Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第七十六話

「へ? 蒼炎瞬時加速(ブルー・イグニッション)?」

 

 寮での昼食時、そんな話をラウラから聞いた俺は素っ頓狂な声をあげてしまう。

 この後、実技授業が待っているのでみんな、少しの食事で済ましていることからこうして雑談の時間が生まれているがその中での発言だった。

 

「そんな単語あったっけ?」

「あたしに聞かれても知らないわよ」

「副官のクラリッサから聞いた話だ。なんでも旦那様が蒼い炎を纏って瞬時加速を超える速度を叩きだしていると軍上層部でも話題になっているそうだ」

「ドイツ軍で話題になるくらいだから他の国でもそうかもね」

 

 シャルの言うようにドイツだけ知っていて他は知りません、なんてことはあり得ないので全ての国が知っていると言っても過言じゃないだろう。

 ただ、俺自身そんなに意識して使っているものでもないのでピンと来ない。

 

「確かに臨海学校の時に見たあの技は凄まじい威力だ。旦那様、あれは何なのだ?」

「あれは―――」

 

 超加速推進機(アクセル・スラスター)の話をしようとした時、俺の脳裏に楯無さんの顔が過ぎってしまい、思わず口をつぐんでしまう。

 家族以外は敵と見なせ、そんな言葉を言われたら嫌でも思い出してしまう。

 

「機密情報ということで」

「ふっ。確かに夫婦にもプライバシーは必要だ」

 

 このように機密情報といえば大体の人はそれ以上の詮索を止めてくれることを最近知った。

 多くの生徒が国の代表としてIS学園に来ている以上、何らかの目的を持ってきているわけでその中には国家機密に値する物もある。

 なので暗黙の了解として深く詮索しない、がある。

 

「あたしの時に使ったのが一回目よね?」

「そうだな」

「でも白式には拡張領域がありませんので後付装備は搭載できないのでは?」

「俺もよく分からないんだ」

 

 セシリアの言うように白式にはこれ以上、武装を積むことは出来ない。

 第二形態移行を経たことで雪羅という新たな装備は手に入れたけどそれ以外の武器は無理やり積み込む隙間すら見当たらない程カツカツだ。

 

「ふむ。だがかなりの大技になっているのは間違いない」

「というか蒼炎状態で動けたら……ヤバくない?」

 

 鈴の一言に全員が想像し、頷く。

 あの蒼炎状態に至るには赤炎の状態で飛行を続けたうえで蒼炎状態に移行する、もしくは鎖で固定して蒼炎状態に移行するかの二択しかない。

 でも鈴の言うように蒼炎状態で自由に移動できればすさまじい速度を俺は手にする。

 

「……やってみるか」

「ふむ。訓練ならば付き合うぞ」

「僕も付き合うよ」

「ここは紅椿の性能の出番だろう」

「高速機動ならばこのわたくしに理がありますわ」

 

 箒・セシリア・シャル・ラウラの視線がぶつかり合い、凄まじい火花が散っているがそんな中、鈴はタブレット端末と睨めっこしている。

 チラッと画面を見てみるとどこかの特集記事だ。

 

「鈴、何見てんだ?」

「あんたの誕生日プレゼントを……あ」

「「「誕生日!?」」」

「へ?」

 

 鈴はしまったと言わんばかりに額を抑え、箒以外の三人は声をピッタリと合わせて俺の方を向く。

 確かに鈴の言うとおり、9月27日は俺の誕生日ではあるんだがそこまで驚くことだろうか。

 

「なんで先に言わないのだ!」

「一夏、いつお誕生日なの!?」

「9月27日だけど」

「27日ですわね。一夏さん、その日は絶対に予定を開けておいてくださいまし!」

「お、おう」

「旦那様の自宅を会場としよう。いいか?」

「い、いいけど」

 

 セシリアは純白の皮手帳を開くとボールペンでグリグリと27日に強く印をつけ、シャルとラウラは端末のカレンダーアプリを開き、何かを登録する。

 そして三人は箒と鈴の方をジトーッと見ると二人は居心地悪そうに視線を逸らす。

 

「油断の出来ない伏兵がいたものだな」

「そ、そんなことはないぞ!? わ、私が抜け駆けなどそんな卑怯な真似をするものか!」

「あ、あたしだってそうよ! ちゃ、ちゃんと皆にも共有する予定だったんだから!」

「自分の計画が組み立てれたら、ね?」

 

 シャルの鋭い指摘に鈴はどきりと表情を曇らせ、目を逸らす。

 

「と、ところであんた最近生徒会にはいったのよね!?」

「そ、そうだったな! 部活動への貸し出しはいつからなのだ!?」

 

 あまりにも居心地の悪い空気を換えるためか必死に話題を変える二人。

 

「今、生徒会の方で貸出順を決めてるらしい。そう言えばみんなって部活入ってるのか?」

「私は最初から剣道部だ」

 

 入学してから当分、幽霊部員だったみたいだけど最近は顔を出すようにしているらしく、箒が言うには血涙を出す勢いで部長が嘆願に来たらしい。

 そりゃ、全国優勝経験のある実力者を欲しない部活はない。

 

「セシリアは?」

「わたくしは英国発祥のテニスですわ」

「似合いそう。向こうにいた時もやってたのか?」

「ええ。幼いころから習い事の一つとしてしていましたわ。他にも乗馬やバイオリンなんかも」

「おぉ~。一回、セシリアの演奏聞いてみたいな」

「ぜひ! 一夏さんのためだけに演奏をいたしますわ!」

 

 ニコニコと嬉しそうに語るセシリアだが横から鈴が俺の耳元でつぶやく。

 

「大体、こういうのってフラグだけど大丈夫?」

「何のフラグだよ」

「……ま、いいけど」

「そう言う鈴は何のクラブだよ」

「あたし? あたしはラクロスよ」

 

 そう言われ、すぐに鈴がラクロスのラケットを持ってコートをぴょんぴょんと縦横無尽に飛び回る姿が想像でき、思わずぷっと噴き出してしまう。

 その瞬間、鈴が食べていた激辛麻婆豆腐定食のルーがたっぷり塗られたナフキンで鼻元を撫でられる。

 

「ほげぇぇぇ!」

「ふん……で、ラウラとシャルロットは?」

「僕は料理部だよ。日本の料理の勉強したくて」

「私は茶道部だ」

 

 鼻の激痛に耐えながらみんなの話を聞こうとするが目から涙がポロポロととめどなく落ちてくる。

 

「び、びんなちゃんと部活動にばいっでるんだな……くぅ」

 

 近くの冷えた台拭きを鼻元にあてて冷やす。

 

「27日といえばみんな準備はどう?」

 

 シャルが思い出したように話題のボールを投げる。

 そう、27日はIS学園の目玉行事の一つであるISの高速バトルレース『キャノンボール・ファスト』が開催される予定だ。

 元々、国際大会として開催されているそれだがIS学園の生徒もそれに参加することになっている。

 主な目的は市とタッグを組んでの大々的な学園の広告だ。

 キャノンボール・ファストには大勢の一般見物人が参加するので市は入場料や飲食で収入を上げ、学園は大々的な広告を打つことで将来の生徒数を確保する。

 学園外にある市の大きなISアリーナで行うのでこの後の実技授業から高速機動の調整が始まる。

 

「わたくしは順調ですわ」

「セシリアはパッケージが完成しているから良いわよね~。あたしは高機動パッケージが間に合わないし。シャルロットのとこはどうなの?」

「リヴァイヴは第二世代でこれ以上の開発はないから増設ブースターで対応かな」

「ふ~ん。ラウラは?」

「姉妹期のシュヴァルツェア・ツヴァイクの高機動パッケージを調整することになる」

 

 この中でパッケージが必要ないのは俺や箒くらいなもの。

 普通、高機動パッケージをインストールして速度周りを調整、キャノンボール・ファストに臨むらしい。

 

「俺は」

「多分、あんたは制限かかるでしょうね」

「だよな~」

 

 超加速推進機(アクセル・スラスター)の機能の一つであるBoost・Timeを使えばスタートダッシュとしては最高なんだろうが競技自体が破たんしかねない。

 だから鈴が言ったように機能制限をかける必要が出てくるだろう。

 となれば俺が出来ることと言えば瞬時加速の発動タイミングの厳選と判断をしっかりと、瞬時にできるように鍛錬を積まなくてはいけない。

 

「10秒程度とはいえ、ハイパーセンサーの感知領域をすり抜ける速度は禁止事項だからな。その点、私の紅椿は展開装甲を使えば問題ない」

「ガス欠に気を付けないとね」

「ぐぐっ」

 

 紅椿も白式に負けず劣らずのエネルギー喰らいであるので使用タイミングを間違えれば一瞬でガス欠に至るし、エネルギー回復手段の絢爛舞踏も自由タイミングの発動はまだ実現していない。

 ISは面白いくらいに一長一短だ。

 

「んじゃ、そろそろチャイムもなるし行きますか」

「あ、先に行っててくれる?」

「おう」

 

 何故かは知らないがシャルはみんなを呼び止め、俺だけを行かせる。

 特に気にもならなかった俺はそのままアリーナへと向かった。

 

 

――――――☆――――――

「で、呼び止めて何よ」

「うん。一夏の誕生日のことなんだけどね……みんなは何を送る?」

「ここで共有するのか?」

「共有しておかないとプレゼントが被る……そういうことか」

 

 箒の指摘にシャルロットは首を縦に振る。

 被ったプレゼントを贈られた身としてもどちらかばかりを使う訳にはいかないと気を使い、逆に送った方も被ってしまったという残念感を抱いてしまう。

 

「僕は一夏に時計を送ろうと思うんだ」

「ふむ。ならば私は軍特注のナイフを送ろう。戦場の絆だ」

「ではわたくしはイギリスの職人に作らせた調理器具セットを送りますわ」

「あたしはロケットペンダントを送るわ。夏休みに撮影した写真もあるし」

「私は着物を送ろう。やはり一夏には日本男児の格好良さを体現して欲しい」

 

 お互いに全く干渉しあわない別々の分野のプレゼントが即座に決まり、少女たちは頷きあう。

 

「値段は各々が決めることとしよう。ただし、セシリア。金に物は言わせ過ぎないようにな」

「もちろんですわ。オルコット家の名に懸けて」

「よし……ではそれぞれがそれぞれの信念を胸に」

 

 ラウラの掛け声とともに恋する乙女たちは強く頷きあうのであった。

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