Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第八十話

 キャノンボール・ファスト当日の朝は雲一つない快晴となっており、会場は収容能力ギリギリの超満員を記録しており、ISの注目度の高さがうかがえる。

 もちろんIS産業関係者や政府関係者などの要人も観客として見に来ているので警備の数も学園祭の時とは段違いに増えている。

 さらに今回は亡国機業の襲撃にも備えて一般参加のお客さんはもちろん競技者である俺達にも厳しい手荷物検査などが設けられている。

 さらに付け加えると学年の代表候補生に特命としてアリーナ内の警備が任されている。

 もちろん本職の警備員も多数配置されているが念には念をということらしく、学年によってエリア分けされておりそれぞれのゲートに配置されている。

 

「それにしても凄い歓声だな。地響きみたいだ」

「そうだな。上級生の先輩たちは今回の記録が進路に直結することもある。気合の入り方が違う」

 

 箒の言うようにIS学園が行う行事の記録などは全て公式記録として捉えられるので代表候補生や国家代表を狙っている生徒達からすれば自分の人生を決定づける要素だ。

 俺や箒みたいに代表候補生という枠組みに当てはまっていない組とは違って枠組みに入っている組の熱の入り方は比べ物にならない。

 

「あと一時間後か……今から緊張してきたな」

 

 今、俺と箒は西ゲートの警備を行いながらモニターに映し出されているのレースを見ている。

 現在行われているのは二年生組のレースの様子だ。

 キャノンボール・ファストはレース中の妨害攻撃も許されているからアクロバットな機動はもちろん派手な攻撃なんかも観客たちを悦ばせる。

 俺たち一年生の専用機持ち組は二年生のレースの後に行われる。

 

「このサラ・ウェルキンって人。イギリスの代表候補生なのか」

「そうですわ」

「セシリア」

 

 西ゲートにほど近い場所の巡回警備にあたっていたセシリアが合流する。

 

「専用機持ちではありませんが優秀な方ですの。わたくしも操縦技術を指南していただきましたわ」

 

 セシリアの指南できる時点でこの人の優秀さが分かる。

 モニターに映し出されている先輩たちの動きは俺たち一年生と比べることが出来ないくらいに洗練されており、このキャノンボール・ファストにかけている熱量が見て取れる。

 その姿を見てぜひとも戦ってみたいと思う。

 

「私も負けられませんわ」

 

 セシリアの表情も真剣そのものであり、手にも力が入る。

 代表候補生とは一年一年が勝負であり、結果を残せなければ地位の剥奪や専用機の剥奪もあり得るという話を聞いたことがある。

 俺みたいな何もない奴とは違って全ての行事が真剣勝負なんだ。

 

(……クラス別トーナメントの時みたいに中止なんて絶対にさせない)

 

 その時、ポケットに入れていたスマホが震えているのに気付き、取り出すと画面には楯無さんの名が表示されており、控室を出て電話に出る。

 

『一夏君。今、警備中よね』

「はい、そうですけど」

『周りに誰も居ない状況、作れる?』

 

 そう聞かれ、箒とセシリアに少しの間だけこの場所の警備を任せ、離れて人がいない状況を作り出す。

 

「大丈夫です」

『そう。なら正面ゲートまで来てくれる?』

「分かりました」

 

 通話状態のまま、正面ゲートへと向かって走り始めたその時、前方に見えた女性の後ろ姿に俺は思わず足を止めてしまう。

 俺はその後ろ姿に見覚えがあった。

 スーツを着たその姿はどこかのIS兵器開発企業の営業をしていそうな真面目そうな雰囲気を醸し出しており、身なりを整えていればかなり綺麗な女性だ。

 しかし、右腕には痛々しい火傷の跡が見えている。

 

「オータム!」

 

 俺は亡国機業の構成員の名前を叫ぶや否やその女性はこちらの方を振り返る。

 その両目が俺の姿を捉えるや否やニヤリと邪悪な笑みを浮かべるが顔に痛みが走ったのか頬を抑え、笑みから苦痛の表情へと変わる。

 

「よぅ……織斑一夏。お前に殴られた傷、まだ痛むぜ」

「何しに来た! なんでお前が会場に入れてるんだ!」

「一気に喋りかけんなよ……ここに私がいるってことは……分かるよなぁ?」

 

 ニチャァという不愉快な音が聞こえるかと錯覚するほどにオータムは邪悪な笑みを浮かべる。

 俺はその表情に嫌な予感を抱きながら相手に悟られないようにスマホを通話状態にしたまま胸ポケットに入れ、相手から情報を探ることにした。

 

「前みたいに俺が狙いか」

「お前が目的に設定されているのは変わらねえ……でも今回はメインはお前じゃねえよ」

「何が目的だ」

「正直に言うと思うか?」

 

 そうだろうと思い、戦闘も覚悟して手に力を入れるが―――

 

「30分もすれば観客が吹き飛ぶかもなぁ」

「っっ……お前、何考えてんだ」

「ただの独り言だバーカ……私をバカにするやつは大嫌いだし、気に食わねえんだよ……特に周りを見下して自分が優秀だと思い込んでるあいつはな」

「……」

「ま、精々守ってみせろよ」

 

 そう言いながらオータムは何もせずにそのままこの場から去っていく。

 追いかけて拘束することも考えたけどあいつが言っていることは真実だとすれば観客席のどこかに爆弾が仕掛けられていることになる。

 

「楯無さん」

『聞こえていたわ……どうやら亡国機業も一枚岩じゃないみたいね』

「どうしますか。楯無さんは次のレースに出るんじゃ」

『そうね。それに生徒会長としての仕事もあるから自由に動けるのは二年生の部が終わってからね』

「……それまでに俺が爆弾を探します」

『できる? この広大なアリーナの中から』

「……みんなはこの行事に全てをかけています。出来るか出来ないかじゃなくてやります」

『……そうね。少しの間、お願い』

 

 その一言を最後に通話が途切れる―――それと同時に後ろから物が落ちる音が聞こえ、慌てて振り返るとそこには呆然とした表情を浮かべたセシリアがいた。

 

「一夏さん……今の話は本当ですの?」

「セ、セシリア」

「この会場のどこかに爆弾が」

 

 この場を取り繕うことをしたとしてもセシリアが素直に騙されるわけもない。

 

「そうみたいだ……俺は今からそれを探す」

「でしたらわたくしも」

「ダメだ。セシリアは競技に参加するんだ」

「どうしてですの!? わたくしだってお役に」

「分かってる。でもこの日のためにセシリアは頑張ってきただろ」

「それは一夏さんだって同じですわ。競技までに爆弾を見つけられるのですか?」

 

 セシリアが言うように1年生の専用機部門が始まるまでに爆弾を探し出せるとは思っていない。

 確実に競技開始の時間には間に合わないので欠場になるだろう。

 

「一夏さんが重大な責務を果たそうとしている最中にのうのうと出ることなんてできませんわ!」

「セシリア!」

「っっ!」

 

 俺は声を荒げながら彼女の両手を取り、握りしめて彼女をまっすぐ見つめる。

 

「お前は代表候補生だ。一回一回の行事がこれからのセシリアの人生に影響を及ぼすかもしれないんだ。それに候補生として結果も出さないといけない……お前は国の期待を背負っているんだ」

「そ、それは……」

「俺はお前とは違って何もない……だからみんなを守りたいんだ」

「……一夏さん」

「それに俺のことなら大丈夫だ……なんせ今日は俺の誕生日だからな。この後、誕生日会も控えているのに主役が死亡判定を受ける訳ないだろ」

 

 そう言いながらセシリアの頭を優しく撫でてやる。

 セシリアは俺の手を取り、まるで祈りを捧げるように俺の手を包み込んで自分の額に押し当てる。

 

「必ず……必ずこのセシリア・オルコット。結果を出してみせますわ……ですから一夏さんも」

「あぁ。絶対にみんなを守ってみせる」

 

 セシリアは俺の手からゆっくりと離れると自分に与えられた持ち場へと戻る。

 俺も俺のやるべきことを成すために走り出し、階段を駆け上がって観客席へと入ると凄まじい歓声に押しつぶされそうになる。

 30分もすればこの歓声が悲鳴や叫び声になってしまうかもしれない。

 

「そんなことは絶対にさせない」

 

 アリーナの観客席数は優に一万を超えているから一つずつ虱潰しに探している時間はない。

 冷静に考えてみればアリーナの内部検査は前日にも行われているし、その時には不審なものは何も発見されていなかったはずだ。

 だから今日、キャノンボール・ファストが開催されている。

 その時、再びスマホが震えだし、画面を見ると虚さんからだった。

 

「もしもし!」

『織斑君ですか? 虚です。今、正面ゲートで捕えた構成員の尋問が終わりました。どうやら爆弾は設置型ではなく構成員が爆弾を所持しているそうです』

「……それって」

『自爆テロ。目的は分かりませんが亡国機業はテロを起こそうとしています』

 

 ISの強奪のために人の命すらも駒に変える連中のやり方に怒りが込み上げてくる。

 

『今回、構成員は警備の数が少ないゲートから侵入していました。しかし、手荷物検査がある以上、爆発物をそう安々と運び入れることは難しいはず』

「……学園の誰かが手引きした」

『そうでしょう。構成員の話では爆弾は全部で4つ。1つはこちらで解除済みですので残りは3つ』

「このだだっ広いアリーナから3つ……どうやって探せば」

『織斑君。観客の視線を見てください』

「視線……」

『爆発物は繊細な物です。キチンと作動しているかの確認を何度もしているはず……それに試合に視線が向いていないことが多い』

 

 アリーナに入場している人はキャノンボール・ファストを見に来ることがメインの目的のはずなのでその視線は必ず試合の方へと向けられる。

 でもメインの目的が試合の観覧じゃなくて殺戮が目的なら視線は試合には向かない。

 

「分かりました……やってみます」

『こちらでも監視カメラを使って調べます』

 

 その話を最後に通話が切れ、俺は観客席をゆっくりと回りながら観客たちの視線を注意深く観察していく。

 ISのズーム機能も活用しながら見ているとふと、しきりに自分の足元に視線をやっている人の姿が見え、る程度ズームを弱めて周囲と比較する。

 

(……あの人さっきから試合を見てない……)

 

 大歓声を上げる観客たちに悟られないように怪しい人物のもとへと近づいていくとその足元には紙袋が置かれており、視線はそこに注がれている。

 周囲の観客の手荷物はリュックサックやショルダーバッグとコンパクトなものが多いのにこの人だけ紙袋一つというのも怪しい。

 

「あの……少しだけよろしいですか」

 

 その人に声をかけるや否や肩を大きくビクつかせ、俺の方を目を見開いて見てくる。

 

「さっきから手荷物ばかり見ていますけど……そんなに気になりますか?」

「どけっ!」

 

 構成員らしき男性は俺を突き飛ばし、紙袋を持ったまま走り始めて出口へと向かう。

 逃がすものかと階段を駆け上がり、出口を蹴破る勢いで扉を開けたと同時に男の肩を掴むと紙袋が勢い良く俺の顔目がけて振るわれる。

 姿勢を低くし、紙袋を避けると同時に腹部に一発拳をめり込ませるとくぐもった呻き声が響き渡り、男は腹を抑えてその場に蹲る。

 

「やっぱり……爆弾」

 

 紙袋を確認すると中には小型の爆弾が入れられており、ご丁寧に起動スイッチらしい装置も入れられている。

 スマホで虚さんに連絡をするとすぐさま警備員が二名やってきたので警備員に構成員と爆弾を手渡す。

 

「よろしくお願いします」

「織斑さんもお気をつけて」

 

 警備員が男と爆弾を持って離れている際にスマホが再び震える。

 

「虚さん」

『織斑君。監視カメラで怪しい人物を見つけました。Eシートの7列目。黒いサングラスに赤い帽子をかぶっている女性です』

「すぐに行きます!」

 

 すぐさま虚さんの情報にあったEシートの7列目へと向かって駆け出す。

 試合は2年生組の最終レースとなっており、楯無さんも出場するということもあって注目度は高く、観客たちの熱気もすさまじいことになっている。

 

「い、いない」

 

 Eシートの全体を見渡せる場所へ到着したがサングラスに赤い帽子といういでたちの女性はどこにもおらず、それに似た人もいない。

 もしかしたら構成員の間で連絡を取り合って場所を変わったのかもしれない。

 

「虚さん出てくれよ」

 

 虚さんに連絡を取ろうとしたその時、一人の女性が急に立ち上がって紙袋に手を突っ込んだ―――ぱちりと俺と目が合い、一瞬の沈黙が流れる。

 次の瞬間、座席から離れ始め、試合の様子を確認するが楯無さんが参加している最終レースの真っ最中だ。

 

「あいつかっ!」

 

 女性に気付かれないように後を追いかけようとしたその時、突然女性が走り始めたので俺もその場から駆け出し、出口を出てアリーナ構内へと入る。

 

「待てっ!」

「待てと言われて待つやつはいないわよ!」

 

 長い廊下を走っていると進路を遮るように曲がり角から虚さんが現れる―――その手には不審者を制圧するためのさすまたが握られている。

 

「そいつが爆弾を持ってます!」

「そのようですね……逃がしません」

「くそっ……織斑一夏を巻きこめるのならこの命!」

 

 女性が紙袋から小型の装置を取り出し、スイッチを押そうとした瞬間、虚さんがさすまたを勢いよく投げつけると相手の手にあたり、その手から小型装置が落ちる。

 その場から駆け出し、廊下をスライディングする格好で滑りながら小型装置を回収すると同時に相手に足払いをかけ、体勢を崩す。

 

「はぁっ!」

「ごぉっ!?」

 

 相手が前のめりに崩れていく中、虚さんがその場から駆け出し、飛び膝蹴りを相手の顔面へと突き刺すとくぐもったうめき声と共に女性が廊下に倒れ伏した。

 飛び膝蹴りも凄いが相手の腕目がけて正確にさすまたを投擲するのも凄まじい。

 

(俺だったら相手の顔面めがけて投げてたな)

「どうやら構成員間で連絡を取り合っていたのでしょう……次々と捕まっていると」

「爆弾は残り一つ……急がないと!」

 

 構成員と爆弾を虚さんに任せ、俺は再び観客席へと戻ると2年生のレースが終了した直後なのか観客たちの興奮も少し落ち着いている。

 構成員同士で連絡を取り合っている以上、今すぐにでも爆弾を起動させてもおかしくない。

 周囲を見渡しながら走っていると再びスマホが震え、虚さんかと思い、画面も見ずに通話に出ると―――

 

「虚さん! 最後の」

『今お前はどこに居て何をしているんだ』

 

 電話の相手は千冬姉だった。




今日は出張からの直帰でビックリするくらいに話をかけました。
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