Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第八十四話

 どことも知れないどこかにある部屋で金髪の女性―――スコール・ミューゼルは赤いカップに紅茶を注ぎ、まずは香りを楽しもうとしていた矢先、一人の女性が恥ずかしそうにしながら彼女の傍へやってくる。

 

「ど、どうだ……スコール」

 

 そのドレスはスコールの赤いスーツと対象になるように濃い青色をしており、開かれた胸元には美しい輝きを放つネックレスがあった。

 スコールは言葉なく笑みを浮かべながら頷くと青いドレスを着た女性―――オータムは満面の笑みを浮かべながらスコールと対面するように座る。

 

「今日この日のために仕立ててきたんだ……ただこんな腕じゃ台無しだよな」

 

 落ちる視線の先にあるのは痛々しい火傷の跡が残る右腕。

 しかし、スコールは何も言わないままオータムの手を取ると愛おしそうに頬ずりをし、そしてじっくりと味わうかのように口づけをする。

 

「お、おいスコール」

「台無しなんかじゃないわ……どんな姿になっても貴方は貴方よ」

「っぅ、スコール」

 

 嬉しさのあまり感極まっているのかオータムは両目に溢れんばかりの涙をためており、迎え入れるかのように両手を伸ばしているスコールのもとへと歩んでいく。

 二人の手が触れあおうとしたその瞬間、幸せな空間を引き裂くかのように凄まじい雄叫びと共にありとあらゆるものが壊される音が響き渡る。

 

「あぁぁぁぁっ! うぁぁぁぁぁっ! あり得ないあり得ないあり得ないあり得ない!」

 

 オータムは汚物でも見るかのような目で壁を凝視し、その奥にいるであろう暴れ回っている少女の方をギっと睨み付ける。

 その少女は先程まで薬品によって眠らされていたがその効果が切れ、目を覚ました矢先のことだった。

 

「ちょっと黙らせてくる」

「好きにさせておきなさい」

「スコール…お前はエムに甘いぞ」

「そんんことないわ……反抗期は誰にでもあるもの」

「あぁぁぁぁぁっ! あぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 殺す殺す殺す! 絶対に殺す! この世界から塵一つ残らないレベルで貴様を殺してやる! あぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 直後、窓ガラスが粉々に砕け散る音が聞こえ、オータムがスコールの顔を見るが放っておけと言わんばかりにスコールは首を左右に振り、紅茶を啜る。

 

「今までゴミ以下としかみていなかった者にこっぴどくやられたんだもの。暴れたくもなるわ」

「でもあいつ、織斑一夏のところに行ったぞ」

「構わないわ……織斑一夏がエムと遭遇することで少なからず精神に影響が出る筈」

「その隙を狙うんだな!」

「それもあるけど……彼を狩る狩人は私達だけじゃないってことよ」

 

 

――――――☆――――――

 

「今回の一件で亡国機業側が保持しているISは3機だと判明しました。しかし、実質2機です。イギリスから強奪した第3世代型ISのサイレント・ゼフィルスに関しては織斑一夏君によって大破。当面は動かせないでしょう」

「……」

「そしてもう一つ……学園内部にいる内通者について」

 

 窓の外は夜の帳が降りており、更識楯無とその報告を受けている織斑千冬がいるIS学園生徒会室は薄暗い。

 そして千冬の表情はその薄暗さ以上に暗く、そして重い。

 30分ほど前から始まった今回の件に関しての報告会だが千冬からの質問はおろか声一つ上がらず、楯無はそれでもなお淡々と報告書を読み続けている。

 しかし、その周囲に控えている布仏姉妹の額には冷や汗が流れ落ちる。

 

「今回、キャノンボール・ファスト実施にあたっての改善点は二つ。一つは紙媒体によるチケットをすべて廃止し、電子チケットに統合しました。この電子チケットは分散型台帳に記録され、発行時点で固有の識別コードが付与される仕組みとなっており、発行日・時刻・発行者を分散型台帳に記録するようにしました」

「……」

「そしてもう一つ。生徒会からの特命として選抜生徒にアリーナ内の警備担当を割り当てました。今回西ゲートとその周辺の警備を1年生の専用機持ちに。2年生の専用機持ちと代表候補生数名を東ゲート。そして3年生の専用機持ちと代表候補生に正面ゲート―――」

 

 突然、響いた冷たい音に楯無は思わず口をつぐむ。

 楯無が口をつぐんだ原因―――それは千冬がもう良いと言わんばかりに冷たく、報告書を机に投げ捨てたことだった。

 

「そんなものは報告書を読めばわかる。私が事前に通達した報告をしろ」

「……」

「見る限り報告書には記載されていないし、マル秘の別紙も無い。まさか、事前通達した内容を忘れていたとは言わないだろうな?」

「彼はしっかりと生徒会の一員として亡国機業の爆破テロを―――」

 

 その瞬間、机を飛び越えた千冬が鉛筆を握りしめて楯無へと迫り、楯無の手が動き出すよりも前に鉛筆の先端を頸動脈付近に触れさせる。

 

「私はお願いしているんじゃない……報告しろと命令しているんだ。そんな褒めたたえてお茶を濁すような下らない小細工はいらん……それしかいうことがないというのであれば……抉るぞ」

 

 突然の襲撃にようやく動き出そうとする姉妹を楯無は手で制止する。

 

「こ、今回織斑一夏君と“あれ”との遭遇度合いは軽度と思われます」

「更識……私がお前に依頼したことはなんだ。言え」

「お、織斑一夏と“真実”の接触の絶対回避」

「そうだ。一夏に“真実”を知られるわけにはいかない。分かるな?」

「ぞ、存じています」

「私は“真実”をあいつから離せるのであればこの身を……いや、この命まで捧げる覚悟だ。あいつは幸せにならなければいけない……“真実”を知らずにだ」

 

 至近距離から世界最強と謡われる人物の殺気をまともに受ける楯無は首元にあてられている凶器も相まって顔色は薄く、額からは汗が流れ落ちる。

 今まで刃物で脅されることはあっても鉛筆で命を刈り取られる寸前に至るのは初めて。

 

「軽度であろうが重度であろうが一夏が“あれ”と接触する事態だけは何としても避けなければならない……一夏の生徒会入りを許可したのはお前が傍にいるからだ……だがそれは失敗だったと言わざるを得んな」

「お、お言葉ですがどれだけこちらが―――」

「誰がお前に意見を求めた」

「っっ!」

「良いか? 普段、お前が何を考えて一夏に接触し、何を吹き込もうが構わん……だが“真実”にだけは絶対に触れさせるな。そして今後一切、一夏に裏の仕事をさせるな……この後、私からも一夏には厳しくお灸を据えておく。これからもよろしく頼むぞ……更識楯無」

 

 千冬はそう言うと鉛筆を楯無の首元から離し、彼女の頬を二度三度軽く叩くとえんぴつを机に放り投げ、生徒会室を後にした。

 至近距離にあった殺意が消え去り、解放された楯無は力なく床に崩れ落ちると虚が慌てて傍に駆け寄る。

 

「お嬢様!」

「大丈夫よ……織斑先生との契約を履行しきれなかったこちらに非があるわ」

「ですが!」

「流石に世界最強の殺気は凄まじいわね……でも収穫はあったわ。内通者がどの学年なのかが……突破されたのは正面ゲート。時間帯は恐らく警備担当者の交替の隙、それも時間ピッタリにね」

「……では内通者は」

「3年生にいる」

 

 虚は自分が所属している学年に内通者がいると知り、生唾を飲みこむ。

 

「それよりも一夏君の警護は?」

「継続中です。現在、彼の自宅にて誕生日パーティーが実施されています。近辺に怪しい人物は見受けられないとの報告がありました」

「そう……それと簪ちゃんはどう?」

 

 楯無の問いに虚は後ろで待機していた本音の方を向くが本音は首を左右に振る。

 

「……ほんと、生徒会長の仕事って胃に穴が開いちゃいそうだわ」

「良いお薬、探しましょう」

「勘弁してよ」

 

 楯無はふっと小さく笑みを浮かべた。

 

 

 

――――――☆――――――

 薄暗い部屋の中で青い髪を持ち、眼鏡をかけた少女がISのスペックデータを睨みながらキーボード上に指を走らせていく。

 彼女のデスクのすぐ近くにはタブレット端末が設置されており、そこには今日開催されたキャノンボール・ファストの様子が再生されている。

 

「……いつになったらできるの……いつになったら私は……専用機持ちとして活動できるの?」

 

 本当であれば彼女も専用機持ちの一人としてキャノンボール・ファストに参加するはずだったが専用機の無い彼女は欠席した。

 周りから自分がどのように言われているかは嫌でも耳に入ってくる―――だから一刻も早く専用機を完成させる必要があるが彼女の専用機は未だに完成のめどが立っていない。

 

「出来る……お姉ちゃんに出来て私に出来ないことはない……」

 

 自分を励ますようにそう呟きながらエンターキーを強く押すと何かの処理が実行されていき、順調に結果が表示されていくが途中でエラーを吐き始め、やがては停止してしまった。

 少女は手を震わせながら強く握りしめ、デスクに置いてあったタブレット端末を振り払い、床に叩き落す。

 

「どうして……どうしてっ」

 

 少女は涙を流しながら椅子の上で膝を抱きかかえ、蹲る。

 

「……あの人がいなかったら……完成していたはずなのに」

 

 うっすらとだが彼女の瞳に憎しみの炎が燃え上がった。

 

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