間目の始業を告げるチャイムが鳴り響き、蜘蛛の子を散らすように見物人を含めた女子たちが自分たちの教室に散っていく。

 

「一夏……あいつの言うことなど気にするな」

「……ありがとな」

 

 同時に教室の扉が開かれ、出席簿を持った千冬姉が教室に入り、その後を追いかけるようにタブレット端末を持った山田先生が入ってきて教室の後ろへ向かう。

 

「ではこれより実践で使用される各種装備について説明する」

 

 千冬姉がホワイトボードに触れた瞬間、授業教材らしき映像が映し出され、近接ブレードや射撃武装の数々がホワイトボードに現れる。

 

「織斑先生、クラス代表は決めなくていいんですか?」

 

 授業を始めようとした千冬姉の動きが山田先生のその一言で固まる―――数刻、考えている様子の千冬姉はやがて小さくため息をつき、俺達の方を向く。

 

「ありがとう、山田先生……今山田先生からもあったようにこのクラスの代表を決める必要がある。というのも再来週にクラス対抗戦がある。そこで出場する代表者を決める訳だ。いわば学級委員長と同義だ。各役員会の参加や教員からの伝達事項の全体共有など仕事は様々だ」

 

 すると一人の女の子が手を挙げる。

 

「どうやって決めるんですか?」

「年によってさまざまだ。自薦で決まることもあれば投票で決まる年もある。あぁ、去年は担任推薦のクラスもあったな……ではまず、この中で我こそはというやつはいないか」

 

 千冬姉が全体を見渡しながらみんなに問いかけるが誰もが周りを牽制しているので誰も手を挙げない。

 ただの学級委員長ならば誰かが立候補しただろうがここはIS学園。クラスの代表ということはそれだけ実力を兼ね備えているということだ。

 

「ふふん! やはりここは主席合格のイギリス代表候補生であるこの私しかいないでしょう」

 

 自信満々にそう言いながら先程のセシリア・オルコットが立ち上がる。

 確かに実力だけで言えば主席合格という肩書があるセシリアが適任だろう―――これでさっきの嫌味な性格が無ければ俺も納得する。

 

「あの、織斑先生」

「なんだ、篠ノ乃」

「これは他薦でも」

「だめだ」

 

 そう言えば他薦の話は出なかったな―――そんなことを心中で考えているとぴしゃりと箒の質問を叩き落とすかのような勢いでノーが突きつけられた。

 

「この状況で他薦を許せば十中八九、織斑が選ばれるだろう。そのような話題性重視の選挙であればやる意味はない」

「……分かりました」

 

 箒はとても残念そうな表情を浮かべる―――恐らく彼女はさっきのあれを見て名誉挽回のチャンスを俺にくれようとしたんだろう。

 

「流石はブリュンヒルデ織斑千冬さまですわ。クラス代表とはクラスで最も実力を持つ存在でなくてはいけません。やはりこの入試主席合格かつ唯一、選抜演習で教官を倒した私でなければ」

 

 もうこの文章を聞くのも二度目だ。流石に飽き飽きしていると――――――

 

「山田先生も何か意見はあるか?」

「そうですね……確かに実力で言えばオルコットさんが適任かと思います」

 

 山田先生がそう言うと箒は悔しそうな表情を浮かべ、拳を握りしめ、千冬姉はホッと一安心をし、セシリアは自分の承認欲求が満たされ、幸せそうな顔を浮かべるなど三者三様の顔をする。

 

「よし、では」

「ですが先程の行動を見ると少し代表にするには資質に問題あり、ですかね」

「なっ……わ、私のどこに問題が」

「さっきの休み時間中、織斑君とひと悶着ありましたよね?」

「そ、それは」

「その中で男性を卑下する発言が出てきたんですよね……確かに今の社会情勢的にそのような風潮があることは事実です……ですが私個人の意見としては差別意識を隠さずに当たり前のように振りかざす人はいい感じはしないんですよね~仮にも国家代表候補生ですし」

『……』

 

 先程までの慌てふためき、半泣きになってオロオロしていた山田先生とは打って変わり、教師としてズバズバと本質を突く生徒指導を目の当たりにして教室は静まり返っていた。

 

「でも織斑先生が言うようにこの状況で他薦をすると織斑君が持ち上げられてしまいますし……難しい所です」

「……では諸君に問おう。ISの実力や山田先生が言う様なクラス代表としての素質。そして自身の意見。それら全てを踏まえたうえでクラス代表に相応しいと思う生徒の名前をclassroom内で投票しろ」

 

 女子たちは皆、一様にタブレット端末を操作し始め、俺も慌ててタブレットの画面に触れる―――が、何故か何度触れても画面が明るくなることはない。

 千冬姉の顔を何度も見るが今は教師モードの千冬姉。手助けなどは無かった。

 

「そこまでだ……では投票の集計をホワイトボードに表示する」

 

 千冬姉が自身のタブレット端末を操作して数秒後、三つのテキストが表示される。

 

【セシリア・オルコット  1票】

【織斑一夏        1票】

【投票辞退       28票】

 

 目の前の投票結果を目の当たりにしたセシリアは冷静さを失い、オロオロと狼狽するがそれは俺も同じ。

 恐らくセシリアの1票は自薦ということで自分に投票した結果であることは明白。でも俺に入っている一票はいったい誰が入れたのか―――などという野暮なことは言うまでも無かった。

 

「これがクラスの総意とし、クラス代表の決定については後日」

「織斑先生! 一週間後、第三アリーナが開いていたので予約が取れました!」

「……し、仕事が早くて助かる、山田先生」

「それほどでも~」

「ではクラス代表の決定方法は織斑一夏、セシリア・オルコットによる一対一の模擬戦の勝者とする。異論は認めない。では切り替えて授業に戻る」

 

 凄まじく重苦しい空気のまま千冬姉は授業を再開するが生徒の俺達にとってこの凄まじく重苦しい空気は学習意欲をそぐには十分だった。

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