Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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ついに五十話突破しました。


第五十話

「やった!」

「次こそはやりましたわ!」

 

 旅館の大広間にて箒と一夏の作戦行動をリアルタイムで見守っていた全員が歓喜の声をあげるが千冬だけが未だに険しい顔をしている。

 タブレット端末に指を走らせ、送られてきた情報に目を通すが頭部から生える翼にエネルギー回復の機能は載っておらず、あるのは大型スラスターとしての役割と砲撃のみ。

 軍事機密と言ってしまえばそれまでだが一瞬だけみせた怪しい動きも彼女の中で引っかかっていた。

 

(一瞬だけみせたあの動き……まるで外側から誰かに強制的に回避行動をとらされたように見える)

 

 考えられるのは束が何かをしたことだがその当人は今、千冬の横にニコニコ笑みを浮かべながら座っており、その手には何も持っておらず、怪しい行動も見せていない。

 

「いや~、楽しいね、ち~ちゃん」

「……」

「紅椿の性能、見てくれたかな?」

 

 束の話を完全に無視しながら目の前のモニターに視線を戻す―――しかし、戻す際に端の方で赤く輝く二つの小さな光を捉え、千冬は愕然とする。

 気付かなかった―――大広間の端の方でうさぎが小さなウィンドウを前にして座っていることに。

 

(しまっ)

「さあ、第二幕と行こうか」

「っっ!」

 

 束のその一言の直後、うさぎが短い腕を高らかに上げ、勢いよくウィンドウを叩き割った。

 

 

 

――――――☆――――――

「aaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!」

「っ!? 今度は何だ!」

 

 行動を停止したはずの銀の福音から今度は重低音なマシンボイスが放たれ、まるで電流を浴びせられているかのように体を細かく痙攣させる。

 そして何かを抱きしめるように体をちぢこませた瞬間、頭部から生える一対のうち、輝きを失っていた翼に輝きが戻り、元に戻ると銀の福音を覆い隠すように翼が動き出す。

 翼に覆われた銀の福音はさながらサナギのように眉に包まれる格好となった。

 

「い、一体何が」

「箒……提案があるんだが」

「奇遇だな。私もだ」

 

 お互いに顔を合わせて頷くと銀の福音に背を向けてスラスターを吹かして離脱を図る―――しかし、次の瞬間に後方で何かが破裂したかのような爆音が鳴り響き、後ろが極大の輝きが放たれる。

 ゆっくりと互いに後ろを振り返ると太陽を背に三対の巨大な翼を生やし、搭乗者を守るためか装甲が搭乗者の全てを覆っており、姿が見えない。

 

「六枚の翼……大天使にでもなったつもりかよ」

「一夏、エネルギー残量は」

「二割」

『織斑、篠ノ乃。五分耐えろ、他の専用機持ちを―――』

 

 オープン・チャネルを通して千冬姉の声が聞こえる―――しかし、直後に体が後ろへと倒れていき、視界が銀色に輝く翼でいっぱいになる。

 頭を掴まれているということに気付いたのは数秒後だ。

 

「Lan♪」

「うぁっ!」

「一夏ー!」

 

 後ろへと大きく投げ飛ばされ、景色が目まぐるしく変わっていく中、体勢を何とか整えて海面に着地すると俺に向かって殴りかかってくる相手が見え、すぐさま離脱する。

 海面に銀の福音の拳が叩き付けられた瞬間、巨大な水柱が立ち上る。

 

(早すぎて見えなかった!)

「よくも!」

 

 箒が後方から切りかかる―――しかし、六枚の翼を羽ばたかせて後方宙返りを決めながら二刀流の一撃を回避した銀の福音は上空へと高く飛翔する。

 そして上空で六枚の翼を大きく広げた瞬間、白式のハイパーセンサーが相手が射撃体勢に入ったことを告げ、銀の福音のデータを表示する。

 

「っ!? 百八の砲門!?」

 

 銀の福音がその場で翼を翻しながら一回転をした瞬間、百八というバカみたいな数の砲門から銀色に輝く光弾が俺たちめがけて放たれ、降り注ぐ。

 広域殲滅の名を表すような異次元の殲滅力を前に回避することに集中する俺達。

 海面に次々と光弾が着弾することでまるで海面が沸き上がったかのように水しぶきが断続的に飛び散る。

 

『一夏! お前だけでも離脱するんだ!』

「バカ野郎! お前一人を置いて逃げられるか!」

『エネルギー残量が少ない状態で何が出来るというのだ!』

「っ! とにかく五分だ! 五分間耐えるぞ!」

 

 スラスターを吹かしながらエネルギー残量に気をやりつつ、雨霰のように降り注ぐ光弾を避けていく。

 

(せめてエネルギーがあればっ!)

 

 

 

――――――☆――――――

 光弾の雨霰を紅椿の高い機動力で回避する箒だが一夏のことが気になり過ぎて集中力に欠いていた。

 彼のエネルギー残量では銀の福音の一撃をもろに食らえばエネルギーは底を突き、ただでは済まない事態に発展してしまう。

 そうなる前に何とかしたい。何とかしなければと徐々に彼女の中に焦りが出始める。

 展開装甲を全身に使用されている最強のスペックとはいえ、エネルギー残量という全IS共通の課題までは免除されていない。

 

(これ以上の使用はエネルギーが尽きてしまう!)

 

 直観的にそう感じていた箒は腕部の展開装甲を封じ、最低限の使用で攻撃の機会を伺うが先程以上の光弾の多さに攻めあぐねていた。

 

(せめて……せめて一夏にエネルギーがあれば!)

 

 彼のエネルギー残量が残っていれば自分が殿を務め、その間に離脱することが出来る―――しかし、二割しか残っていない以上、離脱したとしても相手の加速に追いつかれるのは明白。

 

「うおぉぉっっ!」

『止せ箒!』

 

 二本の刀を握りしめ、銀の福音目がけて突撃していくがあまりの光弾を前にして回避するのが精一杯で距離を詰めることなど無理だった。

 

(せめてっ! せめて一夏だけでも逃がさなければ!)

 

 箒は一夏の前へと立ち、迫りくる光弾めがけて雨月と空裂を交互に振るい、エネルギー刃と赤いレーザー光を放つことで光弾を叩き落としていく。

 しかし、落とし切れない光弾が徐々に紅椿の装甲をかすめていく。

 

「箒止めろ! 回避に専念するんだ!」

「私がお前の盾になる! お前を失うわけにはいかないんだ!」

 

 エネルギー刃が一つの光弾を落とす―――しかし、重なっていた光弾がその後ろから直撃するルートでまっすぐに突き進んでくる。

 

「しまっ」

「だぁぁっ!」

 

 箒の頭上を飛び越えるようにして一夏が前方に立ち、光の刃で光弾を切り裂くと霧散するが零落白夜の持続残量が尽きたのかエネルギー刃からもとの物理刃へと戻る。

 こうなってしまえば雪片弐型はただの物理ブレードに成り下がり、白式自慢の高速度を出して縦横無尽に動き回ることにも制限がかかる。

 そうなれば被弾のリスクは高まり、最悪の未来が待ち受けているのみ。

 

(嫌だっ……嫌だ嫌だ! 一夏を失うなど! 目の前で一夏が傷を負うなど見たくない! なんでもいい! なんでも良いから私に力を!)

 

 見えない何かに縋るように祈った瞬間、突如として目の前にウィンドウが開かれ、紅椿の装甲から黄金の粒子が漏れ始める。

 目の前にはバイパス確立、とだけ書かれている。

 

「こ、これはっ」

「箒? それは」

 

 箒はそれが何なのかは分からなかったが直感的に一夏に触れることでこの状況を打破できると感じ、彼に向かって手を伸ばす。

 

「一夏!」

「箒!」

 

 彼も箒の意思をくみ取り、手を伸ばす―――そしてお互いの手が触れあった瞬間

 

 

――――――☆――――――

 

―――バジジッ!

 

「ぁぁぁぁっ!?」

「い、一夏!?」

 

 箒の手に触れた瞬間、全身を激痛が迸ると同時に頭が割れそうになるんじゃないかと錯覚するほどの甲高い音が鳴り響き、思わず雪片弐型を手放し、両手で頭を抑える。

 甲高い音によって平衡感覚が崩れ落ち、今自分がどっちの方を向いているのか、どっちがした下なのか上なのかすらも分からなくなってしまう。

 それに加えて全身が焼かれているかのように熱い激痛が走る。

 全身を焼かれているんじゃないかと思うほどに迸る激痛は断続的に流れており、今すぐにでも白式を脱ぎ捨てたいくらいだった。

 

「あぁぁぁっ! くぅぅっ!」

「どうしたのだ一夏! 一夏!」

 

 箒が傍に寄ろうとした瞬間、紅椿の装甲から次々と煙が吹きあがり、先程の黄金の粒子は鳴りを潜め、二本のブレードは粒子となって消え去る。

 

「エネルギー切れ!? このタイミングでどうして!」

 

 具現化維持限界―――突如として紅椿を襲ったそれはエネルギー切れを示していると同時に相手にどうぞ攻撃してくださいと示しているようなもの。

 箒目がけて銀の福音が急降下するのが見え、俺は激痛に苛まれる体に鞭を撃ち、彼女の前に立つ。

 

「一夏!? やめろ!」

「うぉぉぉぉっ!」

 

 激痛の中、拳を握りしめて銀の福音目がけて突き出す―――直撃した瞬間、メキャッという聞いたことがない、そして鳴らしてはいけない音が鳴り響くと同時に手首から先が曲がってはいけない方向に曲がったのが見えた。

 そして銀の福音の拳が胸部に直撃した瞬間、全身を感じたことのない激痛が走り、目の前に真っ赤な液体が噴き出した。

 それが口から吐きだされた血ということに気付くのに時間はいらなかった。

 

「ぼはっ!」

「―――っっ!」

 

 悲鳴になっていない叫びをあげる箒をよそに銀の福音が足を大きく上げ、俺の右肩目がけて強烈な踵落としを打ち付ける。

 その瞬間、右肩から先の感覚が消えた。

 

「――――――――――――!」

 

 喉が破りきれそうな叫びをあげたと同時に全身を焼かれる激痛、頭が割れそうになる激痛が同時に襲い掛かってきて視界が何度もフラッシュするように光る。

 そして銀の福音はとどめと言わんばかりに上空へと飛び上がり、翼の砲門が開くのが見えた。

 

「っっ! い、いち」

 

 箒を守るように抱きしめた次の瞬間、背中に断続的な光弾直撃による爆発と衝撃が俺を襲い、全身の骨がきしむ音、筋肉が悲鳴を上げ、皮膚が焼かれているようなにおいを感じた。

 もうほとんど闇夜に落ちている視界のわずかな光の中に箒のリボンが燃えながら落ちていくのが見えた。

 

(死ぬんだな、俺……)

 

 箒を抱きしめながら海面へと落ちていく中、大粒の涙を流しながら俺の名を呼んでいる彼女の顔が見えると何故か不思議と笑みがこぼれた。

 

(ぁぁ……守れたんだな)

 

 それが最後だった。

 

 

 

――――――☆――――――

 誰も居ない旅館の大広間にて束はウサギから送られてくる映像を見ながら笑みをこぼす。

 先程までいた多数の人間たちはあの醜い肉塊を救助するためにと全員が一斉に大広間を出ていった。

 

「ははっ……あははははっ!」

 

 この場に似つかわしくない笑い声をあげながら束は踊り狂うようにクルクルと回りだす。

 

「死んだ死んだ♪。ここは外だから医療設備も最低限しかない場所♪。手首は折れ、右肩は粉砕骨折、背中はⅢ度の熱傷、そして全身はⅡ度の熱傷。誰も助けられない、DEADENDまっしぐらだ!」

 

 時折、スキップを交えながら束は大広間をくるくると回りだす。

 ここが学園外である以上、死にかけ重症患者を助けられるほどの医療設備は整っておらず、出来ることと言えば包帯を巻いて治療した体で鎮痛剤を打つ程度のことだろう。

 そして待ち受けるのは死。

 

「大丈夫だよ箒ちゃん! 今は心が引き裂かれそうなくらいに悲しくて辛いだろうけどお姉ちゃんが癒してあげる! ぎゅーってしてあげる! 添い寝もいっぱいしてあげる! 今まであいつに奪われた姉妹の時間をこれからいっぱい、いーっぱい! 楽しもうね! 箒ちゃん!」




まさか3巻の段階で五十話超えるとは思いませんでした。
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