「では状況を説明する」
旅館の最奥に位置する大広間、風花の間において俺達専用機持ち6人と全学園関係者は目の前に設置された大型モニターに表示される情報に目を通す。
「二時間前、ハワイ沖にて試験運用状態だったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型軍用IS、『
淡々と話を進める千冬姉に対し、代表候補生の皆の表情は険しく、特に軍の隊長であるラウラのそれはまさに戦争前の兵士、ともいえる真剣な表情だった。
対して俺も箒も置いてけぼりを喰らっており、ISが暴走したという情報くらいしか呑み込めない。
というよりも何故、そんな情報を生徒の俺達に話すのかが分からない。
「学園上層部は当初、こちらへ増援を送る予定だったが諸般の都合によりそれが不可能と判断された。よって当該機に近い我々が対処することとなる」
「その諸般の都合というのは」
「機密事項だ」
ラウラの質問に千冬姉は一瞬で切り伏せる。
「衛星による追跡の結果、現在
暴走した軍用ISなんていうパワーワードに呆気に取られている俺の頭がさらに殴られた気分だ。
軍用ISなんて明らかに俺達が使用しているISよりも戦闘特化に調整されている機体だから搭載している武器も機体性能もそれに合わせたものになっている。
それに搭乗者だって軍関係者のはず。
「現在、この場にある装備はデータ取りを主目的にしたものだ。よって学園教員は訓練機を用いて作戦区域を封鎖する。ではこれより作戦会議を始める。質問があるものは」
「はい。当該機の詳細なデータを要求します」
「構わん。ただし口外はするな。軍事機密だ」
そう言われた直後、セシリアは強く頷く。
そして俺達の目の前にウィンドウが空間に投影され、そこに機体写真と軍から送られて来たであろう詳細なISのデータが表示される。
「広域殲滅を目的とした特殊射撃型……わたくしのISと同じようにオールレンジを行えるようですわね」
「攻撃と機動の両方を特化した機体ね。ほんと、軍用って感じなスペックね。叩いて殴って潰したら即離脱」
「この特殊武装が曲者って感じがするね。広域殲滅である以上、攻撃範囲も広い。一度の防御手段じゃ容易く貫通されちゃうね」
「しかもこのデータでは近接性能が未知数だ。偵察は出来ないのですか?」
「無理だ。当該機は今も超音速飛行中だ。アプローチは一度が限界だろう」
「じゃあ、それを上回る速度で接触し、なおかつ一撃で沈めるしかないのか」
ようやく整理がついた俺の発言に全員が頷く。
皆の専用機のスペックを思い出すが超音速飛行はともかく、一撃で沈めるほどの破壊力を出せる攻撃性能があるのは俺の零落白夜くらいだ。
「現在、専用機の中で最高速度を出せる機体はどれだ」
「それならわたくしのブルー・ティアーズが。ちょうど本国から強襲用高軌道パッケージ『ストライク・ガンナー』が送られてきています」
「でも一夏の方が早いんじゃないかな。ほら、ラウラとの戦闘の際に見せたあれ」
「織斑。
「え、えっと……」
「感覚でいい」
「あの時はスラスターから熱を感じてました」
「考えられるのはスラスターの使用時間であると考えられます。私との戦闘の際は10秒ほどの使用です」
「でもあれってエネルギー消費が激しいんじゃないの? どうなのよ」
「正直、零落白夜との併用は無理だと思う」
あの時は無我夢中だったから詳細は覚えていないがBoost・Timeを使用した時のエネルギー量はフル充填されている状態じゃなかった。
ダメージレベルも高かったから10秒程度しか使えなかったんだろうけど零落白夜との併用は無限のエネルギー量じゃないと多分無理だ。
「あの蒼い炎を出しながらの奴はどうなの? あれなら零落白夜と併用しなくても行けんじゃないの?」
「あれは……多分だけどかなりの距離がいると思う。トーナメントの時にも鎖で固定したくらいだし」
「僕も近くで見ていたけど確かにあれは距離がいると思うし、あの速度は瞬間移動って言ってもおかしくない速度だったよ。でも正直、あれについて行けるかと言われると無理かな」
「なおさら適任は私かと。超高感度ハイパーセンサーもあります」
「オルコット。超音速下での訓練時間は」
「20時間です」
千冬姉はこれまでに会議で出た意見を頭の中でまとめているのか目を閉じる―――だがすぐにまとまったのか目を開き、俺達の方をまっすぐ見る。
「作戦内容はこうだ。オルコットの超音速飛行により織斑を運び、銀の福音と接触と同時に零落白夜を用いて一撃のもと、鎮圧する」
「そんな不細工な作戦はち~ちゃんらしくないよ~」
この場の雰囲気に似合わなないお気楽な声が聞こえ、周囲を見渡すと天井の一枚がめくれており、そこから逆さ状態の束さんが頭だけを出している。
そして真っ逆さまに落ちた―――しかし、束さん目がけて千冬姉が瞬時に動き出し、鋭い回し蹴りを放つ。
あたる―――かと思えばクルリと空中で一回転し、降り立つ。
映画のワンシーンのような光景に俺は開いた口が塞がらなかった。
(頭脳だけじゃなくて身体能力もお化けだ)
「邪魔だ。消えろ」
「のんのん。怒っちゃダメだぞ♪」
「なんの様なんだ」
「そこら辺のガラクタよりも紅椿なら最高で理想的な作戦が展開できるの」
「お、お言葉ですがこの作戦での適任は私と一夏さんですわ」
セシリアの発言に束さんはリモコンを向けるとポチッと押した―――しかし、何かが起きる訳でもなくその行動に全員の頭上に?が浮かび上がる。
にへへっと笑みを浮かべるとともに今度はウィンドウに向けてボタンを押すとジジッというノイズが走り、画面分割されて隣に紅椿が映し出される。
「紅椿は第四世代型ISの目玉技術の展開装甲が全身にふんだんに使われているのだ!」
全員の目が点になる―――それもそうだ。今、世界はようやく第三世代型ISの初号実験機を生みだして運用を開始したばかりだ。
第三世代型ISは操縦者のイメージ・インターフェイスを利用した特殊兵器の実装が目標の機体であり、BT兵器や空間圧作用兵器、AICなど様々なものが開発されている。
ただそれらは全てトライアル段階であり、実用化にはまだほど遠い。
にも拘らずこの人はそれを余裕で飛び越えて第四世代型を作り出していた。
「第四世代型の目標はパッケージ換装を必要としない万能機。つまり外からゴミを付けなくてもこれ一機で攻撃・防御・機動と用途に応じて切り替えが可能なのだ♪」
今この瞬間に世界の努力は水の泡になったわけだ。
莫大なお金をつぎ込み、数えきれない人々の努力の結晶である第三世代型ISを飛び越えた―――いったいどれほどの国や人々を絶望させるんだろうか。
「それにしても海で暴走って言うと白騎士事件を思い出すね!」
その言葉に千冬姉はしまったという顔をする。
俺はその事件を知らない―――なのになぜか俺は白騎士という名前は知っているような気がするし、俺の脳裏に三途の川一歩手前で出会ったあの純白の騎士が思い浮かぶ。
「あの時は凄かったな~。ミサイルや軍艦、戦闘機をバッサバッサと叩き落したし、バルカンを受けても無傷! ほんと、私が愛するち~ちゃんは凄いよ!」
「もう黙れ」
何の前ぶりも無くタブレット端末が束さんの頭めがけて振り下ろされるが束さんは背後からの一撃を後ろに目でもあるかのように正確に回避する。
それも体を動かさずに頭だけをずらして。
「で、私に口答えしたそこの金髪」
「は、はい?」
「量子変換、終わってないよね」
「何を仰っていますの? 既に終わって」
セシリアはブルー・ティアーズのデータを空間投影し、状態を確認するが彼女の表情が一変し、他のメンバーも後ろからのぞき込む。
それとは打って変わって束さんはニコニコだ。
「オルコット、どうした」
「ストライク・ガンナーの状態が……ソフトウェアが削除されていますわ。あり得ませんわ……データ取りのためにすでに完了させていたはず」
パッケージを使用するにはまず、ISにソフトウェアをダウンロードする必要があり、それが完了してから武器の量子変換を行ってISに搭載する。
言ってみればPCから情報を送ってプリンターで印刷するために本体以外にもドライバをダウンロードしなければいけないようなもの―――とつい先日の予習で覚えた。
「そのソフトウェアはすぐに用意できるのか」
千冬姉の質問にセシリアは黙って首を横に振る。
千冬姉も俺も視線を元凶であろう束さんの方へと向けると束さんはにこやかにギャルピースを千冬姉に向けながらウインクを決める。
「ちなみに紅椿の最高速度なら醜い肉塊を乗せても余裕で追いつくよ」
「……調整は何分かかる」
「七分……いや、五分で終わらせるよ♪。ち~ちゃん、いいでしょ?」
この人のあまりの自分勝手な行動を目の当たりにして俺は沸々と怒りが込み上げてくる。
俺を殺すために大勢の無関係の人を巻き込み、あまつさえ自分の発明品を見せびらかすように卑劣な細工まで施した。
千冬姉も同じように怒りをあらわにするがすぐにそれを抑え、小さく息を吐く。
「本作戦は織斑・篠ノ乃の両名で行う。作戦内容は篠ノ乃が織斑を運搬。接敵時に零落白夜で落とす。各員直ちに準備にかかれ。他の専用機持ちは織斑のバックアップだ」
パンパンと千冬姉が手を叩くとすぐさま先生たちが動き出し、機材の準備に取り掛かる。
そして箒も束さんに連れられて大広間の端へと向かう。
「分かってると思うけど無茶は絶っっ対にダメだからね!」
「あぁ、もちろん……もう死にかけるのはごめんだ」
「旦那様。白式のエネルギーは?」
「満タンだ」
「一夏、相手のスペックは軍事機密もあって全部こっちに送られてない可能性があるよ。特に特殊装備とか近接性能は特に気を付けて」
「旦那様は剣をすぐに捨てる癖があるからな」
それもこれもじゃじゃ馬だった頃の雪片弐型の影響だろう。
今では自由に俺の意思で使えるようになった零落白夜も最初の時は触れるだけで強制発動してエネルギーを無駄に消費していた。
その影響で近接格闘に傾倒していったわけだけど今回は雪片弐型に頼るしかない。
「一夏、分かってると思うけど接敵時の一撃が勝負よ」
「超高速戦闘時に雪片弐型を使用されたことはありますか?」
「それがないんだよな~」
「で、あればやり方は二つですわ。一つは雪片弐型を既に展開しておく。もう一つは」
「接敵の瞬間に雪片弐型を展開する、だね」
「あんたの技術的に絶対に前者ね」
「だよな……」
ただでさえBoost・Timeを使用した際の超高速移動時に壁に激突していたのに武器を持って、なおかつ軍事作戦で一発で成功させろと言われると流石に不安が強くなる。
この作戦が失敗に終われば何が起きるか分からない。
もしかしたら銀の福音がこの場所を襲撃して死人が出るかもしれないし、もしかしたら作戦要員の俺か箒のどちらかが重傷を負うかもしれない。
そんなことを考えていると肩に手が置かれ、振り返ると鈴が俺の両肩に手を置き、マッサージを始め、セシリアとシャルが俺の手を優しく解してくれる。
「あんた方に力入り過ぎ。そんなんじゃ失敗するわよ」
「そうだよ。こんな時こそリラックス」
「一夏さんならきっとできますわ」
今まで薄暗かった視界が一気に明るくなった気がした。
どうも今の俺はすぐにネガティブモードに入ってしまう。その原因は多分、俺を殺そうとしている張本人を前にしているからだろう。
でも俺は覚悟を決めたんだ―――束さんの脅威を追い払えるほどに強くなってみんなを守るって。
「ありがとう……みんな」