Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第6巻
第七十五話


 北アメリカ大陸北西部、第十六攻防戦略基地。通称『地図に無い基地(イレイズド)』。

 軍関係者でも知らされることのない秘匿性の高い基地で今、銃音と共に人の悲鳴や肉を裂く音が断続して響いており、緊急事態を知らせるサイレンが鳴り続けている。

 

「侵入者確認! 至急応援を―――」

「黙れ」

「うわぁっ!」

 

 通信機で応援を要請していた男の背後で爆発が起き、一瞬にして吹き飛ばされると床に落ち、打ち所が悪かったのか男はピクリとも動かない。

 鉄の廊下を一人の少女が歩いており、その周囲には六基の青いビットが浮遊している。

 その少女―――エムはビットに指示を飛ばした瞬間、青いレーザーが放たれて曲がり角で軌道を変えた瞬間、爆音とともに男たちの悲鳴が木霊する。

 

「殺さずにという話だが……難しいものだ」

 

 曲がり角を曲がり、倒れ伏している男たちを避けながら歩いていくエム。

 倒れている者たちに共通しているのは息があるということ。

 スコールに命じられたのは基地内部に封印されているISの強奪とISを用いての殺人を行わないという二つであり、エムにとっては面倒極まりないもの。

 しかし、指示を無視すれば彼女の体内に埋め込まれているナノマシンによって脳中枢を焼かれてしまうため渋々、従っているだけ。

 

「……」

 

 一際大きな通路に出たところでエムの視界に一人の女性のシルエットが入る。

 女性は両腕で何かを抱えており、よく見ると翼のシルエットを模して曇りないシルバーで塗装されている。

 エムはそれを認識するとともに体を回転させてスラスターを吹かした瞬間、先程まで立っていた場所に羽のような形をしたエネルギーの矢が突き刺さり、大爆発をあげる。

 

「生身でISの兵器を扱うか……お前は」

「ナターシャ・ファイルス。アメリカのテストパイロットにして銀の福音の登録操縦者よ」

「なるほど……識別外個体(アウト・ナンバー)に負けた雑魚か」

 

 連続して放たれるエネルギー・ショットをエムはスラスターを駆使して壁や天井を足場にしながら回避していくと同時にビットを制御し、羽を撃ち落としていく。

 複数の行動を同時に行う技術の高さにナターシャは驚きつつも羽の矢を打ち込んでいく。

 

「悪いけどあの子はやらないわ……今はお昼寝中なの」

「識別外個体に負けた機体など不要だが……組織は欲しいらしいのでな」

(あの姿勢で瞬時加速!?)

 

 天井に逆さまに張り付きながらそう呟いた瞬間、エムが凄まじい速度で加速を行い、一瞬にしてナターシャの背後を取るとピンク色に光ナイフを振りかざす。

 ナターシャは振り向きざまに持っていた武器を盾代わりにしてナイフの一撃を防ぐと後ろに飛びのきながら銃を握り、エムに発砲する。

 

「銃などでISを倒せるのか?」

「さあ? どうでしょう」

 

 ナターシャが突然、銃口をエムから離す―――直後、エムはナターシャの考えを理解し、その場から離れようとするがそれよりも一歩早く銃声が鳴り響く。

 放たれた弾丸はナターシャが投棄した武器に着弾するとともに大きな爆発を挙げてエムを飲み込む。

 

「弾丸そのものじゃ倒せなくても二次的要素ならできるかもしれないわ」

「―――ただの兵士ならば、な」

「っっ!」

 

 背後からの声に振り返るよりも早くエムの手刀がナターシャの脇腹に突き刺さり、バキバキッ! という嫌な音を響かせながら彼女の体が風船のように軽く飛んでいき、壁に激突する。

 床に落ちたナターシャは脇腹を何本も骨折している状態ながらも起き上がろうとするが彼女の周りに六基のビットがやってくる。

 

「死にたくなければ銀の福音の場所を言え」

「……私の役目は果たしたわ」

「なに?」

 

 ナターシャの言葉の真意を理解しきれていないエムの耳に上から亀裂が入る音が聞こえ、見上げる前にその場から離脱した瞬間、天井が崩れ落ちる。

 

「待たせたな! 亡国機業!」

 

 煙の中から現れたのは虎模様のIS。

 突然の新たな敵の出現にエムは流石に距離を取る。

 

「第三世代ISのファング・クエイクか」

「おうとも! イーリス・コーリングだ。よろしく!」

 

 挨拶が終わるよりも早くエムは逆手持ちにしたナイフで襲いかかるがイーリスの拳に弾かれる。

 真正面からぶつかり合ったナイフは一瞬にして根元からへしゃげてしまっており、エムは小さくため息をつきながらナイフを放り捨てる。

 

「それ、イギリスからパクった実験機だろ? 確か『サイレント・ゼフィルス』だったか」

「だったらどうする」

「実験機ごときが私にゃ勝てねえよ!」

 

 瞬時加速を使い、一気に距離を詰めるイーリス―――それを察知していたかのように既に六基のビットからレーザーが放たれている。

 イーリスは加速を止めることなく高速機動のままレーザーを回避していくが慌てて立ち止まり、その場でバク転をするように飛び上がると背後からレーザーが舞い戻ってきた。

 

偏向射撃(フレキシブル)とは中々やるじゃねえか。イギリスの代表候補でも出来てねえ芸当だろ?」

「知らんな」

『そこまでよ、エム』

 

 長大なライフルを呼び出そうとしたその時、プライベート・チャネルからスコールの声が響くが動きを止めることなく、エムは足止め用にビットによる攻撃を続ける。

 

『モニターしていたわ。時間がかかり過ぎている。このまま戦って貴方が負けるとは思わないけどせっかく奪った機体をお釈迦にしたくはないわ』

「……了解」

「逃がすか!」

 

 ビットによるレーザー攻撃を行いながらエムは全てのスラスターを前方に向けて後退の瞬時加速を行い、イーリスもそれを追いかけるために瞬時加速を使う。

 しかし、高速機動からのビットによる連続射撃によって徐々に距離を開けられていき、地上100メートルまで迫った頃には50メートルほどの距離が開いていた。

 

(基地の複雑な通路を後退したまま突き進むとはな……ここで勝負をかける!)

 

 イーリスは意識を集中させスラスター四基による個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッションブースト)を発動させるための準備に取り掛かる。

 成功確率は40%と心許ないが今使わなければ意味がない。

 

(ったく……日本の誰かさんが蒼炎瞬時加速(ブルー・イグニッション)なんて芸当みせやがるから私の立つ瀬がねえってのによ)

 

 イーリスのアクションに気付いたエムはさらに射撃速度を上げるとともに四方八方の壁や天井に攻撃をぶつけて目くらましを行う。

 しかし、その目くらましを掻い潜って速度を上げていくイーリスが突撃してくる。

 

「おらぁぁぁぁぁ!」

 

 徐々に加速していき、レーザーがあたるのもお構いなしにイーリスは突撃していく。

 徐々にその距離を詰めていき、腕を伸ばす。

 

「獲った!」

 

 その腕で相手を掴もうとしたその時、視界の外から目の前にシールド・ビットのエネルギー・アンブレラが現れてイーリスの腕に捕まってしまう。

 お前じゃない、というよりも前にイーリスはそれに高性能の爆薬が積まれていることに気付き、慌ててそれを放り捨てた。

 次の瞬間、大爆発と共に強い光を発し、イーリスの視界が一瞬、光によって塗り潰される。

 

(器用なもん造りやがって!)

 

 爆発のおさまりと同時に地上へと飛び出し、空を見上げた頃には既にサイレント・ゼフィルスは遠くの空を飛んでおり、追いかけるには距離が開きすぎていた。

 

「あぁくそが!」

 

 悔しそうに拳を手の平に打ち付けると金属音が周囲に木霊する。

 銀の福音を奪われずに済んだという結果を見れば十分な成果ではあったがたった一人の相手にここまで基地を破壊されたともなれば世界最強の軍事力を誇るアメリカのメンツは丸つぶれだろう。

 

「覚えとけよ……亡国機業」

 

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