Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第九十二話

 次の日の夕方、俺はとある場所へと向かっていた。

 この前のキャノンボール・ファスト以来、弾と連絡を取り合って蘭に会いに行く機会を伺っていたんだが今日は元気そうだということで五反田食堂へと向かっている。

 あの日以降、蘭に表立って変わった様子は見られないらしいけどめっきりIS学園の話をすることはなくなったとの話を聞き、いやな予感がして仕方がない。

 

「……俺のせいだよな」

 

 あの時、俺が蘭にキャノンボール・ファストの招待券を渡さなければ蘭がオータムの人質になることはなく、危険な目に遭うこともなかった。

 今日は蘭もそうだが弾やその家族に謝罪をする覚悟で来ている。

 前方に五反田食堂が見えてくる。

 

「いらっしゃ……って一夏」

 

 店の扉を開けて最初に出迎えてくれたのはエプロン姿の弾だった。

 どうやら手伝い兼アルバイトをしているのかその両手には空いた皿が載せてあり、脇にはメニュー表を数冊挟んでいるという器用な格好だ。

 

「よっ……」

「良いって言ったのに」

「いや……俺がよくない。蘭は?」

「まだ学校……お前も律儀な奴だな。じいちゃーん!」

「ん? 一夏じゃねえか!」

 

 厳さんはいつものように豪快に中華鍋を両手で二つ持ちながら料理を作っている最中であり、その鍛え上げられた両腕の筋肉はすさまじい。

 筋トレで作った筋力と自然な動きの中でついた筋力は違う。

 

「一丁上がりっと! 蓮! ちょっと店任したぞ!」

「そんなに長く空けないでくださいね、お父さん」

 

 厳さんは弾のお母さんである蓮さんに出来立ての料理を渡すと仕事着のまま俺を連れて店の外へと出て少し店から離れた位置まで歩く。

 後ろを追いかけるが後姿からも漂う強面のオーラに身がすくむ。

 

「で、話ってなんだ?」

「……すみませんでした!」

 

 俺は全身全霊を込めて頭を深々と下げ、厳さんに謝罪をする。

 

「今回、俺のせいで蘭を危険な目に遭わせてしまってすみませんでした!」

「……その時の蘭の表情、どんなだった」

「……泣いていました……それと恐怖が」

「今回のことはしっかり蘭を無傷で守ったから水に流してやる。蓮もそのつもりだ……ただな」

 

 厳さんは俺に近づき、両肩に強く手を置くとまっすぐ俺の瞳を見てくる。

 そのあまりの目力の強さに後ろに下がりそうになるが後ろに下がっては負けだと思い、しっかりと地面に足をつけて厳さんの目を見続ける。

 

「蘭のその時の顔だけ絶対に忘れんじゃねえぞ。俺にゃぁISなんてもんはただの兵器にしか見えねぇ。若いもんはあれに熱狂しているらしいけどよぉ……二度と蘭にあんな表情させねえようにしろ。いいなぁ!?」

「はい! もちろんです!」

「ならいい……蘭のこと、頼んだぞ」

「ありがとうございました!」

 

 厳さんは俺の肩を軽く叩きながら店へと戻っていく。

 その背中に対して俺はもう一度、深々と頭を下げる。

 厳さんとこの場で約束した以上、もう俺は二度と蘭をあの時と同じ表情を浮かべさせない。

 そのためにはもっと強くならなくちゃいけない―――今以上にもっと。

 

「一夏さん?」

 

 後ろから声をかけられ、振り返ってみるとそこには制服姿の蘭がいた。

 彼女の表情を見る限りは弾の言うように不調をきたしているようには見えない。

 

「蘭……今ちょっと時間あるか?」

「はい。大丈夫ですよ……近くの公園に行きましょうか」

 

 蘭の先導のもと近くにある公園へと向かう。

 蘭も何かしらの空気を察してかいつものように明るく話しかけてくることはなく、俺たちの間には嫌な沈黙が流れ続けている。

 

「……今日はどうされたんですか?」

 

 公園に到着するや否や立ち止まって俺にたずねてくる。

 蘭は頭がいいからきっと俺が今日何しに来たのかも察しているんだと思う。

 

「蘭……あの時はすまなかった!」

 

 先ほど以上に深々と頭を下げる。

 弾は言う―――キャノンボール・ファストのあの日、蘭は帰って来るや否や泣き崩れて動かなかったという。

 それもそうだろう。

 テロリストに爆弾をつけられて頭に拳銃を突き付けられるなんて言う恐ろしい経験を中学生の年齢で経験して何もないほうがおかしい。

 家からでなくなったっておかしくない。

 

「俺のせいで蘭を巻き込んでしまった。本当にごめん!」

「……顔を上げてください。一夏さん」

 

 顔を上げたその時、ふわっと温かい感触が俺の胸に飛び込んでくる。

 蘭は俺の胸に飛び込んで来るや否やぎゅっと強く俺のことを抱きしめてくる。

 

「……あの時は本当に怖かったです。頭に銃を突き付けられて……爆弾をつけられて……ここで死んじゃうのかなって思いました」

「……」

「でも……一夏さんが助けてくれました」

 

 蘭は顔を上げると満面の笑みを浮かべて俺の顔を見てくる。

 その笑顔には嘘偽りない。

 

「あの日からIS学園の進学も本気で悩みました。もしかしたらあの時のようなことに巻き込まれてしまうんじゃないかって。おじいちゃんからもお母さんからも心配されました」

「……」

「でもそれでも私はIS学園に進学します」

「……どうして」

「だって一夏さんがいるから」

「っっ」

「あの時も一夏さんは私を助けてくれました……私も一夏さんみたいに強くなって誰かを守りたいって強く思ったんです。だから私は来年IS学園を受けます」

 

 その瞬間、俺の中に新しい目標が一つ生まれた。

 今、IS学園は俺がいるせいでいろいろな奴に目をつけられている。

 だったら俺に目をつけているやつを片っ端からぶっ潰して蘭たち次の世代が安心してIS学園を受験してちゃんと評価される学園に戻す。

 特に亡国機業(ファントム・タスク)はこの一年で絶対に叩き潰す。

 

「その時はいろんなことを教えてください。ISの使い方とか」

「そうだな……ありがとう」

「はい!」

 

 この子が笑顔でIS学園を受験できるように俺は―――もっと強くなる。

 

「あ、そうだ」

 

 そう言って蘭は俺から離れるとカバンの中をガサゴソと探る。

 そして丁寧にファイルに入れて保管している一枚の紙きれを取り出すとそれを俺に渡してくる。

 

「私の学校で今度、文化祭が行われるんです。是非とも来てください!」

「良いのか?」

「はい! 一度、一夏さんにも私の学校を見てほしいんです!」

「……わかった。必ず行くよ」

「お待ちしています!」

「ふぅ……なんか腹減ったな」

「あ、じゃあ是非ともうちの食堂で食べていってください!」

「ははっ。営業上手だな」

「そんなことないですよ」

 

 お互いに笑顔を浮かべながら五反田食堂に向かって歩き始めた。

 

 

――――――☆――――――

「会長。織斑君は五反田食堂にて食事を終え、帰路についたと本音から報告がありました」

「そう、ありがとう」

 

 IS学園の生徒会室にて虚が入れた紅茶を飲みながら楯無は一枚の書類に目を通していた。

 その書類にはある生徒の様子に関する報告と『打鉄弐式』の開発の進捗状況が記載されており、楯無はそこに記載されている文章を読んでため息をつく。

 

「簪様のことですが……やはり」

「そうね。私を追いかけて専用機の開発に取り組んだはいいものの……って感じね。はぁ……虚ちゃんの人脈で何とかならないかしら」

「簪様には見抜かれるでしょう。あの方は洞察力が素晴らしいので」

「よね~……一夏君にお願いしたはいいものの……」

 

 今回、敢えて一夏に簪のことを任せたのにもきちんと理由がある。

 二人の共通点は家族に秀でた能力を持つ存在がいること、そして自分自身と家族を比較され、言われもないことを言われ続けてきた。

 ゆえに楯無は敢えて簪が嫌っている一夏にお願いした。

 

「ねえ、やっぱり何かきっかけが必要よね? 行事増やさない? 行事」

「さすがに生徒会でもそれは厳しいかと」

「そうよね~」

「……そろそろ政府も黙っていないかと」

 

 虚の一言に楯無は黙り込んでしまう。

 今の簪の立場は代表候補生として非常に危うい立場になっている。

 まず一つは専用機を自分で完成させると豪語しておきながら2学期に入ってもなお完成のめどが立たず、代表候補生として結果を残していないこと。

 二つ目は一夏が日本の代表候補生に迎え入れるかもしれないという根も葉もないうわさが回っていること。

 

「最近の織斑君の活躍は政府も知っているはずです。対して簪様は……」

「代表候補生を降ろされれば打鉄弐式は没収。簪ちゃんの性格を考えれば学校もやめるかもしれない」

「いかがなさいますか? やはり整備科の根回しをしますか?」

「……機体の完成度はどれくらいなの?」

「整備科の後輩に聞くところによれば……機体自体は完成と言ってもいいかと。残りはデータ面、そして武装が全く手つかずの状態だそうです」

「焦りは禁物……でも焦っちゃうわね」

 

 楯無は今後の計画を頭に立てながら紅茶を飲みほした。

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