Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第六十九話

「……今度こそ!」

 

 学園祭も五日後に控えたある日の放課後、セシリアは一人で第一アリーナにてブルーティアーズを展開し、特訓に勤しんでいた。

 特訓の目的は偏向射撃の実現。

 スナイパーライフルから放たれた青色のレーザーに対し、強く「曲がれ」と念じてみるが軌道は変わることはなく、そのままフィールドに着弾する。

 もうこの光景を何十回と見てきた。

 

「何故、曲がりませんの……適正はあるはずなのに」

 

 彼女のBT兵器適正は最高ランクのA。にも拘わらずこれまで一度もレーザーの軌道を曲げることは出来ておらず、正直机上の空論じゃないかとも思えてきた。

 

「はぁ……ダメですわ。このままでは」

 

 つい先日も国の担当官から最近の進捗状況に関する質疑があり、そこでハッキリと言われてしまった。

 国が期待し、求めている結果を出せない状況が続くのであれば代表候補生という立場や専用機持ちという立場も解消しなければいけないと。

 

「今月中……いいえ、今週中に結果を出さなければ」

 

 今学園は学園祭一色に染まっており、クラスも放課後になれば集まって計画を練っているがそんな輪の中にセシリアは入りきれていなかった。

 クラスのことを手伝わなければという想いはあるが代表候補生として結果を出さなければという焦燥感が勝ってしまっていた。

 

「な~に焦ってんのよ」

「っ……鈴さん」

 

 後方から声をかけられ、慌てて振り返るとそこには甲龍を纏った鈴が立っており、確認するとブルー・ティアーズから通知が送られていた。

 それほどまでに過剰に集中していたのかとセシリアは内心、驚いてしまう。

 

「別に……焦ってなどは」

「あたしが後ろに立ってても気づかなかったくせに」

「そ、それは……」

「国からなんか言われたでしょ」

 

 焦りの理由をドンピシャに言い当てられてしまい、セシリアは驚きを露わにしてしまう。

 そこまでハッキリと顔に出ていたのかと思いつつ、セシリアは武器を収納する。

 

「私がここに来た使命はBT兵器のデータサンプリング……それが最近、上手くいっていませんの」

「あ~、なるほどね……それ分かる」

「鈴さんもですか?」

「あんただって知ってるでしょ? 学園の全ての成績・戦績は国に送られてるって」

 

 そう言われ、セシリアの脳裏にはこれまでの鈴の戦績が過ぎる。

 乱入者があったクラス対抗戦はともかく、学年別トーナメントでは上位戦すぐに敗退し、ついこの間の模擬戦でも一夏に敗北を喫していた。

 そしてもう一つ。

 

「まだ、黒いISが苦手ですの?」

「そ……ラウラに何回か付き合ってもらってるんだけど……中々振り切れてなくてさ」

 

 戦闘に支障をきたすほどのトラウマを抱えている代表候補生を許してくれるほど国も寛容ではない。

 彼女もリミットを決められ、それまでにトラウマを克服するか戦闘に支障をきたさない程度の治療をやれと迫られているのだろう。

 

「このままじゃヤバイかもね」

「何故、鈴さんはそこまで余裕を持てるのですか?」

「……あたしだって余裕じゃないわよ」

 

 先程までの明るい表情に暗い影が降りる。

 ついこの間まで初心者だと思っていた一夏相手に瞬殺という表現が正しいほどに呆気なく敗北を喫したことは多少なりとも代表候補生のプライドに傷がつく。

 

「一夏には瞬殺されるし、トラウマのせいで黒いISとは戦えないし、散々よ」

「だったらもっと焦っても」

「焦ってどうにかなる問題でもないでしょ? それに一夏に負けてからもっと強くならなきゃって改めて思えたし、いい経験よ」

「……」

「この前、担当官から連絡あって言われたわよ。早く治せって……だからこう言ってやったわ。バーカって」

 

 そう言う鈴の顔は言ってやったりという笑顔だった。

 

「数字なんて極端に言えばここにいる間にだしゃいい話じゃない。でもさ……みんなと……一夏と楽しく過ごせるのって今しかできないじゃない」

「っっ……」

「だから焦る必要ないじゃないって話。結果は出す。でもまずは一夏と楽しく過ごす……そうじゃなきゃどんどんふさぎ込んで一人になっちゃうわよ」

 

 鈴から言われる言葉全てがセシリアの胸に突き刺さる。

 結果を出すことばかりを考え、一夏と過ごすことを置き去りにしてしまい、その結果、自分だけ取り残されている状況になっている。

 

「……そうですわね。わたくしも鈴さんを見習いますわ」

「担当官にあたしを見習ったとか言わないでよ? 外交問題になるから」

「ふふっ……分かっていますわ」

 

 それから15分程、鈴と話をしながら特訓を行ったセシリアは普段よりも早くに切り上げて一組の教室へと向かっていると彼女のスマホが震える。

 画面を見るとそこには担当官の名前が表示されていた。

 

「もしもし」

『セシリア・オルコット。以前、お伝えしていた面談の日程ですが』

「その話ですが……学園祭が終わってからにしてくださいませんこと?」

『そのように余裕を持てる状況では』

「余裕がなければ物事は成し遂げれませんわ……オルコット家の当主として必ず結果は出します」

『それが出せていないから面談を』

「一つ、お伝えしておきますわ」

『なにを』

「バーカ、ですわ」

 

 電話の向こうから何やら大きな声が聞こえてくるがセシリアはそれをすべて無視して通話を切り、ポケットにしまうと軽やかな足取りで教室へと向かう。

 もう彼女の表情に焦りという二文字はなかった。

 その時、曲がり角から一夏が急に飛び出してきた。

 

「いち―――」

「てぇぇぇい!」

 

 想い人に声をかけようとしたその時、一夏の顔すぐ近くを鋭い打突とともに剣道着姿の人物が曲がり角から現れて一夏と激しく交戦している。

 突然の出来事にポカンとしていると後ろから肩を叩かれ、振り返る。

 

「シャルロットさん、それにラウラさんも」

「なんだか凄いことになってるね」

「旦那様はいったい何をしているのだ?」

「手出しはダメよ」

 

 新たな声が聞こえ、彼女たちが振り返るとそこには扇子で口元を隠す生徒会長の更識楯無が立っていた。

 

「この前宣言したように彼に一撃を与えたクラブに彼を強制入部させるの。だから邪魔はダメよ」

「私はそれを受諾した覚えはない。旦那様を助けに」

「―――ダメよ」

「「「っっ!」」」

 

 ラウラが一夏の助けに入ろうとしたその時、楯無がラウラの肩を掴むとともに底冷えするようなひどく冷たい声を発し、ラウラを含めた三人にプレッシャーを与える。

 直接受けているラウラは額から冷や汗を流し、シャルロットやセシリアも足を動かせない。

 その一瞬だけで三人は楯無の底知れない実力を垣間見ていた。

 

「彼には一皮むけてもらわないと困るの……そこに貴方達がいたら彼は何も変わらない」

「たぁぁっ!」

 

 勢いのある叫びと同時に竹刀が振り下ろされるが一夏はそれを後ろへと後退し、一撃を避けると同時に体を半回転させながら踵を防具の脇腹部分にめり込ませる。

 数歩よろめいた防具姿の女子は竹刀を落としてしまい、壁にぶつかる。

 

「これで……俺の勝ちだ」

「……噂通りの甘ちゃんね!」

「っっ!」

 

 女子が手を下から振り上げた瞬間、付けていた小手が勢いよく一夏の顔目がけて放たれ、一瞬の隙を産む。

 その隙に相手は竹刀を拾おうと床に手を伸ばす。

 

「いい加減に―――」

 

 一夏は怒りを露わにしながら床の相手の手を左足で踏みつけ、右ひざを相手の面目がけて勢いよく放つ。

 廊下に鈍い音が響くと同時に女子の体がふわりと浮かび上がり、背中から廊下に落ちる音が響く。

 

「くっ……覚えてなさい」

 

 そんな言葉を吐き捨てて防具姿の女子はどこかへと去っていく。

 残され、肩で息をしている一夏に楯無は拍手を送りながら近づいていくが彼の表情には怒りしかなく、普段の彼からは想像もできないほど激しい。

 

「まずは成長の第一歩……どう? トイレ行く時も寮に入ろうとするときも襲撃を気にする環境は」

「最悪の一言です」

「そう。ならよかった……ただ、いただけないのはどうして小手がある手を踏みつけたの? 素手の方を踏みつければ確実に相手を止められたのに」

「……」

「その意識、まだまだ甘いわね……ほら、お友達が待ってるわ」

 

 一夏は楯無を軽く睨みつけながらセシリアたちがいる方へと向かっていった。

 

 

 

――――――☆――――――

「悪い、みんな……変な所見せて」

「ううん。大丈夫だよ」

「そう言えば俺に何か用があったんだよな」

「あ、そうそう!」

「旦那様。メイド服と執事服は借りれたのだが……机といすをどうする」

 

 ラウラに言われて俺ははっとした。

 今までデザートの材料や内容、着るメイド服や執事服のことばかり考えていたけど教室の内装や机の計画を全くと言っていいほど考えていなかった。

 せっかくやるなら教室を明るくしたいし、机だって普段とは違うものにしたい。

 

「かといってどこかから都合よく借りれるか?」

「ん~、流石に机といすの伝手は無いかな~」

 

 デザートの方はクラスの皆が協力して試作してくれているし、のほほんさんが毎日のように試食しているから大丈夫にしてもだ。

 もう学園祭まで時間もない中、机といすの調達は厳しい。

 

「ではわたくしにお任せくださいな」

「え? 伝手があるのか?」

「ええ。喫茶に相応しい机といすをわたくしが実家より取り寄せますわ」

「よ、予算的にそんな高いものは」

「ご安心くださいませ。実家にある物を使いますから料金はいりませんわ」

「でも海外から取り寄せたら空輸の費用かかるんじゃ」

「それもご安心を。オルコット家のプライベートジェットで運びますのでノープロブレムですわ」

 

 忘れがちだけどセシリアの家はかなりのお金持ちだ。

 その証拠に彼女が身に着けているものはどれも女子から言わせれば一般庶民ではなかなか手が出せない程に高価なものらしく、桁も凄いのだとか。

 

「一組の学園祭に相応しいものが届きますので楽しみにしておいてください」

「そっか。ありがとな、セシリア!」

「はい!」

 

 少し前まで思い詰めていた様子だったセシリアに笑顔が戻り、俺は少し安心した。

 その時、生徒の呼び出しを知らせる学内放送が入る。

 

『織斑一夏。職員室まで』

 

 

 

――――――☆――――――

「申し訳ありませんでした!」

「いきなり何を謝っているんだお前は」

 

 職員室に入り、千冬姉の傍に向かうや否やすぐさま深々と頭を下げ、謝罪をするが千冬姉の言葉的にどうやらお説教ではないらしい。

 

「あ、あの……何故呼ばれたのでしょうか」

「明後日、倉持技研の担当者が来る。三日ほどかけて白式のデータを取りたいそうだ」

「……あ、第二形態移行したから」

 

 俺の呟きに千冬姉は頷く。

 恐らく本来であれば夏休み中に行うはずだったんだろうけど俺が短期集中キャンプに参加していたためにそれが出来なかったからこの時期になったんだ。

 倉持技研からしたら第二形態になったデータを少しでも早くほしかったんだろう。

 

「じゃあどうすれば」

「明後日、整備室に白式を搭乗者接続(パイロットパス)を切断して置いておけ。倉持技研の担当者の案内は私がするし、その間は私が整備室にいる」

「分かりました」

「で、クラスの準備は進んでいるか?」

「はい。それはもう完璧に」

「そうか……ところでお前お手製のスイーツは新作なのか?」

「え? まぁ一応」

「そうか……当日、へまをしないようにしっかり準備をするように」

「は、はい」

 

 何か言いたそうな千冬姉だったけど小さく首を振って仕事に戻ってしまった。

 少しだけ疑問を抱きながらも俺は職員室を後にした。

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