Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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今日は12時にもう一話、連続で更新します。


第八十五話

「「「「「お誕生日おめでとう!」」」」」

 

 一斉にクラッカーの音が鳴り響き、俺の頭に紙吹雪が舞う。

 クラッカーの音を合図として始まった俺の16歳を祝う誕生日会は俺の家で始まったんだが今、この家に凄まじいほどの戦力が集まっているとは外の人は思いもしないだろう。

 

「それにしてもセシリア、偏向射撃できるようになったのね」

「ええ、ようやく……これで祖国のIS技術も発展することですわ」

「それに加えてあの強大な一撃……あれをまともに受けるのは避けたい一撃だったぞ」

 

 ラウラの言葉にシャルも箒もうんうんとうなづく。

 あの一撃は俺が初めて蒼炎瞬時加速を発動させたときの一撃と同等の威力だったのは間違いない。

 

「僕も負けてられないな」

「これも皆さんの支えがあったからですわ」

「ていうかブルー・ティアーズはどうなのよ」

「一週間の整備になりましたわ」

 

 今、セシリアの耳にブルー・ティアーズの待機形態はない。

 話を聞けばもともとISに搭載されていない機能を無理やり使ったこと、そして設定されていない威力の放出をしたことで多大な機体ダメージが発生したらしい。

 

「ですが管理官からは泣いて褒められましたわ」

「そうなるよね。BT兵器にとって偏向射撃は一つの到達点」

「それを基本機能として組み込むことができれば誰でも新たな選択肢として組み込めるわけだし」

「それに一夏の蒼炎瞬時加速のような必殺技も生まれたとなれば……」

 

 箒やシャル、鈴の表情が一気に張りつめ、一人のライバルを見る目へと変わる。

 

「しかし旦那様。何故、キャノンボール・ファストを辞退したのだ」

「それよ! その話聞かせなさいよ! しかも途中で帰ってくるし」

「あ、いや~……それは」

 

 楯無さんからは俺が爆弾探しに奔走していたことは喋らないようにと言われているので俺の口からは言えないし、唯一知っているセシリアも目を逸らしている。

 

「ま、まあ皆さん! 今は誕生日会ですし楽しいことをしましょう! 一夏さん!」

 

 そう言いながら俺の目の前に何やら大きな箱が置かれ、開けてみろと言わんばかりに目で催促されるので包みを開けて中を見るとツールボックスが入っている。

 それを取り出して中を開けてみると見るからに高級感漂う調理器具の数々が収められていた。

 

「こ、これはっ!」

「はい! わたくしの実家でも使っている最高級の調理器具ですわ! この日のために職人に特注しましたの! ぜひ使ってくださいまし」

「すげえ! どんな料理でも作れそうな気がする」

「やるじゃない、セシリア……次はあたしよ!」

 

 鈴から手渡されたのは縦長の小さな箱。

 それを丁寧に開けてみるとその中にはロケットペンダントが入っており、開いてみるとそこには夏休みの時に撮影したみんなとの写真が収められていた。

 

「これでいつでもあたしたちと一緒ってわけよ!」

「良いなこれ! ありがとう!」

 

 ちなみに俺のスマホの待ち受けもこの写真を使っているが戦いの際でもみんなを思い出せて心の支えにもなりそうだ。

 

「では次は私だ。旦那様……う、受け取ってくれ」

 

 恥ずかしそうにしながらラウラが俺に手渡してくれたのは刃渡り20cmを超えるブラックメタルな外観のナイフで明らかに軍用だ。

 一緒に渡された鞘も受け取るとラウラの顔はさらに赤くなる。

 

「どうしたラウラ? 顔真っ赤だぞ」

「そ、それは私とおそろいのナイフだ! こ、これで夫婦一心同体だ!」

「ありがと。でも振り回すのはやめような、怖いから」

「最近の旦那様の周辺は物騒だからな。特にあの蒼い女狐は鼻持ちならん」

 

 どうもラウラは楯無さんとは相性が悪いらしく、俺が楯無さんと喋っていると俺に後ろから抱き付きながらジトーッと睨み付けたりすることもある。

 更識家という特別な家の匂いをラウラはかぎ取っているんだろう。

 

「よし、では次は私だ」

「そこそこ大きいな」

 

 箒から渡されたのは大き目の袋であり、中には包み紙も見える。

 ゆっくりと包み紙を取り出して広げてみるとなんとそこには深い藍色の布で作られた着物が入れられており、その色は蒼炎状態のときに似ている。

 

「手触りも凄く良い……こんないい布どこで」

「実家に使っていない布があってな……わ、私の着物と色違いだ」

「そっか。ありがと! 寮の部屋で着るよ」

「うむ! 一夏には日本男児の格好良さを体現して欲しい……そのままでも格好いいが」

「なんか言ったか?」

「な、なんでもない! つ、次はシャルロットではないのか!?」

 

 顔を真っ赤にしながら隣のシャルロットにバトンを渡すとシャルロットは小さく笑いながら俺の横に座ると俺の手元に黒いケースを置いた。

 

「これは?」

「開けてみて」

 

 高級感漂う黒いケースを開けるとそこには俺の愛機である白式と同じ白を基調とした腕時計が入っており、自国を示す数字は映えるように赤色が使用されている。

 言うまでもなく赤炎状態の白式だな。

 

「す、すげぇ……こんないい時計貰って良いのか?」

「もちろん。ブレスレットも買ってもらったしそのお礼も込めて。つけてみて」

 

 シャルロットに促されるままに時計を付けてみると白式の待機形態である白いガントレットと喧嘩することのないいい塩梅の輝きを放ってくれる。

 

「みんな……本当にありがとう! 皆から貰ったプレゼント、ずっと使い続けようと思う」

 

 午前中は色々と慌ただしい日だったけどこうやってまたみんなと集まることが出来て楽しい誕生日会も開くことが出来て本当に良かったと思う。

 本当はここに蘭も呼びたかったけどあの一件の後だったので精神的にも疲れたのか後日、時間を取ることになった。

 

(蘭にも謝りたいし……弾にも謝らねえとな)

「一夏、怖い顔してるよ」

「え、あ……悪い。今日は楽しもう!」

 

 リビングに明るくグラスがぶつかる音が響いた。

 

 

――――――☆――――――

 

「ふぅ……良い風だ~」

 

 誕生日会はみんなが寝落ちをするという結末で幕を閉じ、俺は今夜風にあたるために散歩しながら近くの自動販売機まで歩いていた。

 千冬姉からは泊りはなしと言われていたけど楽しい時間はあっという間に過ぎるものでみんな、疲れ果てていたこともあり、全員が寝てしまった。

 今日は千冬姉も亡国機業が起こした一件の後始末もあるし、帰ってこないだろう。

 

「……多分、怒られるよな」

 

 一応、外出許可願いにはみんなはホテルを利用するって記載したあるから校則違反にはならないと思うけど千冬姉には見抜かれているんだろうな。

 

「……たっぷり怒られよう」

「―――!」

「ん?」

 

 その時、向こうのほうで人の呻き声のような音が聞こえ、そちらの方を注視する。

 すると闇夜を切り裂くように漆黒の衣装に身を包み、仮面で顔を隠している一人の女性がコツコツと足音を立てながらこちらへと近づいてくる。

 

「お、お前はっ」

 

 その仮面には見覚えがあった―――今日、キャノンボール・ファストを襲撃した亡国機業の構成員だ。

 その女性の足元には倒れ伏し、動かなくなっているスーツ姿の男性がいる。

 

「数時間ぶりだな……識別外個体(アウト・ナンバー)

 

 俺のことを聞いたこともない名称で呼ぶその女の声は相変わらず俺の感覚を狂わせる。

 何故か女の声を俺は素直に受け入れ、どこか安心する錯覚を与える。

 

「だからその識別外個体ってなんなんだよ。俺は織斑一夏だ」

「何を言っている。私が織斑一夏だ」

「……お前、何を言って」

「私こそが本来の織斑一夏であり、織斑千冬の妹となる存在だ」

 

 時々、変な妄想に走って俺に絡んでくるおかしな女はいたのでその部類かとも思ったが俺の中に巣くう妙な感覚がそれを否定する。

 

「私はお前だがお前は私ではない。お前は元来、存在しない存在だ」

「……お前……なんなんだ」

「姉さんからは何も知らされていないのだろう……自分が何者なのかも……そして織斑のことも一夏という名のことも何も」

 

 亡国機業の女はそう言いながらゆっくりと仮面を外していく―――そして目の前の女の顔が露わに―――

 

「そこまでよ」

「っと」

 

 目の前の女性が仮面を外し切るその時、どこからともなく楯無さんの声が聞こえると同時に蛇腹剣がコンクリートの地面を叩き切る。

 寸でのところで回避した仮面の女性は小さく舌打ちをしながら闇夜へと消えていった。

 慌てて飛んできたのか楯無さんの呼吸はかなり乱れている。

 

「た、楯無さん」

「あら、一夏君……危なかったわね。まさか亡国機業が襲ってくるなんて」

「ま、まあ……」

 

 どこか取り繕ったような違和感のある会話を続ける気にもならず、俺は闇夜へと消えていった女の言葉をもう一度思い出す。

 あいつは織斑も一夏もただの苗字や名前なはずの二文字を丁寧に発音していた。

 それがまるで大切で特別な物であるかのように。

 

「誕生日会は無事に終わったみたいね」

「は、はい……今みんな疲れ果てて寝てます」

「あら。無断外泊? いけないのに」

 

 楯無さんはいつもの笑顔を崩さないまま会話を続けてくるがその笑顔はあまりにも張り付けられた笑顔すぎて俺は不快感を感じるほど。

 

「お姉さんも誕生日会に参上したかったんだけどね……色々と仕事が」

「楯無さん」

「ん? どうしたの?」

「何を隠しているんですか?」

 

 ほんの一瞬だけ楯無さんの表情が強張る―――それは真っ暗なこの時間帯では見逃してしまうほどに小さく、一瞬のことだったけど今の俺にはハッキリと見て取れた。

 この人は俺から何かを隠そうとしていて離そうとしている。

 

「何も隠していないわ。どうしてそう思うの?」

「……いつもと違う何かを感じたからです」

「そう……今は非常事態だからいつもの感じを出しちゃってるだけよ」

「本当にそれだけですか?」

「それだけよ」

 

 楯無さんは俺の顔をじっと見つめてくる。

 彼女の瞳はまっすぐ曇りなく透き通っているが俺にはそれがまがい物にしか見えなかった。

 

「じゃあどうして楯無さんはここに」

「貴方に伝えることがあったからよ」

「俺に?」

「一夏君……今日からあなたにうちの警護を付けるわ」

「……俺に?」

「そう。学園では私や本音ちゃん、虚ちゃんが警護する。外では更識の警護を付けることにしたの」

 

 それは今さっきのようなプライベートな時を狙った襲撃から命を守るための措置なんだろうが急な措置の決定に正直、戸惑いを隠せない。

 

「急……ですね」

「ええ。亡国機業の活動も活発化してきている今の状況を鑑みての決定よ」

 

 そうなるとこれまでのようにおいそれと外に出ることは出来なくなるだろうし、外出許可願いも条件付きでの許可か、すべて却下されるかのどちらかになるだろう。

 その決定にチラチラと千冬姉の顔が見えるのは気のせいじゃないだろう。

 

「俺も一つだけ良いですか?」

「ええ、良いわよ」

「楯無さんは何を知っているんですか」

 

 俺の質問に楯無さんの口からは言葉が消え、俺達の間に沈黙が流れる。

 俺が知らないことを楯無さんは知っている気がする―――たとえば今さっきの亡国機業の女のことや識別外個体という単語のことも。

 

「私は何も知らないわ」

「それは生徒会長としてですか? それとも」

 

 そこまで言いかけた時に不意に楯無さんの指が俺の唇に当てられる―――そしてお互いの呼気が肌に触れるほどの至近距離まで楯無さんの顔がすぐ近くまで寄ってくる。

 楯無さんほどの綺麗な人にここまで近づかれてときめかない男はいないだろう。

 普段の俺も例外じゃないと思う―――普段の俺なら。

 

「それ以上はめっ、よ。一夏君」

「……分かりました」

「お姉さんは正直な子は好きよ」

 

 楯無さんは笑みを浮かべながら俺の頭を優しく撫でると俺から離れ、闇夜へと消えていった。

 

 

――――――☆――――――

「……ふぅ」

 

 寸でのところで接触を断ち切ることが出来た楯無は少し離れたところで壁にもたれ掛り、大きく息を吐く。

 警備の者から連絡を受けた時は正直、生きた心地がしなかった。

 

「本当に……何も知らないことが幸せなのかしら」

 

 一家族のことに首を突っ込む気はサラサラないが織斑一夏の真実を知る一人として彼を見ているとそう思わざるを得ないのが楯無の正直な感想だった。

 確かに知らずに幸せになれることに越したことはないがそれは果たして本当の幸せなのだろうか。

 

「ダメダメ……深入りは禁物」

 

 その時、楯無のスマホがブルブルと震えだす。

 

「もしもし? 虚ちゃん?」

『簪様のことでご報告が』

「……すぐ戻るわ」

 

 通話を切ると楯無はため息をつきながら夜空を見上げる。

 

「……簪ちゃんも一夏君なら……」

 

 そんな考えを振り払うように楯無は首を左右に軽く振り、闇夜を駆けていった。

 

――――――☆――――――

 何とも言えない感覚のまま家へと戻ってくるとセシリアが一人、庭に出て夜空を見上げていた。

 

「あら、一夏さん」

「おう、セシリアも起きちゃったのか?」

「はい……」

「……」

 

 俺たちの間に妙な空気が流れ、沈黙が生まれてしまう。

 セシリアがどういう理由かはわからないが俺にははっきりとした理由がある。

 サイレント・ゼフィルスとに刺されたあの時、フィールドに落ちながら確かに聞こえたセシリアの想い人という言葉が沈黙を生んでいた。

 馬鹿な俺でもその言葉の意味がどのようなものなのかなんて理解している。

 

「な、なあセシリア」

「どうかしましたか?」

「そのさ……サイレント・ゼフィルスとの戦いのときにさ……言ってた……その……」

「…ふふっ……聞こえていましたの?」

 

 悪戯がばれた幼い子供のような笑顔を浮かべたセシリアのその表情は月明かりに照らされていて妙に艶めかしいというか大人っぽく感じる。

 

「ま、まあな……あれは」

 

 セシリアのほうを改めて向いたその時、彼女が俺の胸に飛び込んでくる。

 そしてゆっくりと顔を上げ、俺の顔をじっと見つめてくる。

 その顔は本当に美しく、目が離せない。

 

「一夏さん……大好きですわ」

「……」

「最初は気に食わない殿方……でもあなたと過ごしていくたびに想いが強く、深くなっていきましたの。今ではあなたとの日々がなくては生きていけないと思うほどです」

「セ、セシリア……俺は」

「今、返事を返してほしいとは言いませんわ。わたくしが一番ではなくても……二番でも三番でもわたくしはあなたを愛したいと思っておりますの」

 

 そういいながら徐々にセシリアの顔が近づいてきて動けないでいる俺の頬に柔らかい感触と一瞬の温もりが現れ、一気に俺の感覚をすべて支配した。

 

「ですが……IS学園を卒業するまでにはお返事をいただきたいですわ」

「……わ、分かった」

「はい! 一夏さん」

 

 この日、俺の中で二つのことが動き始めた。

 一つは俺という存在に対する疑念。

 そしてもう一つは―――俺の意識。

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