Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第六十三話

 雨も完全にやみ、一通り屋台を回った箒の手には綿菓子やりんご飴が握られており、一夏の手には焼きそば・たこ焼きといった容器が入っている。

 

「うむ、お祭りの綿菓子も美味しいな」

「それはよかった……よかったよ」

 

 一夏は軽くなった財布を見て心の中で涙を流す。

 男である以上、出ていくお金を女々しく追いかけるつもりも無ければぐちぐちと言うつもりもないがまさか一時間で祭り用に用意したお金が消えるとは思っていなかった。

 

「箒」

「ん?」

「もーらい」

「ぁ」

 

 箒の小さな声も気にせず、一夏は箒が食べていた綿菓子を一口食べる。

 ほのかな甘みが彼の口に広がり、あっという間に溶けてなくなってしまった。

 

「うん、久しぶりに食べたけど甘くて……箒、どうした? 顔真っ赤だぞ」

「な、なんでもない!」

(か、か、か、か、間接キス!? い、一夏は今確かに私が食べていた部分をかじった……い、い、一夏と……か、か、間接キス……)

「箒、タコ焼き食うか?」

「う、うむ」

「ほれ、あ~ん」

(こ、これが伝説のあ~んか!)

 

 少女漫画や恋愛ドラマでしか見たことがない男女によるあ~んでの食べ合いっこ。

 昔の箒であればあんな破廉恥な物の何がいいのだ、と言うやもしれぬが一夏に恋い焦がれている今の彼女からすれば憧れ度Bランクの行為。

 ゆっくりと迫ってくるタコ焼きよりも一夏の顔しか目に入らない。

 

「熱っ」

「あ、悪い! 大丈夫か?」

「っっ!」

 

 一夏の顔ばかり見ていたことでたこ焼きとの距離を見誤ってしまい、箒の唇とタコ焼きが正面衝突してしまい、慌てて一夏が箒の顔を覗き込む。

 その顔の近さはキスが出来るやもしれぬ距離。

 

「い、一夏……」

「大丈夫か? 氷貰ってこようか?」

「だ、大丈夫だ……ってほしい」

「へ?」

「い、今私は手が塞がっている……ソースを取ってほしい」

 

 唇の上部分についたソースを取れと要望を出すと一夏は一瞬、たじろぐが箒は覚悟が決まっているのか全く動じる気配を見せない。

 ティッシュなど持っていない一夏が彼女の唇からソースを取るには方法は一つしかない。

 

「じゃ、じゃあ……取るぞ」

「う、うむ……」

 

 一夏は若干、震える指を箒の唇にゆっくりと優しく当てると唇の上に指を滑らせ、ついていたソースを掬う。

 女の子の唇など触ったことも無い初心な一夏の顔は火山が噴火するのかと言わんばかりに真っ赤になっており、目がキョロキョロと泳いでいる。

 

(ぁぁぁー! い、一夏の指が私の唇に!?)

 

 箒も箒で自分で頼んでおきながら頭の中がぐちゃぐちゃになっており、目もグルグル回っている。

 

「一夏さん?」

 

 

――――――☆――――――

 声をかけられ、ナイスタイミングと言わんばかりに振り返るとそこには浴衣姿の五反田兄妹がいたが弾の肩には大きな箱が乗せられている。

 

「弾、お前何担いでんだ?」

「薄型テレビだよ。蘭がくじ引きであてたんだ」

「へー、祭りのくじってあたりは言ってるのか」

「い、一夏さん……お隣の方は」

 

 蘭は少し不安げな色を見せながらそう尋ねてきたので俺は箒を紹介―――する前に箒が前に一歩踏み出す。

 

「私は一夏の幼馴染の篠ノ乃箒だ」

「私は一夏さんの後輩の五反田蘭です」

 

 そう言いながら両者は握手を交わす―――どこかその光景は試合前の光景とよく似ており、心なしか二人の間に火花が散っているようにも見える。

 一体、二人は何を考えているのかは分からないが悪手にしては少し長いような気もする。

 

「なあ、弾。二人ともずっと握手してるけど」

「ん~……戦争前の挨拶、みたいな?」

「戦争……戦争?」

「ま、いつか分かるさ。また遊ぼうぜ」

「おう、またな」

「ほら、蘭。帰るぞ」

「ちょっ! お兄!」

「邪魔者は退散退散」

「い、一夏さーん! また今度!」

 

 弾にズルズルと引きずられながら蘭は家路へとついてしまった。

 その時、連絡用のスピーカーからアナウンスを告げる放送が入る。

 

『お待たせしました。夏祭り恒例、花火大会を開催したいと思います』

「おぉ! 雨降ったから中止だと思ってたけど出来るんだな」

「花火大会か……ならば」

「「あそこだな」」

 

 俺達は互いに思っていることを同時に言うと一言一句、重なり、思わず互いに笑ってしまう。

 お祭りの後の花火大会には俺達しか知らないであろう秘密のスポットがあり、二人で来ていた時にはいつもそこに集まって二人だけで花火を楽しんでいた。

 俺達は早歩きで神社裏の林へと向かう。

 そこは背の高い針葉樹林が集まってできていて何故か一角だけだけが天窓を開けたように開けているので花火がよく見える。

 そのスポットを知っているのは俺と箒だけだ。

 

「ここも変わってないな」

 

 昔は周りの木々がとてつもなく高く感じたけど今となっては普通の高さにしか感じない。

 それは俺が成長したからか、それとも別の何かか。

 

「……なんか、いいよな。この感じ」

「いきなりどうしたのだ、一夏」

 

 人気も無く、静かな空気の中、聞こえてくるのは祭りの出囃子と冷たい夜風の音だけ。

 ついこの間まで爆音がドンパチ響き渡るような戦場ではなくこうして幼馴染と二人で楽しく、平和に過ごせていることが何よりうれしい。

 でもその平和もほんの少しの間だけかもしれない。

 俺の命を狙っている束さん、世界で唯一の存在である男のIS操縦者を狙う外部の組織と俺を取り巻く状況は確実に大きく変貌する。

 それは良くも悪くも―――もしかしたらもう二度とこんな平和な空気を感じられないかもしれない。

 

「箒?」

 

 そんなことを考えていると箒が俺の手を優しく握る。

 

「一夏……不安なのだな」

「……」

「私も……不安だ」

 

 箒は左腕についている交差するように巻かれ、金と銀の一対の鈴が付いている赤い紐―――紅椿の待機形態を見つめる。

 束さんが箒のためにと作り出した世界最強のIS。

 未知の展開装甲という技術がふんだんに使われているそれを狙ってくる組織もいるだろう。

 

「だが……みんなとなら……お前とならどんな壁だって乗り越えられる……そう思うんだ」

「箒……そうだな」

 

 俺はみんなを守るために強くなる―――そう決めて実際に動いた。

 でも動いたところでそれが本当にみんなを守れるレベルに達しているのか、そして達していたとしても護りきれるのかという不安が俺を捕まえて離さない。

 でも俺には仲間がいる―――一人じゃないんだ。

 俺達の不安を切り払うかのように夜空を花火が打ち上げられ、美しい色で染め上げていく。

 

「明日、みんなでパーティーしよう」

「いきなりだな」

「そうかもな……でもしたいんだ。一カ月ぶりに皆にも会いたいしな」

「そうだな……そうしよう」

 

 打ち上げられる花火を前に俺達はただ互いに手を繋ぎながら美しく染められる夜空を眺めていた。

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