Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第九十五話

「私はこっちだ!」

 

 第一アリーナではいつものようにみんなとともに恒例の放課後の模擬戦を行っていた。

 みんなの実力向上を図ろうということで始まったこの模擬戦はローテーションを組んで行っており、今日は俺と箒の組み合わせだった。

 絢爛舞踏の任意発動のコツをつかんだのか箒はほぼ無尽蔵のエネルギーを使い、連続瞬時加速を絡めながら俺の周囲を縦横無尽に飛び回り、空裂によるエネルギー斬撃波を放ってくる。

 

「見えてるさ!」

 

 エネルギー斬撃波を回避し、箒の二刀流の一撃を雪片弐型で受け止め、大型ウイングスラスターを吹かして箒の高速移動について行く。

 ただ、Boost・Timeは使用しているのでどうしても速度維持が難しいうえにエネルギーの残量も6割程度であるため攻撃の手を慎重にせざるを得ない。

 

「っと」

 

 脚部の展開装甲からエネルギー刃を放出させ、回し蹴りの要領で放たれるがそれを雪片弐型で受け止め、左手を握り締めると箒は一気に距離を取る。

 雪羅による荷電粒子砲を警戒しての行動なんだろうけどそれは充分な隙となる。

 俺は瞬時加速を発動させ、一気に距離を詰めると同時に雪羅のクロ―モードを起動し、彼女を飛び越えざまの宙返りをしながら彼女の背後から切り裂き、エネルギーを大きく切り崩す。

 

「ぐぅぅっ! これが零落白夜の衝撃か!」

(これで箒のエネルギー残量は残り二割!)

 

 相変わらず展開装甲を全開で使えばすぐにガス欠になるため全開に使用していない以上、先ほどまでの縦横無尽に瞬時加速は使わないはず。

 

「このまま負ける気はない!」

 

 箒は勇ましく叫びながら空裂を横なぎに振るい、エネルギーの斬撃波を放つが俺はその斬撃波へと突進するかのように一直線に駆け出す。

 一撃目を雪片弐型で叩き落し、二撃目をスラスターを吹かした状態でフィールドに背中を向けながら回避し、一気に距離を詰めていく。

 が、箒が雨月を握り締めて突きの構えを取る。

 

「はぁぁっ!」

 

 勢い良く突き出されると同時に放たれたレーザーが俺へと向かってくる。

 すでに左手にチャージを済ませてある荷電粒子砲を放ち、互いをぶつけ合うことで相殺させると目の前に爆煙が立ち込め、箒の姿が一瞬だけ隠れる。

 その時、エネルギーの増幅を知らせる通知が表示され、俺は瞬時加速を発動させて煙に突っ込み、彼女の目の前へと現れる。

 

「っっ!?」

 

 まさか煙の中から現れるとは思っていなかったのか箒は驚いた表情を浮かべるがすでに絢爛舞踏は発動しており、紅椿の装甲は黄金に輝いている。

 俺は雪片弐型を放り投げ、腕をまっすぐに伸ばし、紅椿の黄金に輝いている装甲に触れる。

 その瞬間、黄金の粒子が白式にも伝わり、エネルギーが一気にフルチャージされる。

 

「しまっ」

 

 確かに絢爛舞踏はエネルギーを無尽蔵に供給する最強ともいえるアビリティーだ。

 ただそのアビリティーは白式にも影響を出してしまう諸刃の刃―――今の箒はまだ戦闘を続行しながらの絢爛舞踏の発動はできていない。

 だから一瞬だけ動きを止める必要がある。

 

「ごちそうさん」

【Boost・Time】

 

 推進機構が再び構成され、右腕の推進機構を爆発させるようにエンジン音を吹かせながら超音速の一撃を彼女の腹部へと差し込み、上空へと殴り飛ばす。

 

「ぐぅっ! だ、だがこれで振り出しだ!」

「いいや! これで決める!」

 

 ギュギュォォン! と断続的に推進機構を爆発させ、超音速飛行へと突入し、爆発的な速度で彼女のすぐそばを通り過ぎながら雪片弐型で紅椿をわき腹を鋭く切り裂く。

 直後、零動停止(ゼロストップ)により一気に加速を0にして急停止、同時に推進機構の方向を逆に向け、零動行動(ゼロダッシュ)により体を半回転させつつ箒の逆側へと旋回する。

 

「これで止めだ!」

 

 彼女の右わき腹を鋭く雪片弐型で切り裂いた瞬間、勝負は決した。

 

 

――――――☆――――――

「ふぅっ……やはり絢爛舞踏に頼りすぎているな」

 

 第一アリーナの更衣室で先ほどの模擬戦の映像を見ながら箒は反省点をメモ帳に羅列していく。

 周囲の同い年はみな、タブレット端末にメモをするのだろうが剣士たる古風な考え方を持つ箒はやはり長年使用している鉛筆とメモ帳がしっくり来ていた。

 

「お疲れさま、箒ちゃん」

「た、楯無さん!?」

「そんなに驚かなくたって……さっきの模擬戦、見てたわ。私との鍛錬の成果もきちんと出ていたわね」

「そ、そんな……まだまだです」

「うむ。その意気込み」

 

 楯無がそう言いながら扇子を勢いよく広げると天晴、という二文字が表示されている。

 

「ところで箒ちゃん」

「はい?」

「最近、フィジカル・データは検査してる?」

 

 ISには自動調整機能があるため搭乗者に合った出力などを設定してくれるが日々、最新のものにアップデートしなければ古い形のまま戦闘に癖がついてしまうことがある。

 そこで手動でフィジカル・データをISへ送信することでリアルタイムで更新を行い、わずかな出力のずれなどを修正していく。

 

「いえ、入学以来一度も」

「ダメよ~? 箒ちゃんも一学期と比べると成長しているんだからちゃんと計測しないと。ささ、さっそく検査室に行きましょう!」

「え、えぇ~?」

 

 笑顔の楯無に手を引っ張られる形で検査室へと引きずられていく箒はその光景を見て昔をふと思い出した。

 それはまだISなどというものがまだ生み出されていないころ、姉の束の破天荒さによってさまざまな場所へと箒は半ば無理やりに連れまわされていた。

 山の中をグングン上っていったかと思えば川の下流まで行ったり、町の端から端まで電車で行こうとするなどその破天荒さに箒はほとほとあきれていた。

 ただ嫌ではなかった―――気がする。

 今は姉妹関係は悪いと言える状況ではあるが昔はそうでなかった。

 こうして手を引っ張られ、どことも知れない場所に連れまわされることを呆れはしていた箒だが嫌っていたような記憶はない。

 

(私は……どうしたいのだろうか)

 

 幼馴染であり、想い人でもある一夏を殺すことだけに執念を燃やしている自分の姉を見て箒は自分が本当にどうしたいのかが分からなくなっている。

 止めたいのは事実―――しかし、どうやって止めるのか?

 恐らくあの人は止めたとしてもまた同じことをする―――ならば自分にできることは。

 

「お姉さんのこと?」

「っっ……ま、まぁ」

「そうよね……私が言える立場じゃないけど……姉っていうものはね、どんな形であれ、どんな状況であれ妹のことを大切に思っているものよ」

「……それが誰かを殺そうとしていてもですか?」

「箒ちゃんを思う気持ちは確かじゃないかしら……それを贈ってくれたんだし」

 

 楯無の視線は箒の手首にある紅椿の待機形態へと注がれている。

 行き過ぎた部分はあれど、妹のことを思っていなければ誕生日に贈り物などを作りはしないだろう―――その裏にどんな本音が隠れていようとも。

 

「とうちゃーく。ささ、私がオペるから箒ちゃんは乗った乗った」

「は、はぁ」

 

 スキャン・フィールドに箒が立つとともに楯無がキーボードをピッピッと操作するとリング状のスキャナーが垂直に動き始め、箒の全身に緑色のレーザーを当てていく。

 スキャンは物の数秒で終了し、箒はスキャン・フィールドから降り、楯無のもとへと向かう。

 

「むむっ」

 

 楯無は画面を見ながらやけに難しそうな表情を浮かべているので箒も画面を後ろからのぞき込むとそこには見覚えのある3種類の数値が表示されていた。

 

「バストサイズ、箒ちゃんに少し負けてるかも」

「な、何を見ているんですか!」

「アハハッ! ごめんごめん! 冗談よ。スキャンデータは紅椿に送っておいたからこれで最新の状態に紅椿をアップデートできるわ」

「ありがとうございます……あと、その数値、消しておいてください」

「わかってるわよ……あ、間違って一夏君に送っちゃった」

「っっっ!」

「冗談よ。ささ、シャワーを浴びてきなさいな」

「……」

「大丈夫だってば。ちゃんと消すから」

「お願いしますよ」

 

 箒は検査室を出る最後の最後まで楯無をジトーと見続けた。

 

 

 

――――☆――――――

「……IS適正【S】」

 

 箒が出ていったのを確認した楯無は再び画面にデータ数値を表示させ、その隣にもう一つのデータを表示させて両方を比較する。

 一枚は先ほどの最新データ、もう一枚は入学時にスキャンした適正。

 入学時のIS適正は【C】。

 

「この短期間で……この上がり方は異常としか言えないわね」

 

 ISへの適正は生まれ持った素質が大きく影響することが大きく、適正【S】を叩き出せるのはブリュンヒルデやヴァルキリーの称号を持つ者たちくらい。

 この短期間で【C】から【S】という上がり幅は常識的に考えてあり得ない―――常識の範疇では。

 

「紅椿は篠ノ乃博士が作り出した最新機……そういえば彼女のISスーツは」

 

 本来、専用機を持つ代表候補生以外の新入生は自分のISスーツを持っておらず、入学から一か月ほどが経過したころに一斉に届くことになっている。

 しかし、箒は入学当初から自前のISスーツを所持していた―――それも恐らく篠ノ之束のお手製だろう。

 

「……」

 

 楯無の脳内に一つの仮説が生まれる。

 もしも―――もしもあのISスーツに何かしらの仕掛けが施されていたとして常に彼女のフィジカル・データを取得し続け、それを“あれ”に蓄積させ続けていたとすれば。

 

 

「あり得なくはないわね……仮説が正しければこの適正も」

 

 それが何のために行われているのかという真相までたどり着けていないが少なくともあの稀代の大天才が考えていることは何かあるのだろう。

 何のために紅椿は生み出されたのか。

 

「……どうやら平穏な学園はまだまだ先みたいね」

 

 

――――――☆――――――

「ほうほう……普段、ISはコンスタントフローシステムによって常に最低限度のエネルギーを供給しておくことでいつでも使えると」

「そうですわ。リアクティブフローシステムでは使用要求の際にエネルギーを供給しますの。ですので簡単に言ってしまえばたこ足配線を思い出してみてください」

「たこ足……」

「勘が鈍いわね、あんた。常にスイッチ入れてる状態がCFSで使うたびにスイッチを入れるのがRFSって覚えておきなさい!」

「なるほど」

 

 ある日の放課後、俺は鈴とセシリアの二人に食堂で以前、簪さんに言われた単語のことを聞いていた。

 俺がそんな専門用語を聞いてくるものだから二人とも驚きのあまりお互いの顔に水を噴き出していたので本当に失礼な奴らだ。

 

「まさかと思うけどあんた白式の供給方式をRFSにするんじゃないでしょうね?」

「え? ダメなのか?」

「別にダメというわけではありませんわ。確かに切り替えることで白式のエネルギー効率は格段に向上するとは思いますが戦闘中に瞬間的な判断能力を要求されますのよ?」

「あんた並列的に思考するのが苦手なんだからやめといたほうがいいわよ。ここぞというタイミングで使えなくなるデメリットがあるんだから」

「ふ~ん……そうなのか」

「ほんっとうに試しちゃだめだからね?」

 

 鈴に心を読まれたかのように釘を刺され、とりあえずは首を縦に振る。

 せめて雪羅のシールドやクローモード、荷電粒子砲あたりのエネルギー供給だけでもRFSに変えることができれば効率は向上しそうな気もする。

 ただ一対一ならまだしも多対一の状況になれば確かにここぞというときに使えないと意味がない。

 でも簪さんが言っていたように荷電粒子砲のエネルギー集約率を考えればクローやシールドに回しているエネルギーを荷電粒子砲に回せればチャージ時間も短く済む。

 

「むむっ」

「一夏さん」

「ん?」

「お客さんですわ」

 

 セシリアに後ろを指さされながら言われたので振り返るとそこには顔をうつ向かせている簪が後ろに立っており、何やら言いたそうにモジモジしている。

 

「あ、あの……」

「ん? どうかしたか?」

「……す、少し付き合って!」

 

 そういわれるや否や簪さんに手を引っ張られ、俺は食堂を後にした。

 

 

――――――☆――――――

 残ったセシリアと鈴はお互いに数秒間見合うと一言―――

 

「増えるわね」

「増えますわね」




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