Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第八十二話

 フィールドに降り立ち、壁際に退避していたラウラとシャルのもとへと向かい、彼女たちに放たれるレーザーの一撃を雪羅のシールドモードで防ぐ。

 

「二人とも大丈夫か!?」

「一夏!? 今までどこに居たの!?」

「悪い! 色々あって……で、二人は」

「スラスターが完全に死んじゃったね。あの機体相手じゃ追いつけないよ」

「私も動けそうにないな……戦闘の続行は不可能だ」

 

 一撃で二人の装備を完全に破壊する威力も驚きだが的確にその個所に狙撃をあてる相手の実力の高さにも驚きを隠せないでいると上空で爆音が三度、発生する。

 顔をあげると鈴とセシリアが襲撃者と戦闘を始めていた。

 鈴もダメージを受けており、そう長くは戦えない―――でもシャルやラウラと比較してもまだマシだ。

 セシリアはダメージらしいダメージは見えないが高速機動パッケージを装備しているからビットによる攻撃は封印しているし、大型のBTライフルがあっても総合火力の低下は否めない。

 

「旦那様。セシリアのもとへ行ってくれ」

「ラウラ」

「あの機体はイギリスから強奪されたサイレント・ゼフィルスだ。それを取り返そうと躍起になっているが冷静さを欠いている以上、勝ち目はない」

「僕もそう思う。僕たちは大丈夫だから行ってあげて」

「……分かった」

 

 大型ウイングスラスターを使って一気に上空へと駆けあがり、サイレント・ゼフィルスのもとへと一気に距離を詰めていく。

 以前と同じようにサイレント・ゼフィルスの搭乗者を視界に収めると何とも言えない違和感と共に視界を外せなくなるが今は無視だ。

 

「鈴! 交代だ!」

「一夏!?」

 

 鈴とすれ違いざまにサイレント・ゼフィルスへと突撃し、雪片弐型を振りかざすが傘が開くようにシールドビットが目の前で展開され、剣の一撃を受け止める。

 同時にビットから火の粉が飛ぶのを感じ、その場から緊急離脱をした瞬間、ビットが大爆発を起こす。

 

「ほぅ……識別外個体(アウト・ナンバー)にしてはやるじゃないか」

「っっっ!」

 

 俺の耳に襲撃者の声が響いた瞬間、まるで全身に電流が迸るかのような衝撃が伝わり、俺の思考は完全に泊まり、体が動かなくなってしまう。

 何故だか分からない―――何故か分からないけど襲撃者の声を俺は知っている気がする。

 

「一夏! 危ない!」

「っっ!」

 

 箒の叫びと同時に彼女の抱き寄せられる形でその場から離脱した瞬間、四本の青いレーザーが元いた場所を通過し、フィールドにあたる直前に方向転換し、俺達へと向かってくる。

 

「はぁっ!」

 

 箒が刀型の武装―――空裂を振るうと同時に紅色のエネルギー刃が放たれ、青いレーザーと真正面からぶつかり合って爆発をあげる。

 

「一夏! 大丈夫か!」

「あ、あぁ……悪い」

「どうした? 動きが悪いぞ」

「……」

(あいつの声……俺は知っている気がする)

 

 セシリアとの撃ち合いを演じている襲撃者は亡国機業の構成員であり、そんなテロリストの知り合いなど俺にはいないはず。

 なのに俺はあいつの声を聞いた瞬間、”いつもの声だ”と感じてしまった。

 

(いつもの声ってなんだ……)

「一夏しっかりしろ!」

 

 箒に両肩を掴まれ、揺さぶられることでようやく意識が現実に帰ってくる。

 

「……箒。一発気合い入れてくれ!」

「よし! 任せろ!」

 

 そう言いながら箒は空裂を思いっきり振り上げ―――

 

「待て待て待て! 刀はヤバイ!」

「安心しろ! 峰打ちだ! たぁぁぁぁっ!」

「へぶぅん!」

 

 脳天から足のつま先まで凄まじい衝撃が三往復くらいしたことでようやく完全に意識が現実に戻り、目の前の襲撃者へと意識を向けることができた。

 ただ金輪際、刀の峰で気合闘魂は辞めてほしい。

 

「箒、鈴を頼む」

「任せろ!」

 

 スラスターを吹かし、襲撃者と戦闘を行っているセシリアのもとへと向かい、雪片弐型を勢い良く振るうが相手はすぐさまその場から離脱し、ビットからレーザーを放つ。

 

「一夏さん! この襲撃者はわたくしの手で!」

 

 セシリアは高速機動を維持したまま、何度も大型ライフルの引き金を引くが彼女のレーザーは容易く相手に回避され、逆に相手のレーザーをセシリアはギリギリのところで避けていく。

 

「その程度か? 偏向射撃程度も出来んとは一号機の名が泣くな」

「黙りなさい! 盗人風情が!」

 

 襲撃者のビットによるレーザーを回避し、一気に距離を詰めようとスラスターを吹かした瞬間、レーザーが軌道を変えてセシリアの背後目がけて迫ってくる。

 すぐさま俺はセシリアの背後に飛び込み、雪羅のシールドでレーザーを掻き消す。

 

「落ち着けってセシリア!」

「私は落ち着いていますわ!」

「落ち着いているのならこの程度、避けられるだろう」

 

 襲撃者のライフルと6基のビットによる一斉射撃が行われ、俺達は回避していくがまるで追尾性能でも持っているかのように俺達のことを追いかけてくる。

 4本のレーザーの隙間を縫うようにして回避した瞬間、再びレーザーの軌道が変わる―――しかし、レーザーはあらぬ方向へと進んでいく。

 レーザーはアリーナの内壁へと直撃し、大きな爆発をあげると衝撃によって大小いくつもの瓦礫がフィールドへと落ちていく。

 

「っっ! シャル! ラウラ!」

 

 瓦礫が迫るその場所にはシャルとラウラがいる―――今の二人の機体の損傷レベルじゃあの場所からすぐに動くことは出来ない。

 動けないラウラに覆いかぶさるようにしてシャルが盾となる。

 雪羅の荷電粒子砲じゃ威力が強すぎて二人を巻き込むし、Boost・Timeも発動までに間に合わない。

 かといって鈴も箒も距離的に間に合わない。

 唯一、この場で確実に二人を救えるのは―――

 

「セシリアー!」

 

 

 

――――――☆――――――

「絶対に取り戻してみせますわ!」

 

 強い決意の言葉とは裏腹に撃ち続けるレーザーはかすりもせず、仮面で顔全体を隠す相手には余裕の表情を浮かべているようにしか見えず、腹立たしかった。

 セシリアは何度も曲がれと念じるがその思いは届かない。

 

「猪突猛進とはこのことだな」

「なんですって!?」

「攻撃とはこうやるんだ!」

 

 上に向かってライフルと全てのビットからレーザーが放たれたかと思うとまるで花弁が開くかのようにレーザーの軌道が変わり、セシリア目がけて落ちてくる。

 スラスターを全て吹かし、高速機動に入りながら攻撃を回避していくが次々にフィールドで爆発が起き、いくつもの穴が開いていく。

 その時、襲撃者が動きを止める。

 

「な、何の真似ですの!?」

「撃ってみろ。貴様の攻撃など私には当たらない」

 

 ビットすらも収納した襲撃者の煽りにセシリアの沸点は一気に上昇し、襲撃者に照準を合わせて何のためらいもなく引き金を引く。

 襲撃者はピンク色のナイフを展開し、振りかざそうとした瞬間―――

 

「セシリア―!」

 

 自分の名を呼ぶ声が聞こえ、思わず振り返った先には多数の瓦礫、そしてその落下地点にシャルとラウラの二人がいるのが見えた。

 このまま瓦礫が落下すれば二人の機体のダメージレベルは一気に跳ね上がり、長期間の整備は免れないうえに二人の生身にも影響が出るかもしれない。

 

(シャルさん! ラウラさん!)

 

 その瞬間、彼女の中で雫が一つ、落ちる―――その瞬間、先程まで燃え上がっていた怒りの炎が一瞬にして静まり返っていく。

 

(私はイギリス代表候補生―――セシリア・オルコット)

 

 そしてもう一つ、雫が落ちると水面に波が伝わるかのように周囲の爆音などの騒音が静まり返っていき、全ての感覚が研ぎ澄まされていくようだった。

 

(イギリスの誇りを果たすのはもちろん……ですが!)

 

 鋭くなっていく感覚が脳裏に一つの未来を示す―――そしてセシリアはその未来へとまっすぐ手を伸ばす。

 光輝くその未来はあれ程遠く感じていたのに今ではもうすぐで手が届きそうな位置にある。

 

(友を守れず何がイギリス代表候補生か! 何がオルコット家の当主か!)

 

 セシリアは名一杯腕を伸ばし、そして―――つかみ取った。

 

「友を守れないわたくしなど無価値! ティアーズ!」

 

 愛機の名を叫びながら手を大きく横薙ぎにシャルとラウラの方へと振るった瞬間、その軌道に沿うように先程の一撃が軌道を変え、大きな弧を描きながら突き進んでいく。

 そして彼女たちに降り注ごうとしていた瓦礫の全てを押し飛ばした。

 

「掴みましたわ……BT兵器の真髄を」

「後ろだ! セシリア!」

 

 一夏の叫びに後ろを振り返った瞬間、襲撃者がライフルの先端に取り付けたナイフを向けて突撃してきていた。

 銃剣の一撃はすぐそこまで迫ってきており、何をどう足掻いてもセシリアがその一撃を回避することは不可能なのは明白だった。

 

「っっ!」

 

 迫りくる凶剣を前にセシリアはやがて来るであろう痛みに目を閉じる―――その直後、ドンッ! 左半身に強い衝撃が加わるとともに想い人の温もりを感じた。

 目を開くと庇うように一夏がそこに立っており、そして―――

 

「一夏さん!」

 

 突き刺さった個所から彼の真っ赤な血が流れており、フィールドに滴り落ちていく。

 銃剣が抜かれた瞬間、ゆっくりと背中から落ちていく一夏に手を伸ばすセシリアだがその手は彼に届くことはなくそのままフィールドへと落ちていく。

 

「ちょうどいい……そのまま死ね」

「―――ませんわ」

「?」

 

 先程までの静けさはどこへ消えたのかセシリアの全身から湧きたつほどの怒りという名の炎が吹き荒れ、ライフルを握る手に力が入る。

 

「許しませんわ! よくも! よくもわたくしの想い人を!」

 

 次の瞬間、彼女の怒りに呼応するかのように腰部に装備されていた4基のビットたちがパーツの破片をまき散らしながら射出されるとセシリアの周囲を回転し始める。

 セシリアが大出力BTライフル《ブルー・ピアス》を天高く振り上げた瞬間、4基のビットがライフルの銃身へと無理やり装着されるとそれぞれの銃口から青輝色の輝きが放たれ始める。

 

「ALL Bit Combine!」

 

 セシリアの視界にスコープが表示され、襲撃者を捉えるとともに警告を知らせるアラートがいくつも表示されるが熱く沸き立つ怒りのセシリアにそのメッセージは届かない。

 

「Blue Tear Singularity!」

 

 彼女が引き金を引いた瞬間、4基のビットから同時にレーザーが一極に集中するように放たれると同時にライフルから放たれたレーザーが集中し、極大のレーザーとなって襲撃者へ向かっていく。

 その威力はすさまじく大型ライフルとビットが発射の威力で粉々に吹き飛び、ISの機能では相殺しきれないほどの衝撃がセシリアの体も大きく後方へと吹き飛ばす。

 

「っっ!」

 

 予想外の一撃を放たれた襲撃者はシールドビットを最大稼働させ、大きくエネルギーの傘を開く―――しかし、その程度の網ではセシリアの一撃は止められず、一瞬にして飲み込まれ、消失する。

 襲撃者は即座にライフルを右方向へと放つと同時に瞬時加速を発動させ、発射の勢いも合わせた回避を取る。

 襲撃者が元いた個所を飲みこんでいった極大の一撃はアリーナの壁に着弾するや否や大きな爆発を上げ、観客席を護っていたバリアは愚か観客席もろとも吹き飛ばす。

 

「これが……ブルー・ティアーズの新たな力」

 

 4基のビットと大型ライフルは一目見ただけで使い物にならないと判断できるほど大きく破損しており、機体本体にもいくつもの亀裂が入っている。

 セシリアはゆっくりとフィールドへと降り立つとそれを待っていたかのようにブルー・ティアーズの装甲が光の粒子となって消失する。

 

「い、一夏さん」

「死ね」

 

 堕ちていった想い人のもとへと向かおうとしたその時、背後から冷たい声が聞こえた。

 振り返る余裕もないセシリアはただ迫る一撃を前に覚悟を決めるだけ。

 

「俺の仲間はやらせねえよ」

 

 先程の声とは対照的なあたたかな―――そして力強い声が聞こえると同時に金属音が木霊した。

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