Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第六十八話

 少し歩くと生徒会室らしき部屋が見えてくる。

 生徒会長に促されるままに扉を開けて部屋に入ると眼鏡に三つ編みといういでたちの女性、そして同じクラスののほほんさんが眠たそうな顔をして机に突っ伏していた。

 

「お帰りなさい、会長」

「ただいま」

「わ~、おりむ~だ~」

「しゃんとなさい。お客様の前よ」

 

 のほほんさんに注意をしながら三つ編みの女性はお茶の用意を始め、俺は生徒会長に促されるままに椅子に座るとそれに合わせてお茶が目の前に置かれる。

 

「初めまして、私は布仏虚といいます」

「織斑一夏です」

「で、こっちが妹の本音」

「……い、妹!?」

「そ~だよ~」

 

 お姉さんの方はお堅いいかにも仕事が出来ますオーラを醸し出したお姉さんに対してのほほんさんはいつもよりも3割増しのねむねむオーラ。

 姉妹でここまで雰囲気に違いが出るものなのか。

 

「この3人が現生徒会のメンバーよ」

「3人……先輩方はともかく1年生で即生徒会入りできるんですか?」

「私達布仏の家は代々、更識家に仕える家柄なの。だから幼馴染であり、主従の関係なのよ」

「で、私が主の更識楯無よ。よろしくね」

「は、はぁ」

「で、話の本題なんだけど……虚ちゃん」

「はい、お嬢様」

 

 名前を呼ばれるだけで全てを理解したのか虚さんは即座に動き、窓という窓を閉め、カーテンを閉めて鍵まで閉めるという徹底ぶりで生徒会室を完全にロックしてしまう。

 突然、現れた重苦しい雰囲気に息が詰まりそうになるが相変わらずのほほんさんは2割増しのねむねむだ。

 

「織斑君……貴方には全ての意識を変えてもらう必要があるの」

「全ての……意識ですか」

「そう。貴方はあらゆる方面から狙われている立場なのよ。情報的にも、生命的にも」

 

 情報の部分で言えば俺が何故、男性でありながらISを動かせるのかという部分だろう。

 これが解き明かすことが出来ればその個人・組織に関わらず歴史に名を残すだろうし、様々な面で恩恵を得ることが出来るだろう。

 そして生命的の部分は束さん、そして外部の組織。

 

「貴方はまず、篠ノ乃束に命を狙われている。間違いないわね?」

「そうです」

「そしてもう一つ……亡国機業って聞いたことある?」

 

 聞いたことがあるような気もするが正直、あまり覚えていない。

 首を左右に振ると生徒会長のすぐ近くに空間投影ディスプレイが展開され、亡国機業の情報について羅列された画面が現れる。

 

「私たちが生まれるよりもずっと昔から活動している機業よ。大戦中は武器商人や運び屋、傭兵稼業……そして現代はISの強奪や破壊活動が専らね」

「そんな機業が俺の命を」

「そう……正確に言えば貴方と白式の1セットよ。あなただけを誘拐して情報を調べてもISが動かないと意味がないもの」

 

 考えたことが無かった視点に俺は驚いてしまう。

 ずっとISを動かせる理由は俺にあるとばかり思いこんでいたけどIS側にももしかしたら動く理由があるのかもしれない。

 

「今のあなたの意識は平々凡々の甘ちゃん。さっきみたいに敵を助けているようじゃ一瞬で誘拐されてボロボロにされて死ぬわ」

「……」

「全ての人間を敵と思いなさい。そして敵と判断した相手は徹底的に叩き潰しなさい」

「それじゃあ誰を信じればいいんですか」

「家族だけを信じなさい。家族以外の人間は敵とみなさなければ小さな隙を突かれるだけよ」

 

 箒やセシリア、シャル、ラウラ、鈴―――これまで絆を育んできたみんなのことまで敵と見なせなんて俺には絶対に出来ない。

 皆は仲間であって敵じゃない。

 

「出来ません。皆を敵と思うだなんて」

「最初はそうよ……私だってそうだったわ。でもその意識を変えなさい……織斑先生をこれ以上、悲しませたくないのであれば家族以外を敵として潰すのよ」

 

 千冬姉を悲しませたくないのは事実だし、俺の覚悟だ。

 でもだからといってみんなを切り捨てるなんて俺にはできない。

 

「俺は出来ません」

「今は砂糖に蜂蜜、バニラエッセンスを混ぜたような吐き気を催す甘さも何も言わないであげるわ。でもいずれ必ずあなたは理解するわ……私が言っている意味をね」

「……」

「貴方はこの夏休みでIS方面の技術は格段に向上した。私の指導を入れなくても貴方は実戦を通してこれからもっと強くなっていく。でも心が弱いままじゃ意味がないのよ」

「……」

「いくら力があっても心が弱ければ何も護れないのよ」

「……俺は切り捨てることが守ることだとは思いません。皆と一緒に戦ってきたから俺はみんなを守る力を欲したんです」

「……今すぐ理解しろとは言わないわ。でも覚えておきなさい」

 

 そんな重苦しい空気を残したまま生徒会室での話は終わりを迎えた。

 

 

――――――☆――――――

 一夏が生徒会室から出てから10分程が経過した頃、今度は生徒会室に箒がいた。

 箒は緊張した面持ちで楯無と対面しているが当の楯無は箒の緊張などなんのその、ニコニコと笑みを浮かべながら虚が出したお茶菓子をパクパクと食べていく。

 

「うん、おいし~。さすがは虚ちゃんね」

「恐縮です」

「あ、あの私が呼ばれた理由は」

「うん、それなんだけど……箒ちゃん、あれから紅椿はどう?」

「どう……と言われても」

「もっと具体的に言おうかしら……絢爛舞踏は発動する?」

 

 具体的な質問を直球でぶつけられ、箒は苦虫を潰したような顔を浮かべ、黙ってしまう。

 あの臨海学校以来、箒は一度も絢爛舞踏を発動することが出来ず、さらに言えば模擬戦ではエネルギー切れに立て続けに陥り、勝率も悪かった。

 

「臨海学校以来は一度も発動していません」

「本来、単一仕様能力は搭乗者の精神状態とISが完全同調して発動するの。だからあの時のことを思い出してみなさい」

「は、はぁ」

「それともう一つ……明日からお姉さんが特別コーチに就任します」

「え、えぇ!?」

「箒ちゃんはもうただの一般生徒じゃなくなったの。世界に一機しかない第四世代ISを持った時点で」

 

 箒もバカではないので楯無の一言で全てを理解する。

 世界的に言えばISは第三世代がようやくトライアル段階に乗り、これから開発と発展を目指していくという段階だがポンと自分の手にはそれらを超越する第四世代のISが収まっている。

 それは喉から手が出る情報の塊だ。

 今の箒の実力的に言えば学年最下層に近いレベル。

 

「あなたは自分の身を自分で守る必要があるの。紅椿を狙う不届き物は山ほどいるからね」

「は、はい! お願いします!」

「うん、素直でよろしい。お姉さんは素直で正直な子は好きよ」

「は、はぁ」

「ところで箒ちゃんは白馬の王子さま、信じる?」

 

 突然の質問に箒は固まってしまい、その様子を楯無はクスクスと小さく笑う。

 

「なんでもないわ。じゃあ、明日から特訓するからよろしくね」

「は、はい!」

 

 箒は深々と頭を下げ、お辞儀をすると生徒会室を後にする。

 ようやく全ての仕事を終えた楯無は大きく息を吐くとカーテンや窓が開けられ、陽の光が生徒会室を明るく照らすとともに彼女の前に紅茶が置かれる。

 

「お疲れ様です、お嬢様」

「もう、お嬢様はダメ」

「これは失礼しました……いかがでしたか?」

「ん~……箒ちゃんの方は順調にいくかな……問題は」

「織斑君……ですか」

「そうね……人の意識は簡単に変えられるものじゃないわ。特に彼は一学期で仲間を作り過ぎちゃった」

「それが彼の強さでもあり、弱さでもあると」

 

 虚の言葉に楯無は小さく頷きながら湯気が立ち込めるカップに口をつけ、紅茶を啜る。

 

「彼の意識が変わるには実際に経験しないと変わらない……意識が変わる方が早いか、それとも彼の精神が耐えられなくなるか」

「彼は耐えられるでしょうか」

「彼には耐えてもらわないと困るのよ。だから今回、彼の周囲が敵になるように状況を作ったんだから……休む暇もなく襲撃をされれば彼も少しは気付いてくれるはず……仲間を巻き込む恐怖を」

「……お嬢様」

「ところで簪ちゃんの様子はどう?」

「相変わらずです。休み時間や休みの日は全て自身の専用機開発に没頭しています。整備科の伝手を使って声をかけていますが門前払いです」

「……ふぅ。忙しくなりそう♪」

 

 

 

――――――☆――――――

「くぁぁ~……今日も疲れたな」

 

 夜も更けたころ、俺はアリーナの更衣室から出た所にある自販機で飲み物を買い、一休みしていた。

 今日はラウラと実戦形式の模擬戦をしていたんだが完全に戦闘狂のスイッチが入ったラウラとの模擬戦は過熱を極め、周りから止められなかったらお互いに愛機を整備送りにしていただろう。

 

「相変わらず俺の射撃センスは壊滅的だったな」

 

 白式の機体データを表示し、荷電粒子砲のログを確認するがそれはもう悲惨な物だった。

 第二形態移行したことで遠距離用の荷電粒子砲を放てるようにはなったがエネルギー喰らいであるために多発することは出来ないし、俺の射撃技術の無さで当たらない。

 

「正面に向けて撃ったのになんで斜めにいがむんだよ」

 

 高威力なのは間違いないので使いこなせれば遠近両方に対応できるんだがはて、どのように荷電粒子砲を利用すればいいのかが掴みきれていない。

 

「これはもう使っていかないと分からないな」

「覚悟ぉぉぉっ!」

「うぉぉっ!?」

 

 突然の咆哮に驚いてその場から飛び退くとベンチに踵落としが繰り出され、凄まじい打撃音と共に一瞬にして大きな穴をあけてしまう。

 目の前には胴着を着た恐らく空手部の女子がいた。

 

「織斑一夏! 覚悟ぉ!」

 

 勢いよく正拳突きが繰り出され、手でいなしていく。

 薄暗いアリーナの廊下に空気を切り裂く音が数回、響き渡る。

 

「負けるわけにはいかないんですよ!」

「ふっ、ぅぁっ!?」

 

 相手の脇腹目がけて蹴りを入れようとするが相手のガードが早く、腕の盾が降りてくる―――しかし、それはフェイントであり、すぐさま軌道を変えて上段蹴りへと切り替え、顎スレスレで止める。

 

「俺の勝ちです」

「……甘いっ!」

 

 勢いの良い正拳突きが再び繰り出され、俺は飛び上がって膝でそれを受け止めながら後方へと飛び下がるが床で足を滑らせて体勢を崩す。

 隙ありと言わんばかりに笑みを浮かべた相手はすぐさま飛びかかり、拳を振り上げる。

 

「ぐぇ!?」

「っっ!」

 

 腕を交差させて防ごうとした瞬間、ゴォンッ! という鈍い音と同時に空気を切り裂く音が聞こえ、廊下にドシャッと背中から落ちる音が聞こえる。

 辺りを見ると俺のすぐ近くにいつの間にか回し蹴りを振り抜いた直後の生徒会長がいた。

 

「こ、こんのぉぉぉっ!」

「休息は全ての生き物の大きな隙。それを狙うのは戦略的にありだけど」

 

 小気味の良い音が廊下に響くと同時に女子の顎に生徒会長の掌底が直撃し、真上にふわっと体が浮く。

 どんな威力だと驚いている間に生徒会長は瞬時に腰を低く降ろし、拳を握りしめている。

 顎の掌底の一撃で既に空手部の女子の意識は飛びかけているし、このまま廊下に落ちればその衝撃で確実に意識は飛ぶ。

 

(オーバーキルにもほどがある!)

「まっ―――」

「最強には敵わない」

 

 空手部の女子の正拳突きとは比べ物にならない速さと威力で放たれ、相手の腹部に突き刺さると同時に回転が加えられ、女子は大きくえずきながら背中から床に落ちた。

 そこからはピクリとも動かない。

 

「分かったでしょ? 相手を最後まで叩き潰さないといけないことが」

「やりすぎだ!」

「やり過ぎなければ貴方がやられていたわ」

「でも……それは……」

 

 ここで生徒会長と話してもらちが明かないと思った俺はすぐに気を失っている空手部の女子へと近づこうとするが目の前に生徒会長が立ちはだかり、進路を邪魔する。

 

「退いてください」

「ダメよ。私が許さないわ」

 

 無理やり退かそうとするが胸部を力強く押され、数歩後退ってしまう。

 今の一瞬の攻防で理解した―――この人は確かに学園最強だ。

 

「その吐きたくなる甘さを捨てなさい」

「甘さと一緒に人間らしさを捨てる気はありません」

「こんな時間に何をしてるの!?」

「あら先生、こんばんわ」

「更識さんじゃない。どうしてあなたがこんな時間にここに?」

「ふふっ、織斑君の護衛ですから」

「そうだったわね。ほら、もうすぐ門限よ。早く寮に戻りなさい。彼女は私が届けるから」

 

 そう言い、先生が空手部の女子を担いで出口へと向かっていく。

 

「明日からは甘さを捨てて戦いなさい。まずは倒した相手の救護禁止よ」

 

 生徒会長は不敵な笑みを浮かべ、扇子を広げるとそこには堅忍不抜の四文字があった。

 俺は生徒会長に促されるままアリーナの出口へと向かっていく。

 

(……いくら狙ってくる敵とはいえ……俺には)

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