Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第五十二話

 ざぁん、ざぁんと波が音を立てる綺麗な砂浜に俺は立っていた―――俺はこの場所を知っていた。

 一度ならず二度目の来訪に俺は苦笑いを浮かべながらも砂浜を歩き進んでいくと前方に景色が広がり始め、そこには見知った二つの姿が見えた。

 一つは純白の鎧を纏う騎士、そしてもう一つは柔らかい灰色の鎧を纏う騎士。

 二人は俺の姿を見つけるや否や俺の方に向き直る。

 

「久しぶり……あの子は」

 

 俺は麦わら帽子の白いワンピースの少女の姿が見えず、二人に尋ねるが二人は何も応答しない。

 恐らく知らないんだろう。

 

「貴方が暮桜……で、貴方が白騎士……だよな」

「肯定」

「……何故、またここに」

 

 今度はハッキリとした会話ができることに少し驚きながらも俺は二人と会話を続ける。

 

「俺も来たくは無かったんだけどさ……また来ちまった」

「「……」」

「暮桜……俺のこと守ってくれてありがとう」

 

 俺は暮桜にお礼と共に頭を深々と下げた。

 この人は千冬姉と同じように俺を戦いから遠ざけるためにこの場所で一人でずっと戦い続けてくれ、そして俺を認めてくれて力を貸してくれた。

 

「我、主人と一心同体」

「分かってるよ……貴方が千冬姉と同じ思いだってこと……俺が不甲斐なくて悪い」

「……」

 

 暮桜は何も言わずにこの場から立ち去り、何もない景色の中へと溶け込んでいった。

 肝心なところで何も言わないところも昔の千冬姉に似ている。

 

「白騎士もずっと俺のこと見ていてくれたんだよな」

 

 その時、遠くの方から歌声のようなきれいな音が聞こえ始め、音がする方向を向くと遥か前方に小さく色が付いている場所が見えた。

 俺は何かに引き寄せられるように足を進めようとした時、白騎士に手を取られる。

 

「白騎士?」

 

 俺の問いかけに白騎士は何も言わずにただ俺の手を取るだけ。

 何か言いたげな雰囲気を感じた俺は何も言わずに少しの間、白騎士の傍にいることに決めた。

 

 

 

――――――☆――――――

 海上二百メートルの位置で銀の福音はまるで胎児のように膝を抱え、小さく蹲っていた。

 その頭が僅かに動いた瞬間、爆音とともに砲弾が直撃し、大爆発をあげるが回避の隙を与えまいと何発も断続的に砲弾が降り注ぐ。

 

「命中確認!」

 

 五キロ離れた先にて八十口径レールカノン《ブリッツ》を両肩に装備したラウラは砲弾を叩き落としながらこちらへと迫ってくる標的の姿を確かに捉えながら引き続く砲弾を放つ。

 その装備は通常装備とは大きく異なり、両肩のレールカノンに加え、遠距離からの砲撃・狙撃に備えた四枚の物理シールドを装備した姿をしている。

 この姿こそ砲戦パッケージ『パンツァー・カノーニア』を装備したシュヴァルツェア・レーゲンだった。

 

(目標の速度が予測以上に速い!)

 

 今のラウラの形態は機動力を捨てている。それに対して銀の福音は六枚の銀翼を羽ばたかせることで超高機動の形態を手にしている。

 断続的に放たれる砲弾を回避するなど造作もなく、徐々にラウラとの距離を詰める。

 距離が三百メートルまで近づき、その手が彼女の顔に触れようとしたその時、ニヤリと崩れる。

 

「――――――a」

 

 上空から一筋の青い光が流れると同時に青い閃光が放たれ、銀の福音ごと海面が大きく爆ぜる。

 水しぶきの中から現れたのは強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』を装備したブルー・ティアーズとセシリアだった。

 六基あったビットはスカート状に腰部に接続されており、砲門は閉じ、スラスターとして用いられている。

 

「ダウンロードが間に合って何よりですわ」

 

 手にしている大型BTレーザーライフル《スターダスト・シューター》を海面に向け、何度も引き金を引くが銀の福音は翼を盾のようにしてそれを弾く。

 六機のビットを封じた分の火力を補うかのように一発一発放つたびに反動が彼女を襲うがそんな物など無視してセシリアはひたすらに引き金を引き続ける。

 

『敵機Bを排除』

「やれるものならやってみなさい!」

 

 六枚の翼のうち、二枚を展開し、セシリア目がけて銀の光弾を放つが六基のスラスターを駆使した高速機動により容易く回避され、見えぬところから狙撃が銀の福音を襲う。

 そして二枚の翼に砲弾が直撃し、爆発を上げる―――銀の福音がその方向を見るとそこには二門のレールカノンから煙を上げているラウラの姿があった。

 

『敵機Aに変更』

「させないよ!」

 

 海面が弾け飛び、そこからステルスモードのシャルが現れ、手にリボルバーと杭が融合した装備――六九口径パイルバンカー《灰色の鱗殻》を握っている。

 勢いよく腕が突き出された瞬間、ズガンッッ! と爆音を立てる―――リボルバー機構により高速で次弾炸薬が装填され、連続で打ち付けられる。

 たまらず銀翼の翼を広げ、周囲に無数の光弾を放つが実体シールドとエネルギーシールドが二枚ずつカーテンのようにシャルを覆うように展開され、全てが防がれる。

 

「その程度じゃガーデン・カーテンは剥がせないよ」

 

 銀の福音はその場で一回転し、周囲に目くらましのように光弾を放つと上空へ飛びあがる―――しかし、海面が三度爆ぜるとそこから赤い炎を纏った弾丸が弾雨のように放たれ、福音に直撃する。

 海面より現れたのは機能増幅パッケージ『崩山』を装備し、計四門に増設された衝撃砲を福音に打ち付ける鈴だった。

 

「空に逃げるとか野暮なこと考えるんじゃないわよ!」

 

 炎の弾丸、五キロ先からの砲弾、高速軌道からの狙撃、アサルトカノンからの射撃と弾丸の雨霰をまともに受ける福音は防御を優先し、羽を折りたたみ始める。

 

「今よ!」

 

 鈴が夜空に向けて叫ぶ―――雲を引き裂く勢いで上空から真紅の輝きを放ち、流星のような速度で紅椿を装備した箒が福音目がけて急降下する。

 その手には空裂と雨月の二本の刀。

 

「だぁぁっ!」

 

 二本の斬撃が福音を切り裂き、大きく火花を散らせ、体勢を崩す―――それを待っていたと言わんばかりに苛烈な砲撃が福音に降ってかかる。

 翼を盾のように構え、まずは砲弾を防ぐ福音―――しかし、目の前には赤く切っ先を輝かせる雨月とパイルバンカーを握りしめる二人の姿があった。

 

「「はぁぁっ!」」

 

 雨月による突きとパイルバンカーが同時に炸裂し、甲高いマシンボイスを発しながら福音が大きく後方へと吹き飛び、両腕を力なくだらんと落とす。

 

「エネルギー残量が0よ!」

『攻撃の手を緩めるな! そいつは翼を補給物資(サブタンク)とする!』

 

 ラウラの怒声が響いた直後、翼が一枚、弾けるようにして羽根がまき散らされ、福音の体に溶けるようにして取り込まれると再び装甲に輝きが戻る。

 

「単純計算してあと五回、こいつをブッ飛ばさなきゃだけど」

「やってみせる……一夏のためにも」

『そうだな。旦那様の安眠をさまたげるわけにはいかない』

「これが終わったら……みんなで一夏に言わないとね」

「ありがとう……そしておやすみ、ですわね」

 

 それぞれの思いを胸に少女たちは銀翼の悪魔へと飛びかかった。

 

 

――――――☆――――――

 真耶から報告を受けた千冬はすぐさま大広間へと戻り、大型モニターへ映像を繋げると彼女達と福音が激しい戦いを繰り広げている様子が映し出される。

 

「すみません! 一瞬だけ目を離した隙に」

「先生の責任ではありません……私が隙を見せたせいです」

 

 彼女たちを見逃してしまった教師の謝罪を受けながらも自身の責任であると吐露する千冬の傍で束は陽気にお茶を啜っていた。

 その表情はどこか残念そうな色だ。

 

「織斑先生……彼女たちは勝てるでしょうか」

「……」

 

 真耶の不安そうな声に千冬はモニターへ視線を戻す―――彼女達だけでは無理だと思いながらも千冬の脳裏に一夏の顔が思いうかぶ。

 もしかしたら一夏があの場にいれば勝てる―――そんな起こりもしない希望的未来を千冬は頭を振ることでかき消そうとする。

 

「無理だろうね~。なんせあの翼は攻撃とエネルギーの補給物資を兼ね備えた優れもの。あと五回は復活するし、最悪全部攻撃に転用すればぜ~んぶ消えちゃうね」

「……随分と知った風な口ぶりじゃないか」

「へへっ♪。もっと褒めて!」

「この世から消えるか?」

「ち~ちゃんとならどこまでも……あ、でも紅椿は生き残るよ! 展開装甲を防御に回せばなんと核爆弾の爆心地にいてももーまんたい!」

 

 呆れてものも言えない千冬は口を閉じる―――その時、襖の外から薄暗い室内を明るく照らすほどの極大の輝きが放たれ始める。

 まさか、という表情をした千冬はすぐさま動き出す。

 

「山田先生! そいつを抑えろ!」

「は、はい!」

 

 突然の命令に対応した真耶は千冬と同時に動き出し、束を押さえつけようと飛びかかる―――しかし、それを察知した束は座った状態にもかかわらず、天井付近まで飛び上がり、二人を飛び越える。

 そして襖を蹴り破って廊下へと飛び出すと輝きを放っている一室へと向かう。

 

「待て束!」

「っと!」

 

 後ろからの回し蹴りを体勢を低くして回避し、廊下に穴をあけるほどの強さで床を蹴り抜くとまっすぐ輝きを放つ一室へと向かう。

 千冬もその後ろを追いかけ、彼女の肩を掴む―――しかし、それを振り払おうと振り返りざまに裏拳が飛んでくるが頭を下げて回避し、そのまま腹部に体当たりをぶつけ、彼女を組み敷く。

 

「行かせんぞ束!」

「ははははっ! あるんだよね!? この部屋に! ち~ちゃんが隠したい何かが!」

「黙れ! お前はただ能天気を貫いていればいい!」

「それはできないなぁ……うさちゃんロボマークⅣ!」

「っく!?」

 

 タッタッ! と廊下を小気味の良い足音が響き、千冬が顔をあげた瞬間、一瞬の閃光が千冬の視界を支配し、束を拘束していた力が緩む。

 その瞬間に束はするりと拘束から抜け出し、勢い良く輝く一室の襖を開ける。

 そして醜悪な笑みを浮かべる。

 

「あぁ……そういうこと」

「束っ」

「コソコソとこんなことやってさ……子供のくせに……親を裏切るんだね、"白騎士"」

 

 千冬と束の目の前ではガントレットから輝きを放っている一夏の姿があった。

 

「ち~ちゃんが隠したい理由が分かったよ……ははっ……ハハハハハアハハハッ!」

 

 それを見届けた束はその光景に背を向けると狂ったように笑い声をあげながら闇夜に消え去った。

 

 

――――――☆――――――

 

 白騎士に手を握られてからもうどれくらい経っただろうか。

 相変わらず綺麗な歌声は聞こえ続けているし、体がそっちに行こうとするけど白騎士が行かせまいと強く手を握るものだから全く動けない。

 

「……それほどに力を欲するのですか?」

「え?」

「貴方は何故、それほどに力を欲するのですか?」

 

 白騎士の言っていることの真意は理解しかねるがあの子のもとへ行くことはそういうことなんだろう。

 ただ白騎士に返す言葉は決まっている。

 

「守りたいんだよ。俺のことを慕って俺の傍に集まってくれる人たちのことを。ほら、俺って命狙われてるだろ? それ以外に理不尽なことが俺だけじゃなくて傍にいる人たちにも降りかかると思うんだ。だからそんな理不尽なことから守りたいんだ」

「……」

「千冬姉も箒もセシリアも鈴もシャルもラウラも……この先、俺の傍に集まってくれる人たちを俺は守りたい。俺の傍にいて悲しむことが無いように守りたいんだ。だから力が欲しい」

「……ならば行きましょう。ともに」

「ああ」

 

 白騎士と手を繋ぎながら俺は綺麗な歌声を響かせる少女のもとへと歩いていく。

 その声は徐々にハッキリと聞こえ始め、俺の耳の中に響く。

 

「待ってたよ。じゃ、行こうか」

 

 少女が笑みを浮かべながら俺の手を取った瞬間、そこから眩い光が放たれ、俺の視界をあっという間に呑み込んでしまった。

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