Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第六十一話

 時期は8月も末に差し迫ったある暑い日、短期集中キャンプを無事に終えた俺は荷物を持って自宅までの道をゆっくりと歩いていた。

 実弾射撃訓練やIS基礎技術、模擬戦など凄まじく濃い一カ月を過ごした俺の体はもうボロボロ。

 ただ、ボロボロになるほどに追い込まれたお陰で確かに技術は向上したという自信が今の俺には満ちており、一カ月前の俺と戦っても様々な面で圧倒できるだろう。

 

「始業式までの4日間でしっかりと体を休めないとな」

 

 そしてようやく辿り着いた一カ月ぶりの我が家を見てようやく俺の短期キャンプは終わったのだと実感できた。

 ただ、一カ月も放置していたので家のあちこちは汚いし、掃除も出来ていないために埃もたまっているだろうし、何より千冬姉の生存が心配だ。

 多分、カップラーメンのゴミがいっぱいあると思う。

 

「千冬姉……いるのかな」

 

 窓を見てみるが明かりが点いているようには見えないので恐らく学園だろう。

 

「ただい―――」

 

 家の鍵を取り出し、ドアを開けるや否や見えてしまった光景に俺は反射的に扉を閉め、鍵を閉めてと先程とは真逆の行動をとり、一息つく。

 ドアの隙間から怒りの形相を浮かべている千冬姉など見えたはずもないだろう。

 俺は自分自身に言い聞かせながらもう一度、ドアを開くがやはり俺の目の前には腕を組んだ鬼の形相の千冬姉がいたのでドアを再び締め直す。

 

「うぁ!?」

「こんのバカ者が!」

「イダダダダダッ!」

 

 足で扉を抑えられたかと思えば胸倉をつかまれて家の中に引きずり込まれ、一瞬にして組み敷かれたかと思えば関節を決められ、激痛が走る。

 そして俺は気付いた―――家の中、そして千冬姉から酒臭さが漂っていることに。

 

「ち、千冬姉酔ってる!?」

「酔ってなどおらん! 断じて!」

「と、とにかく話そう!」

 

 二重の意味ではなしてほしいと思っていると突然、千冬姉の力が弱まり、するりと拘束から抜けて体勢を整えるとようやく千冬姉の姿が目に入る。

 有休を取ったのか服はTシャツにジャージ、髪の毛はぼさぼさとズボラな格好だ。

 そして昼間からお酒を飲んでいたのだろう、顔も少し赤い。

 

「そこに座れ、バカ者」

「は、はい」

 

 筋肉痛で全身が悲鳴を上げるがこれも修行と思って正座を慣行する。

 

「どこに行っていた」

「自衛隊IS部隊の短期キャンプです」

「私に許可は」

「きょ、許可願い……すみません。直接相談せずに行きました」

 

 握りこぶしが握られたので言い訳をすぐにやめ、すぐさま土下座をする。

 書類だけで許可を取ろうとした俺が全面的に悪い。

 

「まったく……」

「千冬姉?」

 

 少し黙ったかと思いきや俺に近寄り、優しく抱きしめる。

 お酒も入っているからだろうけど今日の千冬姉はどこか子供っぽさを感じ、それを面白く感じながらも俺も千冬姉を抱きしめる。

 よくよく考えてみれば一か月もの間、連絡も一切取らないということは初めてだ。

 

「千冬姉……ただいま」

「おかえり、一夏」

「昼間からお酒?」

「たまにはいいだろう……」

「何か食べた? 作るけど」

「そうだな……ざるうどんが良い」

「よーし、じゃあ張り切って作るよ」

 

 千冬姉に抱きしめられると昔から色々なものがちりじりになる感覚がある。

 腕まくりをしながら久しぶりの料理を楽しもうとリビングに入った瞬間、俺は荷物をボトッと落とし、頭を抱えてその場に立ち尽くす。

 

「……」

「……どうした? 一夏」

 

 綺麗とも汚いとも言い難い惨状のリビングに俺は頭を抱える。

 千冬姉は何も家庭スキルが全くないわけではないので洗濯や掃除などは最低限出来ることは出来るし、自分のことは自分で出来る。

 ただし、それはあくまで千冬姉レベルで。

 なので洗濯物は畳まずにソファにかけられているし、ゴミも一か所に集めてはいるけど捨てに行っていないし、空き缶も一か所に集めているだけ。

 そう―――千冬姉は中途半端に汚くするのだ。

 

「さ、先に掃除しようかな~」

「ならば一眠りする。終わったら起こしてくれ」

 

 そう言い、千冬姉はソファにゴロンと横になり、あっという間に寝息を立ててしまう。

 

(いや……部屋に行ってほしかったんだけどな~)

「ま、いいか」

 

 千冬姉にブランケットを優しくかけ、とりあえずゴミの撤去から取り掛かった。

 

 

――――――☆――――――

 

「ふぅ……綺麗になったぜ」

 

 掃除を始めて早二時間、ようやく洗濯物やゴミ出し、お風呂の掃除や洗面所の掃除、トイレの掃除など掃除できる部分は全て完璧に終了した。

 やはり家が汚いと気分も滅入る。

 

「じゃあ、ざるうどんを作りましょうか」

 

 冷凍庫に入れてあった冷凍うどんを取り出し、裏面に書かれている時間にセットした電子レンジに入れ、その間に刻みネギやショウガ、そうめんの素を用意する。

 最近の冷凍うどんは電子レンジで温めたら完成するからありがたい。

 

「お、出来た出来た」

 

 電子レンジからうどんを取り出し、あらかじめ用意していた氷水にドボンと入れてうどんをしめ、ジャバジャバと一気に洗う。

 盛り付けるのも面倒なのでそうめん形式で大きいざるに入れ、必要な諸々をテーブルへと運ぶとあら完成。

 

「ここに天ぷらなんかがあれば最高なんだけどな……今日は仕方がないな。千冬姉、出来たよ~」

「んー……んん」

 

 相変わらずぼさぼさな髪の毛を掻きむしり、さらにぼさぼさにした状態で寝起きの千冬姉がフラフラと覚束ない足取りで椅子に座る。

 流石に気になり過ぎるので櫛を手に取り、軽く整えてあげているとコテッと俺の胸に頭を預けてくる。

 

「ちょっ、二度寝はダメだって」

「寝てないぞー……断じて寝てないぞー」

「棒読みじゃん……ほら、整った。さ、食べよう」

 

 ある程度、髪の毛を整え、千冬姉を二度寝から救い出して俺もテーブルにつく。

 

「「いただきます」」

 

 こうして姉弟揃って食事をとるのも随分、久しぶりに感じる。

 今年度は俺がIS学園に入学するということもあって千冬姉もバタバタしていたし、家に帰ってくることも普段よりも少なかった。

 やっぱり、月に一回はこうやって姉弟揃って食事、取りたいな。

 

「どう? 美味しい?」

「あぁ、美味しい」

 

 やっぱり誰かに美味しいと言ってもらえるのは嬉しい。

 

「千冬姉はいつまで休みなの?」

「今日までだ。明日からはまた学園に戻る」

「そっか……もう二学期だもんな」

 

 二学期は一学期以上にイベントが目白押しだと山田先生からも聞いたし、クラス代表として動くこともかなり多くなるらしい。

 

「一夏」

「無理はしないよ」

 

 千冬姉の顔を見れば何を言いたいのかはすぐに分かった。

 この一学期は俺自身、かなり無理をする出来事が多く、その結果が二回の死亡判定という最悪の事態を生みだしてしまった。

 もうこれ以上、千冬姉に迷惑はかけられないし、かけちゃいけない。

 

「これ以上、千冬姉を心配させない……命も投げうたない」

「……お前の場合は状況が状況だ」

 

 そう言いながら千冬姉は優しく俺の手に触れる。

 状況というのは束さんに命を狙われているということもあるだろうけど忘れちゃいけないのは俺が世界で唯一、男性でISを操縦できるという事。

 今までは束さんのことだけを心配していたけど本来は後者の方を一番、心配しないといけない。

 

「一学期は様子見をしていた連中も二学期からは何らかのアクションを見せるぞ」

「うん……」

「それは学園内部もそうだが……学園外部でもだ」

「外部……」

「束のことは私が監視する……だが外部の組織までは手が回らん」

 

 千冬姉も全知全能の神様じゃない。

 手が届く範囲は有限だ―――だから届かない範囲は俺が自分で自衛しなくちゃいけない。

 

「気を付けろ、一夏」

「ありがとう……絶対にもう千冬姉を心配させない」

「期待しておこう」

 

 俺達は互いに笑いながらしばし、姉弟の時間を楽しんだ。

 

 

 

――――――☆――――――

「……」

 

 IS学園の生徒会室において青髪の少女は一枚の報告書に目を通し、険しい顔をしている。

 その報告書はある組織に関する報告書だった。

 

亡国機業(ファントム・タスク)……動き出したわね」

 

 一学生が見るような報告書ではないその報告書を彼女は生徒会長としてではなく国の裏に関わる一員としての表情で隅々まで見ている。

 亡国機業―――第二次世界大戦中に設立されて以来、様々な形で世界の裏側で活動を続けてきている集団であり、その目的や実態は一切分かっていない謎の組織。

 亡国機業が関わるものは時代によって変わっており、現代はIS。

 

「狙いは……」

 

 十中八九、白式と織斑一夏。

 今年のIS学園にはあらゆる外部組織が注目する要素が多すぎる。

 

「やれるものならやってみなさい……私が全て叩き潰す」

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