Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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朝起きてアクセス数を何気なく見たらビックリしました。
更新していないのに更新した時と同じくらいのアクセス数がありました。
ありがとうございます。


第三十八話

「一夏さん!?」

「あいつバッカじゃないの!? 全部の補助機能切ったまま地面に直撃したわよ!?」

 

 観客席で見守っていた彼女たちは口々に言葉を吐き出すが全員、大穴を開け、土煙を上げている場所に視線を注いでいる。

 周囲の生徒達もざわつき始める。

 

「補助機能なしで叩きつけたということは骨折はしていてもおかしくないよ」

「一夏っ!」

 

 席から立ち上がり、彼の名を呼ぶ箒―――その時、穴の縁に手がかけられたのが見えた。

 腕部の装甲は粉々に砕け散っているのか見当たらず、カメラのズーム機能でも土煙に紛れてハッキリとどちらの手なのかが見えない。

 まだ試合終了を告げるブザーは鳴り響いていない―――つまり、お互いのISにはまだ僅かながらのエネルギーが残っているということになる。

 それは他の生徒も同様で大型モニターに映し出されている映像に釘付けとなっており、どちらがあがってくるのかと言葉を発さずに静かに見守っている。

 セシリアは祈るように手を組み、鈴は手を強く握りしめ、シャルロットは額から冷や汗を流し、ごくりと生唾を飲み込む。

 そして箒は今にも泣きそうになるのを唇の端を噛んで耐える。

 

(あれは一夏だ……一夏なのだ! それ以外は認めない!)

 

 不安で押し潰されそうになりながら自分に言い聞かせるように箒は心の中で叫ぶ。

 そして穴の縁を掴んだ指が少し動き、足をかけて大穴から姿を現した。

 その瞬間、誰もが息をのみ―――

 

「一夏!」

「一夏さん!」

「一夏のバカー!」

「一夏!」

 

 大歓声を上げ、喜びを爆発させた。

 

 

――――――☆――――――

 アリーナを震わせるほどの大歓声を聞きながら俺は何とか大穴から脱出を果たし、フィールドにゴロンと横になるがもう力の一片も出せる気がしない。

 白式のステータスを確認してみるとエネルギー残量は2。小石でもぶつけられたら残量が0になりそうなくらいに白式はボロボロだ。

 装甲はほとんど弾け飛んでおり、残っているのは両膝から下の脚部と左腕の肘から先くらいだ。

 相変わらずおでこからは血が出て左目がしみて開けられない。

 

「……約束、果たしたぜ。みんな」

 

 ―――直後、大穴から電流が迸るのが見えた。

 

――――――☆――――――

(こんな……こんなところで負けるのか、私は)

 

 何もない真っ暗な空間でラウラ・ボーデヴィッヒはゆっくりと沈んでいた。

 己の力を過信し、必要以上に心を縛り付けたことで戦闘に支障をきたし、裏が出てくるのが遅れただけではなく素人同然の男に敗北を喫した。

 あり得ない―――あってはならないこと。

 ラウラ・ボーデヴィッヒ―――それは識別上の記号であって本来の名は遺伝子強化試験体C0037。

 彼女は人間の手で合成された遺伝子のもと、鉄の子宮で生まれたただ戦いのためだけに生み出された人工物。

 鍛え上げられ、成長を遂げた彼女は軍の中でも最強と歌われるのほどの実力を持ち、周囲からの機体を一身に背負っていた。

 そんなときに世界最強の兵器が生み出された。

 人間は欲深い。最強の兵器をよりうまく扱える最強の存在を欲した。そして生み出されたのが肉眼へのナノマシン移植処理―――ヴォーダン・オージェ。

 理論上は不具合など何もないはずの処置を施された彼女が落ちこぼれへと転落するのはそう遅くはなかった。

 常に稼働状態となったヴォーダン・オージェは常に情報を彼女の脳に送り届けることとなり、常に頭痛に苛まれることとなった。

 眼帯で隠せば情報は遮断され、幾分かマシにはなったが今度は視界が半分消えたことでまともに戦えなかった。

 そんな彼女に浴びせられたのは罵倒や嘲笑、そして暴力。

 彼女が後れを取ったことで連帯責任として全員が罰を受けた―――そして訓練後には決まって袋叩きにあうのが日課となった。

 それは精神的にも肉体的にも。

 だがそんな地獄の日々に光が差した。

 

「私が来たからにはお前を再び隊最強の存在にしてやろう」

 

 その言葉通り彼女は千冬の教えを忠実にこなすことで実力をつけていった―――しかし、それと同時にもう一つの彼女が生まれた。

 ある日、ISの稼働訓練をしていた際、自分を苛めていた隊員を見つけ、ラウラは圧倒した。それは完膚なきまでにという言葉など生ぬるい殺戮。

 その時はラウラは久方ぶりの笑顔を見せた。

 あれ程自分に対して侮蔑の表情を浮かべ、笑顔で殴り続けていた人間が今、自分の目の前で涙を流しながらみっともなく許しを請う姿を見てラウラは最高の気分だった。

 やがて復讐の鬼と化した彼女は一人ずつ自分に危害を加えた隊員を殺戮していく。無論、殺してはいない。

 そして彼女は再び最強の座に帰り着いた―――血塗られた椅子に座り、血塗られた居場所だった。

 それ以降、ラウラは殺戮を楽しむもう一人の自分を心ごと押さえつけた。

 

(もういい……私は負けたんだ)

(ダメだ……奴が動かなくなるまで完膚なきまでに叩き潰す)

(する必要はない)

(ある! やつも心中では私をバカにしているに違いない。良いのか? あの時のように居場所を失い、ごみのように扱われる日に戻っても!)

(……いやだ)

(私もだ。私も居場所を失うのが、一人になるのが怖い。さあ、私と一緒に行こう)

(……出来るのか?)

『―――願うか?』

 

 ラウラたちの耳にどこからともなく声が響く。

 

『何時、変革を望むか? 力を望むか?』

(力を望む! やつを叩きのめし、私は私の居場所を作る! もう誰も私を下になど見させない! 私こそが最強であればいい!)

『Valkyrie Trace System Active』

 

――――――☆――――――

「ああああああっ!」

「っっ!」

『非常事態発令! 状況をレベルDと認定! ただちに生徒、来賓は避難! これは訓練ではない!』

 

 大穴から激しい電撃が放たれたかと思えばゆっくりと上空へと上がっていくラウラ―――俺は彼女と彼女のISの変貌っぷりに目を疑った。

 装甲だったものが融解するかのようにドロドロの真っ黒な液体へと変わり、ラウラの全身を包んでいく。

 ラウラはその液体に抵抗を示すどころか迎合を示すかのように液体を受け入れていく。

 シュヴァルツェア・レーゲンだったものは生まれ変わり、黒い全身装甲のISになれ果てるがその姿を見た瞬間、俺は目の前のこいつが千冬姉を汚しているという事だけ分かった。

 俺の体がカァッと熱くなり、激痛を無視してまるで誰かに引っ張られるように立ち上がる。

 

「―――さねぇ……許さねえぞパチモンがぁぁ!」

 

 歩く力すら残っていなかったはずの俺の体は目の前の敵に向かって突き進んでいく―――しかし、相手に頭を鷲掴みにされ、無理やり地面に叩き付けられる。

 肺から最後の酸素が吐き出され、無情にも白式が光となって消え去っていく―――同時に流れていた血がもう片方の目に沁み、目を開けられなくなった。

 

(や、やばい……何も見えない)

 

 白式も失われた今、俺には何も残されていない。

 

「一夏っ!」

「っっ!」

 

 突然、横から抱きかかえられたかと思えばフィールドを切り裂く爆音が鳴り響く。

 声の主はすぐに分かった。

 

「シャルロットか!?」

「そうだよ! 先生の指示で君を助けに来たんだ!」

 

 少しの浮遊感の後、フィールドへと降ろされると何機かのISのスラスターの音が聞こえてくる。

 恐らく非常事態を鎮圧するための教師部隊なんだろう。

 

「俺が……そいつだけは俺がやらなくちゃいけないんだ!」

「一夏!? ダメだよ! そんなボロボロの体で! 白式だってもう」

「でもっ……でも俺がやらなきゃいけないんだ……あいつは千冬姉を汚した」

 

 何故、あいつが千冬姉を汚したのかは分からない―――でも俺の中で何かがそう叫んでいる。あれを壊せと、あれは千冬姉を汚す存在だと。

 

「今、あいつはどうしてる」

「フィールドの中央に陣取ってるよ……多分、攻撃反応型だと思う」

「なんとか……何とか白式にエネルギーを」

 

 その時、シャルロットに手首を掴まれたかと思えばカチャリ、という何かが接続された音とともに白式に熱が戻ってくるのを感じる。

 

「シャルロット?」

「僕のリヴァイヴは大元は汎用機体。コア・バイパスを使えばエネルギーを白式に移せるよ」

「シャルロット……」

「リヴァイヴの全エネルギーを君に託すよ……ただし、負けたら承知しないから」

「当たり前だ。絶対に勝つ……男に二言はない」

「言ったよ? 負けたら明日から女子の制服で登校してね」

「……俺が勝つからそんな未来は来ないよ」

 

 エネルギーの移し替えが終了し、ケーブルが抜かれた瞬間、俺は白式を展開する―――しかし、白式の装甲が不完全であることは分かった。

 目は見えないはずなのにまるで白式の想いが、言葉が伝わるように白式の状態が分かる。

 目が見えない以上、白式のハイパーセンサーに頼るしか―――

 

『一夏! データに頼るな!』

「っっ! 箒」

 

 オープン・チャネルを通して箒の怒声が響く。

 

『今、目が見えないのだろう? 私からは敵が見えている……だから私がお前の目になる』

「あぁ……頼む」

 

 雪片弐型をその手に収めた瞬間、相手が動き出したことを感じ、ひゅっと風を切る音が聞こえる。

 

『敵正面!』

「っっ!」

『12-6方向振り下ろし!』

 

 箒の指示を基に雪片弐型を構えた瞬間、甲高い金属音と共に体に衝撃が走る―――相手の剣が再び消え去り、闇の中へと消えていく。

 

『10-5方向! 袈裟払い!』

 

 箒の指示通りの位置から斬撃が飛んでくる―――俺はそれを剣で受け止めて弾き返す。

 箒の指示が相手の位置を教えてくれる―――たとえ映像が見えなくてもハッキリと姿形、そして攻撃が来る方向がはっきりと分かる。

 

『1-8方向! 大振り袈裟払い!』

「う、うぉぉぉぉっ!」

 

 今まで以上に強烈な衝撃を受け止めた瞬間、全身が悲鳴を上げるが叫びを力にして相手の剣を弾き飛ばし、逆袈裟払いを繰り出して相手の剣を根元から叩き切った。

 直後、鎖が射出されたかのような音が響き、何かに巻き付いていく。

 

『一夏、聞こえるか』

「千冬姉!?」

『今、教師部隊が鎖で奴の動きを止めている……だが今こちらから送れる教師は4人が限界だ。そして4人とも奴を拘束している……分かるな?』

「あぁ……俺が決めるんだろ?」

『それくらいのことはして見せろ……私の弟ならば』

「あぁ……当たり前だー!」

 

 叫んだ直後、それに呼応するかのように背部スラスターが起動し、同時にリアアーマーから鎖が4本射出されて地面に突き刺さると俺の体を固定する。

 そして固定された直後に背部スラスターが全開で吹きだし始める―――この感覚は前にもある。

 ゴォォォッ! という爆音はやがてキィィィン! という甲高い音を響かせるとともに青い炎を後方へと放っていることだろう。

 

「行くぞぉぉぉぉっ!」

 

 カッ! と目が痛むのを我慢し、強く見開いた瞬間、鎖から解放された俺の体が前へと突き進んでいき、飛び蹴りが相手の胸部へと深く突き刺さり、摩擦熱で炎に包まれながら後方へと押し込んでいく。

 その時、一瞬だけ俺の脳裏にどこかの景色が映し出された。

 

「戻ってこい! ラウラァァァァァァ!」

 

 先生たちの鎖をも引きちぎりながらフィールドの壁に叩き付けた瞬間、全ての黒い鎧が弾け飛び、フィールドの壁に無数の亀裂が入るとともにアリーナ全体が大きく揺れ、爆風が吹き荒れる。

 相手を壁に軽く蹴り、宙返りをしながら地面に降り立つ。

 そこに残ったのは僅かながらに残るシュヴァルツェア・レーゲンの装甲を纏うラウラ―――しかし、ラウラは

力を失い、崩れるように地面に倒れ伏した。

 

「ハァッ……ハァッ……」

 

 もう何度限界を超えたかも分からない俺の体はボロボロで少しでも動く度に聞いたこともない音を立てる。

 後ろを振り返ると笑顔のシャルロットが俺を出迎えてくれ、彼女のもとへと向かうがシャルロットの表情が一変したのが見え、後ろを振り返る。

 

「ぜぇ……ぜぇ……」

「ラ、ラウラ」

 

 そこには口の端から血を流し、虚ろな目をしながら震える足で立つラウラの姿があった。

 右腕には力が入らないのかだらんと垂らしており、一歩歩く度に苦悶の表情を浮かべる。

 

「た…たか……え」

「ラウラ……」

「わたし…はまだ……戦えるぞ」

 

 もうお互いに死にかけと言っても過言じゃないレベルの状態だ。

 白式もシュヴァルツェア・レーゲンもダメージレベルは優にCを超えているし、向こうに至っては一度装甲が融解までしている始末。

 肉体もラウラは右肩の脱臼、俺はおでこの傷が開き、全身激痛だ。

 そんな満身創痍な状態でもラウラは常備していたであろうサバイバルナイフを手にしてフラフラと覚束ない足取りでこっちに向かってくる。

 

「戦え……戦え! 織斑一夏!」

「どうして……どうしてそこまでこだわるんだよ」

「わたしは……私は最強でなくてはいけないんだ! 最強でなくては全てを失う! 地位も名誉も信頼も! 立場も何もかもを失うんだ! 私はもう……あんな地獄には戻りたくない。最強であれば何も失うことはない……最強であることこそ私が生まれた意味であり、私を私たらしめる理由なんだ!」

 

 想いの丈を吐き続けるラウラは感情が無かったラウラでもなく、戦いを楽しんでいるラウラでもない。

 理由は分からないけど俺の目にはこのラウラが本当のラウラなんだと感じる。

 

「私が私であるために!」

 

 ラウラがサバイバルナイフを手に突っ込んでくる―――シャルロットや先生たちが止めようとするのを手で静止し、俺はラウラの前に立つ。

 

「織斑一夏ぁっ!」

 

 言葉でどれほど強くあろうとしても今の彼女にはナイフを突き刺す力すら残っておらず、それを判断する思考力さえも失われている。

 だからこうして俺の手があたるだけで簡単にナイフを落とす。

 最大の武器を落とし、硬直する彼女を俺は何も言わずに―――抱きしめた。

 

「き、貴様何をっ」

「もういい……もう止めよう、ラウラ」

「離せっ!」

「離さねえよ!」

「っっ!」

「お前が……居場所が欲しいっていうんなら……俺の傍にいろ」

 

 ジタバタともがくラウラだが俺の言葉にやがて抵抗の意思を沈めていく。

 

「別に強くなくたっていいんだよ……強くなくたって人はみんな、居場所を作れるんだ」

「き、貴様は強くあるが故に居場所が」

「んなわけないだろ……強いからみんながいてくれるんじゃねえんだよ……みんながみんなを支えて、一緒に笑ったり、悩んだりしたりするから……想いを共有するからみんながいてくれるんだ」

「……」

「俺は強くなんかない……ISの知識もまだまだだし、操作技術だって半人前だ……でもみんな、俺の傍にいてくれて俺の居場所になってくれてるんだ。毎日、クラスで笑ったり、勉強教え合ったりしてさ……だからラウラも俺の傍にいろ」

「お前の……そばに」

「あぁ……俺がお前の居場所になる。そんで一緒に色々なことをしよう。笑ったり、泣いたり、一緒にご飯食べたり、トランプしたりさ……結構、楽しいんだぜ?」

「わ、わたしは……」

「俺の傍にいろ……俺がお前の居場所だ」

 

 優しく抱きしめながら彼女の銀色の髪を優しく撫でてやると全てが限界に達したのかラウラの体から力が無くなり、俺の腕の中で眠りについた。

 眠りについたラウラを見ているといきなり視界がグニャリと歪み、力が抜けていく。

 

(さすがに……限界だよな)

 

 最後に見えたのは慌てて傍に駆けつけてくれるシャルロットの表情だった。

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