Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第九十三話

「今日はどうやって簪さんに話しかけようか」

 

 一組の教室にて俺は今日も今日とて簪さんとどうやって遭遇するかという傍から見ればただのストーカーのようにも見える計画を立てていた。

 一応、あれから簪さんが見ていたヒーローものの作品をサブスク契約して見てきたが年甲斐もなく興奮してしまい、最新作まで見てしまった。

 もうすぐ公開の劇場版も見に行くつもりだ。

 

「織斑君~、お客さんだよ~」

「俺に?」

 

 クラスメイトに呼ばれ、教室を出てみるとそこにいたのは―――

 

「あ、簪さん」

「……名前で呼ばないで……まだそんなに親しくない」

「じゃあ、更識さん?」

「……それもいや」

「じゃあ、なんと呼べば……」

 

 仏頂面の簪さんの反応に困っているとすっと俺の手元に購買の焼きそばパンが差し出される。

 さらに反応に困っているとさっさと受け取れと言わんばかりに強めに焼きそばパンを差し出されてしまい、とりあえず受け取る。

 

「あ、あの……これは」

「…この前の焼きそばパンのお礼……」

「あー! あの時の! で、どうだった? 美味かっただろ?」

 

 そう尋ねると満更でもなかったのか簪さんは小さくうなづく。

 こう言ってはなんだが購買の焼きそばパンよりも美味しいと言わせる自信はあるし、なんならIS学園でも上位に入るくらいに料理技術は高いと思っている。

 

「私はあなたが憎い……でもそれはそれ……キチンとお礼は言う」

「そっか……次はどんなパンが食べたい? 甘いの? それともカツサンドみたいなヘビー系か?」

「べ、別に……もういらない」

「そう言うなって。購買のパンばかり食べてちゃ栄養が偏るぞ?」

「……別にいい。晩御飯で帳尻は合わせている」

 

 この反応的に学食に誘ってみるのもありか、とも思ったが4組での雰囲気を見る限り、あまり大人数の場所はすきそうじゃないし、無理に誘うのも気が引ける。

 ここは雑談ベースで少しずつだ。

 

「あ、そういえばこの前見てた動画」

「……なに?」

「あれ、俺も久しぶりに見たんだけど面白すぎて最近のまでっっ!?」

 

 突然、距離を詰めてきたかと思えば簪さんは両眼を輝かせて俺の手を取り、もっと話せと言わんばかりの表情を浮かべながら俺の顔を見てくる。

 これはいい反応だ。

 

「……どこまで見たの」

「い、一応今放送中の作品の最新話まで」

「……昔の作品は?」

「全部はまだ見切れてないな。何から見ればいい?」

「私のお勧めの順番はこれ」

 

 簪さんはタブレット端末をすごい速さで操作して画面を俺に見せてくるとお手製のスライドショーが表示されており、初心者ルートや上級者ルート、果ては泥沼ルートといくつものルートに分かれていた。

 ただどのスライドもかなり手の込んだつくりをしていてかなり見やすく整理されている。

 簪さんはマシンガンのごとく作品を熱く語り始める。

 

「昔の作品はCGのクオリティが低くて見れないなんて言う評価をする人がいるけどそれは間違い。人間ドラマは一般ドラマに負けないほど作りこまれているし、戦闘シーンもCGがない分、臨場感あふれる戦いが描かれているし、なによりCGには出せない味がある」

「ほぅ。確かに最近の作品はCGを連発しているような気もする」

「最近の作品を下げるつもりはないし、最近もストーリーや設定がしっかりと練られているから面白い作品も多数あるのは事実。でもやっぱり初期の作品にしか出せない味がある」

「簪さん、本当に大好きなんだな」

「っっっ!」

 

 俺の一言にようやく我に返ったのか簪さんは顔を真っ赤にしてタブレット端末を後ろに隠して数歩、後ろに下がって距離を取ってしまう。

 

「……と、とにかく焼きそばパンのお礼はちゃんとしたから……」

「あ、ちょっと」

 

 簪さんはそう言うと足早に4組へと戻って行ってしまった。

 

「一夏さん」

「セシリア」

「今日の放課後、新しい武器の調整を手伝っていただけませんか?」

「お? ついにブルー・ティアーズの整備が終わったのか」

 

 キャノンボール・ファストでの戦闘の影響で多大なダメージを受けていたセシリアの専用機だがついこの間に整備が終わり、新たな武器も開発されたという。

 確かに最近、簪さんのことでいろいろ動いていたからみんなと関われていない気がする。

 

「おう、いいぞ」

「ありがとうございます! では放課後、第一アリーナでお待ちしていますわ」

「了解」

 

 その時、授業の開始を告げるチャイムが鳴り響き、俺とセシリアは教室へと戻るのであった。

 

 

 

――――――☆――――――

「格闘戦では重さ・速さ・流れが重要な要素ではあるがどれかに偏っていても―――」

(どうして……あんなに話しちゃったんだろ)

 

 4時間目の授業中、簪は教員が熱心に話しているのを右から左に聞き流しながら先ほどの休み時間での出来事を思い返していた。

 正直、1年生の授業など代表候補生である簪からすれば基礎の基礎であるため今この瞬間に指名されたとしても正確に答えることができる。

 問題は先ほどの休み時間の出来事だ。

 

(……どうしてあの人になら話しちゃうんだろ)

 

 簪は昔からヒーローものの作品が大好きだ。

 しかし、女の子であるということから笑いの種にしばしばなっており、高校生にもなった今では周囲には誰一人として漏らしていない。

 ただ、彼が作品を見ていると言った瞬間、思わず食いついてしまった。

 あれほど憎んでいたのに、あれほど嫌いだというのに自分と同じ趣味があると知った瞬間、手のひら返しのように彼に話しかけてしまった。

 それも今まで誰にも見せたことのないスライドショーを見せてまで。

 

(……ダメ。きっとあの人もお姉ちゃんに言われて話しかけてるだけ)

 

 自分の姉は優秀だ。

 自分の専用機を自分で完成させ、自由国籍権を取得して今やロシアの国家代表を担っている。

 姉を見ていると自分がどれほど出来損ないで何もできないかが嫌というほどに強調されるような気がしてひどきいやな気持になってしまう。

 だから話したくないし、距離を置いている。

 

(……私に近づいてくる人は全部、あの人の指示で来てるだけ)

 

 これまでにも近づいてきた人間は多数いた。

 しかし、どいつもこいつも専用機の完成を手伝おうとしている魂胆が見え見えだった。

 だから周囲と仲良くする気はないし、関係を構築する気もない―――はずだったのに彼だけはそんな魂胆が全く見えないことに戸惑いを隠せなかった。

 

(あの人は……違うのかな)

 

 1学期に話しかけてきた時も彼は更識楯無の妹として力を借りに来たのではなく、更識簪という一人の少女に助けを借りに来ていた。

 そこには確実に姉の姿はなかった。

 もし、本当にそうだとするのであれば―――

 

(ダメダメ……信じちゃダメ。あの人のせいで私の専用機は未完成のまま……許すわけにはいかない)

 

 簪は授業内容をよそにタブレット端末を開き、自身の専用機のデータ調整に取り掛かるのであった。

 

 

――――――☆――――――

 その日の放課後、俺は第一アリーナでセシリアとともにいた―――ちなみに隣には鈴もおり、そしてもう一人、意外な人物がいた。

 

「どうして生徒会長さんまで」

「良いでしょ? 私もセシリアちゃんの新しい武器を見てみたいの」

 

 そう言いながら扇子を勢いよく開けるとそこには愉快適悦、という四文字熟語が表示されており、慣れていない鈴もセシリアも距離感をつかみ切れていない様子。

 正直、関係性を少し築けている俺でさえ、たまにつかみきれなくなるんだから二人じゃそうなるよな。

 

「ま、まぁ別にかまいませんが……では、さっそく」

 

 そう言いながらセシリアが目を閉じると彼女の全身を光の粒子が覆っていき、一瞬にしてブルー・ティアーズの装甲が包み込み、ほんの少しだけ宙に浮かぶ。

 セシリアが右手を広げた瞬間、一瞬にして長大のスナイパーライフルが展開される。

 そのスナイパーライフルは一見すると通常のものと大差ないように思えるがよく見ると銃身に何かの接続穴が加えられている。

 

「これがわたくしの新たな武器……スターダスト・ゼクターですわ」

「おぉ~。これがセシリアの新しいライフルか」

「あんまり変わってなさそうだけど」

「ふふん。では見せてあげますわ! ALL Bit combined!」

 

 セシリアの叫びとともに4基のビットが射出されたかと思うと銃身にビットたちが装着されていき、5つの銃口が同方向を向くような形となった。

 

「なるほど。エネルギーの集約技術を最大限に生かした武装なのね」

「ええ。4基のビット、そしてスターダスト・ゼクターの銃口から放つレーザーを一極集中させることで極大威力の一撃を放ちますの。あの時は無理やり発動したので大破しましたが今回からは新たに機能として組み込まれましたのでわたくし最強の一撃となりましたわ」

 

 セシリアの言うようにあの時の一撃を自分のタイミングで放つことができればそれはかなり強い。

 俺の蒼炎瞬時加速も一定距離を稼いでからじゃないと移行できない。

 だが先ほどまで胸を張って誇らしげに説明していたセシリアの顔が落ち込むように暗くなっていく。

 

「ですが一つ欠点がございますの」

「欠点? 撃ったらエネルギー使い果たすとか?」

「そんな単純な問題ではありませんわ」

「なによ。あたしが単純だって言いたいわけ?」

「考えすぎだ……で、問題って?」

「管理官から言われましたのは……対人戦での使用は極力避けるように、と」

 

 セシリアの一言に俺も鈴も妙に納得してしまう。

 それもそうだろう。

 なんせキャノンボール・ファストのときに放ったあの一撃で観客席のバリアもろとも一撃で観客席を吹き飛ばしていた。

 それはつまりISの絶対防御をも貫通する可能性があるということだ。

 

「ということはそれって実質使用禁止なんじゃ」

「当面は、でしょ。どうせ技術屋が威力調整のスイッチでも開発するわよ」

「なるほどねぇ……んじゃ、セシリア。ちょっとやるか」

「ええ。お願いしますわ」

 

 俺も白式を展開し、宙へと上がると鈴と楯無さんは安全な場所へと移動する。

 鈴の移動を確認し終えると同時にセシリアは銃身に到着していたビットたちを展開し、俺に向かって一斉にレーザーを放ってくる。

 スラスターを吹かし、レーザーを回避するが直線軌道だったレーザーが軌道を変え、俺に再び向かう。

 そのレーザーを身をよじり、一回転するように回避した瞬間、視界の端にスナイパーライフルを構えるセシリアの姿が見え、すぐさまウイングスラスターを駆使してその場から離脱する。

 離脱した瞬間、俺がいた場所を青い閃光が通過していく。

 

「流石ですわ、一夏さん」

「セシリアこそ……変更射撃、物にしたんだな」

 

 俺はセシリアのほうを見ながら左手を後ろへと向け、雪羅のシールドを展開する―――直後、そこに先ほどのレーザーが着弾するが零落白夜の効果により霧のように霧散する。

 満足そうにセシリアは笑みを浮かべるとゆっくりとフィールドへと降りていく。

 おそらくこの後、そのまま整備室へと向かって後整備に回すんだろう。

 

「ありがとうございました、一夏さん」

「いやいや。セシリアの偏向射撃を見れてよかった」

「そういえば一夏って整備室、行ったことあったっけ?」

 

 戻ってきた鈴の一言に俺は記憶をさかのぼる。

 整備科の人には何度もお世話になってはいるが言われてみれば整備室には一度も入ったことはないし、というかそもそも整備室がどこにあるのかすらも知らない。

 

「整備室ってどこにあるんだ?」

 

 俺の発言に鈴もセシリアもガクッと膝から落ちてしまう。

 

「あ、あんたねぇ……曲がりなりにも学年最強なんだからそれくらい把握してなさいよ」

「基本的にすべてのアリーナに隣接する形で整備室が設けられていますの。本来、2年生から始まる整備科のための施設ですが整備科以外でも使用は認められていますわ」

「へぇ……あ、そう言えば4月に1回だけ入ったことあったな」

 

 確かあの時は電動ドリルの音と眠気覚ましのエナジードリンクの空き缶の山を見て退散したんだった。

 

「整備科も専用機の整備はしたくてたまらないはずよ。特に一夏君のならなおさらね」

「へ? なんでまた」

「学園で見れば第二形態移行(セカンド・シフト)を果たしている機体は一夏さんくらいですし」

「あ~、なるほど」

「あんたみたいに学園にいながら第二形態移行を果たすISってないのよ。だいたいのISが一次形態で終わることのほうが多いわけだし」

 

 鈴やセシリアの言うようにIS学園で専用機を持っている人の数も少ないし、第二形態移行を果たしている機体の数もほとんどない。

 世界を見て回ったとしてもそんなに数はないだろう。

 

「整備科に行けば白式のエネルギー問題も少しは解決するんじゃない?」

 

 確かに白式のエネルギー問題は常に問題だ。

 雪羅、荷電粒子砲、零落白夜、蒼炎瞬時加速にBoost・Timeと白式にはなぜか馬鹿みたいにエネルギーを食らう機能が多数搭載されている。

 それを補うために格闘術を鍛えたんだけど。

 

「つっても大体、殴ってるしなぁ」

「一夏さんは大体、ご自身の武器を投げ捨て過ぎですの」

「ほんとそう。気づいたら拳で殴ってるか足で蹴ってるかクローで引っ搔いてるじゃない」

 

 世界広しといえど零落白夜なんていうエネルギーを切り崩すことに特化している武器を投げ捨てて殴ったり蹴ったりの肉弾戦闘に移行する奴はそういないだろう。

 最初は雪片弐型も触っただけで暴発するくらいにじゃじゃ馬だったからな。

 

「んじゃ、一回整備室に行ってみるか」

「いってらっしゃい」

「あれ? 鈴は行かないのか?」

「まあね。この後ラウラと約束あるし」

「……」

 

 ラウラと約束と聞いただけで鈴が今かけているトラウマのことを思い出してしまう。

 

(鈴のトラウマももとはと言えば俺が原因だよな……)

「そんな顔すんじゃないわよ」

「イテッ。蹴るなよ」

 

 思いっきりおしりを蹴り飛ばされ、鈴のほうを見てみるとニコニコと笑顔を浮かべている。

 それは遠回しに気にするなと言っているのかもしれない。

 

「ほら、さっさと行った行った」

「では一夏さん、行きましょう」

「そうだな。鈴もがんばれよ」

「もちろん!」

 

 第一アリーナに鈴を残して俺とセシリア、そして楯無さんはアリーナに隣接している整備室へと向かった。

 

「一夏君、ちょっと」

「はい?」

 

 セシリアに先に行っといてくれとジェスチャーで伝え、俺は楯無さんの横につく。

 

「で、どうされました?」

「実は一夏君にお願いがあってね」

「はぁ……簪さんのことですか?」

「そうなの……今、あの子の専用機の進捗状況は機体周りはほとんど完成……ただ、データが圧倒的に不足しているから動かせないのよ」

 

 ISはパソコンと同じでどれだけ側を良くしたとしても中身に搭載されているものがポンコツであれば側もポンコツに落ちてしまう。

 稼働データに関しては提供されているフリーの物もあるがそれはあくまで一般公開されているものであって実践の稼働データの質と比べれば天地の差だ。

 

「あ、もしかして俺の白式の稼働データを」

「そうなの。一夏君はこれまでに場数を何度も踏んでいるわ。それも亡国機業というテロリスト相手に。そんなあなたの稼働データはおそらく学園を見渡しても一級品よ」

「それを打鉄弐式に搭載できれば」

「簪ちゃんの計画を大きく前に進めることができるはず……頼めるかしら」

「もちろんですよ。俺の稼働データでよければ簪さんにいくらでも」

 

 そもそも簪さんが今の状況に陥ったのは俺が原因でもある。

 そんな彼女の助けになれるんだったら俺は喜んで稼働データを渡したい。

 

「ありがとう。このお礼は一日私とのデートで良いかしら」

「……」

「もう、その目は何?」

「いいえ」

「もう、お姉さんをそんな簡単にあしらったら怒るわよ」

「冗談です」

「じゃあ、お願いね」

「はい、お任せを」




あと七話で百話の大台を突破するのか~
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