Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第四十一話

「そこからだ……全てが変わったのは。束はお前の行動を全て監視するようになり、隙あらばお前を殺そうとした。無論全て私が未然に潰したがな……」

「……俺が幼い時にそんなことが」

「ちー姉と言っていた呼び方もトラウマが出来たのか千冬姉に変わり、小学校にお前が入った頃は私が全て付きっ切りで送迎をしていた」

 

 記憶がある。晴れていようが雨が降っていようがどんな時であろうが千冬姉は俺の傍から離れることはなく毎日、俺を送り迎えしてくれていた。

 一番記憶にあるのは定期的に欠席の日があったことだ。もちろん祝日なんかじゃない普通の平日。

 それも話を聞いた今考えればどうしても傍にいれないときの苦肉の策だったんだとおもう。

 

「そしてISが生まれてからはより激化した。全ての常識を変えた凄まじい力だ。最初、私にそれを見せてきたときは殺意だけで生み出したのかと目を疑ったものだ……だから私はこれまで以上に束の傍にもいることにした。監視も含めていたがISの力があれば対抗できると思ってな」

 

 ISの力は絶大。空は飛べるし、戦車の砲弾を避けられるし、あまつさえ戦闘機だって本気を出さなくても破壊できるくらいのとてつもない代物だ。

 人一人を殺すことなんて容易いことだ。

 

「あいつは喜んで私を招き入れた……そして私はあいつに約束させた」

「約束?」

「一夏とISが関わるタイミング・場所でのみ手を下せと……逆に私はISに関わる問題には一切、手を出さない。そして互いに直接的に手を下すことは厳禁。どちらかが違反した場合は自ら命を絶つという制約も同時に課させた」

「でも……なんで束さんはISを女にしか使え無くしたんだ? そんなことしたら絶対に手を出せないんじゃ」

「そもそも女にしか使えないことに最初に気付いたのは私だ。だから私はそれが発覚する前に約束をあいつに持ち出したんだ」

 

 ISは女性にしか扱えない―――この要素があったから千冬姉は束さんとそんな約束をした。その約束さえ履行させれば束さんは決して破ることはない。

 束さんにとって千冬姉は全て。そんな千冬姉が自ら命を絶つことなど絶対に許さないし、そんな状況にも絶対にさせないだろう。

 でも事態は急変した―――俺がISを起動してしまった。

 

「お前がISを動かした時は……絶望したよ」

 

 入試会場で俺がISを動かした瞬間を見た千冬姉の顔はまさに絶望といった表情だった。

 なんせ絶対に負けることがない勝負だと思っていたのに負けてしまうかもしれないというものに変わってしまったんだから。

 だから入試の日に千冬姉は無理やり休みを入れ、俺を送迎しようとした。

 あらゆる可能性を排除するために。

 

「対してあいつは狂喜乱舞したことだろう。勝てるかもしれない、という勝負に変わったんだからな。だから倉持技研から白式をもらい受け、完成させた……お前とISをより密接な関係で結ぶためにな」

「……でも千冬姉はそれを阻止しようと白式を隠した」

 

 セシリアとの模擬戦の際に専用機のことを言わなかったのも、当日まで稼働訓練を許可しなかったのも全ては白式を俺から切り離すため。

 専用機を持っていれば常に俺とISは交点を生んでしまう。つまり束さんの独壇場となるだけではなく、IS学園が彼女の狩場になってしまう。

 

「じゃ、じゃあクラス対抗戦の乱入者も」

「あいつだ。無人機などというまだ見ぬ技術を作れるやつは一人しかいない」

 

 実際に千冬姉はIS学園が束さんの狩場になってしまったことを目の当たりにしたから今まで以上に俺への束縛を強くした。

 つまり千冬姉は最初から最後まで俺を守るために行動してくれていたという事―――たった一人で。

 そう考えると今までの俺の行動がすべて千冬姉に反旗を翻すものとなり、激しい後悔が俺を襲いかかり、涙が勝手に出てきてしまう。

 

「俺はっ……俺はやっぱり千冬姉に迷惑しかかけてないじゃねえか! 俺はっっ! 俺はっ!」

 

 ―――俺が千冬姉の言うことを受け入れていれば

 

 ―――俺が千冬姉に楯突かなければ

 

 ―――俺があの時、ISを触らなければ

 

 ―――俺があの日、千冬姉の送り迎えを待っていれば

 

 ―――俺が生まれなければ

 

 千冬姉を永遠の苦しみで縛ることも無ければ、千冬姉の人生を消費することも無く、今頃千冬姉は今以上に幸せになっていたはず。

 でもその幸せを俺が奪った。

 

「バカ者が」

 

 千冬姉は呆れ気味にそう言いながら俺を優しく抱きしめてくれる。

 

「お前、今自分が生まれてこなかったら、と思ったな?」

「……そうだよ」

「それは間違いだ」

「でもっ……俺は」

「お前が生まれて来てくれたから今の私があるんだ……お前がいなければ今の地位はない。お前がいなければ一度も笑顔を見せない冷たい機械のような人間になっていただろう」

「……」

「でもお前がいてくれた。お前がいたから私はブリュンヒルデなどという薄ら寒い称号を手に入れた……毎年、ガキどもに騒がれることになった」

「……全部迷惑かけてるじゃん」

「ふっ、そうだな……だがな、一夏……お前がいてくれたから私は人間になれたんだ」

 

 俺を抱きしめてくれる力が強くなる―――千冬姉は抱きしめながら俺の頭を優しく撫でる。

 

「お前の成長を見届けることが何より幸せだった……そしてそれは今もだ。こうして真実を話せるほどにお前は強く成長してくれた。私の何よりの幸せだ」

「千冬姉っ!」

 

 俺の瞳からはとめどなく涙が溢れる―――千冬姉には全てにおいて敵わない。だからこそ千冬姉が心配せずに生きていけるように俺は強くならなくちゃいけない。

 たとえ束さんから殺されそうになってもそれを追い払えるくらいに。

 

「千冬姉……俺はもっと強くなる」

「ほぅ。どこまでだ?」

「千冬姉が俺を心配しなくなるくらいに……千冬姉を守れるくらいに……みんなを守れるくらいに」

「なら泣いている暇ではないな」

「あぁ……もう泣かねえ。これから先、何があっても俺は泣かないし、立ち止まらない」

 

 千冬姉は俺の決意の言葉にふっと小さく笑みを浮かべると頭を優しく撫でてくれる。

 

「やってみせろ。私の弟ならな」

「あぁ、もちろん!」

 

 俺は手を伸ばせない代わりに笑顔を浮かべる―――泣くのは今日が最後。千冬姉に迷惑をかけるのも心配させるのも今日が最後だ。

 千冬姉を心配させず、自分の人生を生きてもらう。その為に俺の次なる目標は決まった。

 有耶無耶になった学年最強の座をもう一度しっかりと手に入れ、そして学園最強を目指す。

 それを達成できないようじゃ俺は千冬姉をいつまでも心配かけさせてしまう。

 

「まずは両手を治せ」

「それもそうだ」

 

 冗談を言い合いながら俺達は久しぶりに同じ部屋で眠りについた。

 

 

 

 

――――――☆――――――

「ん~……」

 

 誰も知らない場所で世界の大天才、篠ノ乃束は不思議そうな顔を浮かべながらスマホの画面をかれこれ2時間は眺めつづけていた。

 どうやら何かを待っているようだがうんともすんとも言わない。

 

「おっかしいな~。箒ちゃんから電話が来ないぞ? 箒ちゃんのことだから力が欲しくなって『姉さん、専用機が欲しい』ってお願いしてくると思ったのにな~」

 

 箒の声真似をしながらスマホを今一度見てみるが何の通知も無い。まるで用済みと言わんばかりに束はそのスマホを机の上に放り投げるとクルクルと回りだす。

 今の彼女には暇をつぶせるものはない。つい3時間ほど前にとあるものを作っていたとある場所をきれいさっぱり大掃除を完了させた。

 そして束の予定では自分のもとに妹の箒から連絡が来る予定―――だった。

 

「ん~……ちーちゃんに続いて箒ちゃんも……あの醜い塊はいったいどこまで束さんの邪魔をすれば気が済むのかなぁ……なんのためにあのばっちぃISを完成させたと思うの~。ばっちぃすぎて束さん、何回も吐いちゃったのに苦労が水の泡だよ~」

 

 自分の目的である織斑一夏の抹殺を遂行しやすくするためだけに束は欠陥機も良いところの白式を引き取り、完成まで導いた。

 もちろん殺しやすくするための細工は幾つも施した―――しかし、それらは陽の目を見ることなく今日まで来てしまった。

 恐らく彼の手元に届く前にワンクッションを置いたせいもあるだろうが束にとってはもうイライラする種でしかなかった。

 

「ちーちゃんとの約束でISが絡んでないとあいつを殺せない……毒で殺そうとしても何故か生きてるし」

 

 思い出すのはあの未知の毒物を使用した時の戦闘シーン。乱入させたISの映像はリアルタイムで束のもとへと送られていたがあそこで全てが終わるはずだった。

 しかし、搭載した記憶の無い機能からの一撃でお手製のISは破壊され、別プランで考えていた一撃で毒物を注入できたと思えば生き返る始末。

 

「乱入が上手くいくのはあの一回こっきりだろうしな~……狩場のセキュリティーも……あ、そっか」

 

 束は何かを思いついたのか空間にディスプレイを投影させ、そこに考えを纏めていく。

 

「今までIS学園を狩場って考えていたけどあそこはちーちゃんがいる場所。ちーちゃんがいる以上、あの醜い肉塊を守る術はいっぱいあるよね」

 

 束の頭の中にあるロードマップを修正していき、新たな計画を立てていく―――そのゴールはもちろんあの醜い肉塊の抹殺である。

 

「じゃあ、守る術が届かない場所でヤろうか……でも外だとISが関われる場所がね~」

 

 束はもう片方の手の傍にディスプレイを映し出し、操作していく―――するとモニターにIS学園の公表されていないはずの行事計画書が映し出される。

 

「臨海学校か~……良いんじゃない? ここなら箒ちゃんにあれを渡せるし、醜い肉塊を守る術も多少なりとも薄くなるよね。よしよし……じゃ、とりあえずご主人のところに君を送るとしよう」

 

 束がそう言いながら足を後ろへと引いた瞬間、現れたディスプレイに踵があたり、何かしらの許可ボタンが押されて後方にライトがあてられる。

 そこにはいくつものケーブルに接続された箒のためだけのオンリーワンにして最強のISが鎮座している。

 その名は―――

 

「ね、紅椿」

 

 

 

――――――☆――――――

 数日後のある日の朝礼前、ようやく二枚の三角巾が外れ、腕の調子を確認しながら俺は教室にいた。

 ついこの間に転入してきたシャルも教室のメンバーとして受け入れられ、楽しく過ごしているようだったが俺が気になるのはラウラ。

 あの一件から今日まで欠席。事情聴取や治療もあるんだろうがやはり彼女の本当の姿を知っている身としては不安だ。

 

「ラウラが心配?」

「シャル……まあな」

「まぁ、例の件は明らかにただの事象ではありませんし、事情聴取も長引くでしょう」

「緘口令が敷かれているのもそうなのだろう。我々が関与できる問題ではない」

 

 箒の言うとおり、あの決勝戦はトップシークレットとなり、あの場にいた来賓や生徒含めた全員が誓約書を書かされ、さらに動画も一切公表されていない。

 分かることはISを取り巻く環境というものは単純な物じゃないという事。

 

「?」

 

 その時、教室が一気に静まり返ったので周囲を見渡してみると全員の視線が教室の入り口に注がれているので俺も皆に習って入り口を見ると数日ぶりにラウラの姿があった。

 どうやらまだ右手を負傷しているのかコルセットのようなもので腕を固定し、動かないようにしている。

 そして俺のことを見つけるや否やまっすぐ俺のもとへとラウラは向かってくる。

 

「お、おはよう。怪我は大丈夫なのか?」

「あ、あぁ……肩の脱臼はもう治っている……そ、その……」

 

 何やらラウラは恥ずかしそうにモジモジとしている―――俺からすればどうと無い光景なんだが周りの皆からすれば目を見開くほどの光景らしい。

 それもそうか。なんせ転入初日から一切感情を見せず、顔には冷たい何かを張っていたんだ。

 そんな彼女が感情を表現するなど驚き桃の木山椒の木、だろう。

 

『――――――っっっ!?』

「ん?」

 

 直後、俺の視界が真っ黒に染まる―――数秒して周囲から悲鳴にならない悲鳴が漏れ出し、遅れて俺はラウラに抱きしめられているのだと理解した。

 数秒間、俺のことを抱きしめたラウラは少しして離れると顔を真っ赤に染め、俺に指を突き立てる。

 

「お、お前の求愛を受諾した! あ、あのときの求愛の答えが……こ、これが私の答えだ! きょ、今日からす、末永くよろしく頼むぞ! 旦那様!」

「……は?」

「そ、その……に、日本では男が女を抱きしめるのは……あ、愛情表現であると同時にか、家族契約のことだと隊の部下から聞いたのだ!」

「それは―――」

 

 俺は弁明しようとした瞬間、いくつかの手に肩をトントンと叩かれる―――というよりもどちらかというと殴られるといった方がいい強さだった。

 ギギギッ、とさび付いた音を立てながら後ろを振り返ると何故か4人の憎しみの炎に包まれている存在がそこにはあった。

 一人目は日本刀を構えた鬼。

 二人目は葉巻を口に咥え、様々な修羅場を潜り抜けてきた老齢の凄腕戦闘系執事(コンバット・バトラー)

 三人目は真っ赤な血の色に染まり、口から業火の炎を吹く伝説の龍。

 そして最後は狼のような獣がそこにいた。確か18世紀ごろのフランス人を恐怖させたというジェヴォーダンの獣という伝説があったはず。

 

「え、えっと……み、みんな? なんか炎が見えるんだけど」

「ほぅ。貴様でも見えるか……我々の炎が」

「流石は一夏さん……ではそこにお座りになってくださいな」

「あんたに拒否権ないから」

「あ、もちろん正座だよ?」

 

 その後、山田先生が朝礼に来るまでの30分間、俺は教室の固い床に正座をしながら弁明をするのであった。

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