Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第七十七話

 IS学園には多数の実技演習用アリーナが用意されており、それぞれの学習分野に特化した設計となっているので時期によって使用頻度が大きく変わる。

 キャノンボール・ファストが開催される今頃の時期はほとんど、ここ第六アリーナが使用される。

 

「それでは今日から高速機動についての授業を行いますよ~」

 

 一年一組副担任の山田先生の声が第六アリーナに響き渡る。

 一大行事を前にしてかいつもよりも山田先生の声に熱が入っているように聞こえる。

 

「ここ第六アリーナは中央タワーと高速機動実習が可能なんですね~。では実際に高速機動がどんなものなのかをオルコットさんと織斑君に実演してもらいましょう!」

 

 ご指名を貰った俺達はともにISを展開し、スタート位置へと向かう。

 高速機動パッケージ『ストライク・ガンナー』を装備しているセシリアのブルー・ティアーズはビットをスラスター代わりに使用している。

 ただ、その姿を見ると学園祭の乱入者のISを思い出す。

 

「一夏さん、どうかされました? 私をボーっと見ておりますが」

「いや……似てるなって」

「似てる?」

「あ、いや……この前、学園祭の時にセシリアの機体と似てるISを見かけたからさ」

「それはもしかして」

『お二人とも準備は良いですか~!』

 

 セシリアの顔が重苦しい表情に変わると同時にオープン・チャネルを通して山田先生の声が響き渡る。

 俺は返事代わりに手をあげるとセシリアの先ほどの重い表情を隠して合図を送る。

 

『それでは位置について……よーい……ドン!』

 

 山田先生のフラッグが上げられた瞬間、俺達は同時に上空へと飛翔する。

 大型ウイングスラスターと各スラスターを全開に吹かしながら突き進んでいくが中々セシリアを追い抜かすことが出来ず、拮抗状態が続く。

 福音との戦いの際にも唯一、高速機動で追いかけてきたのがセシリアだ。

 

『流石セシリアだな!』

『それほどでも♪』

 

 学園のモニュメントを周回する外周ルートへと差し掛かろうとしたところで俺は一気に勝負をかけるべく瞬時加速をかけるとウイングスラスターが折りたたまれ、シャープな形状へと切り替わる。

 一気に視界がグニャリと歪み、体に圧がかかるが戦闘機でグルグル回転した時のGと比べたらどうということはなかった。

 

『一夏さん! そのままの速度では壁に衝突しますわ!』

 

 オープン・チャネルを通してセシリアから心配の声が届くが俺はそれに答えるようにさらに速度を上げ、外周ルートの入口へと突っ込んでいく。

 そして中央タワーの外周へと差し掛かると同時に体を回転させて最短距離でのターンを決めるとそのまま頂上へと駆けあがっていく。

 

『なんて無茶な螺旋回避(ネイル・ターン)をされますの……負けてられませんわ!』

 

 代表候補生としてのプライドに火が付いたのかセシリアも瞬時加速をかけて急加速し、ほとんど同着で頂上へと辿り着くとそのまま地上目がけて直線ルートへと入っていく。

 追い抜き・追い抜かれのデッドレースを繰り広げる中、ウイングスラスターが赤炎を上げているのに気付くがこんな楽しい時間を途中でやめるつもりはない。

 

『1番は俺だ!』

『私ですわ!』

 

 互いに一歩も譲らない状態でアリーナの地表ゴール地点へと突っ込んでいくが徐々にウイングスラスターが蒼炎を上げ始め、徐々に俺の体が前へと出ていく。

 最高速度に到達しながらゴールラインをほぼ同時に割った俺達は急停止を行う―――が、俺の体はそう簡単に止まらず、数メートルオーバーランしたところで停止した。

 

「……やりすぎたか」

「1位は織斑君ですが技術面ではオルコットさんが高評価ですね。でも二人とも優秀で嬉しいです!」

 

 山田先生は生徒の成長が嬉しいのか俺とセシリアを見ながらほめたたえ、ぴょんぴょんと飛び跳ねるがその豊満なバストが重たそうに上下に揺れる。

 思わず視線を逸らすや否やどこからともなく俺を射殺すレベルの死線が送られてくる。

 何を察知してなのか白式がご丁寧に死線を送ってくるメンバーの顔をズームアップしたせいで心臓がキュッと捕まれたみたいに苦しくなる。

 セシリアに至っては視界の範囲内にいるから死線が増し増しだ。

 その時、千冬姉の手を叩く音が聞こえ、全員がその方向を向く。

 

「今年は一年生も異例の参加となったがやる以上は各自、しっかりと結果を出すように。ではこれより訓練機組の選出に移る! 割り当てられた機体に乗りこめ!」

 

 本来、キャノンボール・ファストは整備課が出てくる2年生から参加の行事になるが今回は緊急事態の抑止も兼ねてということで1年生の参加も決定した。

 訓練機組は完全にクラス対抗戦となるので例にもれず景品が出る。

 

「今度こそ結果を残すんだから!」

「お姉さまに良いところを見せるのよ!」

「勝ったらデザート無料券! これは勝つっきゃない!」

 

 生徒に熱が入れば自然と先生たちの指導にも熱が入り、いつにもまして千冬姉の怒号が響き渡るが誰もその怒号に押されている様子は見られない。

 俺達専用機組は高機動パッケージの調整となるが俺にはそれがないので若干、手持無沙汰だ。

 

「織斑君、さっきの実演ですが」

「あ、はい」

「あの速度、本番では危険ですよ」

「……」

 

 てっきり褒められると思っていたのでちょっと驚いてしまう。

 

「本番は妨害アリのレースです。あの蒼炎を纏った速度は確かに凄まじいですがあの状態で攻撃を貰うとバランスを崩して壁に激突しちゃいます」

「た、確かに」

「あの状態で自由行動が出来るのであれば別ですが……できますか?」

「いや、実まだ自由には」

「でしたらレース本番では気を付けましょう。織斑君は実戦の経験が豊富なのは確かですが実戦と競技は似て非なるものですからね」

 

 ズバズバと事実をぶつけられ、俺は返す言葉もなくノックアウトされてしまう。

 山田先生の言うように今回は完全なる格闘戦が主のイベントではなく、競い合いが主のレースである以上、格闘戦の要領では一位を取ることは出来ない。

 

「織斑君の活躍、期待していますよ」

「ありがとうございます」

 

 山田先生はルンルン気分で訓練機組のもとへと向かっていく。

 さっきのレースで一位を取れたのもセシリアからの妨害が無かったからであってレース本番では加速に集中しているばかりでは妨害攻撃を喰らってバランスを崩していただろうし、タワーに激突もしていただろう。

 

「ISって難しいな」

 

 難しい―――でもそれと同じくらいに奥が深くて面白いのがISだ。

 俺は早速白式のデータを呼び出そうとしていた時、ふと視界に悩んでいる様子の箒の姿が見え、何気なしに彼女のもとへと向かう。

 

「箒、何悩んでるんだ?」

「あぁ、一夏か……いや、展開装甲に割くエネルギーの分配を悩んでたんだ」

 

 全身に展開装甲が使われている紅椿だがその全てを同時に全開に使用すれば通常形態であれば一瞬にしてエネルギー切れに陥ってしまう。

 絢爛舞踏も自由発動が出来ない以上、エネルギーの分配はより一層気を配らなければならない。

 

「難しいよな。俺は大型ウイングスラスターがあるからそれに特化させればいいけど紅椿は全身に展開装甲が使われているからどこを特化すれば分からないな」

「そうなんだ。お前のように背部だけを特化させるのも考えたがそれだと単純4方向の調節は効くんだが複雑になると難しくなる」

「かといって脚部だけにすると妨害されたら攻撃面に不安が残るよな」

「一夏はどう調節するんだ」

「俺か? 俺は雪片弐型と雪羅を我慢する」

「……それだけか?」

「それだけだ」

 

 胸を張ってそう言い切ると箒は途端に噴き出し、腹を抱えて目に涙まで溜めて笑い始めてしまう。

 

「ぷははっ! お前というやつはっ! くっははっ!」

「な、なんだよ」

「いいや……ふぅっ。私は小難しく考えすぎていたみたいだ……私もお前と同じように小難しく考えるのではなく色々と我慢してみることにする」

「お、おう」

 

 箒は満足撃そう言うと紅椿を展開し、早速色々と我慢した機動の練習へと入る。

 

「一夏さん」

 

 後ろを振り返るとそこにはレース前の重苦しい表情をしたセシリアが立っており、こちらへ来るようにと手招きしているので彼女の傍へと駆け寄る。

 

「何かあったのか?」

「いえ……先ほど言っていた件についてですわ」

「さっきの……あぁ、セシリアの機体に似たIS」

「そのIS……どのような機体でしたか?」

「どんな……ブルーティアーズよりも濃い青色で……あ、そう言えばシルエットが蝶に似てた……気がする」

 

 そう言うとセシリアはやはり、とブツブツと小さく呟き始める。

 その表情はかなり思いつめたような表情をしており、声をかけるのもためらわれる。

 

「セシリア?」

「あ、いえ……実は本国でサイレント・ゼフィルスというISが強奪されていますの」

 

 ISを強奪と聞いて思い出すのは亡国機業のこと。

 学園祭でも俺と白式を狙って襲撃してきていたし、他の国を狙っているとすればそれなりに大きな組織にもなるし、兵力も無視できない。

 特にあの剥離剤(リムーバー)とかいう兵器も謎だ。

 学園祭の後、何気なく調べてみたけどそれらしいものはヒットしなかった。

 

「許せませんの……どれほどの人物が心血を注いで完成させたのか。それを無視して自分の私利私欲のためだけに強奪したやつらが」

「セシリア……」

「イギリスの代表候補生として次に現れた時は……必ずわたくしの手で取り戻してみせますわ」

 

 セシリアは拳に力を込めてそう強く言葉を発するがあまりの力の入れように俺は一抹の不安を感じていた。

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