Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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二話目です。


第七話

―――数刻前

 

「はぁぁ……とても素人とは思えない動きですね、織斑君」

 

 ビット内でモニターを通して一夏の模擬戦を見ていた山田真耶は感嘆のため息を吐きながらそう呟く。

 正直、模擬戦はセシリア・オルコットが圧倒的な実力を見せて勝利―――それが真耶を含めたあらかたの結果予想だったがそれは徐々に覆ろうとしている。

 

「とてもじゃないですけど二回目の起動とは思えませんね、織斑先生」

「あぁ、そうだな」

 

 そう呟く千冬の声はどこか怒りが入っているような声だった。それは果たして素人ながら検討している家族に向ける言葉なのか―――真耶は一瞬、その声音に違和感を感じたがすぐにモニターへと視線を戻す。

 

「浮かれているな、あのバカ」

「ふぇ? そうなんですか?」

「見ろ。左手を閉じたり開いたりしているだろう。あの癖が出てるときは調子に乗っている時だ……馬鹿め」

 

 先程の真耶の違和感は一瞬にして払拭された―――姉弟であれば他人では気付かない小さな癖を見抜くもの。今、あの人は弟がその癖を出しているから怒っているのだろう、と。

 

「さすがはご姉弟ですね~。そんな細かいところまで気づかれるなんて」

「……まあな」

「……何かありましたか?」

「何がだ?」

「いえ……なんだかイライラしているみたいで」

 

 そう言われ、千冬はハッとする。そしてすぐさま表情を戻す。

 

「なんでもない……動くぞ」

 

 モニターには勢いよく接近する一夏の姿―――しかし、腰部のパーツが動き、銃口を一夏へと向けるとそこからミサイルが二発、放たれ爆発が起き、一夏は呑み込まれてしまった。

 

「一夏っっ!」

 

 思わず箒は声をあげてしまう―――しかし、そんな感情は一瞬にして消え去った。

 

「あれって……もしかして」

「……機体……のせいか」

 

 ボソッと呟いたその一言は誰の耳にも届かず、ビット内の暗闇に消えていった。

 

 

 

 

――――――☆――――――

 爆煙が晴れたとき、まず最初に見えたのはセシリアの驚いた顔だった。

 そして次に見えたのは白式の装甲が光を発しながら輝いている光景―――そんな光景に呆気にとられていると目の前に【確認】と書かれたボタンが現れる。

 理解できないままそのボタンを押すと全ての機体ダメージが消えていき、新たな装甲が再構成されていき、わが身に装着されていく。

 最初の興行的な凹凸が消え、なめらかな曲線とシャープなラインが特徴的な中世の鎧を思わせるものへと生まれ変わっていた。

 

「まさか、一次移行!? あ、あなたまさか初期設定のISで私と戦っていたというのですか!?」

 

 近接特化ブレード『雪片弐型』―――さっきまで名称未設定だった物につけられた新たな名前。

 何故かは知らないがそのブレードを見た時、俺の脳裏にある映像が過ぎった。それはISを纏い、この剣と似たような得物を握りしめ、大空を縦横無尽に飛び回る人の姿。

 

 

「あ、あり得ませんわ! 先程の動きといい、初期設定のISで素人が代表候補生と戦うなど!」

「そうだな……俺もそう思う」

「ならばあなたは……貴方は一体」

「さあな……ただ今は……箒との約束と家族のメンツを守るために戦ってる男――――――織斑一夏だ!」

「っっ! ティアーズ!」

 

 俺の動きだしとほぼ同時に4基のビットが射出され、俺に向かってくる―――でもセンサーの解像度も違うし、瞬間加速度も段違い。

 レーザーが俺に届く前にブレードを横一閃。切り裂かれたビットを押しのけて突き進む俺の背後で遅れて爆風が背中にあたる。

 

「くぅっ! こんなことが!」

 

 残りの二基からミサイルが二発、放たれるが速度勢いのまま身を捩って回避し、一基にセシリアの間合いへと飛び込んでいく。

 手に握る雪片弐型に高密度のエネルギーが充填されていくのを感じるとともに刀身が光り輝く。

 

「えあぁぁぁっ!」

 

 光り輝くブレードを上段から下段へと勢い良く振り下ろす―――同時に彼女のライフルの銃口が向けられるがこちらの方が出が早い。

 

(いける!)

『試合終了。勝者―――セシリア・オルコット』

 

 雪片弐型による一撃がブルー・ティアーズを切り裂こうとしたその時、試合終了を告げるブザーが鳴り響き、自動音声によって勝者が宣告された。

 

「え?」

 

 恐らくこの場にいる全員が同じ表情をしているだろう。

 理解が追い付かない俺達の耳に放送用のマイクが入る音が聞こえてくる。

 

『試合は終了だ。両名はピットに戻れ。観覧生徒はすぐに部屋に戻る様に』

 

 

 

――――――☆――――――

「理解が出来ない、と言いたげな表情だな」

 

 Aピットに戻ってきた俺を出迎えてくれたのは労いの言葉ではなく、千冬姉のそんな言葉だった。

 

「……結局、なんで俺は負けたんでしょうか」

 

 千冬姉の視線に耐え切れず、山田先生と箒に助けを求めるが箒は気まずいのか俺から視線を外し、山田先生は首を傾げている。

 どうやら先生にも分からないらしい。

 

「すぐに答えを求めるな。自分で探してみろ……今日は休め……明日以降のことは任せろ」

「へ?」

 

 もう一度聞き返した頃には既に千冬姉は出口を出ようとしているところだった。

 

「ま、まぁとにかくいい試合でしたよ、織斑君!」

「は、はは……ありがとうございます」

「もしかしたら明日からもっと人気者になるかもしれませんね~」

「へ?」

 

 聞き返しの言葉リターンズ。しかしその言葉も先生の耳には届くことはなく、先生は気分ルンルンのスキップでビットから去っていった。

 

「箒……さん?」

「良かったな、人気者になれて」

「ほ、箒さん?」

 

 振り返るとそこにいたのは不機嫌マックスの表情を浮かべ、ジト目で俺のことを見てくる箒。正直、彼女を不機嫌にするようなことは断じてしていない。

 

「明日から出待ちがあるのか」

「で、出待ち? 何の話だ?」

「自分の胸に聞けばいいだろう」

 

 箒はポニーテールを左右に揺らしながら出口へと向かう。自動扉が開き、外へ出ようかとしたその時に立ち止まった。

 そしてこちらに振り向かずにそのまま――――――

 

「箒?」

「ま、まぁ……その……なんだ……か、格好良か……や、やっぱりなんでもない!」

「へ?」

 

 聞き返しの言葉三度。しかし相も変わらず俺の言葉は箒の耳には届くことはなく、箒は先程よりかは少し不機嫌オーラを薄くしてビットから去っていった。

 

「……俺の声って小さいのか?」

 

 

 

――――――☆――――――

「良い子良い子……君はいい子だよ~。流石は天っ才発明家が作ったうさちゃんロボMKⅣだよ」

 

 IS学園からそれほど離れていない場所でウサミミ調のカチューシャに胸元が大きく開いたエプロンドレスを着た女性が一匹のウサギを撫でていた。

 撫でられているウサギはよく見ると目の部分が機械になっており、生き物ではない。

 

「それにしても……ちーちゃんったら酷いんだから~。まさか白式の搬入先をAピットじゃなくてBピットにするなんて~。ま、慌ててたら誰も思わないよね。向こう側にあるなんて。流石はち~ちゃん。相方の性格をよく見て……いや、もしかしてこれを見据えて選んだ?」

 

 女性はウサギを抱き上げ、少し離れたIS学園の方角を見つめる。

 

「あ~あ、でもこれでち~ちゃんの思惑通りいっくんはクラス代表じゃないのか~……まぁ、束さんにとっては些細なことだけど……ちーちゃんに計画がある様に私にも計画があるから……行こうか。うさちゃんロボMKⅣ」

 

 

――――――☆――――――

「出るはずもないか……」

 

 ため息交じりに置かれたスマホの画面にはある人物の名前が表示されていた。

 

「……あいつめ。何を考えているんだ」

 

 恨めしそうにそう呟きながら千冬はソファに深く座り込む。

 IS学園の警備は世界を見渡してもトップレベルの厳重さであり、人一人どころか動物一匹通すにも許可証を提示させるほど、かつその日の来客は全教員に共有される。

 しかし、あのウサギは難なく学園の敷地に侵入した。

 そして違う場所に搬入させたはずの白式を移動させた。

 

「まぁ、いい……大筋は計画通りだ……束、お前が何を企もうがどんな策を巡らそうが私の計画の邪魔だけはさせんぞ」

 

――――――☆――――――

 集めのお湯がシャワーノズルからセシリアの美しい髪の毛へと優しく落ちていく。

 模擬戦は勝利に終わった―――だが圧倒的なまでの勝利ではなかった。

 相手はドがつくほどの素人であり、かつ模擬戦当日までISによる演習すらしていなかったそこら辺の一般人と大差ない男だったはず。

 にも拘らず初期設定のISを駆る男に翻弄され、自慢の兵装をほぼ全て無力化された。

 シャワー室の壁に設置された防水カバーに入れられたタブレット端末に目をやると学生共有サイトに挙げられている今日の模擬戦の動画が流れている。

 

「やはり前半と後半では動きが別人ですわ……この模擬戦の間に成長したとでもいうの?」

 

 ライフルによる狙撃もティアーズによる特殊射撃も初撃は全弾命中、しかしその後は掠っているかブレードで防がれたか、あるいは回避されたか。

 少なくとも直撃したのは最初の一回だけ。

 

「……なんですの? この感情は」

 

 もっと知りたい―――知的好奇心のそれに似た何かが彼女の心を支配していた。その正体は何かは分からず、彼女の心だけではなく頭すらも容易に支配する。

 今彼女の頭の中はあの男の事一色だ。

 

「あのような男は初めて」

 

 強い思いがこもったあの目を今まで彼女が出会ってきた男たちは持っていなかった。

 父は名家に婿入りした立場であった。故に家庭内での立場は低かった。いつも母にへこへこ媚びへつらい、何かがあればすぐに謝りを入れるような軟弱な男だった。

 対して母は強かった。オルコット家の莫大な資産を母は一人で会社をいくつも経営し、築き上げた。

 母のことは強く尊敬し、自分も将来は母のような強き女性になろうと思っていた。

 そんな状況はISが生み出されて以降、より強くなり、父の立場はより一層落ちた。

 しかし、どれほど強く、気高い母も立場が低く、媚びへつらっていた父も一瞬にして消えてしまった。

 鉄道の横転事故に何故かその日、偶然にも一緒に乗っていた両親は帰らぬ人となってしまった。

 

「織斑……一夏」

 

 この極東の国へやってきたのは稼働データと戦闘経験値を得るためであり、より強きものと戦い、己を研磨するためであって断じて軟弱な生活を送るためではない。

 にもかかわらずあの男の名前を囁くだけでその鋼の意思は崩れ去った。

 

「……知りたい」

 

 ―――あの男は何を目指しているのか

 

 ―――あの男の強さは何なのか

 

 ―――あの男がどのように成長していくのか

 

 もっと傍で―――触れるほどの距離で

 

 

 

――――――☆――――――

 次の日の朝、俺は少し緊張しながら箒と共に教室へ向かっていた。

 なんせあれ程無様に負けたのだから陰口やいじりがあるだろうと思い、正直休もうかとも思ったくらいだ―――多分、箒が迎えに来てくれなかったら俺は部屋から出れなかっただろう。

 

「大丈夫だ、一夏」

「お、おう」

「お前に陰口をたたく奴がいれば私がそいつを竹刀で叩いてやる」

「いや、箒がそれしたら死んじまうぞ」

「……貴様は私が握力お化けと言いたいのか」

「そ、そんな滅相もございません」

 

 正直、こうやって軽口を叩いている間だけは朝からの緊張感が解れていた。

 時刻は朝礼が始まる数分前で廊下には俺と箒以外には誰も居ない―――そして教室の扉の前につくと緊張はピークに達する。

 

「ふぅ……よし」

 

 箒が傍にいる―――それだけで俺が扉を開けることに勇気を出せる理由になる。

 

「あ、織斑君。おはようございます」

「お、おはようございます」

「おりむ~寝坊しちゃったの~?」

「織斑君おはよ~」

 

 皆のいつも通りの挨拶や表情を見て一安心した俺はいつものように自分の席に着いた―――同時にSHRの始まりを告げるチャイムが鳴り響く。

 

「はい、それでは……織斑君」

「はい?」

「号令をお願いします」

「……ふぇ?」

「私が説明いたしますわ!」

 

 山田先生の言っていることが理解できていないところにセシリアの声が響き、俺を含めた全員の視線がセシリアへと注がれる。

 そこには見慣れた腰に手を当てたポージング。

 

「確かに試合結果は貴方の負けですわ……ですが試合内容は貴方の勝ち。そして何より……今の私にはクラス代表を務める素質はありませんわ。代表候補生としても……ですから今一度、ゼロからの出発をするべくクラス代表は貴方にお譲りいたしますわ!」

「え、えぇぇぇ!?」

「それと……貴方のことをバカにするような数々の発言……ここで謝罪をさせていただきますわ」

 

 そう言うとセシリアは頭を深々と下げる。正直俺としてはクラス代表なんて、と続けたかったんだがそれをするとセシリアの謝罪と覚悟を足蹴にするような気がして辞めた。

 セシリアが覚悟を決めたように俺も覚悟を決めよう。

 

「分かった……まだまだIS操縦者としては未熟者だけど恥にならないように頑張る!」

「おめでと~」

「これから頑張ってね~」

「応援するよ~」

「模擬戦かっこよかったよ~」

「よっ! 稀代の女たらし!」

 

 最後のは余計だと思いながらも俺はクラス代表を受け入れることにした。

 

「では織斑君、号令をお願いします」

「はい……起立!」

 

 教室に俺の声がこだました。




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