Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第六十七話

 無事にクラスの催し物の計画書を作成した俺は紙一枚を手に千冬姉がいるであろう職員室へと向かっていたが後ろをチラッと何気なく振り返る。

 

「……」

「あら、どうかしたの?」

「いえ……なにも」

「なら、前を見て歩きましょう」

 

 そう、俺の後ろを青髪の少女―――IS学園生徒会長の更識楯無さんがニコニコと笑みを浮かべながら付いてきており、何ともいえない感じを抱いている。

 この人の真意は汲み取りきれない。

 キャンプの時にも会いに来ていたけどよく分からないし、学園祭の特別ルールの発表の時もよく分からないしとこの人の考えはよく分からないことだらけだ。

 

「あの、俺に何か―――」

「織斑一夏覚悟ぉぉぉっ!」

「っっ!」

 

 生徒会長の方を振り向いた瞬間、俺の背後からそんな勇ましい声が聞こえ、方向を戻そうとするがタイミングが悪いため間に合わない。

 直後、生徒会長が素早い動きで俺の顔のすぐ横を畳んだ状態の扇子を投げる。

 ヒュンッ! という空気を切り裂く音がすると同時に後方から小さな呻き声が聞こえ、俺のすぐそばを生徒会長が凄まじい速度で突撃していく。

 

「良い踏み込み」

 

 そのままの勢いで飛び上がった生徒会長は相手の顔目がけて膝蹴りを放つ。

 鈍く嫌な音がすると同時に胴着姿の女子生徒が廊下に倒れ、生徒会長の手中に宙を舞っていた扇子が収まる。

 その間、わずか数秒。

 

「でもその程度じゃ彼に一撃は入れられない」

「ぐっ、ぅぅっ」

「あら、まだ意識があったのね」

 

 鼻血を出している女子生徒に向けて生徒会長が拳を振り上げたので俺は慌てて彼女の手を止める。

 

「あら? どうして止めるの?」

「もう勝負は着いたじゃないですか」

「ダメよ。最後まで徹底しないと」

「隙あり!」

 

 倒れ伏していたはずの女子が突然立ち上がったかと思うと胸元から小さな木刀を握りしめて俺めがけて突撃してくるが生徒会長の足蹴りが相手の顎を的確にとらえ、ゴンッ! という嫌な音が響く。

 数秒後には相手は気を失って廊下に倒れ伏し、残ったのは足をほぼ真上に上げている生徒会長と驚きのあまり動けない俺だけだった。

 ちなみに見えた色は青色だということは言わない。

 

「こうやって差し違える覚悟で来るわよ」

「……」

「彼女たちはそれを覚悟してきているの。生半可な優しさは彼女たちのプライドを傷つけることになるし、覚悟を踏みにじることになるわ」

「……だとしてもとどめまで刺さなくても」

「……やっぱりあなたは白馬の王子様じゃないわね」

「え?」

「なんでもないわ。さ、行きましょう」

 

 小さく呆れながらつぶやく生徒会長は気絶して倒れている女子生徒の上を跨いで俺の目的地へと向かおうとするが俺は捨てるに捨てきれず、計画書をポケットに突っ込み、胴着姿の女子を抱きかかえる。

 

「あら、吐き気がするくらいに甘いわね」

「優しいの間違いじゃないですか?」

「ううん。吐き気がするほどに甘いわ。そんなお荷物を抱えて襲われたらどうするの?」

 

 生徒会長は床に落ちていた竹刀を拾い上げ、窓を開けながらそう言うとある地点に向かって竹刀を勢い良く放り投げる―――直後、隣の校舎から袴姿で弓を構えた女子が現れる。

 同時に眉間に竹刀の先端が直撃し、弓の生徒は再び消えてしまった。

 

「それ、抱えてたら弓矢の一撃、貰っていたわね」

「……ここは戦場じゃ」

「貰ったぁぁぁぁ!」

 

 清掃用具入れから突如として現れたパンチグローブを装着した女子生徒は鉢巻を揺らしながら俺の顔面めがけてストレートパンチを繰り出してくる。

 しかし、その一撃は会長が相手の足を払ったことであらぬ方向へと軌道を変えられ、同時にグローブ姿の女子はそのまま廊下に倒れ落ちる。

 まるで悪童の格闘家のように会長はその生徒の頭に両足で体重をかけて乗った。

 

「こ、この程度の重り!」

「あら、レディーに重りなんてひどいわね」

 

 その発言の直後に生徒会長は軽やかに天井付近まで飛び上がると両膝を相手へと向ける。

 

「歯、食いしばりなさい」

「っ! よけ―――」

 

 俺の言葉よりも早くに両膝による一撃が相手の後頭部にいれられ、廊下に相手の顔面が叩き付けられ、相手はピクリとも動かなくなってしまった。

 生徒会長はそのまま生徒の背中に正座の体勢で座りこむ。

 

「そのお荷物、早く降ろしたら?」

「……退いてください」

「あら、この子も運ぶの? 砂糖に蜂蜜を入れたくらい甘くて吐きそうね」

 

 正直、俺は生徒会長にイライラしながらも二人を抱きかかえてそのまま保健室へと向かう。

 その間も生徒会長は俺の後ろをついてくるが俺はひたすら無視を続けて保健室へと向かい、養護教諭の先生に二人を任せた。

 

「もしかして貴方、これから学園祭まで毎日運ぶつもり?」

「俺はとどめまで刺さないので」

「狙われる立場なのに?」

「別に命まで取られるわけじゃ」

「貴方は自分の立場を理解していないのかしら?」

「っっ」

 

 生徒会長の雰囲気がガラリと変わり、重くて冷たいものが露わになり、そう発した彼女の表情はまるで全て知っているかのようだった。

 

「貴方……命を狙われているはずよ」

「な、なんでそれを」

「貴方にはキチンと自覚してもらわないとこちらとしても困るの」

「……」

「生徒会室に来なさい。そこで話をしましょう。あ、先に職員室に行かないとね」

 

 生徒会長は小さく笑みを浮かべながらそう言い、先に歩き始める。

 俺もその後を追いかける。

 

「……」

「そんなに距離を開けなくてもいいんじゃない?」

 

 この距離が今のあなたに対する距離感ですと言いたい気分だったがわざわざ喧嘩を吹っ掛ける気も無いのでグッと我慢して少しだけ生徒会長に近づく。

 会長もよろしいと言わんばかりにうんうんと頷く。

 

「貴方が来る前はね、生徒会長は全学生から狙われる立場だったのよ」

「へぇ」

「学園の生徒会長の選出方法、知ってる?」

「いいえ。選挙とかじゃないんですか?」

「甘い甘い……IS学園の生徒会長は最強でなくてはならない。だから生徒会長は最強の生徒が担い、そして生徒会長に勝利した生徒がその瞬間から次の生徒会長となるの」

 

 つまり24時間365日、生徒会長は常に周りの生徒から狙われ、学園最強という称号を狙う猛獣を振り払わなければいけないということ。

 IS学園は入るだけでもエリートしか無理だと言われている中、エリートの中でも最強の称号を持っていればその後の人生は明るいものになるだろう。

 だからみんなそれを狙う。

 

「去年までは毎日のように私を殺す勢いで色々な人が戦いに来たわ。それこそトイレにも寮の部屋にだって襲い掛かってきた子もいたわね」

「そんな状況で休めるんですか」

「それが生徒会長よ。でも貴方が来てからはみんな、しおらしく、女の子らしくなっちゃったの。だから一学期の間は暇で仕方がなかったわ」

 

 生徒会長の表情を見ても疲れている様子は見られない―――あの程度の襲撃を裁けないと生徒会長は務まらないという事なのか。

 だから集会で会長は血沸き肉躍る、とか言う物騒な表現を使った。

 

「無事に職員室到着ね」

「……」

「あ、安心して。職員室内は乱闘禁止だから」

 

 言葉の物騒さと顔の明るさが釣り合っていない。

 俺はそう思いながらも職員室へと入室し、計画書を取り出して千冬姉のもとへと向かう。

 

「織斑先生」

「随分と遅かったな」

「まぁ、色々と……一組はこれで行こうと思います」

「……メイド&執事喫茶か……誰の立案だ? 田島か? それともリアーデか?」

「ラウラとかシャルとかです」

「ほぅ……あいつも変わったな」

 

 その言葉と表情は安堵の物だった。

 千冬姉はラウラの過去を知っている―――その心はどちらかというと保護者目線に近い。

 学園に来た当初もそうだけど最初のラウラは感情の一切を押し込め、縛り上げていた冷たいマシーンだった。

 でも今じゃ明るく、笑顔も出るし、冗談だっていう。

 

「あいつをここに呼んだのは正解だったな」

「そうですね」

「結婚相手も見つかってよかったですね~」

「もぅ、山田先生、冗談―――」

 

 後ろから山田先生も賛成した瞬間、グシャァッ! と勢いよく計画書がくしゃくしゃに握りつぶされ、俺と山田先生は手を取り合って恐怖に震える。

 

「どうした? 二人とも」

「「い、いえなんでも」」

「そうか……計画書は受理しておこう。必要なものはここに書かれているもので以上か?」

「は、はい」

「追加で必要なものがあればすぐに申請するように」

「は、はい」

「……ところでこの喫茶ではお前のスイーツは出るのか」

「ま、まあ一応」

「そうか……そうか。分かった、話は以上だ」

「し、失礼しました」

 

 千冬姉から一刻も早く離れるべく足早に出口へと向かい、職員室を出る―――その際に山田先生が千冬姉に捕まり、軽く詰められている姿は気のせいだろう。

 職員室の扉が閉まる音を背中で聞き、ホッと一安心するや否やすぐに生徒会長が現れる。

 

「そんな顔しないの。用事は済んだかしら」

「まぁ……はい」

「じゃあ、行きましょうか。生徒会室に」

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