Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第六十六話

 次の日、IS学園全校集会が行われることとなり、内容は今月中旬に実施される学園祭のこと。

 ただ、全女子生徒が集合しているからか俺に凄まじい数の視線が集中しているのと同時にあちこちからボソボソと小さな声が聞こえるのでかなりうるさい。

 全校生徒が集まっての集会はあまり経験がないためこれはこれで中々に辛い。

 

「?」

 

 その時、ざわつきが奥の方―――三年生の方から潮が引くように消え去っていき、それらが広がって一瞬にして一年生にまで到達する。

 一年生は初めての経験からか奇妙な感覚によって静けさに包まれる。

 上級生たちの視線が前方に集中しており、俺達もそれに習って前方に視線を移すとそこにはいつの間にか演台に上がっている青髪の女性がいた。

 

(……あの日、キャンプにも来た人だ)

「みんないい子ね。お姉さんはいい子と正直な子は好きよ」

 

 にっこりと笑みを浮かべながら青髪の女性がそう言うと列のあちこちから熱っぽいため息が漏れ出る。

 

「今年は色々あって挨拶がまだだったわね。私はIS学園生徒会長を務めている更識楯無よ」

 

 IS学園生徒会長―――その肩書が意味することは学園の中で最も強いIS操縦者であるという事。

 俺は何度か直接話したことがあるが正直に言えばあの人の雰囲気からそんな強者が放つようなオーラを感じることは出来ていない。

 千冬姉のように常に感じるようなものではないんだろうか。

 

「今年の一年生は実に賑やかだわ。男性操縦者の入学に数々の専用機持ちの転入。そして数々のハプニング……でも安心して。皆は私が守るから」

 

 しゃっと勢い良く開かれた扇子には不撓不屈と書かれているが一年生たちは正直、ぽかんとしている。

 その時、生徒会長が俺の方を見たのか、それともたまたまか彼女と視線がパチリと合うとともに小さく、それは気付かないレベルで小さく笑みを浮かべる。

 嫌な予感がしたのは気のせいだろうか。

 

「ただ、私が気付かないうちに奥手な子が増えたのかしら? 去年はあんなにも私に襲い掛かってきていたのに最近はほとんどない……お姉さんはとてもショックです」

 

 といいながらあからさまにシュンと肩を落とすと何故か上級生の方から小さな呻き声が聞こえ、中には胸を抑えてティッシュで鼻を抑えている人もいる。

 生徒会長が言っている内容もおかしいことはおかしいが上級生の反応も聊かおかしいと感じる俺の歓声は間違っているだろうか。

 

「それもそうよね。だってイケメンの男性操縦者が入ってきたら乙女にもなるし、しおらしくもなるわ」

 

 すると生徒会長はシャッと勢いよく扇子を開くとそこには激怒雷霆の四文字。

 

「でもお姉さんはそんなことは望んでいないの。IS学園は優秀な操縦者を育成する場所。もっともっと活気があって血沸き肉躍る環境の方がいいと思っている訳なの」

 

 少しだけ、ほんの少しだけ重く響き渡る生徒会長の言葉に全員が言葉を発せない。

 生徒会長は明るく笑顔を浮かべているはずなのに俺たちを取り巻く空気は対照的に重く、暗い。

 

「みんな忘れちゃダメよ? ここはIS学園。学園生活を楽しむのもそうだけど優秀な操縦者になるためにここに来たはずよ。甘い学園生活を楽しみたいならその辺の女子高にでも行きなさいな」

 

 恐らく生徒会長は怒っているんだろう。

 生徒会長にとって今のIS学園はぬるい、と。

 

「まぁ、全てが全てそんな血生臭いことをしよう、とは言わないわ。学生生活を謳歌する面もIS学園には含まれているもの。そんなわけで生徒会からみんなに向けてイベントのお知らせよ」

 

 生徒会長が扇子を閉じるとともに空間投影ディスプレイが展開され、そこにでかでかと学園祭の3文字が現れるとともに横へとスライドしていく。

 そこにはいくつかの文言が書かれていたが全員の視線は最後の特別ルールにあった。

 

「ここにもあるように今月の中旬、学園祭があるわ。これはIS学園を知ってもらうための行事でもある。でも同時に内側、私達も楽しまないと意味がない。そこで特別ルールを設けることにしたの」

 

 さらに画面がスライドし、昨年までのルールが表示される。

 要約すると部活動ごとに催しを実施し、投票によって一位を獲得した部活動には特別助成金が支給されていたとのこと。

 それは部活動に参加していない生徒への入部促進も兼ねているんだろう。

 

「その特別ルールとは」

 

 その瞬間、ニヤリと生徒会長が笑みを浮かべるとと同時に勢い良く俺に向かって扇子を向ける。

 その動きに合わせて新たなページへとスライドし、特別ルールが表示される。

 

「名付けて部活動対抗織斑一夏争奪戦! 学園祭当日も含めた期間中、生徒会長である私が護衛につくわ。その護衛を潜り抜けて彼に一撃でも攻撃をあてられたら彼をその部活に強制入部させましょう!」

「うぉぉぉぉっ!」

「やってやろうじゃない! やってやるわ!」

 

 一気に全員が雄叫びを挙げて両手を挙げて喜びに狂う。

 それとは対照的に渦中の人物である俺自身は何も聞かされていない事実にポカンとするしかなく、何も言えないし何も頭が理解しようとしない。

 

「織斑君が我が部活に来たらマッサージしてもらおう!」

「彼は料理が得意という噂よ! フルコース堪能したい!」

「彼のあの強さがあれば我が部活は永久の繁栄が約束される!」

 

 背中をぞくっと冷たい何かが過ぎ去っていき、思わず周囲を見渡すとキラリと野獣の獲物を狙う鋭い視線が俺の全身を貫いている。

 これぞまさに蛇に睨まれた蛙。

 そんなバカ騒ぎをしている生徒たちを前に先生陣はいつものことかと呆れており、千冬姉も軽く頭痛がするのか額を抑えている。

 

(あぁ、千冬姉も苦労してるんだな)

「さあ! 再びこの学園に血沸き肉躍る闘争の炎を!」

『おぉー!』

 

 

 

――――――☆――――――

 同日の放課後、一組は早速学園祭の催し物を決めるためのクラス会を実施していた。

 俺は学級代表という立場である以上、意見を取りまとめているのだがホワイトボードに表示されている各々の意見を前に俺は頭を悩ませている。

 各タブレット端末から送られてくる実施案はそれはもう阿鼻叫喚だ。

 

「織斑一夏の執事喫茶、ホストクラブ、ツイスターゲーム、織斑一夏の料理屋……却下却下!」

『えぇー!』

 

 全員から凄まじい大ブーイングと冷ややかな視線が送られてくるがそんなもの俺には効かない。

 というよりも全員が一致して何故、俺が主役なんだ。

 

「もっとクラス全員で出来ることをしないか?」

「出来るもん! クラス全員で織斑君を堪能できるもん!」

「そうだそうだ! 織斑君はたまには無名のパンピー女子生徒にも出番を増やせ!」

「何の出番だよ……ほらもっとあるだろ!? お化け屋敷とかボウリングとかさ!」

「えー、それじゃ織斑君堪能できないじゃん!」

「一組の武器はなんといっても織斑君の存在!」

「その織斑君を堪能できるのであれば売り上げは間違いなく学年、いや学園一位!」

 

 やいのやいのと意見が乱れ飛び、助けを求めようと視線を動かすが千冬姉は時間がかかるからと職員室に戻り、山田先生も用事とやらで一時退室中だ。

 箒やシャルたちに視線を送るがみんなの熱量を前に頑張って、と手を振るだけ。

 

「ならば私が意見を出そう!」

 

 勢い良く立ち上がるとともにタブレット端末に流れるように意見をかきあげ、それを送信すると画面共有しているホワイトボードにでかでかと表示される。

 

「メ、メイド喫茶?」

「そうだ。旦那様の料理は確かに絶品だが一人で飲食店を回すのは厳しい。かといって皆が言うように旦那様という最強の切り札を切らないわけにもいかない」

『ほうほう』

「で、あれば普段はメイド喫茶を行い、スペシャルタイムとして旦那様の執事、そして絶品料理の提供をすれば多少高くても支払う客は多いだろう。これで経費回収も出来る」

「そこに執事服の一夏とツーショットタイムもいれればいいんじゃないかな? 一回1000円」

 

 シャルの援護射撃に徐々に全員がうんうんと頷き始め、あとはお前だと言わんばかりに俺に了承するように視線で迫ってくる。

 確かに経費回収・売り上げ達成を考えるのであれば最善の方法なんだろうけど俺が執事服を着るのか。

 

「安心しろ、旦那様。メイド服もそうだが一度着てみれば存外、楽しいものだ」

「私もメイド服着てみたいかも~」

「さんせ~い」

「では多数決だ! 旦那様の執事喫茶……コホンッ。メイド&執事喫茶に賛成の者は挙手!」

『は~い!』

 

 俺以外の全員の心がシンクロしたかのように手が上がり、シャルやラウラ、箒やセシリアまでもが手を挙げて賛成に回ってしまった。

 民主主義とはなんと愚かな制度なんだろうか。

 

「ま、まぁこれで織斑先生に報告するけど……服はどうするんだ? 俺、執事服なんかないぞ?」

「安心しろ、旦那様。前に臨時アルバイトをした際の伝手がある。な、シャル」

「そうだね。店長にお願いしてみよっか」

「わ~い。おりむ~の執事服だ~」

「じゃあ、服はこれでめどは立ったから……あとは料理だけど」

「回転率がよく、かつ誰でも作れるものとなると難しいな」

 

 特別タイムの俺が作る料理は俺だけが考えればいいし、俺が作れれば問題ないが一般メニューの料理となるとなかなか候補が絞り切れない。

 料理スキルも人によって幅はある。

 

「紅茶とコーヒーは確定でいいよな? あと料理だけどスイーツとなると何がいいか」

「ドーナツは~? フワフワしてて大好き~」

「作ったことあるけど油で揚げるからな~」

「じゃあこれはどう?」

 

 シャルが端末で調べていた動画を画面共有し、ホワイトボードに映す。

 そこにはチョコレートと薄力粉を使った簡単なチョコレートクッキーの作り方が載っており、必要なのはオーブンレンジくらいとかなりシンプルだ。

 

「これならチョコレートをいっぱい買えば出来ると思うんだ。特に難しい工程は無いし、チョコレートも甘いのとかビターチョコとかいろんな種類を混ぜても美味しいと思う」

「そこにホワイトチョコレートもいれてもいいな」

「ホワイトチョコ好き~。さすがほ~ちゃん」

「ほ、ほ~ちゃん?」

「あとは紅茶とコーヒーは取り寄せれば量も確保できる。よし、これに俺が作る料理を加えればいいかな?」

 

 ホワイトボードにある程度ざっくりとした催しものの企画案を作成し、みんなの目によるチェックを入れてもらっているとふとセシリアが黙って教室を出るのが見えた。

 

「セシリア? どうかしたか?」

「あ、いえ……これから訓練がありまして」

「? 誰かとするのか?」

「いえ、わたくしだけですわ」

「じゃあ俺も」

「……今は一人でしたい気分ですの。申し訳ありません」

 

 まさか断られるとは思っていなかった俺は驚いてしまい、その間にセシリアはアリーナへと足早に向かっていくがその背中はどこか重く、暗いオーラを漂わせている。

 いつも明るいセシリアがああそこまで思い詰めている姿を見るのは初めてだ。

 

「せっし~、大丈夫かな~?」

「のほほんさん……大丈夫だと思うけど……」

「今日の授業も上の空だった~」

「織斑君! こここうしない?」

「え、あぁ今行く!」

 

 呼ばれてしまい、セシリアの様子は心配ながらも俺は教室へと戻った。

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