Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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昨日のアクセス数が9時と10時が100を超えました。一体何があったんでしょうか?
評価の割合があがると読まれる数も増えるのでしょうか?


第四十話

 織斑千冬14歳、中学二年生。

 成績優秀、容姿端麗、スポーツ万能とまさに非の打ち所がない千冬は男性からも女性からも尊敬と羨望の眼差しを一身に受けていた。

 しかし、それらは全て等しく彼女にとっては無価値な物であり、たとえチョコレートをどれだけ貰おうか、下駄箱に愛の手紙を入れられようが、呼び出しを受けようが彼女にとって何の価値も無かった。

 そして千冬は誰ともつるむことはなく、帰路についていた。

 

「……今日は撒いたか」

 

 千冬はキョロキョロと周囲を見渡しながら歩いており、曲がり角を曲がる際や信号待ちの際には必ず後ろを振り返って誰も居ないことを確認するほど。

 それはある意味、彼女にとっての日課やルーティンのようなものだった。

 

「ちぃぃぃぃぃちゃぁぁぁぁぁん!」

 

 後方からバカみたいに大きな声で一人の少女が満面の笑みで千冬のもとへと向かってきており、余りの勢いに周囲の自転車は薙ぎ倒され、通行人が被っている帽子は飛んでいく。

 しかし、予見していた千冬は信号が変わるギリギリのタイミングで渡りきる。

 壁のように多数の車が渡り始め、少女の姿は見えなくなる―――この時間帯、ここの交差点の交通量はすさまじく信号無視など到底できるものではない。

 だが、千冬の表情は集中を継続していた。

 

「とう!」

 

 そんなどこぞのヒーローの様な掛け声を発しながら少女が空高く飛び上がり、クルクルと回転しながら車の往来の上空を飛んでいく。

 そしてシュタッと美しく着地を決めると目を輝かせて千冬に抱き付く。

 

「ひどいよちーちゃん! 一緒に帰ってくれるって約束したじゃん!」

「そんな約束などしていない」

「うそだ! あのとき一緒に帰ってくれたじゃん!」

「一緒に帰ってなどいない。お前が後ろをストーキングしていただけだ」

 

 それは数日前のこと。あまりのしつこさから千冬は全ての会話を無視し、家路についていたのだが彼女にとっては一緒に帰っていたという事実に書き換わっていたようだ。

 

「やぁん! そんなちーちゃんの鬱陶しそうな声も表情も大好き! アイ・ラブ・ユーだよ!」

 

 彼女―――篠ノ乃束は手でハートマークを作りながら千冬に向ける。

 しかし、千冬は心底鬱陶しそうな表情を浮かべて愛情表現を無視する。

 

「ふふっ、私の話を無視するちーちゃんも好き!」

「勝手にしろ」

 

 そう言い放ち、再び歩き始めるが束は上機嫌ルンルンで隣を歩き始め、矢継ぎ早に話しかけ始める―――千冬はそれを一言、二言で返すだけ。

 しかし、それでも束にとってはこれが千冬との楽しい会話となる。

 

「ねえ、ちーちゃん。いつになったら私に弟君を紹介してくれるの!」

「前も言ったがお前に会わせる弟などいない」

「のんのん! ちーちゃんの弟は束さんの弟! 私の箒ちゃんとちーちゃんの弟君はきっといい夫婦になると思うんだ! そしたら私たちは姉妹!」

「お前と姉妹など義理であっても断る」

 

 ここ最近の専らの話題は弟に会わせろ。

 千冬は自身に弟がいることを束には一言も言わず、そのようなことを匂わすことも無く接していたがどこかからかその情報が漏れてしまったらしく、このざまになった。

 別に紹介するのはやぶさかではない―――しかし、決して紹介してはならないという直感があった。

 目の前にいる少女は千冬以外の人間とは一切会話をせず、関係を構築しようとしない。教師であれ、同い年の生徒であれ誰に話しかけられても一切言葉を発さない。

 この世界で彼女が言葉を発するのは親族。会話をするのは千冬と箒のみ。

 

「ぶー! いけず~。でもそんなツンツンなちーちゃんも好き!」

 

 束はそう言いながら千冬に抱き付こうとするが華麗にかわされ、電柱にぶつかる。

 恐らく束ならば弟を紹介したところで一切会話をするかしないかの二通りだけだと考えもするのだが何故か千冬は紹介するという行動には至れていなかった。

 

「あー、もうここまで来ちゃった。じゃあまたね! ちーちゃん!」

 

 束は再びすさまじい勢いで駆け出していきあっという間に姿が見えなくなってしまった。

 ようやく過ぎ去った大型の嵐に一息つき、千冬も家へと向かう歩みを速めていく。

 束が素を出す相手がいるように千冬にも素を出す相手がいる。

 それが――――――

 

「あ! お帰り! ちー姉!」

「ただいま、一夏」

 

 玄関の鍵を開けた瞬間、パタパタと小さな足音が近づいてきて帰ったばかりの千冬に抱き付く。しかし千冬はそれをしっかりと受け止め、抱き上げると強く抱きしめる。

 このルーティンこそ日々、向けられる邪推なものを全て浄化してくれる。

 

「見て見て! ちー姉の似顔絵かいたよ!」

「そうか。じゃあ向こうで見せてもらおうか」

 

 先程まで一切見せなかった彼女の本当の笑顔がそこにはあった。

 

 

 

――――――☆――――――

「教師という職業に就いてつくづく思う……あいつはどうやって私と出会った当初から同じクラスにし続けたのかとな」

「そういえば千冬姉はずっと束さんと同じクラスなんだよな。ISが生まれる前から」

「あぁ。ISが生まれても同じクラスは続いたが束にはお前を紹介はしなかった」

 

 千冬姉の言うように俺は束さんとの関係性はかなり薄い。妹の箒と小学校の頃からの付き合いはあるがその時から頑なに束さんとの接触は禁じられていた。

 篠ノ乃道場に行く時も最初はかなり反対されたけど最終的に千冬姉も一緒に通うということで手を打ち、許可してくれたほどだ。

 

(あ、でも道場に通い出したころにはもう束さんと知り合ってたっけ?)

 

 実は正直なところ束さんとの最初の会話はよく覚えていない。

 箒との最初の会話はよく覚えている―――箒を苛める男連中をぶちのめした時が最初に話しだしたきっかけだったんだが束さんとは本当に覚えていない。

 

「でもなんで最初から束さんに俺を紹介しなかったの?」

「何故かはわからん……だが直感ともいうべきか……あいつに初めて会った時から一夏には会わせてはいけないと強く感じたんだ」

 

 千冬姉がいわゆる直観に頼ることはあまりない。経験や知識をフルに活用し、自分の進む道を築き上げていく。だから誰からも尊敬される人。

 

「束にお前を紹介しなかった理由とお前からISを切り離したい理由は同じだ」

「……どっちも束さんが関係してるってことだよな」

 

 俺の質問に千冬姉は小さく頷く。

 俺自身は心当たりは一切ない―――でも千冬姉が強く決心させるほどの大きな事件が過去にあったのは間違いない話だ。

 

「その理由って……」

 

 千冬姉は静かに目を閉じていたけれど意を決したように目を開き、俺を見つめながら口を開いた。

 

「束にお前を紹介しなかった理由。そしてお前からISを切り離したい理由は……篠ノ乃束がお前を……織斑一夏を殺すことを最優先目標として動いているからだ」

「……」

 

 千冬姉の発言に俺は何も言えなかった。

 束さんとは数回しか話したことはない――――――でもあの人からそんなヤバイ雰囲気を感じたことは無いし、何か危害を加えられた記憶もない。

 俺の記憶の中では。

 

「で、でもなんで束さんが俺を殺そうとしてるんだよ。それになんで束さんが殺そうとしているのにISを俺から切り離したいんだよ。殺すだけならあの人ならすぐに行動に移しそうだけど」

「お前の言うようにあいつはすぐに動いたよ……あれはたしか―――」

 

 

 

――――――☆――――――

 いつものように千冬は束と共に帰路についていた―――しかし、今日はいつもよりも歩くスピードが速く、普通であれば突き放されるほどの速さ。

 しかし、そんなスピードにも束はニコニコと笑顔を浮かべながら余裕で並走する。

 

「ねえちーちゃん。今日は歩くの早いね! 何かあるの?」

「いつも通りだ。むしろお前が遅くなったんじゃないのか?」

「のんのん! ちーちゃんラバーの私にはわかるよ! ちーちゃん、この後何かあるんでしょ!」

 

 表情には一切出さないが内心、千冬は焦っていた。

 なんせ今日は一夏の誕生日であり、ともに誕生日会をしようと約束し、ケーキも購入してある。正直に言えば学校を出る段階で遭遇したくはなかったがそんなこと彼女が許すはずもなかった。

 

「何もない。強いて言えば一刻も早くお前を振り切りたいくらいだ」

「むーっ! 私はこんなにもちーちゃんを愛してるのに! 束さんはプンプンだよ!」

「勝手に怒っていろ。ほら、もういつもの曲がり角だ」

「むぅ! 流石の束さんも怒ったもんね! バイバイ!」

 

 そう言ってマンガであれば足がクルクルと渦を巻く表現になっているであろう速度で自宅への道を目にも止まらぬ速さで走っていった。

 ようやく嵐が過ぎ去ったことに一安心した千冬は自宅へ向かい、歩き始める。

 心なしかその足取りは軽やかだ。

 両親がいない千冬にとって一夏の存在は彼女の全てと言っても過言ではない。

 彼女の行動の全ては一夏のためにある。

 

「……ふぅ」

 

 千冬は一息ついてからカバンからあるものを取り出し、鍵を開け、勢いよく扉を開けた瞬間、待っていたかのようにクラッカーが二つ同時に鳴り響く。

 玄関には満面の笑みを浮かべた愛する一夏がいた。

 

「一夏もクラッカーを鳴らしてどうする」

「えへへ。僕もお祝いしたかったから」

 

 恥ずかしそうに笑みを浮かべている一夏を見てたまらなく愛おしくなった千冬は彼を抱きしめ、しばし彼のぬくもりを堪能する。

 例えどんなに生活が苦しくても一夏さえいればすべてが上手くいく気がする。

 周りがどんなに醜く、汚らしい視線を自分に注ごうが一夏がこの世界に存在してくれているだけで全てを癒してくれる。

 例え付きまといされようが、ずっと同じクラスに変えられようが、一夏さえあればどうだっていい。

 

「さ、一夏。パーティーを」

 

 一夏の顔を見た時、視線が自分の後方に注がれているのを見て千冬はそれにつられながら後ろを振り返ると持っていたクラッカーを落としてしまう。

 そして同時に千冬は後悔する。

 

 ―――何故、鍵を閉めなかったのか。

 

 ―――何故、気取られてしまったのか。

 

 ―――何故、いつもと同じ接し方をしなかったのか。

 

 いくつもの後悔をする千冬の目の前には怒りや悲しみといった様々な表情をグチャグチャにしたものを顔に張り付かせ、目からは涙を流し、拳を握りしめ、ただならぬ殺気を放つ篠ノ乃束の姿があった。

 

「た、束」

 

 いつもならば満面の笑みを浮かべて返答する彼女だが今は表情すら変わらない。

 明らかに殺気を放っている彼女から一夏を守るために彼の手を握り、自身の後ろへと隠す。

 

「―――るい」

「は?」

「ずるいずるいずるい! なんでそいつには笑う癖に私には笑ってくれないの!? どうして私は抱きしめてくれないのにそいつは抱きしめるの!? ずるいずるい! ちーちゃんのことを一番に考えているのはこの私なのに! なんで私じゃなくてそんな奴を愛するの!? なんでそんな醜い肉塊を愛してるの!?」

 

 矢継ぎ早に叫び始める束の姿は今まで見たことが無かった―――千冬は凄まじい変貌ぶりに呆気にとられ、一夏の手を握ることしかできなかった。

 

「ずるいずるいずるいずるい! そいつばっかり!」

「っっ!」

 

 束が叫びながら千冬の頭上を飛び越え、一瞬にして背後へと回ると気付いていない一夏目がけて拳を勢いよく振り上げる。

 千冬は一夏の手を勢い良く引き、守るように抱きしめると寸でのところで束の拳が止まる。

 

「ちー姉?」

「っっ! その汚くて醜い口でちーちゃんの名前を呼ぶなぁ!」

 

 千冬に手をあげる訳にはいかない束は怒りや憎しみ、嫉妬といったすべての感情を叫び声にして一夏にひたすら浴びせ続ける。

 

「ちーちゃんの名前を呼んでいいのは世界で私だけ! 私だけがちーちゃんを愛して愛される存在なんだよ!」

「何を言っているんだ束! 一夏は私の家族だ! 愛するのは当然だ!」

「違う違う違う! ちーちゃんが愛して良いのは私だけなの! ちーちゃんを愛して良いのも私だけ!」

「動くな!」

「っっ!」

 

 一夏に危害を加えようとした束に怒声を浴びせ、動きを止める―――千冬の目には殺意がふんだんに込められており、一夏を抱きしめる腕にも力が入る。

 

「そこから1ミリでも一夏に近づいてみろ……」

 

 その後の言葉は表現しなくても束は理解し、距離を取る。

 そして乾いた笑みを浮かべる。

 

「はははっ……やっとわかったよ。ちーちゃんがどうして私に笑ってくれないのか……どうして私に優しくしてくれないのか……どうして愛してくれないのか」

「……束」

「そいつがいるからなんだね……そいつがちーちゃんをたぶらかしてるんだ……その醜い肉塊がちーちゃんの笑顔を奪ったんだ……安心して、ちーちゃん。私が絶対に助けるから」

 

 束は不穏な言葉をブツブツと呟くと後ろを振り返り、覚束ない足取りで玄関から出ていった。

 千冬はすぐさま鍵を閉め、抱きしめていた一夏を見ると彼女の服を千切らんばかりに強く握りしめており、声を押し殺して泣いていた。

 

「すまない一夏……すまない」

 

 幸せな日になるはずが恐怖の一日になったその日、一夏は決して千冬から離れることはなかった。




今日からお仕事で3日間東京にいてます。
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