Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第八十七話

 楽しかった誕生日会はあっという間に過ぎ、日常が戻ってきた―――かに思えたが俺にとっては非日常が続いているようなものだった。

 識別外個体という名称、そして織斑一夏を名乗る女などあの十数分の間にどれだけの出来事が凝縮されているんだと突っ込みたいくらいだ。

 そしてもう一つの非日常―――それは千冬姉からの呼び出しだ。

 放課後、自室で予復習をしようとしたときに突然千冬姉から電話がかかってきたかと思えばまさかの特別指導室への入室を命じられてしまった。

 

「……特別指導室か……」

 

 特別指導室―――それはIS学園の中でも特に重い罰を与えるために設置されている部屋。

 学園の指導にもランクが設定されており、一番軽度のもので言えば担任指導から始まり、学年指導、主任指導とランクが上がって最終的には学園長指導となる。

 ただこの学園長指導はあくまで日常生活における指導の最高ランクであってIS関連の指導で最高ランクはこの特別指導室での指導となる。

 もちろん指導担当者は千冬姉―――という話を楯無さんから聞いた。

 

「……もしかしてこの前の市街戦の指導かな」

 

 ISの強さは現代兵器を超越しているので市街戦を行うことは有事の際を除いて全面的に禁止されており、認定される場合は非常に限られている。

 今回、俺は外部アリーナで戦えばよかったのにあえて外へと出たので認定されることはないだろう。

 

「緊張してきた」

 

 特別指導室は一般生徒が立ち入らないように下層階に設置されており、階段で降りていく。

 というか本当なら副担任の山田先生が引率してくれると思うんだけどなぜか千冬姉からは一人で来るようにと強く命じられてしまった。

 

「こ、ここか」

 

 目の前には重厚な扉がそびえたっており、扉の隙間からは冷たい空気が流れ込んでいるように感じ、どこか明かりも薄暗い。

 扉を三回ノックすると向こうから千冬姉の「どうぞ」という声が聞こえ、入室すると張りつめた空気の中、椅子に座っている千冬姉の姿が見えた。

 部屋はそんなに広くはなく、ただ単に話を聞き、指導を行うためだけの部屋となっており、それ以外の機能は有していないことが見て取れる。

 ただそれが逆に怖い。

 まるで取調室のような場所だ。

 

「し、失礼します」

「座れ」

「は、はい」

 

 重苦しい空気の中、促されるままに用意されていた椅子に座ると千冬姉が少し距離を詰めてくる。

 

「ここに呼ばれた理由はわかるな?」

「この前の市街戦……ですか?」

「それもある」

(それも? それ以外にあるのか)

「まず、市街戦を禁止している理由はわかるな?」

 

 千冬姉の質問に俺は首を縦に振る。

 例えば荷電粒子砲―――いつもはバカスカと何も考えずに撃っているがそれは専用のアリーナだからそれができているのであって市街地でそれをすれば死傷者が間違いなく出る。

 ビルに当たれば崩落し、降り注ぐがれきに下敷きで死んでしまうかもしれない。

 最悪の場合、直撃でもすれば跡形もなく、それこそ一片の肉すら残らないだろう。

 

「IS学園では認定された事案以外での市街戦は禁止している……今回は幸運にも認定されたがな」

「……へ?」

 

 最後の言葉に俺は思わずそんな声を出して驚いてしまう。

 てっきりここに呼ばれた理由は市街戦の認定が下りていないから呼ばれたんだと思っていた。

 

「金輪際、市街戦は行うな。そう易々と認定も降りるものではない」

「え、あ……はい。肝に銘じておきます」

 

 ちょっとした拍子抜けの状態に陥っていると千冬姉はおもむろに立ち上がり、椅子を俺の隣に置くと今度は家族の距離をとった。

 

「ここからは家族としての指導だ」

「ち、千冬姉?」

「一夏……お前、キャノンボール・ファストのとき、更識の裏の仕事を手伝ったな」

 

 ドキッとしてしまうがバレないほうがおかしい。

 俺の姉は世界最強のブリュンヒルデであり、IS学園の中でも地位は高い。

 それに俺が知らないところから情報も千冬姉に集まってくるだろうからどんなに隠し事をしていたとしても学園内部であれば絶対にバレるだろう。

 

「う、うん……ちょっとだけ」

「ちょっとか……爆弾を探し、テロリストの拘束を行うことがちょっとか?」

「……」

「一夏。私が生徒会に入ることを許可したのは裏の仕事を手伝わせるためじゃない……今後一切、裏の仕事にはかかわらないと約束してくれ」

「……もし、約束を破ったら?」

「その時は私の権限のすべてを使って学園外部への外出を徹底的に禁止し、また私との同室にする」

 

 口に出して言うということはそれだけ千冬姉は本気なんだろう。

 唯一の家族が危険の裏の仕事にかかわっているとなれば全力で止めに来るのは至極当然。

 その時、千冬姉がゆっくりと俺の手を握り締めるとまっすぐ俺の顔を見つめてくる。

 

「一夏……お前は幸せになれ」

 

 この言葉はずっと昔から千冬姉が言ってきた言葉だ。

 俺からすれば千冬姉にも幸せになってほしいと思うところだけど千冬姉はそれ以上にそう願っている。

 

「裏に関わる必要など全くない……お前は知らなくていいんだ。裏のことなど」

「う、うん……わかってる……でも千冬姉」

「“しゃべるな”」

 

 その瞬間、千冬姉の言葉が俺の頭の中で反響し、全身が冷たくなってくると力が抜けて千冬姉の胸にもたれかかるような格好になってしまう。

 千冬姉はそれを受け止めると力強く抱きしめてくれる。

 

「お前は何も知らなくていい……何も知らなくていいんだ……お前は何も知らずにただ幸せになればいい」

「……」

「それだけが私の望みだ。一夏」

 

 世界の裏のことなど普通ならば知らなくても幸せになれるし、そもそも知るべきじゃない。

 でも亡国機業の仮面の女が言っていたことが嘘じゃないとすれば俺の存在は一体なんなんだ。

 もし本当に俺が“織斑一夏”ではなく、仮面の女が言う識別外個体(アウト・ナンバー)という存在だとすれば俺は一体何なんだ。

 千冬姉に聞いたとしても絶対に教えてくれることはないだろう。

 真実を知るためには自分で動くしかない―――でも自分で動くことは千冬姉との約束を破ることになるし、千冬姉を泣かしてしまうことにだってなる。

 

「一夏……私との約束、守ってくれるな?」

「……うん。わかってるよ」

「それでいい。それでこそ一夏だ」

 

 頭をやさしくなでながらやさしい言葉をかけてくれる千冬姉はきっと笑顔を浮かべていることだろう。

 俺はしばし、その幸福感に身を任せるのであった。

 

 

 

――――――☆――――――

 一夏が特別指導室から去り、一人となった千冬は何をするわけでもなく椅子に座ったまま腕を組んで考え事をしていた。

 

「……ああは言っても……お前のことだ。きっと自分で真実を見つけに行くんだろう」

 

 昔の一夏であればすべての言うことを素直に聞き、その通りに動いていただろうが今は違う。

 自分の言うとおりに動かない彼を見て悶々とする自分がいる一方、成長を喜んでいる自分もいるのが千冬の悩みどころであった。

 

「真実を伝えれば……お前はきっと決断をする……でも決断をするのはお前じゃない……私で良いんだ。“織斑”に決断を下すのは私だ」

 

――――――☆――――――

「どうだった? エム」

 

 帰投したエムを出迎えたのはスコールと殺意の塊でもある銃口。

 部屋をめちゃくちゃに壊したことへの罰か、それとも織斑一夏に会いに行ったことへの罰か。

 しかしエムにとってそんなことはどうでもよかった。

 

「その銃を降ろせば答えてやらんこともない」

「あら、そう」

 

 スコールはそう言いながらおとなしく銃を下げるとエムの隣に座る。

 

「で、どうだったの?」

「邪魔が入った」

「……更識楯無ね。おいそれと近づけなくなっちゃったわね」

「問題はない」

「何を根拠にそう言うのかわからないけど……でも組織的に言えば困ったわ。IS学園最強の生徒会長が護衛についたとなれば接触は図りにくくなるわ」

 

 現在、亡国機業が持つ戦力はサイレント・ゼフィルスとスコールの専用機の2機。

 オータムが持つ専用機は現在、稼働不可能の状態であり、同時にサイレント・ゼフィルスも整備行きの状態なのでまともに稼働できるのはスコールのISのみ。

 その一機だけで楯無とやりあうのは得策ではない。

 

「何か策を考えないとね……それにエムと織斑一夏を接触させたいし」

「……」

「そんな疑いの目で見ないで。これも作戦のうちよ。まだ、その顔……見せてないんでしょ?」

「お前たちに頼らなくても識別外個体などいつでも」

「その識別外個体に倒されたのはどこの誰かしら?」

「……」

「織斑一夏は急速に成長しているわ。それも異常ともいえる速度で……オータムじゃ手も足も出ない。あなたもサイレント・ゼフィルスでは難しいでしょう」

「ではまたどこかからか奪うか?」

 

 奪ったところで、と言いたげなスコールは少し考えたのちに何かを閃いたように手を軽くたたく。

 

「だったら作ってもらいましょう」

「…正気か?」

「ええ。我々と彼女の目的はほとんど同じ。協力してくれる可能性は無きにしも非ずよ」

「まともな考えとは思えないが」

「まともな考えをしている人間はこの組織にはいないわ」

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