(……先、越されちゃったじゃない)
ふと、目を覚ました時に鈴の耳に入ってきた会話の内容は彼女にとっても危機感を抱くものだった。
今まで誰も踏み出すことなくこの関係性をどこか楽しんでた状況をセシリアが打破するとは夢にも思っていなかった。
セシリアが踏み出した一歩は確かに今の関係性を大きく変える。
しかし、彼にこの想いを抱いたその時からそれは予見していたこと。
(あたしも……うかうかしていられない……でも慌てちゃダメ……あたしには先にやることがある)
それはトラウマを一刻も早く打破すること。
1学期のクラス対抗トーナメント以来、黒いISにトラウマを抱いている鈴はいまだ、そのトラウマを振り切ることができておらず、体が止まってしまう。
そんな状態で―――代表候補生として体をなしていない状態で一夏に想いを伝えたところで何の進歩もない。
(待ってなさい一夏……成長した鳳鈴音をみせてやるんだから!)
――――――☆――――――
(セシリアが一番か~……すごいな)
幸か不幸か、セシリアの告白を聞いてしまったシャルロットは素直に友人に対して賞賛の言葉を心の中で送っていた。
今まであえて触れないようにしていた部分をセシリアは恐れず、思い切って突き進んでいった。
自分の想いにふたをしなかった。
(僕も……僕も想いを伝えたい……大好きな僕のヒーローに)
今まで陰で暮らし、陰で生きることが運命づけられていた自分に太陽の光を浴びさせてくれた上に女性としての幸せをも体感させてくれた一夏はまさに彼女にとってのヒーロー。
セシリアがいうように思いが成就するのは一人―――今後、どのような状況になるかはわからないが常識的に考えればただ一人。
(それでも……それでも僕は進むよ……待っててね、一夏)
――――――☆――――――
(……強き男に女が集まるのは当然のこと……しかし、これはこれで複雑な思いだな)
セシリアの話を聞いてしまったラウラは目を閉じながら悶々と考えを巡らせる。
普段は旦那様と言ってみんなの前でくっついてはいるがラウラの口から思いをしっかりと伝えてはいないし、本気で婚姻関係を結んだとは思っていない。
(旦那様には沢山の物を貰った……今、一番欲しいのは……)
愛―――誰にも愛されずに生まれ、兵器として鉄の子宮で生まれたラウラにとってその未知の感情が今もっとも欲しているものだった。
ラウラ自身、一夏に愛を抱いているのは間違いない。
しかし、一夏は自分に愛を抱いているのだろうか。
(旦那様……いや、一夏。私はお前を愛している……もう一度、お前にこの想いを伝えよう……一夏、私はお前が大好きだ)
――――――☆――――――
(……幼馴染だからとうかうかしていられないな)
箒はセシリアの告白を聞き、手を強く握りしめる。
どこかで幼馴染だという立ち位置が有利だと考えていた節があったがその勘違いは今この瞬間に木っ端みじんに吹き飛び、粉々に砕け散った。
誰かを愛しているということに、そしてその愛を伝えることに立場など関係ない。
(一夏。私はお前が大好きだ……初めてリボンを取ってくれたあの時から……どういう結末になるのか、正直怖い部分はあるが)
想いを受け取ってほしいという希望はあるがそれを決めるのは一夏自身。
仮に思いが成就しなかったとしても一夏を愛したことを後悔することはないし、一生この経験は忘れないし、これからの自分の糧になる。
(一夏……待っていろ、必ず私の想いも伝えてみせる)
――――――☆――――――
「ふんふんふふ~ん♪」
バチバチッ! と激しく火花を散らせながら薄暗い部屋で何本もの補助腕を動かし、陽気に鼻歌を歌いながら稀代の天才―――篠ノ乃束はあるものを作っていた。
そして完成したのか補助腕を離し、ゴーグルを外す。
束はその完成した品を手に取るとにやりと口角を上げる。
その小型装置は一見するとチョーカーのようにも見えるがそれには束の織斑一夏に対する憎しみの怨念がふんだんに込められている。
「完成っと……いや~さすがはわたし。まさか完成させちゃうとはね~。生体融合型ISの先駆けだ……あとはこれの実験データが欲しいんだけど……どこかに良い実験体はいないかな~」
束が指をパチンと鳴らすと彼女の前方に空間投影型のモニターがいくつも展開され、いくつかのIS学園のリアルタイム映像が表示される。
しかし今の時間帯は夜中のかなり遅い時間帯のため映像には誰も映っておらず、さらに言うと一つのモニターには何も映っていない。
「ありゃりゃ。うさちゃんロボマークⅣの息子がやられちゃってるよ。さすがはちーちゃん」
破壊されたというのに束は嬉しそうに笑顔を浮かべている。
なお、破壊された息子の役目は千冬の覗きであったことは秘密。
「ん~、出来ればあいつに憎しみとか殺意とか持ってるやつがいいんだけど……IS学園も徐々にあいつに染まりつつあるからな~、おっ?」
その時、一枚のモニターに人影が写ったのを確認した束はそれをスワイプして拡大する。
そこに映し出されているのは夜も遅い時間帯にもかかわらずタブレット端末を傍に置き、キーボードをたたいていく一人の少女だった。
その少女はただ画面に表示されているデータの羅列を目で追っているだけだったがその目に映っているものを束は見逃さなかった。
「いいねいいね……束さんにはわかるよ。君が抱いているあいつへの深い憎しみ…… 生体融合型ISの栄えある第一号被検体は君に決めた!」
物語が大きく動き出しました。さあ、ここから腕の見せ所です。