Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第六十四話

「…………」

 

 真夏の日差しが照り付けるなか、一人の少女が一軒の家の前で立っていた。

 その眼差しは真剣そのものであり、じーっと表札、およびインターホンのボタンを眺めながら何度を腕を伸ばしたり、引っ込めたりしていた。

 かれこれ10分は経過しているだろう。

 

「だ、大丈夫だよね……ぼ、僕変なところないよね?」

 

 服装を確認し、髪の毛を確認し、とかれこれ5回目の身だしなみのチェックを終わらせる。

 少女の名はシャルロット・デュノア。

 2日後にIS学園の始業式を迎える高校生であると同時に想い人の思わぬパーティーへの招待を受けてドキドキしているうら若き少女の一人だった。

 

(突然一夏もパーティーしようって……でも嬉しいなぁ~。2学期が始まる前に一夏に会えるなんて)

 

 想い人である少年はついこの間までISの短期集中キャンプに参加していたため、連絡も取れず、会いにも行けずだったので暇で暇で仕方がなかった。

 会えるのは始業式当日かと思っていた矢先の昨日の晩、突然、一夏からメールが来て今に至る。

 

「よ、よし……今度こそ」

「やっぱりシャルだ」

「ふぇ!?」

 

 インターホンを押そうと腕を伸ばした矢先、家の扉が開いて想い人である一夏が顔を覗かせる。

 若干、インターホンを押せなかったことに残念さを感じるがそれよりも1カ月ぶりの一夏の声と顔を見ることが出来てシャルのテンションは爆上げである。

 

(ほぁぁっ! 一夏だ~!)

「一番乗りはシャルか。上がってくれよ」

「う、うん! じゃ、じゃあ……お、お日柄も良く」

「へ?」

「じゃなかった……お、お邪魔します」

 

 ドキドキと高鳴る胸を抑えながら一夏の自宅へお邪魔する。

 通されるがままリビングへと入ると何か作っているのかふわっと甘い香りが彼女の鼻孔を通る。

 

「まあ、座っててくれよ。暑かっただろ? お茶いれるよ」

「う、うん……もらおうかな」

 

 ソファーに座り、何気なくを演じながらしっかりと一夏の家を見渡す。

 見える範囲はとてもきれいに掃除が行き届いており、今日のために掃除をしたというよりも常に綺麗な状態が保たれているようだった。

 

「かなり新しいお家なんだね。綺麗すぎてびっくりしちゃった」

「ん? この家、結構古いぞ。ほい、お茶」

「え? そうなの? ありがとう」

「千冬姉が中古物件を探して格安で購入したから当初はボロボロでさ~。中学の時くらいに技術の授業でDIYにはまって、色々な物作り替えてたらこうなったんだ」

「え? じゃあ、お庭の椅子とテーブルは?」

「作った」

「えぇぇ!?」

 

 窓から見える庭にはそれは立派なイス二脚とテーブルが置かれており、とても手作りの物には見えず、既製品だとばかり思っていた。

 

「じゃ、じゃあこのソファーも」

「それは流石に無理だって。あ、でも写真立ては作ったし、玄関にあった小物入れなんかも手作りだ」

「へぇ~」

 

 そんな他愛ない会話をしながらシャルロットは笑顔がこぼれるのが止められなかった。

 久しぶりに彼との会話もそうだがこうやって彼の自宅に招かれ、他愛ない話をしているとどこか付き合っているような感じがして幸せ度はグングン上がっていく。

 

「そう言えば一夏、何作ってるの?」

「秘密だ」

(なんだろなんだろ……楽しみ~)

 

 

――――――☆――――――

「ここ……ですわね」

 

 スマホのマップアプリを駆使してやってきた一人の少女―――セシリア・オルコットは今一度、表札に書かれている名前を確認する。

 その雰囲気はさながら戦場に赴く兵士のごとく。

 

「既にシャルロットさんは出発しております故……先を越されているでしょうし、どのように入りましょうか」

「あんた何してんの」

「り、鈴さん!? いつの間に」

 

 突然の声に振り替えるとそこには鈴の姿があり、その表情は若干、呆れ気味である。

 ふと、セシリアの目に彼女が二つの袋を持っているのが見える。

 

「それは?」

「これ? さっきそこのコンビニで買ってきたのよ」

「あら、鈴さんったら意外と気が利きますのね」

「意外は余計よ……でも一夏の料理食べるの何年ぶりだろ~」

「一夏さんの料理はそれ程美味しいのですか?」

「そりゃもちろん……女としてのプライドがへし折られるくらいには」

 

 鈴の脳裏によみがえるのは中学時代の記憶。

 ある日、いつものように家のお店でご飯を振る舞っていた際にお礼がしたいということで鈴の一家が自宅に呼ばれ、一夏の手料理が振る舞われたことがある。

 その日以降、一夏に料理の腕で勝つのは止めようと決心したほどである。

 

「ま、あいつの一カ月家にいてなかったし、みんなで摘めるお菓子あった方が楽しいじゃない」

「なるほど……では参りましょうか」

 

 するとセシリアはキョロキョロと辺りを見渡し、何かを探し始める。

 

「何探してんのよ、早く押しなさいよ」

「い、いえ……エントランスはどちらですか?」

「……金持ちめ」

「それに守衛もいませんし」

「一般庶民の家に守衛なんていないわよ」

「あら、そうなのですか? ではどのように中に」

 

 セシリアの金持ち発言に思わず鈴はため息をつきながらも表札下に設置されているインターホンを押すとセシリアは少し驚いてしまう。

 

「まぁ! 呼び鈴でしたの」

「なんだと思ってたのよ」

『はーい、織斑ですけどー』

 

 1オクターブ高い声がマイクから聞こえるが鈴は反応しようとするセシリアを制止する。

 

「宅配便ですー」

 

 突然の変な演技にセシリアは頭の上に疑問符をいくつも浮かべる。

 

「鈴さん、何を」

「ぬふふふっ……ちょっと成敗をね」

 

 その時、扉の向こうからパタパタと足音が聞こえてきたので鈴はセシリアとともに扉の死角へと身を寄せ、扉が開くのを待つ。

 ガチャリと扉が開くと出てきたのは一夏―――ではなくご機嫌上々、満面の笑顔を浮かべているシャルロットであった。

 

「あれ?」

「シャルロット―!」

「わっ!? 鈴!?」

「あんた何新婚気分で応対してんのよー!」

「ごめんってば~」

 

 鈴はシャルロットに軽くヘッドロックをかましながらグリグリと拳を擦りつける。

 一度はやってみたいことを先に越されてしまった鈴の顔はどこか悔しそうな表情。

 

「たっく……あ~、もう暑くなってきちゃった」

「入りましょうか」

 

 鈴とセシリアも一夏の自宅へと入ると既に慣れている鈴の案内のもとリビングへと向かうとお茶を用意していた一夏とばったり遭遇する。

 

「鈴とセシリアが同着か」

「お、お邪魔しますわ」

「これお菓子。皆で摘むように」

「お! サンキュー! ほい、お茶でも飲んでてくれ」

 

 出されたお茶を飲みながらセシリアはキョロキョロと落ち着かない様子であり、鈴も鈴で久しぶりに来る一夏の家に少しドキドキしている様子。

 

(久しぶりに来たけど……一夏の匂いがするわ)

(初めてきましたが……ここが一夏さんの家!)

(一夏のお家……それよりも)

 

 三人の視線がパチリと合うと同時に台所に立っている一夏の方向へと向かい、もう一度視線が戻ると三人は考えていることは同じだったらしく、うんと頷きあう。

 

(雰囲気が全然違う……前まではどこかこう……柔らかい部分もあったけど)

(今は全然違うわ……こう……見てたらドキドキするというか……お、男らしいというか)

(まるで騎士のような男性らしさを感じますわ……)

(((平常心ではいられない!)))

「あとはラウラと箒だな……ていうかみんな一緒に来なかったんだな」

「ま、まあね~」

「お、女の子には色々と準備があるのよ!」

「そ、そうですわ! レディーには色々な色々がありますの!」

「ふ~ん……」

 

 そんな時、来客を告げるインターホンが鳴り響くが刹那、バチィッ! と三人の少女の視線がぶつかり合い、超高速のバトルが展開される。

 そのテーマは誰がインターホンを出るか。

 「さっき、やったんだから譲りなさいよ!」と目で凄む鈴に対してシャルロットは「譲れないな~」と軽く受け流し、セシリアは「ここは間を取ってわたくしが」と胸を張る。

 

「は~い」

「「「ぁ」」」

 

 そんなバトルを展開している間に一夏が行ってしまい、三人は小さく声を出しながらガクリと肩を落とす。

 玄関から三人の足音がパタパタと聞こえて来るや否や勢いよく扉が開かれ、ラウラと箒の二人がリビングへとやってくる。

 

「むっ、三人の方が早かったか」

「二人で最後だぞ」

「そうか……ところで旦那様」

「ん?」

 

 ラウラが一夏に声をかけ、彼が振り返った瞬間、ラウラは思いっきり一夏に抱き付いた。

 その瞬間、箒・セシリア・鈴・シャルロットの四人は声にならない悲鳴を一瞬挙げると同時にわなわなと全身を震わせる。

 

「ど、どうしたんだよラウラ」

「うむ。一カ月ぶりの旦那様の成分を吸収しているのだ……私は寂しかったぞ」

「そ、そうか……それはいいんだけど……みんなの殺気が」

「むぅ? 夫婦のイチャイチャを見るとははしたない奴らめ」

「「「「誰が!」」」」

 

 一夏はハハッと乾いた笑みを浮かべながら箒とラウラの分の麦茶をテーブルに置き、自分も一休みとソファの空いている席に座り込む。

 

「急に言って悪かったな、みんな」

「いいよいいよ! 僕も暇だったから」

「そうそう! あたしも暇だったし」

 

 うんうんと二人に同じくと言わんばかりに激しく頷くが全員の心中では久しぶりに会いたかったから、という想いで一致している。

 仮に予定が入ったとしても何が何でも一夏との予定を優先させていただろう。

 

「でもどうしたのよ急に。パーティーしようだなんて」

「一学期も色々あっただろ? だからそのお疲れ様会ということでさ」

 

 主にお前がな、という全員一致のツッコミは彼には届くまい。

 男性でISを動かしたところから始まり、二度の死亡判定を受けてもなお復活を遂げるなど中々に体験できるものではない。

 

「お昼はそうめんだけどいいか?」

「「「「もちろん!」」」」

「息ピッタリだな。そんなにお腹空いてるのか?」

「ねえねえ! もしかしててんぷらとかあんたの手作り!?」

「もちろん。俺がスーパーの天ぷらで満足するわけがないだろ?」

「ほぅ。鈴の喜びようから察するに旦那様は料理が上手なのか」

「まあな。千冬姉が仕事で忙しかったからさ、俺が家のことしていたし。じゃあ悪いけどみんなで用意してくれよ。お箸とかおわんとか」

 

 その瞬間、全員が我先にと動き出し、お箸やお椀、さらにはそう麺つゆ、台拭きを手に取るとあっという間にテーブルが綺麗になってしまう。

 一夏は流石は代表候補生とその素早さに感心するが乙女たちの本心は家庭スキルの自慢。

 

「今からてんぷら揚げるから、もうちょっとだけ待っててくれ」

「「「「「はーい」」」」」」

 

 パチパチと油が弾ける音が家に響く中、鈴は作戦会議と言わんばかりに全員を引き寄せ、身を寄せあう。

 

「先言っておくけど……あいつの料理スキルは世界一よ」

「ほぅ……旦那様の料理スキルはそれほどなのか」

「えぇ……それこそ下手な料理人よりもね」

「あら、それは楽しみですわ」

「ちなみに誰か一夏に手料理振る舞ったことは」

 

 鈴の質問に小さくセシリアが手を挙げると鈴は小さくため息をつく。

 

「一夏さんが入院中に……な、何故ため息を」

「セシリア……絶望しちゃダメよ。心を強く持ちなさい」

「は、はぁ」

「そ、そんなに腕が立つのか」

「ええ……私はあいつに料理で勝つことは諦めたくらいだし、あいつに手料理をしようもんならどれだけあいつの感想にビクビクしたか」

 

 最後に生半可な覚悟じゃ絶望するわよ、と付け足されて少女たちの表情は若干引きつる。

 

「だがそんな旦那様の手料理を食べられる妻は幸せ者だな」

「「「「妻か~」」」」

 

 ぽわわ~んと一夏との結婚生活を想像もとい妄想し始め、桃色の生活に思わず表情を緩めてしまう。

 

「お待たせ~」

 

 一夏の声が響き、全員が現実に戻されて肩をビクつかせる。

 全員の前に一夏お手製の天ぷらが置かれるとあまりの出来栄えに圧倒された少女たちは言葉を失う。

 

「て、てんぷらが輝いているだと」

「おつゆで食べてもいいし、塩とかわさび塩かけて食べても美味しいぞ。で、これがそうめん」

「い、いただきます」

 

 全員が輝きを放っているように見えるてんぷらを取り、一口食べる―――するとサクッという音とともに全員の顔が一気に晴れやかなものになる。

 

「お、美味しい」

「えびもプリプリね!」

「イカも食べやすいように切れ込みが入ってる!」

「旦那様……私は感動しているぞ」

「わ、わたくしの手料理は……粘土細工だったのでしょうか」

「そんな大げさな……んじゃ、俺も食べようかな」

 

 一夏も少女たちの輪の中に入り、昼食のひと時を過ごすのであった。

 

 

――――――☆――――――

 時刻は18時を少し過ぎたころ、一夏の絶品晩御飯に満足した少女たちは食休みのひと時を過ごしているが一人だけ絶望に打ちひしがれている少女がいた。

 

「セシリア、だから言ったじゃない」

「わ、私の料理は……泥団子」

「ま、まぁ僕もちょっとだけびっくりしちゃったよ。一夏ってホントに料理上手なんだね」

「まあな……では最後のデザートだ」

 

 そう言いながら彼は箱を手にテーブルへと運んでくる。

 少女たちは次はどんなものが運ばれてくるのかと目を輝かせながら今か今かと待ち侘びている。

 

「では……オープン!」

「「「「「おぉ!」」」」」

 

 ふたを開けられ、全貌が明らかになると少女たちは驚きを隠せないでいた。

 そこにはホールケーキが鎮座しており、上には多種多様な彩を放つフルーツが添えられており、ケーキ屋さんで購入してきたと言っても信じるほどの出来栄えのケーキだった。

 

「イチゴ、ブルーベリー、チョコレート、オレンジ……色とりどりのフルーツですわ」

「もしかしてこのフルーツ、僕たちの専用機のカラーを再現してる?」

「おっ! 流石はシャル。そうなんだ。せっかくみんなで集まるしと思ってさ」

 

 一夏はナイフでそれぞれのカラーに合うように切っていくとそれぞれのお皿に盛っていく。

 

「あれ? あんたは何もないの?」

「俺の白式は白だからと思ってさ」

「じゃああたしの一個あげる」

「僕のもどうぞ」

「ではわたくしも」

「私のもどうだ」

「旦那さまだけ真っ白だけというのもな」

 

 それぞれが一つずつフルーツを一夏のケーキへと置いていくとあっという間に全部乗せのケーキが完成し、思わず一夏の顔もほころぶ。

 

「ありがとな、みんな」

「どうしたの? 急に」

「いや……2学期も色々あると思うけど……みんながいればなんとかなりそうだ」

「なになに~? 不安なわけ?」

「旦那様はドンと構えておけばいい」

「そうだな……よし! 食べる前に写真撮ろうみんなで!」

「さんせーい!」

 

 一夏は自分のスマホを取り出し、スマホスタンドに立てるとケーキを持って全員が一か所に集まる。

 一夏を中心にして両脇を箒と鈴、そして後方にシャルロットとセシリアが立ち、何故かラウラは一夏の足の間にすっぽりと入ってしまった。

 

「ちょっとラウラ! なんであんたがそこなのよ!」

「私は旦那様の妻だからな」

「あ、あのねぇ」

「まあまあ。じゃ、撮るぞー」

 

 一夏の合図が出た瞬間、スマホからパシャッとシャッターが着られる音が室内に響き渡り、少女たちは美味しそうなケーキを頬張り始める。

 今日この日をもって台所に並べられていた写真が一枚、増えたのは言うまでもない。

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