Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第五十三話

「ハァッ……ハァッ……」

「シャル、弾数はどうなのよ」

「二割かな……ガーデン・カーテンもあと一回きり……セシリアは」

「正直……もちませんわ。ラウラさんは」

『物理シールド全損……レールカノンも一門を残すのみだ』

 

 満身創痍という言葉を体現するかのようにボロボロの彼女たちに対して銀の福音は五枚の翼の輝きを残しており、余裕を見せている。

 奇襲攻撃により一度は翼を使わせたもののそれ以降は銀の福音のスペックに圧倒されている。

 

「ま、まだだ……まだ私は戦える!」

 

 急加速を行い、銀の福音へと刀を振り下ろす―――展開装甲をフルに使用し、銀の福音の攻撃を回避しながら二本の斬撃を放っていく。

 相手の翼が開かれ、銀色の光弾が放たれようとしたその時、脚部の展開装甲を開いてぐりん、と一回転をすることで光弾を回避し、両踵の展開装甲からエネルギー刃を生成する。

 

「でぁぁぁっ!」

 

 加速を伴った踵落としでエネルギー刃を振り下ろし、二枚の翼による防御を崩すとがら空きになった銀の福音の腹部へ全力の雨月による打突を打ち込む。

 切っ先が真紅に輝く一撃が相手の腹部へ突き刺さろうとしたその時―――

 

 ―――キュゥゥン

 

「エネルギー切れ!? ぐぅっ!」

「箒!」

 

 翼の叩き付けで刀を弾き飛ばされ、腹部に蹴りを受けた箒は後方へと大きく蹴り飛ばされ、シャルに受け止められる―――その直後、闇夜を照らすほどの極大の輝きが彼女たちを照らす。

 目の前では五枚の翼から放たれた光弾が一つとなり、巨大な球体が生成され始めており、その球体に僅かでも触れた海面から海水が蒸発していく。

 

「この性能……軍用とはいえ異常すぎますわ」

『広域殲滅どころか広域抹殺だな。塵一つ残さないつもりだぞ』

 

 彼女たちに目の前の攻撃を凌ぐ術は残っておらず、放たれて塵一つ残さずに消滅を待つしか未来はない―――思い浮かべるは想い人の顔。

 作戦に参加する前にキスの一つでも、挨拶の一つでもして来ればよかったと小さな後悔を浮かべはするが作戦に参加したことに対して後悔は抱かない。

 

「……一夏に告白、しときゃよかったわね」

「僕は……出来たかな」

「シャルさん、ズルイですわ」

『私はプロポーズまでされているからな』

「私は……最後に……名前を呼んでほしかった」

 

 箒がポツリと呟き、全員が同じ思いだと小さく頷く―――そして銀色に輝く巨大な球体は完成し、海水を蒸発させながら彼女たちを飲み込まんと放たれる。

 少女たちの視界が徐々に輝きに包まれていく中、それぞれの小さな後悔と想い人へ伝えられなかった思いを胸に秘め、迫りくる輝きを前に目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何回でも呼んでやるよ」

 

 ずっと―――聞きたかった声が全員の耳に届き、驚きながら目を開けると目の前には極大な輝きをもってしても支配しきれない一つの影があった。

 その影は左手を軽く前方に突き出す。

 そして球体が影が突き出した左手に触れた瞬間、その動きを止める―――次の瞬間、球体は一瞬にして粒子と化して散り散りとなり、目の前から消失してしまった。

 あり得ない事だった。

 あれ程のエネルギーの塊を触れるだけで消し去ることなど通常兵器では絶対に不可能。

 それこそブリュンヒルデの愛機、暮桜が持つ零落白夜でなければ。

 

「これから何回でも呼んでやるよ。皆の名前」

 

 そう―――目の前にいるは彼女たちの居場所であるとともにその人生をも救ってくれたヒーロー。そして彼女たちが愛してやまない想い人。

 

「「「「「一夏!」」」」」

「待たせたな」

 

 織斑一夏が立っていた。

 

 

――――――☆――――――

 

 白式第二形態・雪羅―――それが今、俺が纏っている相棒の新しい姿の名前であると同時にみんなを守り、救うことが出来る最強の力。

 白式から雪羅の出来得ること全てが表示され、それらを一瞬だけ目で追いかけるがあまりの量に理解するのを諦め、一枚だけを残して消した。

 左手の新装備《雪羅》、こいつの使い方だけ分かっていればそれでいい。

 

「第三幕と行こうじゃねえか、銀の福音!」

「La―――――♪」

「遅い!」

 

 背部に合った四基の大型スラスターはその姿を変え、四基の大型ウイングスラスターへと生まれ変わり、もう可動域の調整などという低次元な調整はいらない。

 俺がイメージできる範囲にウイングスラスターが勢いを与えてくれる―――もちろん、超加速推進機(アクセル・スラスター)は生きているし、Boost・Timeだって使える。

 俺のイメージは爆発的な直進加速―――銀の福音が光弾を放つよりも前に接近し、クロー形態となった雪羅の一撃を振り上げ、切り裂いた。

 

「Kaaaaaaaaaa!」

 

 甲高いマシンボイスをあげながら後方へと下がりつつ、一枚の翼を霧散させてその身に取り込んでいく。

 雪羅は零落白夜の刃を生みだせる―――今の一撃でエネルギーを九割以上削りきれた。

 銀の福音が自身を翼で覆い隠し、ギュウッ! と捻りを加えた瞬間、左右から炎の弾丸や青く輝く閃光、砲弾が無数に打ち込まれ、その動きを止める。

 

「みんな!」

「病み上がりのあんたには荷が重いでしょ! 手伝ってあげる!」

『旦那様は寝起きだからな!』

「一夏さん! わたくしたちが隙を作りますわ!」

 

 たまらんと言わんばかりに銀の福音が上空へと舞い上がる―――しかし、それを予測していたシャルが銀の福音の真上へと現れ、頭部にショットガンを二丁突きつける。

 

「Bonne nuit! Fais de beaux rêves」

 

 二度の爆音とともに銀の福音は体勢を崩し、ゆっくりと落ちていく―――その隙を逃すまいと大型ウイングスラスターを同方向に吹かし、突撃していく。

 

「うぉぉぉぉっ!」

「aa」

 

 無理やり体勢を立て直した福音の両足と雪片弐型がぶつかり合い、激しく火花を散らす―――ウイングスラスターを起動させ、回転回避で相手の背後へと回り、横薙ぎの一撃を放つ。

 福音も負けじと側転に近い回避行動で横薙ぎの一撃を回避し、四枚の翼を羽ばたかせて闇夜の空へと飛び込んでいく。

 

「逃がすかぁ!」

 

 銀の福音を追いかけ、俺も闇夜へと飛び込んでいく。

 直後、無数の光弾が流れ星のように俺、そして海上にいるみんなに向かって降り注いでいく―――左手の雪羅シールドモードを起動し、ある程度を消失させながら突き進んでいく。

 

(零落白夜とだけあって消費がヤバイ!)

 

 皆のエネルギーも少ないし、何より俺の体力もギリギリのところだ―――正直もってあと五分。

 福音とぶつかり合いながら飛び回るが決定打を中々、与えられずに時間とエネルギーだけが経過していく。

 

「お供しますわ!」

「セシリア!」

「地上からはシャルさんとラウラさん、鈴さんが」

 

 その言葉通り、福音目がけて砲弾や炎の弾丸が放たれていく―――動きが止まった隙をついてセシリアが高速機動を行いながら正確無比な狙撃を放つ。

 銀の福音がセシリアの狙撃を身を捩って回避した瞬間、俺はウイングスラスターを全開かつ瞬時加速を発動させて一気に距離を詰めて、正面へと近づく。

 

「だぁぁっ!」

 

 福音を切り裂く―――と思われた一撃は翼により弾かれるが直接、エネルギー源を切り裂いたことで翼が一枚消失し、輝きを失う。

 

「あと三枚! ゴホッ!」

「一夏さん!」

『攻撃の手を緩めるな! ここでケリをつけるんだ!』

 

 ラウラの怒声が響き、地上から無数の弾丸・砲弾の雨霰が降り注ぐ。

 口の端についた血反吐を拭い、雪片弐型を握りしめて再び飛翔する。

 

 

 

――――――☆――――――

 闇夜を飛び回る二機の動きを目で追いかけていくも少しずつ一夏の動きが鈍くなっていく―――箒は自分のふがいなさに怒りがこみ上げ、拳を握りしめる。

 

「こんなところで……指を咥えて見ているためにお前を欲したんじゃない!」

 

 目覚めの一発と言わんばかりに刀の持ち手の部分で自分のおでこを強く殴りつけるがエネルギー切れを起こしている以上、紅椿は動かない。

 

「紅椿! お前が何のために姉さんが生み出したのかはどうでもいい! 私が使う以上、一夏を守ることがお前の存在理由だ! 一夏を守ることこそがお前の全てだ!」

 

 直後、紅椿の展開装甲から赤い光に混じって黄金の粒子が溢れ出す。

 ハイパーセンサーからの情報が目の前に映し出されるとみるみる紅椿のエネルギーが充填されていき、目の前には新たな情報が追加される。

 ―――単一仕様能力『絢爛舞踏』

 あの時の様な地獄の惨劇を生みだしたものと姿は似ているが違う―――箒の想いを具現化した彼を守るための最強の力だ。

 

「今行くぞ! 一夏!」

 

 黄金の輝きを放ちながら各部の展開装甲を使い、急加速を行って彼の場所へと向かっていく。

 そして視界にとらえた―――守るべき、愛するべき人の姿が。

 

「一夏ー!」

 

――――――☆――――――

「一夏ー!」

「箒!」

 

 銀の福音と肉薄している中、箒の叫び声が聞こえ、福音を蹴り飛ばして離脱すると箒が手をいっぱいに伸ばして俺へと向かってくる。

 一瞬、あの時の光景が脳裏をよぎるが俺は迷うことなく箒の手を取る―――黄金に輝いている箒の紅椿から伝って白式へと輝きが移動し、一気にエネルギーが回復する。

 

「行ける!」

『Boost・Time』

 

 その文字が表示された瞬間、大型ウイングスラスターが折りたたまれるとともに両腕・両足の装甲から推進機構が生み出され、バイクのエンジン音の様な轟音と共に炎を吹かしながら一瞬で奴の背後を取る。

 拳を突き出すと同時に炎と共に轟音が鳴り響き、絶大な加速の一撃が福音の頭部に突き刺さり、そのままの勢いで腕を振り抜き、海面目がけて叩き落す。

 

「もう一発!」

 

 ギュゥオン! という轟音と共に福音に両足によるドロップキックを叩きこみ、海面へと叩き付ける。

 直後に海面が爆ぜ、福音の翼が大きく広げられようとした瞬間、ステルスモードを解除した三人が海中より現れて最後の弾幕を浴びせる。

 

「出血大サービスだよ!」

「一夏! やりなさい!」

「せいやぁぁぁっ!」

 

 轟音を轟かせ、福音の背後に飛び込むと同時に右手に雪片弐型、左手に雪羅のブレードを生みだし、飛び込む勢いのままに振り下ろし、残りの翼の輝きを刈り取る。

 

「aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!」

 

 悲鳴ともとれる甲高いマシンボイスがぶちまけられるがそんなものではみんなの最後の弾幕は途切れず、上空からも青と赤の閃光が降り注ぐ。

 物理の翼となったそれで自分を―――そして何かを守るように覆い隠す。

 直後にBoost・Timeは終了し、ウイングスラスターが広がり、推進機構は粒子と化して消失するがエネルギーは有り余っている。

 

「ごぼっ!」

 

 腹の底から我慢できない吐き気が襲い掛かり、口から多量の血へ度を吐き捨てる―――時間がないことを告げるそれは一撃で決めろとの神のお達しかもしれない。

 俺は何も言わずに上空へと舞い上がる、セシリア・箒とすれ違いながら上空髙く舞い上がる。

 白式のハイパーセンサーによる高度計算が終了し、表示される位置からただまっすぐ海上の福音目がけて大型ウイングスラスターを吹かす。

 ウイングスラスターが赤い翼へと変化を始める中、徐々にその速度は上がっていき、それとともに赤い翼が蒼炎を纏う青翼へと変化していく。

 大型ウイングスラスターから放たれる蒼炎は地上から見れば巨大な隕石のワンシーンにも見えるだろう。

 

「これで最後だぁぁぁぁ!」

 

 俺の叫びを合図にみんなが弾幕を止め、その場から離脱する―――福音が上空へと顔を向けたのは蒼炎を纏う俺の姿を見たからか。

 

「だぁぁぁっ!」

 

 銀の福音に蹴りが炸裂した瞬間、海面が大きく爆ぜるとともにやつにも蒼炎を纏わせながら凄まじい速度で引きずっていく。

 銀の福音は何かを守るように腕を交差させて俺の蹴りを受け止めるが翼は蒼炎に焼かれ、全身の装甲にも蒼炎が燃え広がり始める。

 

(お前は最後までその人を守りたかったんだよな……もう休んでいいんだ)

 

 旅館のすぐ近くの砂浜まで引きずった瞬間、凄まじい爆音とともに砂柱がたつほどに砂が舞い上がる。

 そして雪片弐型を両手で握りしめ、勢いよくやつに突き刺す。

 

「うぉぉぉぉっ!」

 

 エネルギー刃が装甲に突き刺さり、火花を激しく散らすなか福音の手がゆっくりと俺の首元へと伸びていく―――俺を殺すための最後のあがきか。

 

「はぁっ!」

 

 より深く剣を突き刺した瞬間、胸部装甲が破裂するようにはじけ飛ぶ―――直後、全身の装甲から輝きが消えうせ、福音の腕が力なくだらんと砂に堕ちる。

 福音の装甲は粒子と化して消え去り、搭乗者の女性だけが残る。

 

「一夏!」

 

 箒の声と共にみんなが集まってくるが目の前の状況を確認すると安堵の笑みを浮かべる。

 

「みんな……ただいま」

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