Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第四十七話

 コンテナの中にたたずんでいる真紅の装甲は太陽の光を反射して美しく輝いており、全員が作業の手を止めてその美しさに息を吞んだ。

 箒の戦闘形式に合わせているのか武装らしい武装は腰に左右一本ずつの日本刀型ブレードしかない。

 ただ俺はその真紅の装甲を見た時から胸騒ぎを覚えていた。

 

「これぞ世界最強にしてオンリーワンの性能を誇り、箒ちゃんのためだけの専用機! その名も【紅椿】! 現行のISの全てのスペックを上回る世界最強のISだよ!」

 

 束さんはニコニコと笑みを浮かべながら高らかに宣言するがそれはすなわちヤバい状況の宣言でもある。

 それを示すように代表候補生の皆の表情はかなり険しいものになっており、特に鈴やセシリアなんかの専用機持ちの表情はもっと険しい。

 

「さあ、箒ちゃん! フィッティングとパーソナライズをやっちゃおう!」

「お、押さないでください」

 

 束さんがリモコンを押すと紅椿が箒を迎えるように装甲を開き、膝まづく。

 そこに束さんに押されて箒が乗り込むと真紅の装甲が箒を包み込み、束さんの周囲にいくつものウィンドウが表示されてデータの羅列が始まる。

 ウィンドウは六つ表示されているが束さんはその全てを目で追いかけ、常人には理解不能な速さで指を走らせていく。

 

「箒ちゃんのデータは先行して入れてあるから何もしなくても大丈夫。服を着てる感じでしょ?」

「……そうですね」

 

 箒もあまりの違和感のなさに驚いているのかさっきから紅椿の装甲を見たり、手を動かしたりしているがどこか不安な表情を浮かべている。

 その時、背中を小突かれ振り返ると鈴が手招きしており、ラウラたちが集まっている場所へ向かう。

 

「旦那様、あれはまさか」

「うん。箒のお姉さんにしてISの生みの親、篠ノ乃束さん」

「あ、あのお方が……」

「ただあの人、千冬姉と箒としかコミュニケーション取らないから近づかない方がいい」

「あんたさっき殺されかけてなかった?」

「ま、まあ色々と……千冬姉の弟の俺でさえあれなんだ……見ず知らずの人間が近づいたらそれはもう」

 

 その後の光景は想像が出来ない。

 それこそ目を覆いたくなるほどに凄惨な光景が広がり、二度とこの宿を使うことはできないだろう。

 

「ねぇ、ち~ちゃ~ん。有象無象がうざいよ~」

「お前が派手にやるからだ……他の生徒達は作業を続行しろ!」

 

 千冬姉の一喝により再びみんなは作業を開始するが俺のすぐ傍を通っていった何人かの声が聞こえ、俺の胸騒ぎはさらに強くなる。

 妹だから専用機を貰えるなんて贔屓すぎる、とか特別扱いすぎる、とか様々な不満の声が聞こえた。

 この時代、専用機を持つということは今を生きる女子なら誰しもが憧れることであり、それだけで女子のステータスになること。

 それを手に入れるには血のにじむ努力では物足りないと言われるほどの努力が必要なのに箒はそれもせずにあまつさえ代表候補生でもないのに貰えるとなればお察しだ。

 

「とにかく旦那様。今は箒の傍にいたほうがいい」

「へ? 俺が?」

「変なところで唐変木なのも一夏の良いところだけど」

「んん?」

 

 シャルとラウラに背中をグイグイ押近すぎず・遠すぎずな位置まで押される。

 パチッと箒と目が合うと力強く頷かれる。

 

「一夏、大丈夫だ」

「え? あ、あぁ……」

「そんな不安そうな顔をするな……お前は私が守る。あの人には絶対に手を出させない」

 

 多分、箒は千冬姉と同じように束さんから俺を守るために敢えて近い場所にいるようにしたんだ。

 だから束さんからの専用機のプレゼントを受け取った。

 

「周りが何と言おうが関係ない」

 

 恐らく紅椿のハイパーセンサーで周囲の不満の声を拾っていたんだろう。でも箒はそんなもの本当に気にも留めていないのか晴れやかな表情でそういう。

 

「お待たせ~。全部終わったよ~」

 

 そんな束さんの声が聞こえると同時に紅椿に接続されていたケーブル類が全て解除され、カシュッという空気が抜ける音が聞こえる。

 全ての工程が完了した紅椿は正真正銘、箒の専用機となった。

 

「じゃあ試しに飛んでみてよ。箒ちゃんの想いのままに紅椿は動くから」

 

 箒は集中し、瞳を閉じる―――そしてカッと目を開いた瞬間、紅椿が一瞬にして上空へと飛翔し、発生した衝撃の余波が地上に降り注ぐ。

 肉眼ではとらえきれず、白式のハイパーセンサーの通知によってようやく箒の居場所を把握した時にはもう上空200メートルほどの位置にいた。

 

(俺の白式のスラスター全基稼働くらいと同じ速さを一瞬で出すのか)

 

 紅椿を纏った箒は上空を縦横無尽に飛び回り、その性能を把握する。

 その動きの速さは圧倒的で現行ISの全てのスペックを上回っているという話は本当なんだろうとようやく実感することが出来た。

 

『じゃあ、武器使ってみようか。武器データ送るよん♪』

 

 オープン・チャネルを通して束さんの声が俺の耳にも入ってくる。

 

『右が雨月。左が空裂。雨月は打突に合わせて刃部分からエネルギー刃を連続で放つよ。アサルトライフル程度の間合いだけど紅椿の機動性をもってすれば全距離対応可能だよ』

 

 箒は右腕を左肩まで持っていき、打突を行う構えを見せる―――すると周囲の空間に赤い光球が展開され、そして勢いよく打突を放つとそれに合わせてレーザーとなって放たれていく。

 一瞬にして漂っていた雲の塊を穴だらけにする。

 その威力は明らかにセシリアのレーザーライフルよりも早く、威力が高いのが伺える。

 

『空裂は斬撃に合わせて帯状の攻性エネルギーを放つよ。振った範囲に自動で放つから超便利。だからこんな感じにミサイル撃たれてもなんのその!』

 

 束さんの言葉の直後、箒の前方に16連装のミサイルポッドが展開され、容赦なく全弾が発射される―――でも箒は慌てず右脇下に構えた空裂を一回転するように振るう。

 帯状に先程の赤いレーザーが展開され、一気に放たれるとミサイル全弾をあっという間に撃墜してしまう。

 あの高威力の攻撃を刀を振るうという簡単な動作だけで行うヤバさは無知の俺でも激やばなことは理解できるし、それが及ぼす影響も分かる。

 その圧倒的なスペックを前にして千冬姉の表情はかなり険しいものだった。

 それは俺も同じ―――ないとは思う。ないとは思いたいけどこの人は俺を殺すために何かを紅椿に仕込んでいるんじゃないかと。

 

『この紅椿なら……できる』

「……箒」

「これが紅椿の性能の一端だよん♪ほかにも色々ビックリおったまげるような性能が盛りだくさん……もしかしたらどこかの醜い肉塊がミンチになるかもね~」

 

 ニヤリとしながら束さんは俺の方を見る―――直後に凄まじい爆風が吹き荒れ、俺達の間を割くようにして雨月が差し込まれる。

 割って入った箒はゆっくりと切っ先を束さんに向ける。

 

「姉さん。それ以上一夏に近づかないでください」

「や~ん! 箒ちゃんのクールで厳しい目つきも好き!」

 

 箒の凄みも何のそのどこ吹く風な束さんはくねくねと体を動かし、頬を赤らめる。

 

「私は姉さんの思い通りにはなりません」

「ふふっ。本当にそうかな? 得てして人が考えるものには限界があり、現実は限界を超えて起こるもの……らしいからね~。箒ちゃんが考えていることよりも上で起こるかもね~」

 

 束さんはルンルンと周囲に音符をまき散らすかのように上機嫌にクルクルと回る。

 そのあまりの上機嫌さに千冬姉も箒も不安の色を隠せない。

 

「さあ、紅椿のオンステージはここからだよん♪」

 

 束さんがそう言いながら指をパチンとならしたと同時に奥の方からタブレット端末を持った山田先生が顔を真っ青にして千冬姉の傍へ駆け寄る。

 そして千冬姉もタブレット端末をのぞき込むや否や顔を一気にしかめる。

 すると二人は言葉を発さずに軍関係の暗号手話の様な特殊な手話を使ってコミュニケーションを取り始め、山田先生が脱兎の勢いでこの場を離れる。

 

「全員注目!」

 

 千冬姉の一喝に全員が作業を止めて前を向く。

 

「現時点よりIS学園教員は特殊任務行動をとることとなる! データ取りはすべて中止とし、諸君ら一般生徒は速やかに自室で待機!」

「と、特殊任務行動ってなに?」

「状況が分かんないんだけど」

「つべこべ言わずに動け! これ以降行動しているものがいれば教員が拘束する!」

 

 その瞬間、ただ事じゃないとようやく全員が理解したのかデータ取りに使用していた全ての機材や装備を片付け始め、全員が宿の自室へと戻っていく。

 尋常じゃない雰囲気の中、俺はただ茫然としていた。

 

(……絶対にたまたまじゃない)

 

 こんな非常事態がポンポンと起こるほど日本は物騒じゃないと思いたい。

 でも一つ言えることはこの非常事態が起きた遠因は俺の存在であり、これを引き起こした主犯格は十中八九束さんだろう。

 それも全て俺を殺すためだけに無関係の人を巻き込んで。

 

(束さんは俺を殺すためだけに今回のことを引き起こしたのだとしたら……俺はっ)

 

 ギューッと視界が狭まってきて息苦しさを感じ始める。

 恐らく千冬姉は俺のせいじゃないと言ってくれるだろうし、俺も束さんを追い払えるくらいに強くなると覚悟を決めたばかりだ。

 でも―――それでも目の前で無関係の人が巻き込まれる状況を目の当たりにすると厳しいものがある。

 その時、頭の中で広がっていた嫌な結びつきが全て頭に乗せられた手で払われる。

 

「一夏……行くぞ。時間だ」

「千冬姉……」

「お前の考えていることはすぐに分かる……今はお前の力が必要だ」

「……あぁ、行くよ」

 

 俺は一度、大きく深呼吸をして空を見上げる。

 この状況がたまたま引き起こされたのか、それとも必然に起こるものだったのかはともかく、今はこの状況を鎮めることを最優先に考えるしかない。

 強くなると決めたんだ―――覚悟を決めろ、俺。

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