Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第八十三話

「一夏ー!」

「一夏!」

 

 鈴と箒が堕ちていった一夏のもとへと駆け寄り、起こそうとしたその時、一夏が勢いよく起き上がるや否や上空へと飛び立とうとするので二人は慌てて引き留める。

 

「ちょっとあんた! その傷で戦えるわけないでしょ!」

「そうだぞ一夏! 安静にしておかないと出血がひどく―――」

 

 そこまで言ったところで箒の言葉が止まり、一点に視線が注がれ、鈴もそれにつられて同じ個所に視線をやると先程まで流れていたはずの血が止まっていた。

 先程確かに襲撃者の銃剣によって刺されたはず。

 

「血が……止まってる?」

「そんな……さっき確かに刺されたはずじゃ」

「箒……絢爛舞踏、頼めるか」

 

 本来ならあり得ない事象が起きているはずだというのに彼は非常に落ち着いている。

 何が起きたか頭の整理が追い付いていない箒と鈴。

 

「あ、あれはまだ自由発動が」

 

 その時、一夏の手が箒の手を優しく握りしめる。

 顔をあげた箒の視線の先にはいつもと同じ一夏の笑顔があり、その笑顔を見ると戦いの最中だというの胸が高鳴り、脳内のざわめきが落ち着いていく。

 

「大丈夫……箒なら」

「一夏……」

 

 銀の福音との戦いの最中に抱いていたあの時の想いを思い出すように箒は瞳を閉じ、彼の手のぬくもりを感じながら奥底に眠っているあの時の想いを引き上げていく。

 その思いが引き上げられていくように紅椿が黄金色の粒子を放ち始め、そして白式へと伝わると白式のエネルギーが瞬時に全回復する。

 

「よし、ありがとう……行ってくる」

 

 一夏がウイングスラスターを吹かせると同時に凄まじい爆音とともに青色の極大の輝きがアリーナを支配し、壁は愚か観客席もろとも吹き飛ばしていく。

 

「……ねえ、箒」

「分かっている……一夏は何がどうなろうと一夏だ」

 

 

――――――☆――――――

 

 セシリアに振りかざされた銃剣を雪片弐型の刀身で受け止め、軽く弾き返すと襲撃者は距離を大きくとる。

 

「えらく距離を取るんだな……亡国機業(ファントムタスク)

「……確かに貫いたはず……」

「一夏さん……」

 

 後ろからセシリアの声が聞こえ、俺は彼女の頭に手を置くとポンポンと優しく数回撫でると彼女は何も言わず俺の手を優しく握りしめてくれる。

 セシリアは偏向射撃を完成させただけじゃなくてあんな凄い一撃を目の前で見せてくれた。

 

「俺も負けられねえな」

 

 目の前の亡国機業の襲撃者に向けて雪片弐型の切っ先を向ける。

 

「俺の仲間は誰一人としてやらせねえよ」

識別外個体(アウト・ナンバー)ごときがほざくな!」

 

 6基のビットから俺めがけてレーザーが放たれる。

 俺は雪片弐型を握りしめ、全てのレーザーを零落白夜で叩き落すと瞬時加速を発動させ、一気に距離を詰めて強烈な牙突を繰り出すが相手のライフルに受け止められる。

 しかし、そのまま相手を押し込んでいき、ポッカリと空いた天井部分から外へと繰り出すとそのまま空高く雲を突き破る勢いで上昇する。

 

「舞台を変えようが結果は変わらんぞ」

 

 顔目がけてピンク色のナイフが振るわれ、その場から離脱すると襲撃者のもとへ6機のビットが集結し、まるで威嚇するように俺に銃口を向ける。

 相変わらず襲撃者の声は俺の耳の中で反響するが今はあいつは敵だ。

 俺の大切な仲間を傷つけようとする敵だ。

 

「ここでお前を殺そう!」

「今日の俺は主人公補正が効いているんだ……負けるかよ」

『Boost・Time』

 

 ビットから6本のレーザーが放たれた瞬間にBoost・Timeを発動させると腕部と脚部装甲にバイクのマフラーのような推進力発生機構が現れる。

 そして自然発火を起こすほどの勢いで加速が生み出され、一瞬にしてその場から消え去るほどの速度で6本のレーザーを避ける。

 あまりの速度の前に襲撃者は俺を見失ったのか偏向射撃で追いかけることはなかった。

 

「この速度はっ!?」

「行くぞ!」

 

 再び加速し、相手の胸部に拳を突き刺すと装甲の破片が飛び散るがビットからレーザーが放たれる。

 加速によってそれらを回避し、再び攻撃を仕掛けるが相手も同じことはさせまいと高速機動で縦横無尽に駆け回りながら1か所にとどまらない。

 

(だったら!)

 

 相手目がけて一気に直進する―――しかし、相手はそこからすぐさま離脱し、ライフルを俺へと向けてくるがすぐそばにあったビットを壁にして方向転換を行い、ライフルの銃口に蹴りを突き刺すと粉々に砕け散り、大きな爆発を挙げて襲撃者の手から消え去る。

 

「っっ!? ビットを足場に!?」

(こいつもう俺の速度が見えてる!?)

 

 その事に驚きながらも加速し、再びビットを壁にして方向を転換し、襲撃者の背中へ膝蹴りを突き刺し、直後にその場から離脱すると上空からレーザーが降り注ぐ。

 そして軌道を変え、高速移動する俺へと向かってくる。

 

「だったらもっと早く動くだけだ!」

 

 ギュギュオオンッ! と連続で加速が行われ、レーザーの追尾を振り切ると同時に相手の脇腹に回し蹴りを喰らわせると襲撃者の体が斜めに曲がり、装甲が砕け散る。

 

「がはぁっ!?」

「吹き飛べぇぇぇぇぇ!」

 

 脚部装甲の推進機構を全開に吹かしながら音速を超える勢いで蹴り抜くと無数の破片をまき散らしながら襲撃者が雲を引き裂きながら吹き飛んでいく。

 負けじと相手もビットを自分の傍に集結させ、銃口を向ける―――それと同時にBoost・Timeの終了を告げるように推進機構が粒子となって消え去る。

 

「その速度が無ければ貴様など取るに足らん!」

「速度だけが俺の武器じゃねえよ!」

 

 集結したすべてのビットからレーザーが放たれるが雪片弐型を手中に収めてレーザーへと突っ込んでいく。

 一本目を直進して零落白夜で切り裂き、雪羅のシールドで二本まとめて消し去り、残り三本と接触する瞬間に上段回避(アップ・シフト)で少しだけ上空に膨らみながら回避し、一気にスラスターを吹かす。

 

「っ!?」

 

 襲撃者は俺がここまでやるとは思ってもいなかったのか仮面の上からでも分かるほどに驚く。

 後ろから俺を追いかけるようにレーザーが軌道を曲げて向かってくることを察知するが俺はそれを無視してスラスターを吹かし続ける。

 

(セシリアにあんな凄いものを見せられたら俺達も黙っちゃいられないよな! 相棒(びゃくしき)!)

 

 俺の熱い思いに答えるかのように大型ウイングスラスターが赤炎をあげながら加速がさらに強化され、一気に体に圧がのしかかる。

 ウイングスラスターが赤炎のように輝く様子を見た襲撃者は進行方向上に全てのビットを集結させるや否や次々に自爆させ始める。

 その爆風が俺にのしかかった瞬間、白式からエネルギー残量が3割を切ったことを告げられ、感覚的に蒼炎状態に入れないことを悟った。

 エネルギーを全開にしてもBoost・Timeと蒼炎、そして零落白夜や雪羅は併用できないらしい。

 

(蒼炎に入れないならこのまま突っ込むだけだ!)

「うおぉぉぉぉぉっぉぉぉっっ!」

「っっ!?」

 

 蒼炎状態に入れなくなったことで止まると思っていたらしく、一向に止まる気配のない俺を見て襲撃者は一気に焦りの雰囲気を見せるが攻撃手段を失ったやつに防ぐ術はない。

 左手を強く握りしめた瞬間、強く輝き始め、エネルギーが集まっていく。

 

「俺の仲間は!」

「っっ――」

「俺が守る!」

 

 赤炎の輝きを放ちながら相手の仮面に拳を突き刺した瞬間、バキィッ! という破砕音と共に雪羅から荷電粒子砲が放たれ、相手を一瞬にして強い輝きが呑み込んだ。

 至近距離でもろに荷電粒子砲の一撃を喰らった襲撃者は全身の装甲を吹き飛ばしながら吹き飛んでいく。

 やがてPICの機能により、崩れた体勢が立て直されるがISの装甲はろくに機能しない程に粉々に吹き飛んでおり、顔を隠している仮面も無数の亀裂が入っている。

 

「ハァッ…ハァッ……この私がっ……識別外個体(アウト・ナンバー)ごときに後れを取るのか!?」

「だからさっきからその識別外個体(アウト・ナンバー)ってなんだよ! 俺は織斑一夏だ!」

「黙れ! 私の目の前でその名を」

 

 次の瞬間、襲撃者の仮面の一部分が崩れ落ち、相手の左目の部分だけが露わになる―――そしてその左目を見た直後に再び俺の全身に電流が迸る。

 理解しようとするが何かが理解を拒んでいる気がして理解が進まず、ひたすら俺の頭の中で目の前の光景が何度も繰り返し、再生される。

 口は動くが声となって音が発されず、言葉にならない。

 

「スコールッッ!」

『はいはい』

「っっ!」

 

 襲撃者がその名を叫んだ瞬間、女の声がオープン・チャネルを通して響くとともに突如として俺の周囲に大きな火球が6つ、現れたかと思えば俺めがけて向かってくる。

 上空へと飛翔し、火球を回避した瞬間、太陽を背にしたもう一人の襲撃者が現れ、二本の炎の鞭が左右から挟み込むようにして振るわれる。

 

「くそっ!」

 

 回避が間に合わないと悟った俺は雪片弐型を盾代わりにして炎の鞭を受け止めた瞬間、大きな爆発が発生し、俺の体を容易に吹き飛ばした。

 

「あら。直撃を狙ったのに。意外とやるものね、ブリュンヒルデの弟も」

「誰だ!」

 

 体勢を立て直し、顔をあげると前方には仮面の襲撃者を隠すようにして立ちはだかる金色のカラーリングを施されたISを纏う女性が立っていた。

 そのISの両肩からは二本の炎の鞭と第三の腕のように滞空している尾が伸びている。

 

「こっぴどくやられたじゃない、エム」

「黙れ……試作機でなければ識別外個体などに遅れは取らなかった……」

 

 仮面の襲撃者は崩れた仮面の一部を抑えながらも俺をはっきりとした殺意で睨み付ける。

 

「許さん……識別外個体の分際でこの私を倒そうとするなど! 殺してやる! 絶対に殺してやる!」

 

 手にナイフを握りしめ、装甲などほとんどない状態で俺に向かって来ようとしたところで仮面の襲撃者はもう一人によって止められ、抱えられる。

 

「何をする! 離せ! 私はこいつを!」

「はいはい。暴れないの」

「ぅっ」

 

 スコールと呼ばれた金髪の女性はいつの間に呼び出したのか小さな注射器を仮面の襲撃者の首筋に突き刺すと何かの薬品を注入する。

 するとあれほど暴れていた仮面の襲撃者が落ち着いていき、やがては動かなくなってしまった。

 

「ふぅ。じゃじゃ馬の相手は疲れるわ……お初にお目にかかるわね……私は亡国機業の実働部隊を率いるスコール・ミューゼル。いずれあなたの命と白式を頂く者よ」

「俺の命を貰いたかったら千冬姉に言ってくれよ……言ったとしてもやらねえけど」

「それは難しいわね……だから力づくで奪うわ」

 

 スコール・ミューゼルと名乗った女性は周囲に火球を生みだしたので雪片弐型を構えるが正直に言えばエネルギー残量は1割しかなく、刺された部分も白騎士の力で治っているとはいえ痛みは残っている。

 

「さようなら」

 

 スコールが軽く指を振るった瞬間、多数の火球が俺めがけて放たれる―――が、それと同時に薄い水のヴェールが俺を覆うように展開され、火球を受け止める。

 その直後にヴェールが勢いよく払われ、火球は上空へと軌道を変えられると空高い位置で大爆発を挙げた。

 

「ギリギリセーフね」

「た、楯無さん!」

「あら、更識楯無」

「悪いけど彼はやらないわ」

「それは生徒会長として? それとも裏に関わる更識としてかしら」

「どっちもよ」

 

 楯無さんがランスを手中に収めると同時に四連装ガトリングが火を噴き、スコールに襲い掛かる―――しかし、スコールを炎の鞭が高速回転しながら包み込むと炎の膜を形成し、全ての弾丸を燃やし尽くした。

 

「残念だけど貴方のISでは私を突破できない」

「逆もまた然りじゃない?」

「……それもそうね」

 

 スコールは周囲を見渡し、小さくため息をつくと炎の鞭を降ろす。

 

「ここは大人しく退きましょう」

「大人しく退かせるとでも?」

「市街地でドンパチやる器量が貴方にはあるかしら」

 

 楯無さんが雲を切り裂きながらランスを横薙ぎに大きく振るった瞬間、螺旋状に水流が発生し、上空へと集まっていくと一つの巨大な球体となる。

 

「織斑一夏」

「っっ」

「貴方はエムと出会ってしまった……貴方に耐えられるかしら? これから始まる地獄に」

清き熱情(クリア・パッション)

 

 直後、球体が爆ぜる―――同時に炎の鞭が交差するようにして振るわれると巨大な火球が放たれ、何かとぶつかり合うと巨大な爆発と共に水蒸気をあげる。

 辺りが水蒸気に包まれている中、ISのスラスターが吹く音が聞こえる。

 

「……逃げたわね。一夏君、大丈夫?」

「……はい」

 

 仮面の襲撃者の正体もそうだけどスコールが言った最後の言葉が嫌に俺の頭の中で反響し続けていた。

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