アルベド、シャルティア好きは読まない方がいいです。
アルベドはナザリック地下大墳墓第九階層の廊下にて、執務室へ向かうべく歩いている。その顔はこれから仕事というのには不釣り合いであり、口角はやや上がり、頬も少し赤らんでいる。
これは何も仕事が楽しみ、という訳ではなく、これから執務室に来られるであろう至高の御方と久方ぶりに会えるからだ。いや、実は昨日の夕方にも会えてはいたのだが、あまりにも接する時間が短く、ただ一言二言会話を交えた後、アインズはどこかへ行ってしまい、アルベドととしては物足りなかった。
そして恐らくアインズが向かった先は自室だろう。
しかしアルベドはその確認はできない。前までであれば、アインズの自室に入る許可も頂いていたが、今は(フィースがベッド番になってしばらくしてから)アインズの自室に無断で入ることは許されていないし、自室の前には警備として
そしてその理由を作ったのは全て、一般メイド『フィース』だろう。
アルベドは気が付いている。「アインズの正妻は誰か」という議論で自分派だと言っていたメイド達がこぞって、フィース派となっていることを。いやアルベド派だけではない、シャルティア派のメイドも全員フィース派となっており、すなわちメイド全員がフィース派なのだ。
しかしそんな派閥などに意味はない。どんなに応援されようが恋が叶うとは限らないし、逆に誰からも応援されない恋が叶うということもある。理知的であるアルベドは、それを頭で理解している。理解はしているのだが、それに関して何も思わない、なんて事はできず、やはり少しばかりの焦燥感のようなものはある。
メイド達が全員フィースの味方についたという事は、既にフィースがかなり進んでしまっているからなのではないか、もしかしたら内密に男女関係となってしまっているのではないか。
アルベドはメイド達と会話をする機会が少ない。だからこそ、メイド達はアルベドの知らないことを共有して、「これはフィース確定だ」と思わせるほどの何かがあったからなのかもしれない。
メイド達の間で、フィースは夜の間は寵愛を授かっている、という噂が立っているのだけは知っているが、アルベドはそれは確信を持って否定できる。もしそんなことがあれば、フィースの方は分からなくとも、アインズの態度でわかるはずだ。
フィースは正直言って、とてもわかりづらい。
彼女はいつも明るく元気であり、失態を犯したり、何かに泣いている時以外は常に明るく振る舞っている。それがアルベドには掴みきれない。
もし、アインズから寵愛を授かっているのだとしたら、この上ない喜びでテンションが高くなりそうだが、普段からフィースはそんな態度であり、良い事があったのか、無かったのか、それすら掴みきることは難しい。
だが、アインズに関しては別であり、表情の変化が無かろうと、アンデッドであろうと、愛しいお方の態度の変化には直ぐに気が付けるという自信がある。それのせいもあって、アルベドは薄々勘づいている。アインズが愛しているのは自分ではなく、フィースである、と。
しかしその確証は持てないし、アインズの愛というものはナザリックのシモベ全員に振り撒かれているものである。それはアインズ自らも常々言っており、そこに嘘偽りが無いことはアルベドにもわかる。そしてアルベドには「モモンガを愛している」と、新たに創り直され、これ以上ない栄誉を授かっている、という自負がある。
それにアインズの態度から察するに、彼ら2人は何もしていない、というのは確信しており、単純にフィースがかなり優秀で、アインズもそれを気に入っているだけ、という可能性もある。
フィースはシャルティアのように自らをアピールするような事はせず、真面目に仕事をしているだけなのだし、醜い嫉妬心に駆られ、フィースに何かをする事や、アインズに直接聞くなどという愚行はしたくない。
それでも、とアルベドは歩く足を止め、昨日のアインズの態度を思い出す。どこかそわそわしていて、心ここに在らずでは無かっただろうか。何度も時計を確認していたり、何故かナザリックの外に出て太陽の位置を確認しに行った、という報告もされている。何か深淵なるお考えがそうさせていた、とその時は考えたが、あれは、夜になるのを待ちきれなかっただけでは無いだろうか。至高の御方に限って、そんな子供じみた事をするとは考えづらいが、アルベドもアインズの膝の上に乗りたいからという理由で、赤ん坊のように泣く真似をした事がある。
愛はそこまで変えてしまう。
その考えに至ったアルベドは額に汗が流れるのを感じ、踵を返して、アインズの自室へと向かう。
自室に向かう理由は、これから執務室で仕事だからそのお迎えに参った、という事にしよう。いや、本当にその理由で行こう。あくまでも自分の心配事など二の次で、至高の御方に仕える者として、お迎えにあがるだけだ。
アルベドは早足で、ギリギリ淑女と言えるであろう速度で歩みを進める。
そしてアインズの自室を視界に捉えて、足を早くしようと思った時、丁度扉が開かれ、中からフィースが出てくる。
彼女は部屋の中に一礼をして、扉を閉めた後、アルベドの方を向く。
「ア、アルベド様!?お、おはようございます!」
アルベドに気が付き、懇切丁寧にお辞儀をしたフィースを見て、アルベドの目は大きく見開かれる。
その理由はまず、フィースの髪がやや乱れている。慌ててセットしたのだろうか──そんな事があるわけが無い。彼女は夜のアインズ当番であり、昨日アインズ様がお帰りになることは知っていたはず。それに合わせて身だしなみも整えるはずだ。
次に彼女のメイド服に、皺がついている。これも同じ理由であり得ない。アインズ当番である彼女が、優秀だと思われている彼女が、そんな失態は犯さないはずだ。
そして何より、何故顔が真っ赤なのか。何か照れるような事があったのだろうか。
アルベドは推察するが、それも彼女の表情から否定される。
何と幸せそうで、そして満足したような顔をしているのだろう。
そんなの考えられるのは1つしかない。
その考えに至ったアルベドは、怒りだか憎しみだかわからない、負の感情を彼女に抱くが、何もすることはない。至って普通に努めるだけ。
「おはようフィース。アインズ様はまだ中にいらっしゃる?」
そう言ったアルベドの声は、自分でも驚くほど優しいものだった。
そんな優しい声にフィースは手にキュッと力を入れ、スカートを掴み、少し震えた声で言う。
「はい、いらっしゃいます」
そのフィースの態度にアルベドは目を細め、微笑みながら言う。
「…そう」
アルベドのその微笑んだ顔とは裏腹に、今度出てきた声はあまりにも無機質で、そして冷たいものだった。フィースはアルベドに「それでは私はこれにて失礼します」と言い残し、アルベドとは反対方向に歩いていく。
その歩き方をアルベドは凝視し、とても洗練された歩き方ではあるが、少し内股である事を確認する。
アルベドは彼女が見えなくなるまで、その歩きを見た後、扉の前まで移動し、ノックする。
「アインズ様、お迎えにあがりました」
すると直ぐに「い、今行く!」と慌てた声で返され、その言葉通り扉は直ぐに開かれた。アルベドは開かれた扉とアインズの体の隙間から部屋の中を確認し、ベッドの方へ目を向ける。
見えたのは端だけであったが、その端ですら
推察だけであればよかった。自分の考え過ぎだと、心配し過ぎであると。そうであればよかった。しかし、アルベドが今見たベッドの乱れというのは、普段ならあり得ないものであるし、状況証拠も揃っている。
これだけで、確定ができる。できてしまう。極め付けはアインズの今の姿だ。
「別段おかしなところはない」
そこら辺のシモベならそう言うだろう。だが、アルベドにはわかってしまう。今のアインズの雰囲気、佇まい。ずっと彼を愛しているからこそ気付く、ちょっとした違い。
もっと近寄ればアインズの匂いが違うということにも気が付くかもしれない。フィースの匂いなど知らないが、アインズの匂いに何かが紛れていればすぐに分かる。
いや、嘘だ。アルベドは既にそれにも気が付いている。それを──もっと近くに寄らないと分からない、と思いたいだけだ。
だって実際に、アインズから
何故そんなアインズから、花のような香りがしてしまうのか。
アルベドは目眩が起きそうなほどの絶望感を味わい、その場で倒れてしまいたくなる。体の奥が冷え、視界がぼやけ始め、腰のあたりの骨を抜かれてしまったのではないか、と思うほど力が入らない。
「ありがとうアルベド。って、大丈夫か?」
アルベドは声をかけられ、心配そうに覗き込むアインズの優しさに一抹の嬉しさを覚えるが、その優しさは主人が従者に向けるだけの優しさであって、そこに特別な感情はないということを、アルベドは理解してしまう。
アルベドは顔を伏せ、アインズに言う。
「本日はゆ、有給休暇を頂けませんか?」
最早会話は噛み合っておらず、お迎えにあがったと言っておきながら、有給休暇の申請をするとは何とも訳の分からない話ではあるが、アルベドはこれ以上は耐えられない。
アインズとフィースの関係を考えることも、アインズを見るのだって今はしたくない。今日一緒にアインズと仕事をしてしまえば、間違いなく自分はおかしくなる。もしかしたらフィースを殺すかもしれない、アインズを監禁するかもしれない、アルベドに残った僅かな理性が、有給休暇の申請をしたのだ。
「あ、ああ、当日でも有給休暇はありにしているし、いいだろう。今日はゆっくり休め」
アルベドはアインズに一礼をして、何も言うこともなく、この場を去る。向かう先は──シャルティアのところだ。
シャルティアはアルベドの恋のライバルとも言える存在で、今までは彼女をかなり敵視していたが、フィースが現れてからというもの、今はシャルティアは敵どころか、若干の仲間意識さえ覚えている。それでも別に何か協力をしたりなどということはなく、なんならシャルティアは近頃アインズにアピールすらしなくなっていた。
その理由は分からないが、シャルティアと今回のことを共有したい。吐き出したい。そして一緒に悲しんで、一緒に考えたい。もう1人では手に負えないのだ。これからどうするかだなんて。
アルベドは第一階層に向かい、シャルティアと会う。
「どうしたでありんすか?アルベドが妾のところに来るなんて珍しいでありんすね」
アルベドはシャルティアの部屋に通され、椅子に座り彼女に今回の件を伝える。
「シャルティア。フィースが昨晩、アインズ様のご寵愛を賜ったわ」
アルベドは真剣そのものといった表情でシャルティアにそう言ったが、彼女は驚くようなことはせず、むしろ疑問といった表情でアルベドに返す。
「そうでありんすか?遅かったでありんすね」
アルベドはシャルティアその態度と言葉に耳を疑う。
何故あのシャルティアがこんなにもあっけらかんとしているのか。
「ど、どういうこと!?何故あなたがそんなに平然としていられるの!?シャルティア、あなたはアインズ様を愛していたのではないの!?」
アルベドは声を荒げる。それでもシャルティアの様子は変わらない。そして──
「愛してないでありんす」
シャルティアははっきりとアルベドの目を見てそう言った。ますますアルベドには分からなくなる。シャルティアは、自分がライバルだと認める程、アインズを愛していたはず。それにも関わらず「愛してない」と、はっきりとそう言ったのだ。
「嘘よ!あなたはアインズ様を──」
「だから愛してないでありんす。もちろん妾達の支配者としては愛してるでありんすが」
そんなバカな話があるはずがない。今までの彼女であれば「妾のアインズ様に対する愛はナザリック1、いや世界1でありんす!」とでも言いそうなものだ。それが何故、ここまで心変わりをしてしまったのか。
「どうして、なの?何で、そうなったのか教えてくれる?」
「いいでありんすよ」
シャルティアは少し遠くを見るような視線でアルベドに言い、語り始める。
「妾も初めはアインズ様を愛していると思っていたでありんす。アルベドをライバルだと思っていたこともありんしたし、フィースが許せないと思った事もありんした。だから妾はある日、フィースに釘を刺しに行った事がありんす。そこで妾はフィースに返り討ちにあってしまったのでありんす。そこで妾はアインズ様を愛していないと結論づけたのでありんすぇ」
シャルティアは語ってくれた。だが、重要なところが抜けている。フィースにどのような返り討ちにあって、何を言われたのか。何故そこまで心変わりをさせられてしまったのか。アルベドはそれを聞かずにはいられない。
「フィースに一体何を言われたの?」
アルベドの問いかけにシャルティアは笑う。
「それは聞いても意味がない事でありんす。もし気になるなら、アルベドもフィースに釘でも刺しに行けばいいんじゃありんしょうかえ?妾の口からは言えないでありんす。ただ…」
シャルティアは一呼吸置き、アルベドを刺すような視線で言う。
「アルベドもアインズ様を愛しておりんせん。本当の愛はあの子だけでありんす」
アルベドはその言葉に怒りを隠さず、机を叩き立ち上がる。
「私のが愛じゃないですって!私はそうあれ、とアインズ様より愛する御許可を頂いたのよ!!『モモンガ様を愛している』って!」
激昂するアルベドを尻目にシャルティアは爪を研ぎ始め、こちらを見る事もなく言葉を放つ。
「はぁ…ならフィースと勝負してくればいいでありんす。どちらがよりアインズ様を愛しているか」
シャルティアはそう言った後、立ち上がって何処かへと行ってしまう。アルベドは怒りに身を任せ、暴れ狂った後、シャルティアの言う通りフィースのところへと向かう。
彼女は食堂にいた。
その食堂にいる面々は珍しくアルベドが食堂まで来た事に驚き、チラチラとアルベドを見ている。
アルベドはその視線を気にすることはなく、フィースの座るテーブルまで行き、フィースと共に食事をとっていた他のメイド達は、すぐに察し、テーブルから離れる。
そしてアルベドは空いた椅子に座り、フィースと向かい合う。
「さっき振りねフィース」
「そうですね、アルベド様」
フィースもアルベドが何をしにここまで来たのか分かっているのか、いつもような笑顔で明るい雰囲気ではない。しかも、守護者統括である自分が来たというのに、立ち上がりもしない。
アルベドはそれが気に入らないが、フィースも自分が何をしにここまで来たのか分かっているのだろう。
アルベドは単刀直入にフィースに勝負を仕掛ける。
「せっかくだし、本音で話しましょう?フィース、あなたはアインズ様を愛しているの?」
アルベドのその直球な質問に周りのメイド達がざわつき初める。しかしフィースはアルベドから目を逸らすことなく、力強く言った。
「はい。愛しております」
もちろんこれは想定通りだ。仮に「愛していない」なんて言われたら勝負にすらならない。
「私もアインズ様を愛しているわ。もちろん異性として。何と言っても、そうあれ、と私はアインズ様によって創り変えられたのですからね」
アルベドはフィースに笑いかけながら言うが、その笑みは優越感によく似た感情からくる笑みであり、詰まるところ「ドヤ顔」である。アルベドはアインズ自身によって、愛されることを許可された、たった唯一のシモベなのだ。どんなにフィースがアインズを愛していようと、その特別さは変わらない。
しかしフィースもアルベドに微笑み口を開く。
「存じ上げておりますよ。アルベド様がそうアインズ様より御許可を頂いているということは」
その言葉にアルベドは眉間に皺を寄せる。
「随分と引っかかる言い方ね。何が言いたいの?」
言葉ではうまく表せないが、彼女の言い方は何か他の意味を含んでいるように感じる。それでもフィースは表情を崩すことなく、アルベドに言った。
「そのままの意味でございますよ」
フィースのその態度にアルベドは更に苛立ちを覚える。
こんな言い合いでは埒が明かない。今回の勝負はどちらがよりアインズ様を愛しているか、という話であり、先のフィースの態度から、徐々にそこに話を持っていくのは難しいと判断したアルベドは、もっと単刀直入に告げる。
「私はあなた以上にアインズ様を愛しているわ」
こう言えば、フィースも勝負に乗っかってくるはずだ。「私の方が愛しています!」と。そうなれば絶対に負ける事はない。
(私以上にアインズ様を愛している者など存在しないわ。さあ、どう出るの、フィース?)
アルベドはすぐさま反論できるように頭を回転させる。だが、返ってきた言葉は想像とは違うものだった。
「そうですか。ならばそれでよろしいのではないですか?」
フィースのそれは予想外の言葉ではあった。だが、それが意味するところは、すなわち勝負を始める前から負けを認めているということでもある。
(何が本当の愛はあの子だけ、よ。シャルティアも馬鹿ね)
アルベドは既に勝ち誇り、そのまま一言だけフィースに言おうとした矢先、フィースは再び口を開く。
「アインズ様がどう受け取られているのか、までは分かりませんが」
アルベドは瞼がピクっと反応し、即座に頭を回転させる。
(アインズ様がどう受け取られているか?それはもちろんアインズ様ご自身が私に愛するように創り直されたのだから私の方が…)
アルベドの聡明な頭は気が付いてしまう。フィースのその問いの答えは、今この場で
アルベドは反論しようと何かを言おうとするが、その前にフィースは更に追撃をしてくる。
「失礼を承知で申し上げますが、何故そのように自分よがりなのでしょうか?」
「な…に…?」
フィースの言葉はアルベドにこれまでにない程突き刺さる。それでもフィースは止まらない。
「アルベド様は愛する御許可を頂いているにも関わらず、アルベド様はただ求めるばかりではありませんか。本来であればアインズ様から求められる立場にいたアルベド様が、何故何もアインズ様から求められなかったのですか?何故求められる努力を怠ったのですか?」
アルベドは思い出そうとする。今までアインズから自分に何かを求められた事はあったか。命令ではなく、アルベド個人に対して、何かを求められたか。まず、「胸を触らせて欲しい」と言われた事はあった。あの時は自分の体を求めているのだと思ったが、今にして思えば、あれは転移した直後であり、何かしらの確認のためだったように思う。その証拠に服をどうしようか尋ねた際には、すぐに断られていた。いや、むしろ、この時アルベドはアインズに求められるのではなく、求めてしまった。
アインズに「お前達は私の宝だ」と言われた時も、我を忘れてアインズを襲ってしまった事もある。それどころか、アインズの自室に入る許可があったのをいい事に、アルベドは内緒でベッドに潜り込んだりもしている。
(ただ、ずっと、私は求めるだけだった…?)
しかし…それに気が付いたからと言って、引く訳にはいかない。自分は唯一、愛される許可を貰ったシモベであり、守護者統括だ。こんな舌戦で負ける訳にはいかない。それに認めたくも無い。
愛していれば求めてしまう事など多々あるはずだ。それをフィースはしなかったとでも言うのだろうか。
「じゃ、じゃああなたは今の一度足りともアインズ様に求めるような事はしなかったとでも言うの?」
アルベドはフィースに問いかけると、彼女は初めて感情を見せ、俯きながら言う。
「さ、昨晩、初めてアインズ様に私から求めました」
その言葉に辺りが静まり返った気がする。
アルベドに至っては、風が横切ったような錯覚さえした。それだけ彼女の発言は衝撃的であり、アルベドには考えられない事だった。
(フィースが求めたからアインズ様は寵愛を授けたの?)
そう、これはおかしな話なのだ。アインズは今の今まで、アルベドがどれ程求めようと、それに応えてくれる事はなかったし、それが当たり前なのだと思っていた。だからこそ、フィースも「求めるというのは本当の愛では無い」と言っているのだと思っていた。
でも実際にはフィースは求めているし、アインズもそれに応えている。
「あ、いえ、求めたと言うのは、アインズ様のお手を私の顔に当てただけでして」
フィースの続けた言葉にアルベドは更に分からなくなる。
(手を顔に当てた…?)
それだけで求めた事になるのかどうかは甚だ疑問ではあるが、たったそれだけで何故寵愛を授かることとなったのか。
いや、アルベドにはわかっている。フィースは求めたのでなく、アインズに求められたのだ。
自分とは違い、フィースはずっと、求める事はせず、アインズが求めるものを理解して、そしてずっと与えていたのだ。では何を与えていたのか──その答えもアルベドは知っている。そしてそれは、アルベドのように見返りを求めるものではない、ということも。
自分の設定が書き換えられた時に流れ込んできたアインズの感情、憎しみや悲しみ、そして、寂しさ。
それら全てを知っておきながら、アルベドは「アインズ様を悲しませた至高の御方が憎い」という感情を優先させ、ドリームチームを組んだり、旗をボロボロにしたりしていた。
ずっとアインズを愛していると言っておきながら、ひたすら自分の感情のみを優先させていた。
そしてその事に、アインズは薄々気づいていたのかもしれない。だから今の今まで、アルベドは求められた事はない。それをどうにかしようと、アルベドはひたすらアインズに求めた。
自惚れすぎていたのだ。
ただ愛する許可を貰っただけで、それを全面に出せばアインズに愛されると思って、将来は自分が妻なのだと思って、ただひたすらに、理性を欠いた獣のように、本能だけで求めてしまった。
自然とアルベドの頬に涙が伝う。
フィースに負けたことが悔しいだとか、自分のが愛ではなかったと気がついたからだとか、そんな理由ではない。
「モモンガを愛している」と創り直してくれた、アインズの気持ちを今の今まで踏み躙って、ただ胡座をかいていた自分が許せないのだ。どんな気持ちでアインズが愛する許可をくれたのかなど知らない、知らないが、それでもアインズは思っていたはずだ。
アルベドなら、本当の意味で愛してくれる、と。
それを裏切り続け、自分の感情を優先させ、挙げ句の果てにはアインズが愛しているであろうフィースにも嫌がらせをしようとしていた。
本当にアインズを愛しているのであれば、願うべきはアインズの安寧と幸せであり、そこの隣に自分がいる必要など──ない。
アルベドはテーブルに突っ伏して泣く。
自分の愚かさ、醜さ、アインズを愛しているという言葉を盾に、欲求を満たそうとした自分に対する嫌悪感、その強欲さ、傲慢さ。それら全てに嫌気がさし、アルベドは泣く。
自分が憎くて憎くて仕方がない。なんという大罪を犯していたのか。
泣いて済む話ではない。
全ての忠誠を捧げ、さらには愛しているはずのアインズの気持ちを何故今の今までに考えず、欲に走っていたのか。
(シャルティア、あなたの言う通りよ…。私もアインズを愛していなかったようだわ…)
何故シャルティアがあそこまで心変わりしたのか。その理由がよくわかった。シャルティアはアルベドの
詰まるところ、アルベドと同じタイプだったということ。
シャルティアは返り討ちにあったと言っていたが、恐らく同じように言われたのだろう。
アルベドはそんなことを思いながら、慌てたアインズが来るまで、机に突っ伏したまま泣きじゃくっていた。
一応言っておきますが、まだこの話は続きます。連載にすればよかったと後悔しておりますが、息抜きで書いてるだけなのでご勘弁。