土曜日、俺はいつもの学園の制服ではなく私服姿でIS学園の門の前で箒を待っていた。
というのも今日は2年生の黛先輩のお姉さんに取材を受ける日なのだ。
「しのっち遅いね~」
「そうだな~……」
隣には私服姿もだぼだぼのビッグサイズを着ているのほほんさん。
千冬姉からも楯無さんからも護衛をつけるといわれていたけどまさかその護衛してくれる人がほんわか世界代表ののほほんさんだとは思わなかった。
てっきり俺は虚さんが担当してくれると思っていたので最近の弾との仲を聞こうとしたのに。
「かんちゃんはどう~?」
「懐に入るのはまだまだかかりそうだな。大分、俺のこと嫌ってるから」
「だよね~。あ、かんちゃんってヒーローものが大好きだよ~」
確かに教室に行った時も動画を見ていたのでかなり大好きなんだろう。
共通の話題があれば彼女との距離も詰めやすくはなるんだろうけど彼女が見ていた作品は俺が幼いころに見ていたものだし、そこまで大好きだったというわけでもない。
(サブスク契約して見るのもありか……)
彼女の専用機がいまだに未完成なのも俺が間接的に影響しているわけだし、もっと言えば彼女に肩身の狭い思いをさせているのも俺が遠因だ。
「おりむ~? どうしたの~?」
「…いや、なんでもない」
時々、思うことがある。
もし、俺がこの世界に生まれてこなかったとしたら不幸にならなかった人が大勢いるんじゃないかって。
例えば束さん。
俺が生まれてこなかったら今でも千冬姉と友達をやって稀代の大天才として純粋に歴史に名を刻んだんじゃないのかって。
例えば千冬姉。
俺がいなければ命を狙う死角から俺を守る労力が消え、もっと自分のことに集中できて結婚も子供も家庭も、そういった普通の幸せを追いかけれたんじゃないかって。
例えば鈴。
俺がいなければクラス別トーナメントのときにアクシデントなんか起きず、トラウマを抱えることもなく代表候補生として活躍できたんじゃないかって。
例えばIS学園の生徒や先生。
俺がいなければ行事でアクシデントなんか起きず、行事も予定通り行われてキチンとした評価がなされていたんじゃないかって。
そして簪さん。
俺がいなければ専用機も完成し、代表候補生として胸を張って活躍できたんじゃないかって。
もちろん千冬姉や箒たちはそれは違うと否定してくれるだろうが少なくとも俺の命を狙う人や学園のみんなの人生に影響を与えている。
「そんな難しい顔しちゃ取材受けられないよ~」
「……そうだな」
「待たせた……むっ、なぜ布仏がここにいるのだ」
そういえば俺に護衛がついていることは公表していなかった。
「私も友達を待っていたの~。じゃあまたね~」
そういってだぼだぼの裾を大きく揺らしながらのほほんさんは俺に手を振り、ぱたぱたと足早にこの場から去っていった。
多分、俺たちに感づかれない距離から警備するんだろうな。
「箒」
「どうした?」
「……いや、その服良いなって」
「そ、そうか? あまり着ないタイプの服なのだが」
黒のミニスカートに白いブラウス、アウターに薄手の秋物パーカーコートと確かに箒が普段着として着るイメージはあまりない恰好。
ただ普段着ないからこその魅力がそこには詰まっていた。
箒は恥ずかしそうにしながらもうれしいのかさっきから顔がゆるゆるだ。
「よ、よし! では行くか!」
「そうだな」
黛先輩のお姉さんが働いている編集者まではそう遠くない距離。
箒と二人でこうして並んで歩くのは小学校以来のような気もする。
あの時は二人で竹刀を持って振り方がどうとか、今日の練習はどうとか話していた。
「今日はちょっと冷えるな」
「そ、そうだな……だ、だが私は」
「?」
「い、一夏と……その……やっぱりなんでもない!」
箒はやけに顔を赤くしながらすたすたと速足で歩いて行こうとしたので慌てて彼女の手を取ると箒が驚きながらこちらのほうを見てくる。
こうやって速足で歩いて人ごみで迷子になった記憶も懐かしい。
「な、な、な」
「そんな早く歩くと昔みたいに迷子になるぞ」
「ま、迷子になどなっていないぞ!」
「嘘つけ。小学校の遠足で山登りしたときに一緒に迷子になった奴はどこのどいつだよ」
「ぅ、ぅぅっ」
そう。箒は前科持ちなのだ。
小学校の遠足の自由時間の際、俺と箒は山頂を歩き回っていた際に今みたいになぜか速足で歩く箒を追いかけていると二人して迷子になってしまったのだ。
そういえばあの時も手をつないでいたっけ。
「こ、子ども扱いするな……馬鹿者」
「っっ」
恥ずかしそうにうつむきながら上目遣いで見てくる箒の姿に俺の胸が高鳴る。
今日はおしゃれな私服姿だからかいつもよりも箒にかわいらしさが出ていて意識してしまう。
この前のラウラに抱きつかれた時と言い、箒の可愛いしぐさと言い、最近の俺は節操なしになりつつあるような気がして正直、戸惑っている。
「い、行こうぜ」
「う、うむ」
俺は箒の手を強く握りしめ、編集者へと向かった。
――――――☆――――――
「じーっ」
絶賛、青春を謳歌している二人を後ろから追いかけている布仏本音は電柱の陰から二人の様子を監視するとともに周囲にも注意を払っていた。
通常であれば電柱の陰に隠れているなどというおかしな行動をする人に注目が集まるものだが通り過ぎていく人たちはまるで気にしていない。
そこに小石があるかのように。
「追いかけよ~」
「か~のじょ、今」
「て~い」
「うぉぉっ!? な、なんでぇっ!?」
本音が動き出し、少ししてから後ろから男がナンパ目的で本音に声をかける。
しかし、本音が振り向きざまに手で軽く男のズボンの腰回りを撫でた瞬間、ベルトが一瞬にして分解され、ズボンを止めていたボタンが外れて下半身パンツ姿という哀れな姿になってしまう。
男は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にしながらズボンを上げて慌てて走り去っていく。
「成敗完了~」
本音は小さくそう言いながら手の中に入っていたものを近くのごみ箱へと投げ捨て、一夏を追いかけていく。
ゴミ箱にはズボンのボタン、そしてベルトのパーツが数個、入っていた。
――――――☆――――――
「どうも。私はインフィニット・ストライプスの副編集長をしている黛渚子よ。今日は一日よろしくね」
編集者へと到着した俺たちを出迎えてくれた黛さんは俺たちに丁寧に名刺を渡してくれた。
俺たちが通された部屋はとても広く、何人かのスタッフさんが準備のためか忙しそうに動き回っている。
「織斑一夏です」
「篠乃ノ箒です」
「よろしくね。いや~、ようやく日本政府の規制が解除された織斑君に一番に取材できるなんてラッキーだったわ。しかも篠乃ノさんも応じてくれるなんて。じゃあさっそくインタビューから行きましょうか。ささ、座って座って」
黛さんに言われるがままに座った俺たちの前にペン型のICレコーダーが用意される。
そういえば俺がISを動かせると分かった当初の怒涛の取材攻撃を思い出す。
あの時は行くところに取材陣が集まっていたから逃げ回るようにしていたけどなぜか途中からぴたりと取材が止まった。
今思えば千冬姉か更識の家が噛んでいたのかも。
「じゃあさっそく質問。女子高に入学した気分はどう?」
「い、いきなりそれですか」
「だって読者アンケートしたらこんな質問がいっぱい集まったんだもん。あ、一応言っとくけどこの先の質問も全部、硬派な質問なんかないからね」
「は、はぁ」
「で、どう?」
「ん~……」
学園の批判にならないようにと気を使った意見を頭の中で探してみるが思いつく意見全てが学園の批判になりそうな気がしてくる。
「最初は不安でしたけど……姉や幼馴染のおかげでなんとか生きてます」
「ふむ。姉にゾッコンと」
(印象操作の一端を見た気がする)
「じゃあ篠乃ノさんに質問。お姉さんのことはどう思ってる?」
途端に箒の表情が曇り、不機嫌さが出てくる。
箒にとってこういった質問は昔から腐るほどされてきて嫌気がさしているんだろう。
「別にどうも思っていません」
「そう。じゃあ、特別に専用機を貰った感想は?」
さらなる質問に箒の額に青筋が浮かぶ。
ISを生み出した天才発明家の妹だからという理由だけで何の実績もないのに世界最強の専用機を作ってもらったとなれば妬みなども出てくるだろう。
現にIS学園でも直接、本人にぶつけられることは少ないものの出ているのは確か。
「紅椿に関しては感謝はしています。ですがそれに胡坐をかき、鼻にかけるつもりはありません」
「立派な考え方じゃない。今後も周りに負けないようにね」
「ありがとうございます」
「じゃあ続いて織斑君」
「は、はい」
「どうしてISを動かせるの?」
「俺が聞きたいです」
「だよね~。この質問は没と……じゃあ、強さの秘訣は? 噂じゃテロリストを追い払ったとか言われているけどその真相は?」
前者の質問はともかく後者の質問は答えたらやばい気がする。
「秘訣なんかありません。ただ毎日、鍛錬を積んでいるだけです」
「ふ~ん。ちなみに織斑君と篠乃ノさんはどっちが強いの?」
「現状は一夏です。ですが私もこのまま負け続ける気はありません」
模擬線の勝率的に言えば俺が上だけど箒も楯無さんの特訓を受けているおかげもあり、めきめきと実力を伸ばしているのは事実。
この前のラウラとの模擬線でも絢爛舞踏を駆使してあと一歩のところまでラウラを追い詰めていた。
「良いね良いね~。強い男の子は今の時代も人気だからね~。もう織斑君、学園でもモテモテじゃないの?」
「モテモテかは知りませんけど」
「ほんとかな~? 渚子の情報じゃ専用機持ちを次々と攻略して侍らせているっていう噂よ~?」
周りから見ればそう思われても致し方ない状態だろう。
俺の立場的に各国の代表候補生が集まりやすいし、なんなら国の軍の隊長すらいる始末。
「侍らせてはないですよ」
「ほんとかな~? それじゃあ、写真撮影に行きますか。地下にスタジオがあるから行きましょう。それと撮影用の服に着替えてもらうからね」
「え? 着替えるんですか?」
「スポンサーの服を着せないと私たちの首がね」
そういいながら手で首を切るジェスチャーをする。
そういえば鈴もセシリアもいろいろなおしゃれな格好をして写真を撮影していたし、いわゆる広告塔の一面もあるんだろう。
「それじゃあ行きましょうか」