とある日の休日、俺は駅前にてある人の到着を待っていた。
正直、俺はその人と休日を過ごす気はサラサラなかったんだがのっぴきならない事情が出来てしまったため、俺も巻き込まれる形となってしまった。
その人とは――――――
「お待たせ、一夏君」
「……」
「お姉さんの私服姿に見惚れても何も出ないわよ」
「見惚れてるんじゃなくて二度見してるんです」
IS学園最強の生徒会長、更識楯無。
俺は今日一日、この人と過ごすことが決定してしまっているのだ。
確かに傍目から見ても楯無さんは美人だし、IS学園最強の生徒と一緒に休日を過ごせるのであれば安心して楽しむことが出来るだろう。
今日の目的が普通であれば。
「あの……別に普通の格好で良かったんじゃ」
そう―――楯無さんの格好は私服姿ではなく、黒いサングラスに茶色の帽子、そして茶色の薄いブラウスに黒のデニムという組み合わせの服装だ。
普通の女子高生が着るような格好ではないのは確かであり、靴もヒールではなく動きやすいスニーカーだ。
多分、靴の造り的に足音が出にくい特注モデルだと思う。
そしてもう一つ、楯無さんの髪色が黒くなっており、長さも腰のあたりまで伸びている
恐らく黒髪のカツラを被り、エクステを付けることで長さを調整しているんだと思うがいつもの青髪じゃないから違和感が凄まじい。
「そう? 貴方も似合っているわよ、金髪の一夏君」
そう―――俺の格好も楯無さんの要望から金髪のカツラをかぶり、ネックレスをこれ見よがしにつけ、茶色のサングラスを服の胸元に差し込んでいる。
極めつけは茶色の半そでTシャツに白の短パン、サンダルというどこからどう見てもチャラ男だ。
「違和感が仕事しすぎて逆にバれるんじゃ」
「良いから良いから。さ、二人の集合場所に行くわよ」
「はいはい」
やっぱりこの人の本音の部分というものが掴みきれない。
これも意識が見ず知らずの人間に対してではなく大切な従者に向けられているが故のことなんだろうか。
そもそもなぜ、俺がこんな変装をしてまで楯無さんと休日に行動を共にしているのかというと話は二日前の木曜日の放課後にまでさかのぼる。
――――――☆――――――
「疲れた~」
「お疲れさま、一夏」
「シャルもお疲れ。調整は順調みたいだな」
「うん。一夏も順調みたいだね」
「まあな。ラウラたちは?」
「もうすぐ来るんじゃないかな? あ、セシリアはもう少ししていくって」
「そっか」
今週末に控えたキャノンボール・ファストの最終調整を行っていた俺とシャルは訓練を終え、エアコンが効いている涼しい食堂で休息を取っていた。
代表候補生の皆は結果を出すためにと普段以上に訓練に励んでいるし、他の生徒達も訓練機を使って訓練に励んでいるのでどのアリーナも満員だ。
「疲れたー! もう無理ぃ!」
「お、鈴も終わったのか」
鈴がデカい声をあげながら座席に座るや否や冷たいテーブルに突っ伏し、ジタバタと足をばたつかせる。
キャノンボール・ファストに間に合わないと言われていたはずの高機動パッケージが完成したらしく、急ピッチの調整を国の管理官に予定ぎちぎちに詰め込まれているらしい。
「なんでうちの国はいつもギリギリなの!? 余裕っていう言葉がないわけ!?」
「いや、俺に言われても」
「きぃぃー! 何で前日まであの管理官と顔を合わせなきゃいけないのよ! 一夏も付き合ってよ!」
「お、俺? 俺は別にいいけど」
「え!? 良いの!?」
先程まで不機嫌マックスな表情が一変し、嬉しさマックスの笑顔に変わり、パァーっという効果音が出そうなほどの明るさを放ち始める。
そんなに国の管理官が苦手なんだろうか。
「う、嘘じゃないわよね?」
「嘘なんかつかねえよ。付き合ってやるよ」
「やたー!」
「もう一夏ったら甘いんだから……僕も入ろうかな~」
「面白そうな話だ。私も混ぜてもらおう」
「お、お帰りラウラ。箒も」
調整を終えたラウラと箒も席に座り、これでセシリア以外のいつものメンバーがそろった。
俺と箒は冷たい緑茶、ラウラはミルクティー、シャルは紅茶に鈴はお水と多種多様なドリンクがテーブルにならびながら会話にも花が咲く。
調整に付き合うと言ったもののキャノンボール・ファスト前日ということもあり、激しい模擬戦などは出来ないので本当に模擬的なレースをするくらいだ。
「じゃ、明日全員そろって第六アリーナ集合するか?」
「そうだな。私も最後に紅椿を動かしておきたい」
「じゃあ集合時間は―――」
鈴の言葉が止まったかと思うと全員の視線が俺の後ろに集まっていたので振り返るとそこには畳んだ扇子を手に持った青髪の少女―――更識楯無がいた。
正直、箒以外のメンバーはあまり楯無さんに良い印象を持っていない。
外側だけの行動を見ていれば致し方ない場面もあるだろう。
「こんにちわ。代表候補生のみんな」
「楯無さん……何か御用で?」
「ええ。今週の土曜日、ちょっとだけ仕事を手伝ってほしいの」
今さっき予定が出来てしまい、みんなの方を向くと「仕事なら……」と言いたげな表情をしてくれているので「すまん」とジェスチャーで返す。
生徒会メンバー入りは俺自身が望んだことなので致し方がない部分はあるが自由に動けないときがあるのは聊か残念な部分もある。
「で、どんな仕事ですか? あ、キャノンボール・ファストの仕事とかですか?」
「いいえ。私とデートしてほしいの」
「「「「ぶふぅー!」」」」
「楯無さん向こうで仕事の話をしましょう! 今すぐに!」
四人が飲み物を噴き出すのと同時に俺の背中に凄まじい死線がぶつけられるのを感じたので楯無さんの手を取り、慌てて食堂から脱出する。
未だに食堂から敵意という名の殺意を感じるのは気のせいだろう。
食堂から離れたところで楯無さんの方を見ると悪戯を楽しんでいる幼い子供のような笑みを浮かべてニヤニヤとして俺の方を見る。
「な、なんてこと言うんですか」
「あら、いけなかった? キャノンボール・ファスト前だっていうのに仲良しこよしで手の内を晒すようなことをしているのを注意しただけなのに?」
「そ、それは……」
「吐きそうなほどの甘さね」
確かに楯無さんの言うように結果を出さなければいけない行事前だというのに全員で集まって仲良しこよしで調整しようというのは甘いかもしれない―――いや、甘いだろう。
現に大体の生徒は行事前日には誰とも会わず、部屋で休養の予定にしているだろう。
「確かに1年生に戦力が過剰集中しているわ……でも仲良しこよしの甘さはいずれ学年全体に波及する。仲が良いのはよろしいけど時と場合をキチンと判断しなさい。生徒会副会長ならなおさら」
「……すみません」
「よろしい……で、仕事の話なのだけど」
「え? あれって本当なんですか?」
「そうよ。注意しただけだと思った?」
「ま、まぁ」
そう言うと楯無さんはしゃっと音を立てて扇子を勢い良く広げる。
そこには至極残念と熟語かと首をひねりたくなる四文字が表示されている。
「土曜日に仕事をお願いしたいのは確かよ。デートっていうのは嘘だけど」
「は、はぁ」
「あら、お姉さんとデートできないのは残念?」
「いや、別にイダァイ!」
思いっきり踵でつま先を踏みつけられ、思わず叫んでしまう。
まるで踵に鉄板でも入っているんじゃないかと思うくらいに重くて強烈な一撃を喰らい、情けない声をあげながら痛みに悶える。
「そこは残念ですって言ってデートの約束を取り付けないと。なんでもかんでも正直に言えばいいってものじゃないのよ?」
「は、はぁ」
「というわけで土曜日の朝9時に駅前に集合ね。あと、前日に荷物を届けに行くからそれを着てくること」
「了解でイダダダダッ!」
凄まじい強さで手の甲を抓られてしまい、廊下に俺のみっともない声が響き渡る。
「了解、なんていう言葉は使わない。承りましたと言いなさい」
「う、承りました」
「よろしい。じゃ、土曜日よろしくね」
そう言って楯無さんは上機嫌に俺のもとから去っていった。
――――――☆――――――
という訳で俺はチャラ男の変装セットを装着して駅まで楯無さんと合流したというわけだ。
この格好が一体どのような仕事に必要なのかはまだ分からないが楯無さんの表情は真剣そのものであり、とてもじゃないが生半可な仕事には思えない。
亡国機業関連だろうか? それとも別の何かか?
そう思っていると楯無さんの表情がより険しくなり、彼女の視線の先へと俺も目線を合わせてみる―――同時に俺は頭を抱えてしまった。
「こ、こんにちわ……」
「こ、こんにちわ……お、お日柄も良く」
「そ、そうですね!」
前方にいたのは私服姿の虚さん。
どうやらかなり気合を入れて準備したらしくいヘアスタイルも違うし、なんならお堅いキャリアウーマンの雰囲気はどこへ消えたのか、今は高校生の雰囲気しか感じない。
そして彼女の前にいるのは腰まで届きそうな長さの赤みがかった茶毛を持った男性―――五反田弾。
「あ、あの今日の仕事内容って」
「虚ちゃんが男の人と会うっていう情報を本音ちゃんから聞いたから相手の男の調査と監視よ。私の虚ちゃんに相応しい男性か、虚ちゃんを幸せに出来る相手かどうかを見極めるわ」
「は、はぁ」
「あの男の調べはついているの」
そう言いながら楯無さんはタブレット端末を取り出し、情報を表示すると画面にでかでかと見知った友人の顔が表示されるが思わず目をそらしてしまう。
大体、画面に表示されている情報は俺も知っている情報ばかりなので見る必要はないんだがどうも友人の顔写真をマジマジと見るのは少し気恥ずかしい。
「相手の名は五反田弾。実家は五反田食堂という大衆食堂を営んでいるわ。あの男には妹がいて私立聖マリアンヌ女学園中等部在籍。来年、IS学園を受験予定だわ」
「……」
「ちなみに一夏君と同じ中学校出身だけど知り合い?」
「……な、名前くらいは」
「そう……お姉さんは嘘が嫌いなの。それこそ水に沈めてやりたいくらいに」
「友人です。中学校時代の最高の友人です」
「よろしい……で、一夏君の目から見て相手はどんな人なの?」
改めて弾の性格などを思い出すが別に悪い性格でもないし、ノリも良いし、中学時代の時も俺の唯一といってもいい男友達だったので悪いところは何もない。
俺が知る限りはだけど。
「良い奴ですよ。中学の時も何の偏見も無く俺と友達してくれましたし」
「……そう。あ、二人が動いたわ。行きましょう」
そう言いながら楯無さんが自然に俺の腕に抱き付いて来たので思わずビクつくが何をしているんだと言いたげな顔をされてしまう。
(そ、そうだ……これは尾行だ。仕事なんだ……ふぅ)
呼吸を整え、仕事モードに入った俺は楯無さんと腕を組み、ヤンキーカップルを装いながら虚さんと弾の後ろを静かに尾行し始めるのであった。