Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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本日は祝日なので12時にもう一話、挙げます。


第六話

「レディを待たせるとは貴方は常識知らずでもありましたのね」

 

 フィールドの中央でセシリアがため息交じりにそう言い放った。

 ようやくか、といわんばかりに観客たちが盛り上がるが俺はそんなことは意識もしていない。

 特徴的なフィン・アーマーを4枚、背に従え、その手には二メートルを超す長大なレーザーライフル『スターライトmkⅢ』が握られた鮮やかな青色の機体『ブルー・ティアーズ』。

 

「待たせてしまったことは謝るよ、ごめん」

「……そうやって男の人は心無い謝罪をすぐする」

「え?」

「いいえ、何でもありませんわ……私にとってこの模擬戦などすぐに終わる試合。ほんの少しの間だけの専用機持ちの特別待遇を楽しむことですわ」

 

 白式から膨大な量の情報の中にセシリアの目が射撃モードに移ったこと、レーザーライフルのセーフティロックが解除されたことを告げる通知があった。

 ISにはそれぞれ専用の装備があり、セシリアであればレーザーライフル『スターライトmkⅢ』。もちろん兵装はそれ以外にもあるが今の白式ではそちらに処理を回せず、情報は来ない。

 

『それではお二人とも、準備はよろしいですか?』

「もちろん」

「俺も同じく」

『それではクラス代表決定戦、試合開始!』

 

 ―――警告! 敵IS射撃体勢に移行! 初弾エネルギー装填!

 白式から警告の通知が送られてくる。

 

「沈みなさい! この一撃で!」

「ぐぅお!?」

 

 独特な耳をつんざくような音の直後、青白い閃光と共に意識を後ろに引っ張られるような強い衝撃が襲い掛かり、成型途中だった胸部アーマーが吹き飛び、生身が露わになる。

 体勢を大きく崩すが白式の自動姿勢制御が働いたことで墜落することはなかったが気持ち悪い重力が襲う。

 

(ダメージ46、残量521……絶対防御は発動せずか……危なかった)

 

 すぐさまその場から飛び去ろうとするが白式と俺の伝達が上手くいかず、上手く動けない―――いや、正確には白式の反応速度に俺がついていけてない。

 

「くそぉっっ!」

「さあ躍りなさい! 私、セシリア・オルコットとブルーティアーズが奏でる円舞曲で!」

 

 何発もの青白い閃光が迸り、その度に全身のアーマーが吹き飛んでいく―――肩、腰、胸、腹部、アーム、レッグに装備された装甲はどんどん消し飛んでいく。

 とにかく動きを止めないようにアリーナを縦横無尽に駆け巡る―――ISの回避行動など知らない俺にとってはこの行動が最善の回避策だ。

 

「なんですの、その動きは? そんなもので私の狙撃からは逃げられません事よ!」

 

 セシリアはその場にとどまり、ただ引き金を引くだけ。俺はというとコチョコチョと動き回り、エネルギーが尽きないようにするので精一杯。

 まるで赤子と大人が喧嘩しているみたいだ。

 それにさっきからやけに白式が重い。思うように動かせなくなってきた。

 

(そりゃこれだけの桁違いな数の処理をしていれば処理落ちもするか)

 

 画面を覆いつくさんとする勢いの数字の羅列と警告通知。正直、波のスペックのパソコンなら一瞬でフリーズするかOSが吹き飛んでオジャンになる勢いだ。

 動けているだけでもマシ、ということだろう。

 

「そこですわ!」

「がぁぁっ!」

 

 連続で放たれた青白い閃光が俺の動きを止め、直後に左足にレーザーが直撃したことで装甲が吹き飛び、完全に姿勢を崩した俺はアリーナに真っ逆さまに落ちていく。

 

(エネルギー残量は)

 

 白式からの通知はない。

 白式からも見限られたかと思っているとハイパーセンサーによって拾われた観客の声が耳に入る。

 

『ま、こうなるよね』

『千冬さまの弟だからって思ってたけど全然だめね』

『残念。面白くない試合だったわ』

 

 口々に好き放題言われる言葉が俺の耳を傷め、頭の中で嫌に反響する。

 正直、今の俺の姿は無様という言葉が相応しい。何も出来ないまま蹂躙され、何のための模擬戦なのかと思ってしまうほど一方的だ。

 いや、試合にすらなっていないか。

 

(それでも……このままじゃ終われねえだろ俺!)

 

 白式の助けも借りて姿勢を戻し、アリーナに勢いよく着地するとふふん、と鼻を鳴らすセシリアが俺の上空へとやってくる。

 無論、レーザーライフルの銃口は俺に向け、トリガーに指をかけたままだ。

 

「そのまま落ちていれば終われたというのに」

「このままやられっぱなしじゃダメだろ」

「このまま? いいえ、この試合はこれで決着ですわ!」

 

 セシリアがかけていたトリガーを引く―――やがて銃口の奥に青白いエネルギーが充填されていくのが見え、全身に力が入る。

 間に合うか間に合わないか―――そんなことを考えるよりも前に体が動き、その場からほんの僅かにずれた。

 

「なっ!?」

 

 直後、放たれたレーザーが俺の首筋を掠り、俺の後ろで着弾して地面が爆ぜた。

 この一撃で終わらせるつもりだったのか完全にセシリアの表情は一変した。

 

(……さっきよりも軽くなった)

 

 重りが一つ外れたかのように白式が軽くなり、動きやすさが変わる―――その時、再びレーザーが数発、俺を襲ってくるが今度は後ろへと飛び退き、完全に回避した。

 

「か、回避した……あ、あり得ませんわ! 素人が私の狙撃を避けるなど!」

 

 3発のレーザーが放たれる―――白式の姿勢制御の力を借りて一発目を飛び上がりで回避し、二発目を背部スラスターを吹かせて姿勢を傾け、回避。

 最後の一発は体を捻り、寸でのところで回避する―――そしてその勢いのままセシリア目がけてフルスピードのまま突っ込んでいく。

 

(白式にもあるはずだ! 専用の兵装が!)

 

 俺の問いかけに答えるように現在展開可能な兵装一覧が表示され、名称未設定の近接ブレードが一本表示されるが俺は迷うことなくそれを展開する。

 ―――キィィン

 そんな高周波の音が響くとともに俺の手に近接ブレードが構成されていく―――ブレードの持ち手が収まるとともに粒子は後ろへと逸れていき、それらはやがて片刃の刀身へと生まれ変わっていく。

 

「はぁぁぁっ!」

「っっと!」

 

 推進力のままにブレードを振り下ろすが一瞬にして間合いから離脱され、一撃は空を切る―――だがセシリアは空中で逆立ちの状態のまま俺に銃口を向ける。

 

(雑技団かよ!)

「堕ちなさい!」

「ふんっ!」

 

 放たれた青白いレーザーを俺は近接ブレードを盾代わりに構えることで防ぎきる。

 空中で逆立ち状態のまま俺の生身の首元を正確無比に打ち込める辺りセシリアの代表候補生としての高い実力が垣間見える。

 

「この僅かな戦闘で成長したとでもいうのですか……あり得ませんわ。素人は素人……私の圧倒的な優位性に変わりはありませんわ!」

「……11分30秒」

「は?」

「いや、調べたんだけどさ……IS学園の史上最速の試合時間は11分30秒……たった今、超えたぜ?」

 

 次の瞬間、明らかにセシリアの額に青筋が走るとともに雰囲気が一変する。

 

「……ふふふふっ……私はどうやらたった今……煽りを受けた気がしますわ……素人に煽りを受けるなどイギリス代表候補生として! いいえ! オルコット家の当主としてのプライドが許しませんわ! ティアーズ!」

「な、っ!? なんだ!?」

 

 彼女の怒号と共に背に装備されていたフィン・アーマーに光が走ったかと思えばそれらが射出され、彼女の周りに4機の自立機動兵器が現れる。

 よく見ると一つ一つにレーザーライフルと同経口の銃口が作られている。

 周りに浮いている者たちがいったいどんな攻撃をしてくるのかなど予想は簡単だった。

 

「お、おいおいマジかよ……こんな隠し玉があるなんて」

「隠し玉? 隠してなどおりませんわ。あなたのISがこのブルー・ティアーズの情報を読み取っているはず」

 

 お生憎様、白式は未だに莫大な数字の処理に追われていてそのような情報を送ってはいない。

 宙に浮かんでいる4つのビットが行う攻撃など目に見えている。

 

「お行きなさい、ティアーズ!」

 

 4基のビットが展開し、俺の周囲を取り囲む―――一基目からレーザーが放たれ、それをブレードを盾にして回避するが2基目のレーザーが膝裏に直撃し、体勢を崩す。

 そして残り2基のビットからレーザーが同時に放たれ、直撃。

 ―――残量125

 

「ぐぅっ!」

「ふふん」

「うぁっ!」

 

 落ち着きを取り戻したセシリアの鼻が鳴るとともにレーザーライフルからの正確無比な狙撃が俺に放たれ、アリーナの地面に強く叩きつけられる。

 背中からの凄まじい衝撃に意識が飛びそうになるが白式の機能により、意識は飛ばなかった。

 

(絶体絶命……今の状況にピッタリだ)

「終わりにして差し上げますわ! 今度こそ!」

 

 レーザーライフルの引き金がひかれ、レーザーの雨が俺めがけて降り注ぐ―――地面を腕の力で押し、体を空中に浮かせ、一撃目を回避。二撃目は体を捻って回避した。

 

「ちょこまかとしつこいアリですわね!」

 

 セシリアが打ってくるライフルの一撃を動き回りながら避けていると視界に彼女の周囲へ集まっている4基のビットが映る。

 先程まで軽やかに動いていたビットたちはまるで待て、を言われている飼い犬の様に動かない。

 

(そうか……あのビット、セシリアがライフルを撃っている時は使えないんだ。逆にビットを使っている時は意識を集中させているからライフルは撃てない。どっちかの行動しかできないんだ)

 

 そのような事実に気付けたとしても今の白式の残量は125。対して相手はマックス―――そんなことを考えていると彼女の表情に目が行く。

 

(イライラしてるな……このまま避け続ければ……頼むから冷静になるなよ)

「ようやく見えてきたぜ」

「何を言っていますの!?」

「お前の攻撃がだよ!」

「―――ぅぅぅぅっ! 素人が代表候補生であるこの私を愚弄するなど何たる狼藉!」

 

 今のセシリアは俺にバカにされたことでより興奮し、視界が狭まったことだろう。

 ほどよく―――ほどよくトラッシュトークを混ぜながらセシリアを挑発すれば勝機は見えてくる。

 あれほど正確無比な狙撃だったものが今では俺を狙うだけの単調な狙撃まで堕ちている。

 

「この! この!」

 

 ただ単純に引き金を引き続けるだけの狙撃など今の俺にさえ当たらない。

 縦横無尽にアリーナを駆け巡り、一瞬の隙を探す―――そして動きを一瞬だけ止める―――あえて。

 

「そこですわ!」

「お互いにな!」

 

 彼女が俺の隙目がけて引き金を引いた瞬間、俺は全力で近接ブレードの切っ先を相手に向けて投げつけた―――ブレードとレーザーがすれ違い、レーザーが俺の最後の装甲の左肩を消し飛ばす。

 ―――残量67。

 

「っっぅ! こ、こんな攻撃っ!」

 

 セシリアはひらりとその身を翻すことで簡単に投げられたブレードを回避する―――だが視線を俺から外れる。

 その瞬間に白式に搭載されている全てのスラスターを全開に吹かし、一気に彼女との距離を詰める。

 そしてセシリアの視線が俺へと慌てて戻される。恐らくISからの通知を受け取ったんだろう―――でも

 

「遅い!」

「うぶっ!」

 

 俺の拳がセシリアの腹部に突き刺さる―――シールドバリアによって生身への影響は皆無だろうがエネルギーを削るには十分だ。

 腹部の衝撃でくの字に体勢を崩したセシリアの後頭部目がけて拳をハンマーのように叩き付ける。

 たまらないと言わんばかりにセシリアは衝撃の方向に身を任せて移動を開始し、主人を追いかける犬の様にビットたちが俺の傍を通っていく―――逃がすはずもなかった。

 

「待て!」

 

 腕を伸ばし、一基のビットを鷲掴みにするとそのまま両手で掴んで力をこめる―――ミシッミシッという嫌な音がハイパーセンサーを通して俺の耳に伝わる。

 

「ふぅぅん!」

「なっ!?」

 

 次の瞬間、ビットが粉々に砕け、破片が地上へと落ちていく。

 

「わ、私のティアーズをよくも!」

 

 慌ててセシリアはビットを展開するが俺には既に見えている―――レーザーを回避し、セシリアの間合いへと詰め寄る道筋が。

 

(見えた! 勝利の軌跡!)

 

 放たれるライフルの一撃―――それを急降下することで回避。同時に地面に落ちていた近接ブレードを手に取り、まっすぐ突き進む。

 俺の背後に回る二基のビットを確認した直後、直角に急上昇―――その直後に地面が爆ぜる。

 凄まじいGに顔を歪めるが急上昇を続け、セシリアへと迫る。

 

「っっ! ティアーズ!」

「ぜぁぁぁっ!」

 

 セシリアが腕を横薙ぎに振るうと同時に一基のビットが彼女の盾になる様に立ちはだかり、ブレードの一撃を真っ二つに切断されながら受け止めた。

 真っ二つになったビットがゆっくりと落ちていく間ギリギリのところを身をよじりながら通り、ついでにすれ違いざまに真っ二つのビットをつかみとる。

 

「プレゼントフォーユー!」

 

 ビットをセシリア目がけて投げつける―――切断面から赤く発している部分を目にしたセシリアは目をカッと見開き、口をあんぐりと開ける。

 次の瞬間、ビットが小さな爆発を上げ、爆散し、俺達の間に小さな煙の壁をたてる。

 

「うおぉぉぉぉっ!」

 

 その煙を掻き消すように突っ込んでいき、近接ブレードを握りしめて動きが止まっているセシリアへと突っ込んでいく。

 レーザーライフルの銃口はずれており、彼女の集中力はビットを動かせるほど練られていない。

 

(行ける!)

 

 俺はスラスター全開の勢いのままセシリア目がけて突っ込んでいく。

 

「獲った――――――!?」

「かかりましたわね」

 

 セシリアの嫌な笑みが見えた。でももう止められない。

 セシリアの腰部にあるスカート状のアーマーが射出されずに角度だけを変え、銃口をこちらへ向ける―――その奥に見えたのは青白い光ではなく、重厚感を感じさせる鉄の塊のようなものが見えた。

 

「ブルー・ティアーズは六基ありましてよ!」

 

 凄まじくゆっくりと流れていく時間の中、ドゥンッ! と爆炎をあげながら二つの銃口からミサイルが二発、放たれてこちらに向かってくる。

 回避は ―――間に合わない。

 叩き切る―――爆発の衝撃で残量は0

 相打ち ―――あり得ない。相手の残量は余裕で8割以上だ。

 

(悪い……箒、千冬姉)

 

 二人に謝罪の思いを巡らせた瞬間、目の前を赤を超えて白い光に俺は包まれた。

 

                 【system all clear】




難しい。ヒロインを自然体に、かつ原作感を踏みにじらないように調整するのが非常に難しいと感じます。
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