Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第七十四話

 IS学園から遠く離れた場所に一機のISが降り立つ。

 その肩には顔を血塗れにした一人の女性―――オータムが乗せられており、もう片方の手にはひし形立体のクリスタルが握られているがその顔はバイザーで隠されていて見えない。

 女性はISを纏い、血まみれのオータムを抱きかかえたまま歩き始めると近くにあったゴミコンテナの中へと放り投げてふたを閉め、その上から座ってしまう。

 

「おい! 出せ! エム!」

識別外個体(アウト・ナンバー)ごときに敗北を喫する貴様をゴミ箱に捨てて何が悪い」

「ざけんな! 大体てめえが用意した剥離剤(リムーバー)の性能が悪いせいだろうが! 粗悪品みたいなゴミを渡しやがって! おかげであたしの右腕が大やけどだ!」

「だからどうした。それに潜入員から貰った情報だけを信じるお前が悪い」

「んだと!?」

「識別外個体に敗北したごみに用はない」

「ぶっ殺してやる!」

 

 何度も中から蓋を開けようと殴りつけているのかコンテナが何度か揺れるがISを纏ったまま座っている以上、人力でふたを開けられるはずもなかった。

 しかし、そう何度もコンテナが揺れるのが鬱陶しいのかエムと呼ばれた女性は長大なライフルを呼び出し、右腕だけで構えると蓋の上から引き金を引こうとする。

 

「そこまでにしておきなさい、エム」

「スコール!? その声はスコールだな!」

「ええ、そうよ。ほら、エム。退いてあげなさい」

「……」

 

 邪魔者が入り、興が覚めたのかエムは蓋の上から飛び立つとそこからオータムが飛び出してくる。

 一度、エムを殺意を込めて睨み付けるがすぐさまもう一人の女性の方へと視線を向けると血塗れになった顔をくしゃくしゃな笑顔を変え、皮膚がただれている右腕を隠すことも無く抱き付く。

 

「あらあら、こっぴどくやられたのね。綺麗な顔が台無しだわ。すぐに帰って治療しましょう」

 

 スコールと呼ばれた女性はオータムの頭を優しく撫でながらエムに目配せを行い、目的の場所に向けて歩き始めた。

 

 

――――――☆――――――

「お待たせいたしました、お嬢様」

「きゃー!」

 

 亡国機業が襲撃してきたことなどウソだったのかと思うかのように学園祭は順調に進んでおり、ラストオーダーのご奉仕セットを提供していた。

 どうもあの爆音や騒動などは全て生徒会長の楯無さんの手によって隠蔽されていたらしいがとりあえず誰にも言うなと言われてしまった。

 

「あ、あの! スペシャルデザートは」

「ええ、もちろん」

 

 今、ここに座ってくれている人限定で俺の新作デザートを振る舞うことになっており、そのうわさを聞きつけてか座席は満床かつ、外に見物客が出来るくらいだ。

 なお、入れなくて絶望しかけている人が多数いる。

 のほほんさんがカートに乗せた大きなチョコレートケーキを運んでくると教室内は感嘆の声に包まれる。

 様々な情報サイトや俺の知識をフル活用して制作した巨大チョコレートケーキは卵のような形をしており、この中に隠し種があるのだ。

 

「では皆さん! これが正真正銘のラストデザートです!」

 

 俺がそう叫ぶと同時に箒とシャルが優しくお湯をかけていくと卵型のチョコレートが溶けていき、チョコレートソースとなって中に収められていたある物にかかっていく。

 その姿を見たお客さんたちは口をあんぐりと開け、詳細を知らせていなかった一組の面々たちも驚きのあまり固まってしまっている。

 チョコレートソースがかかったあるものをお客さんたちに切り分け、渡していく。

 こうして一年一組の学園祭は無事に幕を閉じたのであった。

 

――――――☆――――――

「……山田先生。うちの連中はいったい何をしたんだ?」

「さ、さあ……ご奉仕喫茶とは聞いていたんですけど」

「……来場者は一体を何を見たんだ」

 

 千冬の手に握られているのは来場者に手渡されているアンケートであり、それが投票用紙も兼ねているのだがそのどれもが一年一組に投票されている。

 しかし、彼女たちが不思議がっているのは来場者たちが書いていった感想。

 

「不死鳥が舞う姿を見ました……不死鳥っておいしいんだと思いました……うちの弟はいったい何を作ってしまったんだ」

 

 新たに増えてしまった悩みの種を前に千冬は頭を抱えるのであった。

 

――――――☆――――――

「どう? 虚ちゃん」

「全ての来場者の個人情報を洗い出していますが……今は何とも」

 

 生徒会室で紅茶を飲みながら楯無は全ての来場者が掲載されている分厚い報告書を見ていた。

 学園祭に来場するにはまず個人情報の提出から始まり、調査が入るが今回のように亡国機業の侵入を許してしまった以上、どこかに穴があったのは間違いない。

 

「考えられるのは本物に成り代わって来たか」

「本来、参加するはずの一般客を襲撃して、ですか?」

「無きにしも非ずね……それともう一つ。学園の情報を流したやつがいるわ」

 

 オータムが戦闘の最中、しきりに情報という言葉を口に出していた以上、学園内部から手に入れた情報であることは間違いない。

 それこそ織斑一夏の実力のデータなど学園内部からでないと流出するはずがない。

 

「その者が亡国機業を招き入れた……ですがこの、巻紙礼子という人間に誰が招待券を渡したか、までは調べきれません」

「そうなのよね~……来年からは生徒氏名を印字したうえで配布しないと駄目ね……ところで虚ちゃん」

「なんでしょう」

「良い人、見つかったみたいね」

 

 その瞬間、虚の手からバサバサッ! と凄まじい音を立てながら報告書の束が床に流れていき、慌てて虚が拾い上げていくがその顔は真っ赤だ。

 

「な、な、な、何の話ですか?」

「隠さなくたっていいのよ。貴方が私のことを何でも知っているように私もあなたのことを何でも知っているんだから」

「そ、それは……ぅぅっ」

「良いのよ……幸せになりなさい、虚ちゃん。私に仕えることだけが人生じゃないんだから」

 

 

 

――――――☆――――――

 その日の晩、俺達一年一組は食堂を貸し切りにしたうえでクラス会を開いていた。

 テーブルの上には購買から買い占めたお菓子の袋が所狭しと並べられており、みんなの手にはコーラやオレンジジュースなどのソフトドリンクが握られている。

 

「みんな! 今日は一日お疲れ様! 皆のお陰で無事に一組は催し部門一位に選ばれました!」

「おりむ~のデザートのお陰~」

「いやいや、みんなが支えてくれたからだよ……というわけで一位を記念して」

『カンパーイ!』

 

 コップを軽くぶつけ合う音が食堂内に響き渡り、やんややんやとみんなの明るい声で満たされる。

 

「うむ! やはり旦那様が作ったケーキは美味しいぞ!」

「もうラウラ、頬にクリームついてるよ」

「わたくしの料理は豚の餌ですわ」

「セシリアもそこまで卑下しなくても」

 

 皆が楽しそうにお菓子やら俺が作ったデザートやらを食べている中、俺はちょっとだけその場を抜けて少し離れたところに監督者として座っている千冬姉のもとにケーキを持っていく。

 

「千冬姉、これ」

「先生だ……わざわざ作っていたのか」

「食べたそうにしていたから……新作なんだ」

「……いただきます」

 

 千冬姉は一口、食べると頬を綻ばせて美味しそうに笑みを浮かべてくれる。

 俺もそれにつられて笑みをこぼしてしまう。

 

(やっぱり千冬姉に喜んでもらえると嬉しい……これ以上、心配をかける訳にはいかないな)

 

 俺は決意を新たにクラスの皆のもとへと戻っていった。

 

 

――――――☆――――――

「失礼します」

 

 重厚な扉を開け、ある一室へと入った楯無は薄暗い部屋の中を進んでいくと人影が現れる。

 立派な机に組んだ手を置いている初老の男性の名は轡木十三。

 一般生徒からは校務員として認識されている彼だが正体はIS学園という空間を実質的に運営しており、表向きは彼の妻が学園長となっている。

 

「更識君、報告を」

「はい。まず亡国機業について。今回の一件で少なくとも2機のISが確認されました。アメリカから強奪した第3世代型ISのアラクネ。そして同じく第3世代型ISのサイレント・ゼフィルス。こちらはイギリスから強奪したもので間違いないでしょう」

「そうですか……ISを強奪するほどの兵力を持ち合わせているのでしょうか」

「私の見立てでは実力者がもう一人、隠れているかと」

「ふむ」

「アラクネに関してはコアを抜き取った自爆により当面の間、活動は不可能でしょう」

 

 コアを心臓部とするのであれば装甲や装備が肉体であり、例え心臓が無事であったとしても肉体となるその他の部分が損傷しているのであれば動くことは出来ない。

 装甲や装備を調達するのにも時間はかかり、さらにそこからコアを慣らすにも時間がかかる。

 

「そしてもう一つ……学園内に内通者がいます」

 

 十三はその報告を聞き、額を抑えながら顔を俯かせる。

 彼にとって学園で生活をしている少女たちは娘のようなものであり、その娘の中にテロリスト紛いの集団とつながりがあると言われれば親代わりとして心が痛む。

 

「そうですか……残念です。彼の様子はどうですか?」

「正直、驚いています。夏休みの前後では別人のようです。あとは実戦経験を積んでいけば学園でも屈指の実力者になるかと……ですが心の面はまだまだです」

「彼は命を狙われていますからね……意識を変えてもらわなければやがては学園を巻き込んでしまい、彼の心は持たなくなってしまうでしょう」

「片鱗は見えていますので……あとは彼が自発的に意識を変えれれば……変えられないのであれば」

 

 お互いにそれ以上は黙ってしまい、嫌な沈黙が流れる。

 

「彼は仲間を作り過ぎました。もう少し早く彼に接触するべきでした」

「当面の様子見をお願いしたのはこちらです。更識君が謝ることはありません」

「……必ず彼を変えてみせます」

 

 楯無は強くそう言うと一礼し、部屋を後にする。

 

「……一夏君。早く気付くのよ……心が潰れてしまう前に」

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