Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第五十九話

「二人ともありがとう! 今日は本部から視察が来る大事な日なの! なのに二人もアルバイトが駆け落ちしちゃって飛んじゃったのよ!」

「それはいいんですが……何故、僕は執事服何でしょうか」

 

 ラウラが渡されたのはロングスカートのメイド服であり、頭には白いカチューシャもつけており、銀色の髪と相まってマンガに出てくるような現実離れした魅力的なメイドとなっている。

 しかし、シャルロットに手渡されたのは執事服。どこからどう見ても執事服だ。

 

「貴方達を見てビビッときたのよ! 特に貴方!」

「ぼ、僕ですか?」

「そう! 金髪のあなたは男装執事! しかし真実は女だとなめられてしまい、執事の頂点を目指すことが出来ないという設定がね!」

「は、はぁ」

(僕も可愛いメイドさんがよかったのにな~……ちょっとエッチな……な、何考えてるんだろ)

 

 ミニスカートに胸を強調するようなエッチなメイド姿を想像し、思わず恥ずかしくなってしまって頭を左右に激しく振っているとホールから一人のメイドが駆け込んでくる。

 

「店長―! ヘルプですー!」

「了解したわ! さあ、二人ともお願いね! お駄賃は弾むわ!」

「じゃ、行こうかラウラ」

「うむ。メイドというものにも面白そうだ」

 

 

――――――☆――――――

 二人がホールに立ってからというもの注文が面白いように出始め、ホールの忙しさは凄まじいまでになってしまったがそこはIS学園に通う代表候補生。

 本職と見間違えるほどのスムーズな動きで次々と裁いていく。

 

「お待たせいたしました。紅茶のお客様は?」

「は、はい!」

「お砂糖はお入れになられますか?」

「ぜ、ぜひ! たっぷり入れてください!」

「畏まりました」

 

 ふっとシャルロットが笑顔を浮かべた瞬間、女性客は頬を赤らめ、シャルロットの一挙手一投足を逃すまいとすべての行動を目を見開いて収める。

 それは彼女だけではなく店内にいる全ての女性客がそうだ。

 可愛い女性ではなく格好いい女性にキラキラと憧れの視線をシャルロットにぶつけながらメニュー表を片手にまだかまだかと注文を取られるのを待っている。

 

「お待たせいたしました。ごゆっくりお過ごしください、お嬢様」

「は、はひぃ」

 

 シャルロットの笑顔に撃ち抜かれた女性は幸せそうな顔を浮かべながら離れていくシャルロットの背中をただ視線で追いかけていく。

 

(接客業も大変……ラウラは大丈夫かな)

 

 目で追いかけると三人の男性客の注文を取っているラウラの姿が視界に入るがそこだけ周囲と比べると雰囲気が微妙に違っていた。

 

「君、可愛いね。名前は?」

「この後、一緒に遊びに―――」

 

 ダンッ! と店内に響き渡るほどに水の入ったコップが置かれ、その強さに男性客たちは一瞬たじろぐが負けじと声をかけようとする。

 しかし、メイド服のラウラに冷たい目で見降ろされ、誰もが声をかけられない。

 

「飲め。水だ」

「こ、個性的だね。でもそんな君も―――」

 

 どこから取り出したのかテーブルの上に一杯のコーヒーが置かれるが男性客の顔はキョトンとしており、ラウラの顔を見る。

 

「だ、誰もコーヒーなんて」

「飲め」

「え、えっと」

「ここにいるのであれば貴様たちは客だ。私が飲めと言ったら飲め」

 

 ラウラの絶対零度ともいえる冷たい視線に耐えられなかったのか男性たちは縮こまりながらコーヒーを啜り、あっというまに飲んでしまう。

 空になったカップは一瞬で下げられ、伝票が置かれる。

 

「飲んだのなら金を払って去れ」

 

 凄まじいまでの冷たい接客に男性たちは何も言わずに立ち上がり、レジへと向かっていくがその表情は怒りなど無く、どこか幸せそうだった。

 

「あ、あの子超いい」

「罵られたいっ、冷たく見降ろされたいっ」

 

 彼女の冷たい行動がどうやら男性たちの癖に刺さったらしい。

 

「追加で注文下さい! 金髪の執事さんが良いです!」

「こっちも! 銀髪メイドさんに罵られたいです!」

 

 店内が一気に騒がしくなる店長が登場し、いつの間に用意していたのか番号札を各テーブルに配り始め、一瞬にしてオーダーを整理してしまった。

 そしてそこから二時間、怒涛の御奉仕タイムが始まり、噂が噂を呼んでいるのか常にお客さんの足が絶えることはなく、常に店内は満席状態だった。

 流石に二人に精神的疲労が出始めた頃―――

 

「動くんじゃねえぞ!」

「きゃぁっぁぁっ!」

 

 突然、男の野太い怒声が店内に響いたかと思えば発砲音が鳴り響き、お店の蛍光灯が破裂し、女性客の甲高い悲鳴が木霊する。

 突然の乱暴な来客は三人とも目出し帽をかぶって顔を隠しており、一人の手にショットガンが握られている。

 

「動くんじゃねえぞ……てめえらは今から人質だからな!」

「警察もお前たちがいれば手出しは出来ねえからな~」

「兄貴! ここにはメイドさんもいるし、ご奉仕してもらいましょうよ!」

「そうだな。おいメイドども! 上手い飲み物持ってこい! 不味かったら人質殺すからな!」

 

 リーダー格の男の脅迫じみた叫びに店内にいるお客さんは恐怖に震える。

 

(二人がハンドガン、もう一人がショットガン……予備の武器は無いっぽいけど……あ、あれぇ?)

 

 シャルロットが冷静に状況を分析している最中に何やらラウラがトコトコとお盆に水を三人分、乗せてテーブルの方へと向かっていく。

 

「あ、なんだおめえ」

「見えないのか? 水だ。飲め」

「俺達が水で満足するとでも思ってんのか!?」

「何を勘違いしている……水で満足しろと――――――言っているのだ!」

 

 ラウラがお盆を軽く放り投げた瞬間、カップが宙を舞う―――そして水が入っていたと思われた中身は大量の氷であり、ラウラはお盆で三方向に氷を弾き、三人のおでこに氷をあてる。

 

「イ、イテェ! てめえ」

 

 男がラウラにハンドガンを向けた瞬間、横方向からお盆が回転しながら飛んできてハンドガンを持つ手にあたると隙が生まれ、その瞬間に何も反応できていない下っ端Aの顎にラウラの肘打ちが入り、一瞬にして意識を刈り取ってしまった。

 

「やろう!」

 

 下っ端Bがラウラにショットガンの銃口を向けるよりも早くシャルロットの蹴り上げが男の手首に炸裂し、ショットガンを床へと落とす。

 落ちていくショットガンを拾い上げたラウラは勢いよく回転し、下っ端Bの顎に向けて全力で銃本体をぶつけるとボキッ! という嫌な音とともに下っ端Bが倒れ込む。

 

「死ねぇ!」

 

 リーダーが二人目がけてハンドガンを放つが一瞬にしてその場から散開した二人は店内を縦横無尽に駆け回り、シャルロットはナイフとフォークを数本、ラウラは電話本体を電話線を引きちぎって手に取る。

 

「はぁっ!」

「ぎゃぁぁぁ! さ、ささったぁぁ!」

 

 シャルロットが投げたフォークが男の手の甲に刺さり、ハンドガンが床に落ちる。

 タイミングを見計らってラウラが電話の受話器を鞭のように撓らせて何度もリーダーの男性の顔面にぶつけていき、その場に留める。

 

「このクソガキがぁぁ!」

 

 リーダーが怒りに燃え、ポケットからナイフを取り出してラウラに襲い掛かる―――しかし、それを遮るようにシャルロットがメニュー表を男の足元へと滑らせる。

 

「ぐべぉっ!?」

 

 メニュー表で足を滑らせた男は顔面から床に倒れ込む―――そしてとどめと言わんばかりにラウラが湯気をモクモクと上げているポッドを手に近づく。

 

「お客様。落ち着くためにアールグレイでもどうぞ」

「あじぃぃぃぃぃっっ!」

 

 男が顔をあげた瞬間にふたを開けたポッドをひっくり返し、顔面めがけて熱湯をお見舞いする。

 目出し帽をかぶっていたために一番、ダメージが大きい両目と鼻、口元に熱々のお湯がかけられ、男は痛みのあまり床にのたうち回る。

 

「制圧完了」

「そうだね」

 

 二人は床に落ちた銃器を回収し、合流する―――直後

 

「刑務所行くくらいならブッ飛ばしてやる!」

 

 リーダーの男が上着を放り投げるとそこにはプラスチック爆弾が巻きつけられた腹巻が姿を現し、リーダーが握っている起爆装置に触れようとする。

 

「諦めが悪いぞ」

 

 二人は回収していたハンドガンを男に向けると躊躇なく引き金を引く―――四回ほどの銃声が鳴り響き、起爆装置と導線、信管だけを的確に撃ち抜いていた。

 あまりの出来事に犯人の男は何が起きたか理解できずに固まっていた。

 

「次はその腕を吹き飛ばすぞ」

「まだやる?」

 

 男は力なく床に座り込むとラウラとシャルロットはハイタッチを決めた。

 

 

 

――――――☆――――――

「うん、美味しい」

「ほぅ、これがクレープというものか」

 

 あの強盗事件から二時間が経過し、二人は店長から貰ったお駄賃+臨時ボーナスを受け取り、ほくほく顔でクレープを頬張っていた。

 臨時ボーナスは店長がどうしてもお礼をということでもらい、残っていた買い物に有難く使わせてもらった。

 

「今日は中々に濃い一日だったね」

「そうだな……あれは」

 

 クレープを頬張っていたラウラの視線はある方向に注がれているのに気付いたシャルロットがそちらの方向を向くとそこには見知った顔の女子二人がいた。

 

「あれ? 鈴とセシリア」

「あんた達、何してんの?」

 

 ばったりと出会ったのは鈴とセシリアだった。

 二人はシャルロットとラウラがクレープを美味しそうに食べているのを見ながら小腹が空いたのかゴソゴソと財布を取り出す。

 

「あたしも食べよーっと」

「明日からはカロリー計算を見直さなくてはいけませんわね」

 

 鈴とセシリアもクレープを購入し、一つのベンチに四人の専用機持ちが集まり、これだけで軽く一国に戦争を吹っ掛けられる戦力が集まってしまった。

 

「あんた達はなんでここに?」

「さっきまでお買い物してたんだ、ラウラと」

「うむ。中々の収穫だったぞ」

「へ~」

「鈴こそセシリアと何を?」

「わたくしたちはちょっとしたティータイムをしておりましたの」

「そうそう。寮にいても暇だし」

 

 いつもであればここに一夏もいるが今日はおらず、ある意味普段では見られない集まりでもあった。

 

「ここに箒もいれば全員集合だったわね」

「む? 呼んだか」

 

 全員が同時に後ろを振り返るとそこには私服姿で買い物袋を二つ、持っている箒の姿があった―――一国どころか世界を巻きこめるほどの戦力がここに集結した。

 

「偶然……というか今の我々からすれば必然だな」

 

 ラウラの一言にうんうんと全員が頷く―――全員共通の想い人がいない今、暇を持て余した彼女たちが一か所に集まるのは必然だろう。

 

「まさか一夏さんがいないとここまで静かになるとは思いもしませんでしたわ」

「普段、どれだけあいつが賑やかにしてくれてるかよね~」

「旦那様は色々なものを持ってきてくれるからな。楽しいことも悲しいことも全て」

「そうだね……早く一夏に会いたいな~」

 

 全員の思いは共通していた。

 クレープを食べきった彼女たちは箒を加えて一夏の話で盛り上がるのであった。

 

 

――――――☆――――――

 同時刻、帰宅途中の社会人が増え始める時間帯、駅から少し離れたところにあるバーにて真耶と千冬が大人の時間を過ごしていた。

 

「ほぅ……で、あいつは私に黙ってIS部隊の短期集中キャンプに参加したと」

「は、はいぃ~」

「……まぁ、自衛隊ならばいいだろう。元々、あいつの警護をする予定もあったしな」

 

 そう言いながらキューブチーズを口に放り込み、グラスビールを一口飲んだ―――しかし、最初の一杯ではないのか千冬の表情はどこか赤い。

 

「たっく……あいつはいつだって私を心配させる」

「そうですね」

「二回も死亡判定を受ける馬鹿がどこに居るというのだ……まったく」

「本当に、お姉さんのことも考えてほしいですね」

「まったくだ……」

「でもそんな織斑君のこと、先輩は大好きですもんね」

 

 一瞬、千冬の手が止まるが恥ずかしさを隠すためかグラスビールをグイッと飲み干し、マスターにもう一杯と、新しいものを注文する。

 今日はよくお酒が進む日らしい。

 

「……あいつは私のことをどう思っているんだろうか」

「何がですか?」

「いや……ふと思うときがあるんだ。疎ましく思っているんじゃないかと……真耶はどう見える。私達姉弟の関係性はどう見える」

 

 お酒の勢いも入っているのか普段なら絶対に見られない千冬の姿に真耶は少し、驚きながらもこれまでの二人の姿を脳裏に思い出す。

 入学からトーナメントまでの間は確かに過剰なまでに守ろうとしてはいたがそれ以降は特段、驚くようなことは無いように思う―――真耶の中では。

 

「特段、おかしなところは見えませんよ。強いて言えばお姉さんが大好きな弟さんがもう心配で心配でたまらないっていう想いを伝えるのが不器用、って感じですかね」

「なにぃ? 不器用だと?」

「はい……でもその不器用さが織斑君にはいいと思います」

「……」

「不器用だからこそ伝わる愛もあると思うんです……だから織斑君は学年一位を目指したし、今もIS部隊の短期集中キャンプに参加していますし」

「……」

「疎ましくなんか絶対に思ってませんよ。織斑君の態度を見れば一目瞭然です」

 

 真耶の言葉を聞き、千冬は少し考えながらチーズを頬張る。

 

「そうか……」

「はい。良い姉弟関係だと思いますよ。弟君はお姉さんの期待に応えようと頑張ってますし、お姉さんは弟君を陰から見守っていますし」

「……真耶がいなければ私は確実に失敗していただろう」

 

 その一言で思い出すのは入学からの1カ月間程度の過剰なまでの干渉。

 全てのことを管理しようとしたことで千冬自身も許容を超え、一夏自身の許容も大きく超えてしまった。

 

「ありがとう……まぁ、あいつにはお灸を据えるがな」

「あ、あははっ~」

 

 二人は小さく笑みを浮かべながら新しく来たグラスを軽くぶつけ合った。

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