Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第三話

「……はぁ」

 

 終礼が終わって1時間ほどが経過した放課後、俺は教室に一人残って今日の授業の復習をしていた。

 今しがた復習が終わったのだがISの単語が全く分からず、調べようにも理解していて当然の授業構成なので知識ゼロの俺にとっては苦痛以外の何物でもなかった。

 

「大変なことになったな~」

 

 一週間後、俺は代表候補生のセシリアと模擬戦を行うことになった。

 経験者同士が一週間の調整期間後に戦うのはフェアといえるだろうが全くのド素人が一週間調整したところで経験者には勝てない。

 良くて善戦、ヤバくて見るも無残な一方的な殺戮ショーだ。

 

「あの一票……箒なんだろうな」

 

 多分―――多分、箒は俺の幼馴染がバカにされているあの状況に我慢ならなかったんだろう。こんなにも味方してくれて応援してくれるのは箒くらいなものだろう。

 肝心の箒といえばあの投票の後、俺を避けるかのように距離を開け、放課後になると荷物を持ってそそくさと俺の顔も見ずにどこかへといってしまった。

 

「……箒に会いに行こう」

 

 俺は荷物もそのままに教室を出て箒を探しに無駄に広い学園の敷地内を回ることにした。

 実践形式の行事や授業などで使用されるアリーナ―――放課後の鍛錬に勤しむ上級生しかおらず、危うく囲まれかけたので慌てて脱出。

 続いてIS学園きっての頭脳派集団である整備室―――ここにももちろん箒の姿はなく、電動ドリルの音と眠気覚ましのエナジードリンクの空き缶の山を前に退散。

 三番目に訪れたのは各部活の施設が入っている部活棟。様々な部活の上級生に絡まれながらも華麗にかわし、俺は剣道場の前に立っていた。

 

「ここだろう……ここしかないだろう」

 

 新入生は部活動の所属は既に許可が下りており、一応公式には明日から各クラブ団体による新入生歓迎という名の勘誘会が始まる。

 剣道場のドアを開けようと手を伸ばした時、自動ドアと勘違いするほどにスムーズに扉が開き、目の前に俺が探し求めていた箒が立っていた。

 どうやら竹刀を振り、少し汗を流したのか少し首の辺りが艶っぽい。

 

「い、い、い、い、い、一夏ぁ!?」

「おう。部活終わりにすまん」

「す、すまないが次の用事が」

「ちょっ待てよ」

「っっっ!」

 

 箒が相も変わらず俺を避けようとそばを通り抜けようとするので手を掴んでそれを止める―――すると一気に箒の顔が真っ赤に染まりあがる。

 

「だ、大丈夫か? 顔、赤いぞ」

「だ、大丈夫だ! そ、それで用事は何だ」

「ちょっと話したいなって」

「わ、分かった……すぐにシャワーを浴びてくるからそこで待っていろ!」

「おう――――――ってはや」

 

 俺が返事をするよりも前に箒は俺に荷物を預けると部活棟のシャワールームへと駆けこんでいく。言い表すならギャグマンガで足が円状に回転しながら走っているあんな感じだ。

 

「……箒の竹刀」

 

 これでも俺は県道で全国大会に出場できるほどの実力があった。過去形なのは受験期に入ってからは土日は全て検定試験の受験に注いでいたし、放課後も教室に残って勉強していた。

 でも竹刀の素振りだけは毎日欠かさなかった。

 

「ふっ……はっ」

 

 受験期に入って手放したものは沢山あった―――でも剣道だけは手放さなかった。

 小学校時代に箒が転校して以来、俺には友人というものは一人しか残らなかった―――少ししてもう一人できたけどそれまではそいつしかいなかった。

 女子からは何故か千冬姉の連絡先を教えてくれだの秘密を教えてくれだのと千冬姉がらみでしか関りが無かったし、それを見た男子から嫉妬されて総スカンを喰らう始末。

 でも何故だか竹刀を振るっている時だけはそう言ったしがらみから解放されている気分だった。

 

(竹刀を振るっている時は箒と繋がれている気がしたんだよな)

 

 だから箒がISが出たことで転校してからはより一層練習に打ち込んだ。あの時の俺は寂しかったんだろう。ようやくできた初めての友達がすぐに消えてしまった。

 剣道をしていれば箒にも会えるんじゃないかって。

 その当時から色々なことを千冬姉に何故か制限されていたけど剣道だけは許してくれた。

 

「うむ。感覚は鈍っていないようだな」

「うぉっ!? びっくりした……いつの間にいたんだ?」

「お前が竹刀を振り出した時からだ……その様子だと素振りは続けていたみたいだな」

「おう!」

「で、話とは何だ」

「ん、あぁ……歩きながらしようぜ」

 

 部活棟を出て箒とゆっくり歩きながら―――どこを目的地にするわけでもなく夕日に明るく照らされている学園内を適当にブラブラと歩き回る。

 

「あの時、俺に投票したの箒……だよな?」

 

 唐突にそう尋ねると箒は肩をビクッと震わし、歩みを止める―――もうその反応だけで答えを言っているようなものだ。俺達の間に少しの沈黙が流れる。

 

「どうして俺に投票してくれたんだ」

「……我慢ならなかったんだ」

「え?」

「わ、わ、私のた、……大切な幼馴染がどこの馬の骨とも知らないやつに馬鹿にされるのが我慢ならなかったんだ! 本当なら私がこの手で鉄拳制裁を加えてやりたいくらいだ! だが……だが私は……私は」

「うぇぇ!? ど、どうしたんだよ箒!」

 

 突然、体を震わしたかと思えばポロポロと涙をこぼし始める箒。俺は慌てて何か拭くものをとポケットを探すが生憎ハンカチを貸せるほど紳士的ではなかった。

 あんなに気高くて精神的にも強い箒が泣くとは思ってもいなかった。

 

「私は……ISが嫌いだ」

「え?」

「こんな世界に変えてしまったISが嫌いだ……ISが無かったら私は……もっと……お前と」

「っっ」

 

 顔を上げた箒と目が合った瞬間、その美しさに何も言えなくなってしまった。

 透き通った瞳は涙で潤ったことでより透明さを獲得し、それが夕日に照らされたことで美しく―――それは言葉を失うくらいに美しく輝いて見えた。

 

「私は愚かだ……自分がISを乗るのが嫌だから名誉挽回のチャンスを与えさせるなどという身勝手な理由でお前に投票したんだ……すまない、一夏」

 

 箒は涙をぬぐいながら俺に謝罪の言葉を述べ、頭を深々と下げる。

 ここまでされて何を言うべきか、この後どんな行動を取ればいいのか分からないほど男は腐っちゃいない。

 

「顔を上げてくれよ、箒」

「……」

「決めたぞ……俺はセシリアに勝つ」

「……一夏」

「セシリアに勝って俺の実力を見せつけてやる……んでもって箒の投票は間違ってなかったってお前に見せつけてやるよ」

「一夏っ」

「よーし! 俄然やる気が出てきたぞ!」

「ふふっ……まずは実践の勘を取り戻さなくてはな」

「そうだな……明日から付き合ってくれ」

「はぁぁぁ~!」

「「っっっっ!」」

 

 突然、俺達のどれでもない声が聞こえ、そちらの方を振り返ると後方で俺の荷物を持った山田先生が今にも蕩けそうな表情をして惚けていた。

 

「いいな~、羨ましいな~、私もこんな青春時代を送りたかったな~」

「や、山田先生!? い、いったいいつからそこに」

「篠ノ乃さんが泣き始めた頃からくらいですかね?」

「う」

「「う?」」

「うおぉぉぉぉぉぉっぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 突然、凄まじい雄叫びをあげて箒は竹刀を振り回しながらどこかへと走っていってしまった。

 去り際の表情を見る限り、泣いてはいたけど別の意味で涙を流していたので良しとしよう。

 

「で、山田先生は何用で?」

「あ、そうでした! 織斑君の寮の部屋が決まりましたよ!」

「……へ?」

 

 IS学園はいわば各国の国家的財産ともいえるIS操縦者の卵が集まる場所。若い頃から企業や良からぬ思惑を持つ悪い大人たちから守るためにも学園は全寮制を敷いている。

 が、それはあくまで女子たちの話しであって男子の俺は別だ。なんせ女子だらけの寮に男を突っ込むわけにもいかないのだ。

 でもまさか入学初日に決まるとは思ってもいなかった。

 

「俺、寮に住めるんですか? 当分は自衛隊の警護下のホテルから通うっていう話じゃ」

「そうだったんですけど政府からの特命で寮に入ることを最優先させたみたいなんです。外は怖~い人たちがいっぱいいますからね~」

「はぁ……まぁ、有難いですけど……あ、でも俺荷物何もないですよ?」

「あ、そこは大丈夫です。とりあえずこれ、織斑君の部屋の鍵になるのでお渡ししますね」

 

 そう言われ、渡された鍵につけられているタグにL0101と刻印されている。山田先生は鍵を俺に渡すと会議があるからといって足早に職員棟へと向かって行った。

 とりあえず俺は山田先生から預かった鍵と自分の荷物を持って学生寮へと向かう。

 

「寮ってどんなところなんだろ」

 

 数メートルほど歩いたところで生徒寮に辿り着き、中へと入る。

 各国からの資金援助や血税が大量に投資されていることもあり、そこらの一流ホテルと同じ、いやそれ以上の豪華絢爛な造りをしていた。

 まずエントランスは自動ドアであり、開くには網膜チェックと指紋チェックの生態認証ダブルチェックをクリアしなければ入れない。

 それをクリアして中に入ると大理石のエントランスが少し続き、階段を上って上へと上がるともう内装はまさにホテルと同じだった。

 

「ここ本当に学生寮か? ホテルじゃねえの?」

 

 そんなことを呟きながらL0101の部屋番号を探す。だが不思議なことに続いている番号は皆、11や12から始まる数字のみの部屋番号でローマ字が使われている部屋は見当たらない。

 

「あれ? 階、間違えたか?」

 

 ずっと長く続く廊下を歩いているとやがては角部屋付近まで来てしまった―――そこでようやく目的の部屋番号を見つけたがこれまでの謎が解決した―――気がする。

 

「L0101のLってまさかLeaderのLか? ま、まさかな」

 

 恐らく0101は1年1組を表しているのだろう―――だとするとこれまで見てきた番号は学年とクラス、そして出席番号を表しているのだろう。

 ということはLは指導者のL。すると俺の部屋は――――――

 

「遅かったな。入れ」

 

 ドアを開ける間でもなく察知していたかのようにドアが開き、当然の様にスーツ姿の千冬姉が顔を覗かせた。

 

(ですよねー)

 

 俺は心の中で半分、泣きそうになりながら部屋へと入った。

 嫌ではない―――嫌ではないんだけど少し一人部屋で事実上の一人暮らしができるということを考えていたので少し、いやかなりワクワクしていたのだ。

 

「俺の部屋は千冬姉と同じ……だよな?」

「そうだ。どこの馬の骨とも知らないやつと同部屋にするわけにはいかないからな」

「ふ~ん……ん?」

 

 部屋に入ってすぐ仕事用のデスクが置かれているのが見えたんだけど何故かそのデスクの端の方が何かを無理やり取り外したかのようにべりべりと抉れており、穴が開いている。

 

「机、穴空いてるけど」

「気のせいだ」

「そっか……床に下着や服が散乱してるんだけど」

「気のせいだ」

「そうだよな……俺の荷物が最低限あるのは」

「気のせいだ」

「そうだよな……床に紐で縛られて俺の名前が書かれている受領書が挟んでる教科書とか俺の名前が書かれた入学前課題が置かれるんだけど」

「……気のせいだ」

 

 そう言いながら千冬姉は軽く蹴りを入れてベッドの下に押し込んだ。

 

「いやいや! もうバレてるから……何で千冬姉の部屋に俺の課題とか教科書があるんだよ」

「家に帰ってお前に渡そうとしたんだが何分、入学式や新入生の仕事が立て込んでいてな」

「確かに年度末は帰ってこなかったけどさ……教科書、貰うけどいいよな?」

「…………良いぞ」

「え? 何今の溜め」

「なんでもない……少し電話で外に出る。あまり私の机の引き出しは触るなよ」

「触らないよ」

 

 そう言い、千冬姉はスマホを片手に室外へと出ていった。

 一人になった俺は千冬姉のベッドの下から教科書の束を引っ張り出し、ベッドに腰を下ろして早速ノートを開き、教科書と照らし合わせながら復習に取り掛かった。

 

 

 

――――――☆――――――

「はぁ~……よく内線機器をデスクから外せましたね。あれってデスクに埋め込み式のはずじゃ」

「人に不可能なことは何もないのだよ、山田先生」

「そうなんですね~……あ、それと織斑君の専用機のことなんですけどこっちで進めて」

「ダメだ。全て私が引き受ける」

「あ、そうですか……あと、倉持技研からは織斑君の同席も要請されて」

「ダメだ。その要請は却下だ」

「ふ、ふぇぇぇ~」

「それとアリーナの使用願も私に回すように」

「あへぇぇ~」

 

 ことごとく却下されてしまうことに涙目を浮かべながらタブレットに×を入れていく真耶をよそに千冬は淡々と調整を進めていく。

 最終的に真耶は目を回してしまった。

 

「織斑の専用機については全て私管轄にするんだ。あと、倉持技研に言っておけ。織斑への連絡は一切取らせないし、どうしても取るのであれば私を通せと」

「は、はいぃぃ~」

 

 せかせかとタブレットに千冬からの調整案を打ち込んでいく真耶とは対照的に千冬は酷く冷たい目をしながらどこか遠くの方を見ていた。

 

(あいつにクラス代表はやらせない……そのために次に打つべき手は)

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