今、俺の目の前に降り立った青く輝いているISは今まで見てきたISとは似ていなかった。
アーマーは全体的に面積が少なく、小さい。
しかし、それをカバーするかのように水のヴェールが彼女を包み込んでおり、その姿はさながら水のドレスを纏っているような姿だ。
そして何より独特なのは左右一対の状態で浮いているクリスタルの様なパーツだ。
そこからも水のヴェールが展開されており、大きなマントのように彼女を包み込んでいる。
そして彼女の手には大型のランスが握られており、その表面を水が螺旋状に流れており、ドリルのように回転をしている。
「せ、生徒会長」
「肩書で呼ばれるのはイマイチ好きじゃないわ。これから楯無さんと呼びなさい」
「……」
「もぅ。そんな強情な子には白式は渡さないわよ?」
「ありがとうございます楯無さん!」
「よろしい」
既に展開済みの白式が俺に向かって勢い良く放り投げられ、俺の指が触れたと同時に光り輝く粒子となって俺の手首へと装着される。
いつもの感触に安堵しながら白式を展開し、雪片弐型を納める。
「派手に暴れない約束だったが……出てこいお前ら!」
オータムがそう叫ぶや否や扉を蹴り破る勢いで二人の黒いスーツを着てサングラスをかけた女性が室内に入ってくると俺達に銃口を向ける。
オータムが合図した瞬間、迷いなく二人の女性がマシンガンの引き金を引く―――しかし、放たれた無数の弾丸が俺達のもとに届くことはなかった。
「ぁ?」
思わず閉じていた目を開けると目の前には薄い水のヴェールが展開されており、弾丸はそのヴェールに包み込まれて勢いをなくしていた。
「ただの水じゃねえなぁ!」
「あら、悪役にしては頭がいいのね。一夏君、そいつは任せたわ」
そう言うや否や楯無さんはISを部分展開にするとゆっくりと二人のもとへと向かっていく。
「クソガキが何人集まろうがあたしには勝てねえよ!」
二本の装甲脚が俺めがけて放たれるが雪片弐型を横薙ぎに振るい、一撃の下で真っ二つに切り裂くとオータム目がけて飛び込んでいく。
残り六本の装甲脚が同時に放たれ、床を滑るようにして装甲脚を回避していくと相手の手にエネルギーの塊のようなものが浮いているのが見える。
「ほらよ!」
オータムがそれを俺めがけて投げた瞬間、パンッ! と勢いよく塊が開き、エネルギー状のワイヤーが蜘蛛の巣のように広く展開される。
そのシルエットに相応しい攻撃だが俺にはもう既に見えている。
(見えてるぜ! あいつに辿り着く軌跡が!)
腰を落とし、姿勢を低くすると白式が俺の意思を受け取り、大型ウイングスラスターがシャープな形状へと変貌を遂げていく。
そしてスラスターを吹かせ、勢い良く展開されているネット目がけて突っ込んでいく。
「おいおい! 自分から網に捕まる気かぁ!?」
「それはどうかな」
蜘蛛の巣状に展開されたワイヤー・ネットの隙間を縫うようにして体をねじ込ませ、隙間へと飛び込むと一気にウイングスラスターを通常の形態へと戻し、爆発させるようにして吹かせる。
爆発的な勢いのまま突っ込む俺めがけて装甲脚が突き出されるが雪片弐型で切り裂いていく。
「あり得ねえ! クソガキごときに!」
副腕が格闘モードへと移行し、その手にカタールが二本納められるとそれが勢い良く俺めがけて放たれる。
背中を床に向けてカタールの一撃を回避しつつ、副腕の面に雪片弐型の切っ先を添わせ、突き進んでいく勢いのまま切裂いていく。
そして体勢を戻す勢いのままに剣を振り抜くと副腕の接合部分から火花が散ると同時に床にボトリと副腕が落ちる。
「一本落として満足かぁ!? あぁ!?」
もう一本の副腕に握られていたカタールが俺の背中目がけて勢いよく突き出される。
俺は振り返りざまに勢いよく雪片弐型を振り下ろした瞬間、一瞬にしてカタールごともう一本の副腕を手首から先を切断する。
「な、なんだこの強さ……情報と全然違うじゃねえか!」
カタールを失うもオータムは装甲脚から弾丸が放つ。
俺は落ち着いて剣で叩き落し、体をねじったりしながら回避しつつゆっくり相手と距離を徐々に詰めていく。
右手の雪片弐型で弾丸を落としながら左手に力を籠めると徐々に輝きを放ち始める。
俺にはシャルやセシリアのように射撃の技術は無いし、今後練習したとしても彼女たちのレベルに到達するまでに時間がかかり過ぎる。
でも雪羅の荷電粒子砲を使わないのは宝の持ち腐れだ。
だから撃つのは辞めた。
「死に晒せぇぇぇぇ!」
「うぉぉぉっっ!」
相手の装甲脚が一斉に放たれたと同時に左腕によるパンチを繰り出す―――次の瞬間、左拳の輝きが爆発し、荷電粒子砲が放たれてオータムの全身を一瞬にして包み込み、大爆発をあげる。
全ての装甲脚が一瞬にして吹き飛び、オータムが壁に勢い良く叩きつけられ、ISの装甲破片が辺り一面に散らばる。
俺が導き出した答えは撃つんじゃなくてぶつける。
遠距離からではなく近距離でぶつける。
「かはっ……あり得……ねえ……この…オータム様がっ」
捨て台詞を吐き終えたオータムは全身の装甲から煙を噴き出しながらズルズルと壁から落ち、そのまま床に倒れ伏して動かなくなった。
至近距離で荷電粒子砲の直撃を受ければその衝撃は凄まじいものになる。
「俺の……勝ちだ」
相手が動かなくなったのを確認し、楯無さんの方へと視線を映した瞬間、白式からの通知が表示され、慌てて視線を前へと戻す。
「だからクソガキなんだよ」
目の前にはボロボロのISを纏ったオータムの姿があり、その手には小型の四本脚の装置が握られている。
その装置が俺の腕に取り付いた瞬間―――
「っはははっ! あたしの勝ちだ!」
バチバチッ! と電流が迸るような感触が腕から全身目がけて流れてくると同時に白式の装甲が徐々に粒子となって消え去り始め、ひし形立体のクリスタルが現れる。
電流の痛みなどよりも目の前の強い輝きを放っているクリスタルにオータムの腕が伸びていることに危機感を抱き、俺も腕を伸ばす。
「させるか!」
「っっ!」
先程切断した副腕からエネルギー・ワイヤーが放たれ、俺の腕を引き留めようとするので力任せにそのワイヤーを引きちぎる。
しかし、一瞬だけ別の行動を挟んだことでクリスタルに辿り着くのが遅くなる。
今にもオータムの手にクリスタルが収まろうとした時、見えたのは彼女の醜悪な笑みだった。
「貰っ―――」
―――ジジジジジッ!
「ぎゃぁぁぁっ!」
「っっ!?」
突然、クリスタルから眩い輝きが放たれたかと思えばオータムが凄まじい叫びを放ちながら右腕を抑えて床にのたうち回っており、ISの装甲からは黒煙が吹き始めている。
「あり得ねえあり得ねえ!
「戻ってこい……白式!」
俺の声に呼応するように強い輝きを放ちながらクリスタルが俺めがけて飛来し、光の粒子となって俺の全身を包み込むと再びその姿を現す。
「くそくそくそ! ガセ情報ばかりじゃねえか! おいお前ら!」
「この子たちのこと?」
ドサッという音共に積み上げられたのは意識を失い、ぐったりとしている二人の女性。
楯無さんは生身の状態でこの二人を制圧したらしい。
オータムは完全に逃げ場を失った絶体絶命の状況に追い込まれたことをようやく自覚したのかその表情を今までにないくらいに焦りの色に染め上げる。
「さて、教えてもらいましょうか……どうやってこの子たちを侵入させたのか。学園の情報をどうやって手に入れたのか。亡国機業についても」
「はっ……言うと思って」
オータムが腕を振り上げた瞬間、俺は
「それ以上、妙な動きをするな……ISを解除しろ。お前は負けたんだ」
「くくっ」
オータムは心底おかしいのか笑いを我慢することなく笑みを浮かべ、俺を見下してくる。
「何がおかしい」
「今も昔も変わらねえなぁ……あの時もそうだったなぁ」
「あの時?」
「あの時だよ……帰り道に男二人に道を聞かれたことあったろ」
「……っっ」
オータムの言葉を聞き、俺の脳裏にあの日の出来事が鮮明に過ぎる。
あの日、小学校の帰り道の途中で男二人から道を聞かれ、答えていた時に後ろから布をあてられて口をふさがれ、そのまま車に押し込められた。
「お前っ……まさか」
「あぁそうだよ! 第二回モンドグロッソの時にお前を誘拐したのはうちの組織だ! 感動の―――」
それ以降、オータムの口から言葉が出てくることはなかった。
それもそうだろう―――なんせオータムの顔面に俺の拳が深々と突き刺さっているんだから。
オータムの顔面に突き刺した腕を勢い良く振り抜いた瞬間、教室の床を何度もバウンドしながら吹き飛んでいき、壁に激突する。
「ぁぁぁっ!」
「ごはぁっ!」
床へと落ちようとするオータムの腹に飛び蹴りを突き刺した瞬間、彼女の口から少量の血が吐き出されるが俺はお構いなしに首を掴み、壁に叩き付ける。
「言え! なんであの時俺を誘拐したんだ! 言え!」
「げおっ! 教えるかよ」
「っっっ!」
オータムの腹部に膝蹴りを入れ、くの字に折れ曲がった彼女の後頭部を思いっきり殴りつけ、床に叩き付けるがすぐさま起き上がらせ、顔を思いっきり殴りつける。
オータムの返り血が白式の装甲を赤く汚し、拳も赤く染まるがそんなことどうでもいい。
この女から全ての情報を出させるまでは辞めるつもりはない。
床に倒れ込んだオータムに馬乗りになり、胸倉をつかんで怒りのままに叫び散らす。
「言えよ! 死にてえのか!」
「は、はははっ……良いねえ、その顔」
「っっ!」
「憎しみと殺意の顔だ。もっと見ていたいが殺されるのはごめんだ」
その直後、天井から数本のレーザーが俺とオータムのすぐそばを通り過ぎていく。
慌ててその場から飛び退いた瞬間、天井が完全に崩れ落ちてオータムのすぐ傍に蝶のようなシルエットをした一機のISが降りたつ。
そのISのシルエットはどこかセシリアのブルー・ティアーズに似ている。
「……」
ただ、何故だろうか。
俺は目の前の蝶のシルエットにも似たISの搭乗者から目を離せないでいた。
「迎えに来たぞ、オータム」
顔を血塗れにしているオータムのISに何かしらの操作を加えた直後、オータムから分離するようにISが俺めがけて突撃してきた。
落ち着きながら跳躍し、ISの突進を避けると同時にオータムを抱きかかえ、その手にはISのコアを持ったまま天井の穴から空へと飛びだしていく。
「逃がすか!」
大型ウイングスラスターで追いかけようとしたその時、後方から火の粉が飛んでくるのを感じ、振り返ると装甲のあちこちで赤熱現象を起こしているISがあった。
その瞬間、俺は近くにあったカーテンをカーテンレールから引きちぎり、気絶して床に積み上げられている二人に覆いかぶさった。
――――――直後、耳をつんざくほどの爆音を響かせながら大爆発が起きた。
「くっ……ぅっ」
学園の備品は全て一級品であると同時に緊急時の対応が出来るようなものが用意されている。
例えばカーテン一つ取ってみても防火性のある布を採用しており、例えテロリストから火炎瓶を投げられようがボヤ騒ぎが起きようがこのカーテンで包んでしまえば燃え広がる心配はない。
爆風の衝撃を受け、背中が軽く痛むのを感じながらもなんとか耐えきり、カーテンを投げ捨てる。
すぐ傍には水のヴェールを自分に纏わせ、爆風を無力化していた楯無さんの姿があるが俺を見るその表情はどこか残念そうだ。
「あの女を徹底的に叩きのめす姿……よかったわ」
そう言いながら楯無さんは俺の頬を触れ、優しく撫でる。
その表情は先程と違ってどこか赤い。
「でも、どうしてそこの二人を守ったの? 所詮、あの二人は使い捨ての構成員。生かしても何の情報も得られないのよ?」
「……」
「甘いわね。相変わらず」
「……俺は貴方の様にはなれません……俺は俺だから」
「……」
「それでも甘いですか」
「そうね……人によっては心地が良い甘さ、かもね」
吐き捨てるほどの甘さ、から表現が変わっているあたりほんの少しだけ認めてくれたのか。
「楯無さん」
「な~に?」
「俺を生徒会に入れてください」
「あら、その心境は?」
「……俺の意識を俺にあった物に変えるために」
楯無さんは言葉を聞くや否や笑みを浮かべ、そして俺に近づいてくるとおでこに軽くデコピンをあてる。
その瞬間、イベント終了の合図の鐘が鳴り響き、虚さんの声で放送終了のアナウンスが入る。
「ようこそ、IS学園生徒会執行部へ。織斑一夏君」
俺は変わらなくちゃいけない。
今回の一件のように亡国機業がまた襲い掛かってきたときに周囲を巻き込まないために、そして千冬姉を二度と悲しませないためにも。